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商業ギルドの魔王候補  作者: まる
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魚介の町での出会い

【魚介の町での出会い】


薬師ギルドのギルドマスターは、自分の執務室で秘書からの報告を受けていた。


「・・以上です」

「そうか・・。ご苦労、下がって良いぞ」


固く目と口を閉ざし、黙っていたが、それだけ告げると秘書を下がらせる。


「ちっ! ・・トロナのやつ、恩を仇で返しやがって」


一人っきりとなった部屋で、思いっきり舌打ちをする。


報告の最初で、薬草の入荷量が減っている、いや無くなったと言う。

特にトロナたちのユニオンから持ち込まれていたものが、ピタリと止まってしまった。


「傷薬に高級傷薬、果ては最高級傷薬まで任せてやったのに・・」


このギルドマスターは、トロナたちを魔法薬師として放り出しておいて、薬草は手に入ると思っていたのだろうか?


薬師ギルドに所属する、全ての薬師はこの結果は当然だと思っている。


「しかも薬草園を潰しただと? 再生薬まで栽培に成功していたのだろう!? 何を考えているんだ、あいつ等は!」


ユニオンの薬草園をどう扱おうが勝手であるが、ギルドマスターの物とでも考えているのだろうか?


傷薬用から、ポーション用に造り替えただけである。


「結果として、薬草採取用の冒険者を雇うか、薬師たちに薬草を採取に生かせるしかなくなってしまったではないか!」


冒険者に頼めば、それ相応の金がかかる。

自分たちは薬を作る職人で、集める者ではないという矜持がある。


「この俺直々に出向いて、もう一度きっちりやらせてやる」


全てはギルドマスター自身の采配ミスなのだが、自分の中で何処を如何拗らせたのか、トロナたちのせいとなっていた。


出かけてくると一言秘書に告げて、トロナたちのユニオンへと向かう。






トロナ、メインズ、ステインの三人が、晴れて魔法薬師の免許を手にして、バーシスの町の自分たちのユニオンに戻ると、三度驚かされたと言っていた。


「「「あれ? 何でリーハー先生が!?」」」


先ず三人の驚きの第一声がこれである。


「オプファ君から手紙を受け取ってな。薬草園を潰さなければならなくなったと言うお詫びの。これはただ事ではないと思ってのぉ」


あれだけの熱意を向けていた薬草園を潰すには、何かしらの理由があると大急ぎでバーシスの町へ向かい、一通りの事情を聞いた事を三人に聞かせる。


「そうだったんすか・・、ありがとうす」

「折角先生に色々教えてもらったのに、すみません・・」


ステインが礼を、トロナが侘びを、メインズが悔しそうに顔をしかめる。


「いえいえ、礼も詫びも必要ないわい。こちらも良い勉強の機会だったからのぉ」

「ん? 勉強の機会・・ですか?」


トロナがいぶかしんで、僕の方を向くので、黙って庭の方を指差す。


「えっ!? 何? 何があるの?」


三人が揃って庭へ向かうと、すぐに驚きの声が聞こえてくる。


「「「何じゃこりゃ!?」」」


それはそうだろう・・。この町を出る前は荒れ果てた庭のような薬草園だったのが、腰ぐらいの街路樹が所狭しと植えられ、色とりどりの花や実を付けていれば。


僕とリーハー先生が、呆然としている三人の後から庭に出て説明する。


「この薬草園に造り替える事が、先生の目的だったらしいんだよ・・」

「じゃあやっぱりここに実っているのは・・」

「勿論ポーションの素材となる花や実じゃな」

「やっぱり・・、見間違いじゃなかったんだ」


魔法薬師として勉強してきた三人には、一目で分かったらしい。


「まだまだこの薬草園は不十分。しばらくお世話になるぞ」

「・・えっ!? どう言う事ですか?」


三人がまた僕の方を振り返る。


「ユニオンを手伝ってくれるんだって。初めてだよ押しかけられたメンバーは・・」

「「「えええぇぇぇっ!?」」」


僕の溜息に、三人の三度目の驚きが木霊する。






トロナ、メインズ、ステインが揃って魔法薬師となり、リーハー先生との再会もあり、その日は賑やかな宴会となる。


次の日からは魔法薬師としての準備を始めなくてはならず、先ずは全員揃って素材採取からである。


リーハー先生も、ユニオンの一員として微力ながらお手伝いすると付いてきたのだが、これが非常に迷惑でしかなかった・・


「ほほう! 草原保存地域の素材は、ワシの鑑定で良であったが、森の傍の素材も同じとはな。条件がシビアかも知れんな。今日は森の奥のほうまで行くのか?」

「・・リーハー先生。口ではなく手を動かして下さい」

「ほれほれ、ちゃんと手も動かしているぞ」

「・・いえ。ペンと紙に記録するのではなくて、素材の採取をですね・・」


リーハー先生は、バーシスの町に着てからの調査は、危険の無い、主に町の中か、草原保存地域だけであった。

当然森の近くや、森の中に入る機会を逃すはずは無かったので大はしゃぎだ。


「ふむ・・。森周辺や森の中の様子と、草原保存地域と若干様子が違うようじゃな。やはり何らかの人の手が入ってしまうと変わるのかのぉ?」

「先生・・、独り言はボケの始まりといいますよ?」

「何を言っておるのかな? 勿論、お前たちに聞かせるために言っているに決まっておるじゃろうが!」

「・・そうですか」


四人はこれが何時まで続くのだろうと、素材採取を始めてすぐに一致した心の思いだった。




ただ先生が付いてきた事で、良い事がまったくない訳ではなかった。


それは先生の鑑定スキルの精度と、セイテンから借りているの鑑定能力の精度の差である。


先生のは町の中の素材は可であり、セイテンのはダブルマイナスとなっている。


草原保存領域のはただのマイナス、持ちの近くは符号なし、森に入ればプラスが付いた。

しかし先生の方は、その三箇所が良という判定になった。


これから森の奥に入っていくが、魔素が濃ければ多分、先生ので優、セイテンのでダブルプラスになると思われた。


実際にポーションのどの程度影響するのか、トロナ、メインズ、ステインの魔法薬師としての能力がどのように影響するのか、実際にポーションを作成してみないと分からない。


実際に商業ギルドで鑑定してもらえば、更に変わってくる可能性はある。


売り出せるようになるまでには、まだまだ道のりは長いようである。






全員で話し合い、安く広くという基本スタイルは変わらないが、バーシスの町初めてのポーション販売として、慎重になる必要があるとの結論に達した。


「先ずは安定した供給よね」

「それよりも安定した品質も大事だと思うす」

「質と数か・・、両立って難しいよね」


品質を保つには、良い素材や時間が必要である。

大量に作るには、その辺を割り切らなくてはならない場合もある。


「先ずは三人の練習も兼ねて、ばんばんポーションを作るのが良かろう。三人がどの程度の品質のポーションが、どの素材で出来るのか? 一日にどれぐらい作れるのか?を割り出すと言う訳じゃ」

「そうですね。一回張り切って良い物が出来るよりも、日々平均的にどの程度のものが作れるかは、これからの指針として必要となります」

「大量に出来たポーションは、試供品のつもりで商業ギルドに譲るつもりでな」

「必ずしも三人がポーション作り担当となるわけでもありませんし、作成と素材最終のバランスも調べないと」


ここで慌てて、どこかで失敗するよりも、ここまで来たら、じっくり時間をかけて問題の洗い出しをするべきだろう。


「僕もそろそろ旅団との商いがあるから、僕がいない場合とか、薬草園の使い方も話し合ったほうが良いね」

「やる事がいっぱいだね」

「これは確かに腰を据えてやるべき時期だな」


僕が商いの間は、皆は町の中もしくは草原保存地域で素材の採取を行っては、ひたすらポーションをつくりを繰り返す事となる。






僕と言えば、ユニオンの収入の無い期間は、責任者として頑張らなくてはいけない。


皆のために出来る事は、隠している能力を存分に発揮する事だ。


「とは言え、町に行かなくてはいけないダンジョンの移動時間は掛かるんだよね」

『トイフルやオーブストなら潜るだけだぞ?』

「魔石は多めに取りたいから、逆に果実の時間を削ろうか」

『商業ギルドのギルドマスターが言っていた技術講習会だか、慰安会のためならフライシュの肉も喜ばれるんじゃないか?』

「そう・・だね。肉も多めに確保しないと・・」


周れるダンジョンを増やしたのは良いが、自分の中で一週間と言う期日を儲けている。


フライシュから調味料の町へ、ベルクヴェルクから鉱山の町の移動時間は、どうしても必要になってしまう。


それに加えて、トイフル、オーブスト、ドゥフトと周り、更に今回は新しいダンジョンに行こうというのだから、時間が足りるはずが無い。


「今度のダンジョンは・・ミーレスフレッシュタだっけ?」

『そうだ。そして俺様の七つの首の最後にいける場所。ランクCの五十階層で、魚介類をドロップするダンジョンだ』

「はぁー最後かぁー。全部いく羽目になるとは・・」

『少しずつとか言っているからこうなるのだ。俺様としては、やっとと言う感が強いがな』

「魚介のダンジョンと言う事は、近くの町は、山間とかにある町なの?」


町のためにと言う事であれば、なかなか手に入りにくい、町にとって特産となりやすいダンジョンと思ったからだ。


『いいや。傍には海の町という、漁業で成り立っていた町がある』

「・・それって鉱山の町と同じパターン?」

『そうだ。ランクSオーバーの難攻不落ダンジョンの一つが、この海の町に面する海の底に存在するのだ』


そこで一つの疑問が湧き上がって来た。


「まさか海そのものがダンジョン化して、漁業が出来なくなったの?」

『いや違う・・いや、違ってないか? 難攻不落の理由の一つが海の底と言う事なのだが、海の中というのが最大のネックでな、殆ど冒険者が挑めん』

「へぇー、そうなんだ」


海や水の中に潜れるアイテムがあるらしいが、非常に高価で、潜っていられる時間も限られてしまうという話を聞いた事がある。


『その結果、何度も何度も大氾濫を起こすわ、難攻不落のダンジョンの魔素の影響で、容易にモンスター化するわでな、海にモンスターが溢れかえってしまった』

「それじゃ漁業なんか出来ないじゃないか!?」

『だからお詫びとして、ダンジョンが出来たんじゃないのか?』

「・・なる程」


漁業をやっている人たちには申し訳ないが、町を存続させられるように、ダンジョンが出来たと考えられる訳だ。


「では各ダンジョンや町を回り、最後にミーレスフレッシュタへ行こう」

『存分に能力の練習をしてくれ』


僕とセイテンの考えが、多少噛み合っていないが結果は同じ事である。






私たちの家族は、海の町で小さな食堂を開いていました。


安くて量が多いと冒険者たちに人気の店で、理由は両親が時折ダンジョンに行って、比較的安全な低階層で、素材を確保していたからです。


ただその日、何かの事故か事件に両親が巻き込まれ、返らぬ人となりました。


「出て行っておくれ、コーホン!」

「えっ!?」


両親の葬儀が終わってすぐに、父さんの弟夫婦から出て行けと言われ、頭が真っ白になりました。


「ど、どう言う事ですか!? 叔父さん、叔母さん!」

「どうもこうもあるもんかね? よくよく考えな! 兄さん夫婦と共同経営をしていたが、兄さんたちが亡くなった以上、この店は私たちの物になったんだ」

「そ、そんな話は聞いた事がありません・・」

「大人の事情を、子供が知るはずもあるまい」


私が知っているのは、この店は私の両親が開き、私たち家族で切り盛りをしていた所に、弟夫婦が給仕として雇って欲しいと言う話しです。


「待って下さい! 叔父さんたちは、お父さんに雇われたんですよね、確か!?」

「・・そのあと資金繰りが厳しくて、泣き付かれて共同経営者になったんだよ」

「すぐに出て行くのも大変だろう。もし店のために食材をダンジョンから取ってくるなら、店においてやっても良い」


この話が本当か嘘か分かりません。


今まで店の手伝いし貸したことの無い私が、いきなり放り出されても生きていくのは無理でしょう。

ダンジョンと言う物自体も、良く分かっていませんでした。


店の扉から投げ出され、仕方なく町の外・・ダンジョンへと向かいます。






初見のダンジョンなので、ほどほどの階層・・と言っても、ランクCの階層までは行ってみる。


「今までのダンジョンと違っているね」

『魚介類を落とすモンスター故に、モンスターも魚介類なのは必然だろう』

「でもダンジョンに水が流れているなんてね」


色々なダンジョンを見てきたけど、ミーレスフレッシュタは石畳のダンジョンなのだが、湿度が高く、気温が低めであった。


極めつけは通路の半分が水路になっており、更には壁に沿って水が流れ落ち、その水が床を流れているのだ。


「今は水を蒔いている程度だから良いけど、これ以上深くなったら足を取られるね」

『水系のダンジョンには、そう言った場所もあるな。攻撃も移動も負担になるから、総じてランクが高くなっている』

「そうだろうね」


水の中を歩くと言う経験は無いが、かなり動きが制限されるらしい。

ましてや水の中のモンスターを攻撃するのは至難の業だ。


「うん。今日の所はこの辺にしておいて、一旦ダンジョン宿に向かおう」

『何時もながら臆病な事だ』

「慎重と言ってくれ」


そのままダンジョンの外へ出ると、衛兵と一人の少女が揉めている所へ出くわす。


「何があったんだろう?」


近寄って声をかけてみる。


「どうかされたんですか?」

「この娘がダンジョンに入ると言って聞かないんだ」

「はぁ!?」


十五歳ぐらいの何処にでも居そうな町娘で、背中まである髪を一つに縛り、三角巾を被り、エプロンをした格好・・ウェイトレスのように見える。


「えーっと、冒険者・・ですか?」

「そう見えるか? 見えるなら医者に行った方が良いな」

「ですよね」


武器らしい武器や、防具らしい防具一つ身につけていない。


「君は冒険者じゃないだろう? 親御さんが心配するよ?」

「・・両親は亡くなりました。・・帰る家も無くなりました」


少女はそう言うと、泣き崩れてしまう。


僕と衛兵は、お互いに何が何だか分からないと言う表情で、顔を見合わせるしかなかった。





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