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商業ギルドの魔王候補  作者: まる
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誰もいない間にメンバーが増えた

【誰もいない間にメンバーが増えた】


まずお茶をと台所へ案内しようとすると、そのまま庭、薬草園へと自分で行ってしまう。


「ふむ! 見事な薬草園じゃな」

「ユニオンの皆からは不評で。野原や荒れ果てた庭と言われてまして・・」

「温室などの薬草園を想像すれば、そうなるでじゃろう。しかし人間の手で造った薬草園は、何時までも人間の手が無くしては維持できん」

「それは・・そうですが」

「町の外を見てみよ。人間の手など借りず、自由気ままに自生しておる。この薬草園もそうではないか? ここを除けばの話じゃが」


懐から羊皮紙やペンを取り出して、色々と書き始めた。


「この区画に埋めたのは何が何個じゃ?」

「ランクDの土の魔石が五個です」

「埋め方は?」

「四角形の真ん中に一個という感じで・・」


回復草や再生草が根付いた環境を、つぶさに観察し、事細かく質問してくる。


「無属性や、一個だけでも可能だったのか、長期に渡り可能なのか・・。調査の興味は尽きんが・・仕方なかろうて」

「本当にやるんですか?」

「あたりまえじゃ。三人が帰ってくるまでに、ここを魔法薬師の庭にするために来たのじゃらかのぉ」

「・・出来るのですか?」

「分からん! 逆に薬草学者としては良い機会なのは確かじゃ」

「リーハー先生・・」


少し遠い目をすると、やれやれと軽く溜息を吐き、首を左右に振る。


「しかし大人気ないギルドもあったものじゃ。職人たちを雑に扱うギルドは、いずれしっぺ返しを受ける事になるだろうに・・。まあ学者ギルドも研究費欲しさに、人の成果を奪うという黒い噂が絶えんのだから、他人の事はとやかく言えんがな」


庭の説明に、ユニオンの現状を交えて話しをしたので、全く聞いてないかと思ったら、ちゃんと聞いていたようだ。


「ワシの使った部屋はまだ残っておるか? 後は勝手にやりからのぉ」


しっしっと手で、あっちに行けと言わんばかりである。


「先生・・。町の外に出るつもりじゃ・・?」

「ああん? 先ずは草原保存地域までじゃ。そこから先へはオプファ君に頼るわい」

「・・・その間、僕は何をしたら?」

「それはワシに聞くような事か? 好き勝手にすれば良かろう?」


あまりな言い草ではあるが、僕たちを助けてくれるつもりなのだろう。


先生の後を付いて行きながら、魔法薬師について聞いてみる事にする。


「魔法薬師か・・。ふむ、ワシとてそんなに詳しい訳ではないぞ?」

「構いません。僕自身は魔法薬師もポーションも、全く知らないので・・」


先生も薬草学者で、魔法薬師についてあまり知らないと前置きをしながらも話してくれる。


「薬師の薬と、魔法薬師のポーションの違いをしておるか?」

「魔力が必要と言うぐらいしか・・」

「ふむ。何故魔力が必要かまで知らぬか・・」


顎に手をやりながら、どう説明すべきか整理しているようだ。


「大まかにじゃが、薬には葉や根を使い、ポーションには実や花びらを使う場合が多い」

「へぇー」

「そしてポーションの素材には、薬としての効果は全く含まれん」

「へぇー・・えっ!? それって、どう言う事ですか!?」


薬にすると言う事は、その植物が持っている効能を引き出す事に他ならない。


「ポーションの素材を磨り潰したり、煎じても何ら効果が得られんと言う事じゃ」

「そこで魔力が必要なのですね?」

「違う。単純に魔力が必要なら、聖水や魔水で代用可能なはずだ。しかしそれらを使っても効果が一向に現れない」


聖水は水にヒールをかけたり、ヒールの魔石に漬けた水で、最高級傷薬の必須素材だった。

魔水とは魔法で作り出した水や、何らかの形で魔力を付与した水全般を指す。


「何故でしょうか?」

「それこそが錬金術の原点、無から有を作り出す業。無から金を、不老不死、生命の創造を目的とする錬金術なのじゃよ」

「魔法薬師は、錬金術師の一部分を切り取った職業ですね・・」

「己が魔力を使って、子供たちのおままごとに使うような実や花びらから、傷を癒す薬を作り出す」


魔導師だって、魔力を使って、何もない所から、火や水、土、風と言った魔法を具現する。

同様に魔力を使って、何もない所から、金やポーションを具現するのが錬金術師なのだ。


「とは言え、未だ錬金術の深遠、神の領域に触れた者は聞いた事が無い。そこで大きく関わってくるのが素材の質となる」

「質・・ですか?」


完全な錬金術が存在しない以上、素材の方にも頼る必要があるのだろう。

しかし町中に生えている素材に質も何もあるのだろうか?


「素材の質に因って、ポーションの質に大きな影響がでる」

「薬師でいう、薬の質と言う事ですか?」

「確かに似ている。同じポーションでも回復量が違うという形で現れるな」

「なる程」


質の悪い素材を使えば、出来上がる薬の効果が弱い場合がある。


「ポーションの質とは、素材に含まれる魔素の量であり、錬金術を行うに当たり、魔素を多く含んだ物の方が、同じ物でも高い効果のポーションが出来上がる」

「町中よりも魔素の多く含んだ土地の方が、良いポーションが作れると?」

「その通りだ。ただやって欲しくない販売方法にも使えるがな」

「えっ!? どう言う事ですか?」


良いポーションを作る事と、販売方法が全くと言って結びつかない。


「医師ではないのに、厳密に傷の深さなど分かりはしない。ある程度の経験からこの傷ならこの薬と判断して使っているに過ぎない」

「そうですね」

「多少効きが悪くても、傷が深いのか、薬が悪いのかなど判断はつかん」

「・・それは、買う人を騙すと?」

「鑑定の能力を持っている人には分かるだろうが、全て同じポーションとして売る事もできるし、僅かな効果の差でも価格に差をつけて売る事もできる」


実際にそうやって薬を売る薬師や、ポーションを売る錬金術師がいるのだろう。


「ポーションの質と言うのは、素材の質だけではなく、錬金術師、魔法薬師の力量にも左右される事ではあるがのぉ」

「肝に銘じておきます」


ユニオンとして安く売るとは言え、質の悪い物と良い物を混ぜるつもりは無い。

きちんと出来上がったものを鑑定する方法や、ランク訳の方法も決めておくべきか。


「どうやら心配は無用だったようだな」

「・・えっ?」


僕の表情を見て、先生が嬉しそうにしていた。


「では本格的に、この薬草園の改造を着手するとしようかのぉ」


先生はウキウキと宣言すると、僕を放り出して町の中へと飛び出してしまう。




先生が調査している所に、後ろから声をかける。


「あのー、先生・・」

「オプファ君、いい加減にせんか・・。君は子供か? 五月蝿い、邪魔じゃ、邪魔! シッシッ!」


折角遠くからわざわざ来てくれたと思い、話しかければこのあり様である。


「はぁー、分かりました。一週間ほど商いで不在になりますけど・・」

「おお結構結構。静かになって調査も進むわい」


これ見よがしに溜息を吐いて見せるが、知らん振りで調査を続けられてしまう。


「(ふむ。ポーションの質に魔素が大きく関わるなら、魔石を多めに確保した方が良いかな?)」


仕方なく建物に戻りながら、今回の商いの計画をザックリ立てる。




これからの事を考えていたオプファには聞こえなかったが、リーハーはオプファを尻目に呟いていた。


「馬鹿者が・・。勝手に来た人間に構う暇があれば、自分の成すべき事をせい」


手助けに来た自分にかまけていたオプファを、これでは本末転倒と渋い顔で見送っていた。






何時ものように一週間ほど商いのフリに出かけ、商業ギルドでこれまた何時ものようにエムファスに買取を頼んでいると、二人揃ってギルドマスターに呼び出されていると言う。


「はて? 何でしょうか?」

「さあ? 特に何かあったとは思いつかないけどね?」


エムファスと二人で、ギルドマスターの執務室に入る。


「お呼びと言う事ですが・・」

「うむ・・」


ギルドマスターが、思いっきり渋い顔をして、二人を睨み付けている。


「「えーっと・・?」」


彼の珍しい怒りの表情に、僕とエムファスは顔を見合わせる。


「オプファ君、最近珍しいものを職員に配っているとの噂があるが?」

「「あっ!?」」


僕がマズっと視線をずらし、エムファスが、アチャーっと手で顔を覆って天を仰ぐ。


「商業ギルドとて、商人の集まりだ。多少の袖の下は、円滑な関係に必要と認めよう。しかし、果実と言う非常に珍しい物は行き過ぎだ」

「す、すみません・・」

「お主は商人としてはまだまだヒヨッコに過ぎん。ちょっと良くしてくれたからと舞い上がって、軽い気持ちでの贈り物かもしれんが、賄賂の温床になりかねんのだぞ?」


商人を束ねる商業ギルドのギルドマスターとして、当然の如く厳しく諌める。


「エムファス! お前もお前だ。先輩商人として、その辺りはきちんと弁え、後輩にもきっちりと教える立場だろうが!」

「も、申し訳ありません。今回の件に関してはオプファ君に一切非はなく・・」

「誰彼の責任ではない。すでに商業ギルド全体としての問題となっているのだ!」

「「申し訳ありません」」


もう二人してひたすら頭を下げる以外になかった。


公平公正を旨とする商業ギルドとして、賄賂で優遇していると言う噂は非常にまずい。

特に今は、周りから見れば僕が成功しているように見え、タイミングもよろしくない。


これは確かに能力を悪用して舞い上がった、僕のミス以外の何者でもない。


ギルドマスターは、軽く溜息を吐いて今後の話しをする。


「先ずこの噂を払拭するために、定期的な技術講習会と称した、職員に向けた慰安会を月一回開く事にする」

「定期的な技術講習会?」

「月一の慰安会?」


僕とエムファスは、再び顔を見合わせる。


「オプファ君。お主が持ち込むものを大々的にする訳にはいかんのじゃ。そこで新商品がどのようなものか、をワシのポケットマネーで、ワシが抱えておる料理人に調理させ、職員に振舞うのだ」

「素晴らしいアイデアです! ギルドマスター!」

「馬鹿モン! 誰のせいだと思っておる!」


ギルドマスターが怒鳴るが、目をキラキラとさせたエムファスは何処吹く風である。


ここまでの話を聞いて、僕はギルドマスターの考えを理解した。

以前にギルドマスターに提案した事を、公にするための布石なのだろう。


「オプファ君に非がある以上、一応ワシと責任を取ってもらう。酷だとは思うが、格安で食材を卸してもらいたい」

「分かりまし・・」

「ちょっと待って下さい!? オプファ君だけなんて!」


話の流れに、エムファスが声を大にして割り込んでくる。


「私にも責任が・・」

「ならばお主は慰安会で、一人だけ給仕役に決定じゃな」

「オプファ君ゴメンね。君ひとりに責任を取らせてしまって!」

「「・・えっ!?」」


ギルドマスターの言葉に、かっと目を見開くと、弱い私を許してとか言っているエムファスは、一瞬で掌を返してくれた。


「・・エムファスさん、そんなぁ」

「エムファス・・。お主、何気に酷いな・・」


今度は僕とギルドマスターが顔を見合わせる。


「そんな訳で早急に手を打ちたいのじゃが、何とかならんか?」

「オプファ君は、今日戻ってきたばかりなので・・」

「申し訳ありませんが、手元に・・」

「そうか。もう引き取り先は決まって居るのじゃな・・」


珍しい物であれば、不定期とはいえ、欲しがる顧客が付くのは当然である。

徐々に買い手が増え、商業ギルドの取り分が減ってしまうほどだ。


偽の商いの事情を知っているギルドマスターは、無理強いはして来ない。


「早くて一ヵ月後か・・、こればかりは仕方あるまい」


軽く溜息をついて、演技を続ける。


「エムファス。全職員に技術講習会の話を周知徹底しろ。できれは一回、いや二回は、既に行ったと口裏を合わせさせるんだ」

「分かりました!」

「ただしあくまでも内々である事を装え。賄賂の噂があれば、この準備のためと上塗りさせろ。商人や料理人で参加を希望する者が居たら、軌道に乗ったらとか言っておけ」

「はい、早速取り掛かります!」

「オプファ君の方は今まで通りで良い。下手に変えるとかえって怪しまれる。話しの通り、余剰分に関しては、こちらで技術講習会用として処理していた事にする」

「分かりました」


ギルドマスターは、軽く目配せをし、あえてエムファスに聞かせるように言う。


「・・金額に関しては、要相談・・でな」

「それで結構です」


以上だとギルドマスターが話しを締めくくる。






商業ギルドの後にユニオンに戻れば、たった一週間で丸裸になった庭に唖然とする。


「せ、先生? これは?」

「薬草はテーブルの上に纏めてあるぞ?」

「ありがとうございます・・。で、何故庭が丸裸に?」

「もう薬師で使う薬草は必要ないのではないか?」

「いや、そうなんですが・・」


何を当たり前の事聞くんだ、との表情の先生である。


「・・薬草を全て取り払う必要は無かったのでは?」

「薬草とはその名の通り草じゃ。しかしポーションの素材は実、背が低いとは言え木に生るものが多いんじゃよ」

「ああー、つまり木を植える必要がある。一度更地にする必要があったと」

「その通りじゃ。その上で改めて薬草を考えればよろしい」


あまり広くないとは言え、たった一週間で、たった一人でまっさらにするとは・・


「そして肝心なのがこれじゃな」


そう言って取り出したのが、見た感じは同じに見える二個の赤い実である。


鑑定能力では、片方は赤い実マイナスとあるが、もう片方には赤い実にマイナスが二つ付いていると分かる。


「これが何か?」

「片方は町の中に生えていた物、もう片方は草原保存領域で生えていた物じゃ」

「全く同じ物のように思えますが?」


鑑定能力の事はあえて隠して、見たままの状態を告げる。


「鑑定のスキルなどを持っていないと分からんのだが、ワシの鑑定では優良可の三段階で品質が分かり、片方には可、片方には良となっておる」


セイテンの鑑定能力の方は、ダブルマイナスからダブルプラスまでと、五段階で細かく鑑定できるようだ。


「その品質の差が、魔力の含有量と言う事ですね」

「うむ、その通りじゃ。同じ錬金術師や魔法薬師が作れば回復量に差が出る」


鑑定能力を使わずに、二つをじっくりと見比べる。


「個体差・・、と言ってしまえばそれぐらいの差じゃ、僅かに大きさや色艶に違いがあるじゃろう?」

「これを見分けるのは至難の業ですね・・」


同じ木に生えていたとしても分からない程度だ。

どんな実であっても、木のどの辺に実を付けたかで、色形大きさが不揃いとなる。


「もし魔石を埋めたとしても、実際に魔力を多く含む様になるか分からん」

「個々の質を見極められないと無駄になりますね」


正確には鑑定のスキルなどが必要だろう。


「最終的に出来たポーションは、鑑定できる人に見てもらう必要があるのぉ」

「なる程・・」


何だろう、先生がニコニコとこちらを見ている。


「オプファ君。このユニオンは地面に魔石を埋める事ができるんじゃよな?」

「・・えっ!? ええ、まあ、実験的な要素は強いのですが・・」

「そんな研究をさせてくれるパトロンなんて、今時居らんのぉ」

「あ、あの先生?」

「ユニオンの部屋が足りなくなるまでで構わんのじゃがのぉ・・?」


押しかけのユニオンのメンバーは始めてである。


「いや、あのですね、先生・・」

「ワシより鑑定のスキルなどが高い人が来るまでで良いんじゃがのぉ?」


僕が借りているセイテンの鑑定能力の方が高いんですが・・


「あのー、一応このユニオンは薬を安く広く売るという目的がありまして・・」

「研究の合間に、ポーションの素材や薬草ぐらい採って来ると思うがのぉ・・」


それでは目的と手段が違います、先生・・


皆にどう説明しようと思いながらも、なし崩し的にリーハー先生が、ユニオンの新しいメンバーになる事が決まりそうである。





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