多くの人に助けられる
【多くの人に助けられる】
執務室で、久しぶりに会う商業ギルドのギルドマスターを正面に、どうしてこうなったのか考える。
エムファスに事情を話した瞬間、首根っこ掴まれてそのままここへ連れてこられた。
「と言う訳なんですよ! ありえません! 一体何を考えているのか! ギルドマスターもそう思いませんか!」
キレにキレまくったエムファスが、無関係のギルドマスターを怒鳴りつける。
「ちょっとやり過ぎとは思うがのぉ・・」
「はぁ!? 聞いてましたか、ギルドマスター? 耳が遠くなったのですか? 薬草を持って来いと言い、薬の委託を三度も変更され、今尚委託を全て取り上げられ、魔法薬師に自力で成れですよ? 分かってます!?」
「そんなに怒鳴らんでも聞こえるし、分かっておる」
両手で耳を多い、渋顔になるギルドマスターが、若干哀れである。
「で、ワシにどうしろと?」
「何とかならないのですか?」
「むぅ・・。流石にギルドが違えば、立ち入るのは難しい。なんやかんや言い訳をつけて自分の正当性をあげるだけじゃろう」
「そんな・・」
ギルドに介入すれば色々な問題が起きるのは、子供にだって容易に想像できる。
「オプファ君。君はどう考えている」
「正直、薬師ギルドから仕事を止められている以上、魔法薬師になるしかないと思っています」
「薬師ギルドに頭を下げる気はないと?」
「ギルドマスター! どういう意味ですか!?」
エムファスとして、僕たちに非はないと思っているのだから、頭を下げるなど言語道断なのだろう。
「しかし薬師ギルドに従う意向を示せば、委託はもらえよう」
「つまり薬師ギルドの、薬代調整に協力しろと?」
「ギルドマスター! 商人として・・」
「長いものに巻かれる事も、商売敵を潰す事も商人としては正しい」
「しかし同職者を守るべき組合が、ギルドが、仲間にする仕打ちではありませんよ!」
話が進まないと、ギルドマスターがエムファスを宥め、僕に再度問うてくる。
「薬師ギルドとは決別して、魔法薬師の道を進むのじゃな?」
「そのつもりで、今は行動しようと思っています」
「ならばエムファス。お主はオプファ君が望む方に勧めるよう、いち早く行動すべきではないのか?」
「それは・・、そうですが・・」
ギルドマスターが、パンパンと手を打つと話を纏める。
「エムファス。本人が選んだ道をとやかく言うな!」
「はっ!? そ、そうでした・・」
「商業ギルドとしての腕の見せ所だぞ? 受付嬢として、いや同じギルドの仲間として、オプファ君を助け、協力するべき時じゃろう! すぐに動け! 魔法薬師になるには障害が多いぞ!」
「わ、分かりました」
僕を来た時と同じように、何時の窓口の所へと引っ張っていく。
商業ギルドのギルドマスターは、そのまま魔導師ギルドへと向かい、ギルドマスターへの面会を求める。
「商業ギルドのマスターが来られるとは珍しい。何の御用でしょうか?」
「薬師ギルドのマスターがやらかしおった」
「うん? どう言う事ですか?」
ギルド評議会の後、薬師ギルドのギルドマスターの選択を話して聞かせる。
「まあギルドを纏める立場としては、分からないでもありませんが・・」
「切って捨てるというのもありじゃが、まだ他に手立てはあったはずだと思うがなぁ」
「町長も、少々追い詰めすぎだったかもしれませんね」
二人はギルド評議会での出来事を思い起こす。
「・・それで私にどうしろと?」
「お主は魔石を使うか?」
「はぁ? ま、まあそれなりには・・」
商業ギルドのマスターが、いきなり話を変えて戸惑う。
「あやつらのユニオンの持つ伝手に、旅団があってな」
「はぁ・・」
「今まで何度か魔石を入手しておるぞ?」
「なっ!?」
最近、急に商業ギルドから魔石の売出しがあるとは知っていたが、当のユニオンが絡んでいるとまでは知り得なかった。
「ランクA・・とまでは言えんが、そこそこの魔石は手に入れられるじゃろう」
「・・それは」
先程それなりに使うと言ったが、とんでもない、実は表に出ているだけではなく、まだ研究や実験段階の分野もあり、魔石はいくらあっても良い。
そこそこと言う言葉ではあるが、頻繁にランクCが売り出されている事は周知の事実だ。
となればランクBも・・、思わずごくりと唾を飲み込んでしまう。
伝手が切れるまでの間であれば、かなり優遇して手に入ると言っているのだ。
「彼らは、魔法薬師を目指しているのでしたか?」
「今現時点ではな。魔力が誰一人持っていなければどうなる事やら・・」
そう言って商業ギルドのマスターは、席を立ち、執務室から出て行く。
既に扉が閉められても、ずっと商業ギルドのマスターの残滓を追う。
「この町にポーションを作れる組織が生まれるのは歓迎すべきですね。しかも高ランクの魔石も優先的に手に入れられる。商業ギルドも、こうやって恩を売る方に傾いた・・か」
勿論普通の人間だったらこうは行かない。オプファの価値、能力の故である。
魔導師ギルドのマスターも、商業ギルドのマスターと同じ回答を選ぶ。
「薬師ギルドのマスター・・。どうやらあなたの選択は凶と出たようですよ」
魔導師ギルドの執務室で、ギルドマスターは独りごちる。
ユニオンでこれからの話を四人でしている時に、エムファスが駆け込んでくる。
「「「「はぁ!? 魔法薬師の臨時クラスの開講?」」」」
「そうなのよ。私も驚いたわ・・」
エムファスの預かり知らぬ所で、物事がどんどん進んでいる事に、彼女自身も驚いているようだ。
「昨日、商業ギルドのマスターに話した後、ギルドマスターが、魔導師ギルドにマスターと話を通してくれたみたいなの」
「どこぞのマスターとは大違いね」
トロナが、エムファスの言葉に噛み付く。
「まあまあ。魔導師ギルドのマスターの級友が、錬金術師の講師として在籍しているらしくて、臨時クラスの開講を頼んだみたい」
「可能・・なんですか?」
「それについては、向こうからの回答待ちらしいんだけど・・、大丈夫だろうって」
魔導師ギルドのマスターには、百%の勝算があったのは伝えられていない。
錬金術師の研究には金がかかる。優秀な錬金術師には、パトロンがついて研究を行う。
優秀でなければ・・、魔導師ギルドに所属して冒険者をやったり、町中でポーションの店をやる事になるか、講師になって学校で研究を続けるぐらいしか道はない。
特に研究派の錬金術師たちは、大抵金に困っている事が多い。
多少吹っかけられるかもしれないが、簡単にバイトに応じるてくれるのだ。
「でも臨時クラスを開くかどうかの前に、試験があるから」
「試験の内容は教えてもらえるのですか?」
「簡単簡単、魔力の有無の検査ね。そもそもこれが無いと意味がないでしょう?」
「なる程、その通りですね」
ポーション作りには魔力が必須、これが有るか無いかは当然調べるという事だろう。
「では試験を受ける人はトロナ、メインズさん、ステインの三人で、合格者は全員臨時クラスに参加という方向で」
「へっ!? 私?」
「はぁ!? ちょっと待て俺もか?」
「ボクも含まれるんすか?」
三人三様で驚いている。
「いや、トロナ。君が驚くのが一番おかしい」
「ちょっとあまりにも簡単に決められちゃったから、何となく・・」
「何故俺もなんだ? トロナちゃんは当然だし、ステイン君はこれからを思えば、是非受けておくべきだとは思うが」
「二人を守ってあげて欲しいんです」
「むっ!?」
「やはり大人が居ると居ないのとでは、かなり違うと思いますので」
野良錬金術師や劣化錬金術師と呼ばれる魔法薬師と言う立ち位置。
それに道中だって何があるか分からないのだ。
「なる程・・、どのくらい役に立つか分からんが、承知した」
「お願いします」
メインズは合格したらと言う前提で、行く気になってくれる。
「あのーボク、まだ薬師見習いなんすけど?」
「ステイン君、君はまだ若い。学ぶチャンスがあるならば生かすべきだ」
「その通りよ」
これはメインズやエムファスが揃って、ステインを後押しする。
更に僕が、ユニオンの現状を鑑みた説得をする。
「ステイン。ポーション作りには魔力が欠かせないし、魔法薬師という資格が必要だ。全てをトロナ一人にのみ背負わせるのは問題があると思っている」
「あっ・・、そっか。分かったす!」
薬師であれば良い、ただ魔法薬師ともなるときちんとした勉強と資格が必要である。
もしトロナに何かあってからでは遅すぎると考えたのだ。
「二人はまだ良いわよ。まだ余裕があるから・・」
「余裕って?」
「・・もし私に魔力が無かったら?」
「「「「ああ・・」」」」
四人が揃って、別々の方へ視線を漂わせる。
ユニオンの要となるべきトロナが魔法薬師になれない。
流石にこればっかりは誰にもどうする事も出来ない大問題である。
「えーっと、頑張って?」
「無いものをどうやって頑張るのよ!」
トロナの叫び声が、近所にまで響き渡る。
その叫びが天にまで届いたのか分からないが、後日の簡易テストで三人とも魔力ありと判定され、晴れて全員が臨時クラスに参加する事となった。
受け入れ先の臨時クラスや、こちら側の準備を済ませ、三人を送り出す。
「ふぅー、先ずはこれで一安心かな。さてっと・・」
商業ギルドへと向かい、エムファスにギルドマスターへの面会を求める。
「ギルドマスターに? 何の用かしら?」
「魔法薬師の件で、色々根回しをしていただいたみたいで、御礼にと思いまして」
「ああ、なる程ね。ちょっと待ってて」
しばらくすると執務室へと案内され、再びこの部屋で相対する。
「何のようかなオプファ君」
「魔法薬師の件では、色々お世話になり、御礼をと思いまして」
「なーに、気にする事は無い、商業ギルドとして出来る事をしたまでじゃよ」
ホッホッホッと笑うが、商業ギルドがタダで動くはずが無い。
「僕が死んだり、居なくなったりすれば、能力を充てにした事が全て止まります」
「・・故に、力は貸せないと?」
分かっているだろうが、先ずはギルドマスターが欲しいものには、大きな制約がある事を伝える。
「商いの中で、交渉が占める影響力は大きいでしょう」
「当然じゃな、そこから全てが始まると言っても過言ではない」
「交渉の中で、食事と言うのも軽んじる事はできないと思います」
「勿論じゃ」
僕が何を言わんとしているのか、探るように答えてくる。
「僕の収納能力は、収納されている物の時間が進みません」
「ほぉー、凄いものじゃのぉ」
「肉や果実、これから仕入れる予定の魚介を保管しておきます。ギルドマスターが必要とする時に提供する事は可能です」
「ほぉ・・」
食事と言う交渉の機会は、一時的なもので、僕が提供するものが無くても問題は無い。
「それから在庫量とも相談になりますが、突然目新しい物を用意しても料理人が困るでしょう。必要な時に必要な量を提供します」
「練習の機会分は用意してくれると?」
「はい。例えば料理人の練習を兼ねて、ギルドのメンバーへの慰労会の食料提供ですね。無償と言う訳にはいきませんが、一応格安で卸させてもらいます」
「ふむ・・。その申し出、ありがたく受けさせてもらおう」
僕一人の力に頼りきるリスクより、交渉のカードと使うリターンを選んだようだ。
「そうそう、別件じゃが、ちーっと頼みたい事があるのじゃがな」
「何でしょう?」
「魔導師ギルドのマスターが、己の研究に魔石を良く使うようでな・・」
「・・分かりました。魔石も多めに入手するようにします」
なる程、魔導師ギルドも、決してタダで動いた訳ではないようである。
「一つ言っておくが、お主が無理をする事は無い。事前に言ってくれれば、ある程度の費用はこちらからも用意しよう」
「・・ありがとうございます」
ギルドマスターは僕がダンジョンに潜っている事を知っている。
金があれば近くの町で買い物で済ませる事が可能なものも有る。
僕の能力を失うのも含めてだろうが、一応命のことを心配している事に感謝する。
薬の委託が取り上げられた今、皆が不在の間は稼ぎ時である。
三人分の魔法薬師の授業料などで、出費があり補填の必要もある。
トータルで金貨十枚、五桁に届こうかと言う資産からすれば、大した事がないとエムファスの談である。
「ある程度は皆と片付けたけど、完全に誰も居なくなるからなあ・・、あれ?」
ユニオンの建物前に人影を認める。
「リーハー先生!?」
「久しぶりじゃの、オプファ君」
「どうされたんですか、急に?」
「君からの手紙を受け取って、居ても立っても居られなくなっての」
リーハー先生には、回復草や再生草の事、魔法薬師の事などを手紙に認めていた。
「折角、回復草や再生草が根付いた薬草園が失われる前に一目見ようと思いの」
「・・えっ!?」
「それに、これからこの薬草園を魔法薬師の物に作り変えなくてはならんし」
「リーハー先生・・」
「愛弟子たちのピンチに駆けつけなくて、先生と呼ばれる資格はないと思うぞ?」
薬草園を造るためだけの、短い期間の関係だったはず。
そんな短い期間でも、深い師弟関係を築けられた事が嬉しい。
「先ずは薬草園を見学からじゃ。その後詳しく話を聞かせてもらうとしようかの」
「はい」
リーハー先生と、ユニオンの建物の中へと入っていく。




