最高級傷薬
【最高級傷薬】
僕はユニオンのための商業ルートを探す、これはメインズへの建前だ。
各地に転移できる能力や、無限に時間の停止した収納能力を持っていたって、遠距離との商業ルートを開拓する事とは全くの別物だ。
僕がいなくなった場合に、ユニオンを存続させる練習を皆に行ってもらうために、他の町へ回る機会を増やす事にしたのだ。
そして今回は珍しく、セイテンの方から提案が出されたのだ。
『ダンジョンの摩訶不思議な特性が、強く出ている町が二つほどある』
「へぇー、どんな商品?」
『生鮮品と呼ばれる物だ』
「えっ!? それってフライシュのダンジョンの肉みたいに?」
フライシュでは生肉がドロップしていた事を指摘する。
『そうだ。ただ傍の調味料の町は、肉を上手く使うアイテムを生産できていた』
「えーっと、地産地消ってやつだよね」
『二つの町はこれと言った特産が無く、ダンジョンからのドロップ品が特産だ』
「しかもそれが生鮮食品か・・」
町の傍にできるダンジョンは、町に必要と思われるものをドロップする特性がある。
どうやらダンジョンには、バーシスの町のように特産が無い場合、色々なアイテムを落とす場合と、何らかの特産品を落とす場合があるようだ。
先ずは事前調査が大切と、商業ギルドに相談する。
「ふーむ、生鮮・・食品かぁ」
「はい」
「非常に難しいわね」
「どのような点でしょうか?」
何時ものように、エムファスが相談に乗ってくれるが、難しい顔をしている。
「生鮮食品は傷み易い。時間との勝負になるわ。この町に届いてから、更に他の町や場所へとなれば厳しいわ」
「確かにそうですね」
「この問題を打破するのは、定期的と言うのが必要になるんだけど」
「定期的に持ち込むと、どうにかなるのですか?」
「例えば店を開く事ができでしょ? 店が開けるなら、客が来るわよね」
「なる程。それで難しいと」
この町で消費するのが解決策だが、何時届くか分からない物のために、店も客も充てにはできないと言う事だろう。
「正直、この町の大金持ちと言っても限られているし、高価な物を手に入れる場合は、人に見せびらかせるためにと言う感情が強いものよ」
「どちらも客・・。何時この町に届くと言う確約が必要なんですね」
「とても重要な要素ね。まあ商業ギルドにも金持ちへのルートがあるから、その日の内に捌ける量であれば、高額で引き取るわよ」
腐らせる可能性があるのであれば、商業ギルドも手を出さない。
金持ちの心をくすぐる程度の量であれば、ぼろ儲け出来ると言う訳だ。
「分かりました。何時もお世話になっている商業ギルドに、少し恩をお返しするつもりで少量仕入れてみます」
「あらまあ、悪いわねぇ」
サプライズ的な要素であれば、商業ギルドの名を上げるのに一役買ってくれるだろう。
ドラゴンゲートを発動し、オーブストのダンジョンへと転移する。
『このダンジョンと町は面白いぞ』
「面白い? どんな所が?」
『オーブストのダンジョンのドロップ品は果物だ』
「へぇー」
バーシスの町の近くの森に入れば、多少果物は手に入るが高価だ。
『果物は傷み易い』
「そうだね」
『ダンジョン産に限らず、果物はこのダンジョンで傷まない。腐ると言う事でも、傷つくと言う事でもな』
「えっ!? それって最強の武器と防具じゃん」
傷つかない? 壊れないと言う事なら、武器や防具に代用できてしまう。
『あくまでもダンジョンの中だけだぞ』
「それだって投げたり、バックを振り回せば・・」
『はぁー・・、バックは破れるだろうが』
「あっ、そう言えばそうだね」
バック自体の強度は変わらないもんね。
果物を投げてモンスターを倒す冒険者・・、結構シュールなダンジョンになる。
「量はそんなにあっても困るって言っていたから、適当に売ってフライシュやベルクヴェルクへ行こう」
『その方が良さそうな話ではあったな』
初見なので、程々まで潜って地上へと出る事にする。
地上は、果実の町は他の町と大きく違っていた。
「何で目の前に、町の城壁が?」
『果物が傷まないのは、ダンジョンの中だけだ』
城壁の傍には、馬車が何台も待ち構えていて、その場で取引がされ、一杯になるとすぐに馬車が走り出していた。
『ああやって、すぐに果物を各地に運ぶようになっている』
「なる程ね」
果物が特産であるならば、果物を生かせるように町が変わっていったのだろう。
『城門はダンジョンの入り口の反対側にある』
「有事の際、モンスターがダンジョンから出てきたときに備えてかな」
ダンジョンからモンスターが溢れても良いように、頑丈な城壁で町を守り、最小限の取引で、最短で荷物を運び出せるような仕組み。
正にダンジョンに隣接する、町のあり方なのだ。
反対側に回って、城門から町の中に入ると、更に驚き、商業ギルドでも驚く。
「・・・果物の買取をしていない?」
確かに町を見て回った時、特産と言うほど取り扱っていなかった。
「オプファさんは、この果実の町は初めてですね?」
「はい、そうですが、何故分かったんですか?」
「商業ギルドに、ダンジョンの果実を売りに来られましたから」
「えっ!? 何か関係があるんですか?」
ダンジョンに潜るのは冒険者であり、冒険者は冒険者ギルドにアイテムを売る。
しかし商業ギルドに売る事が、この町に初めて来た事との関連性が分からない。
「果実は傷みやすいので、出来るだけ間に店を挟まない方が良いんです。直接販売が基本なんですよ」
「ああ、そう言う事ですか」
仕入れたら、自分で売るか、直接店に持ち込むのが普通なのだろう。
外で直接売り買いがあるので、冒険者ギルドも果実の依頼は殆どないと言う。
「この町の多くの食料は、他の町からに頼っています。ダンジョンの果実の殆どは、そのために使われているんです。勿論この町に立ち寄った人のための店もありますよ」
そう言うと、果実を買い取ってくれる店を紹介してくれる。
商業ギルドを出ると、感慨深く呟けば、セイテンが応えてくれる。
「その町その町のやり方があるんだね」
『当然だろう。変わった町だったろう?』
「本当に興味深い町だね」
冒険者ギルドを覗けば、ダンジョンに潜る人のために薬草採取の依頼は常にあり、荷車を守るために頻繁に討伐が行われ、護衛の仕事も多い。
町の人たちの生活も、バーシスの町と何ら変わらない。
「でも郷に入っては郷に従え。果実の売買の仕方は学ばなくっちゃね」
商業ギルドで教えられた店へと足を運ぶ事にする
予定の期日を終え、ユニオンに帰ってくると、メインズが殆ど入れ違いで、トロナが出て行った事を教えてくれる。
「薬師ギルドですか。何の件だか聞いていますか?」
「いや、聞いていないな。トロナちゃんも来いと言われただけのようだったし」
「そうですか・・」
どうも嫌な予感がする。
「何かあるのか?」
「実は・・」
薬師ギルドの虎の子である、傷薬を僕たちのユニオンに任せた理由。
僕たちのユニオンが、傷薬から高級傷薬に変わった理由。
あくまでも僕の主観と言う事で、メインズさんに話す。
「むぅ。薬師ギルドの圧力か・・」
「同業者に対する対応ではないと思いますが、ギルドの立場も分かるんです」
「そうだな」
ギルドにはギルドの責任と言うものが存在し、二人は一定の理解を示す。
「先ずは商業ギルドに行ってきます」
「うむ、今回分の取引だな」
「出来るだけ早く戻ってきますので」
僕たちの考えが当たらない事を祈りながらも、大急ぎで商業ギルドへと向かう。
胡椒、砂糖や、金属の買取をしてホクホク顔のエムファスの前に、色々な形の箱を幾つか取り出す。
「これは・・、果実かしらね?」
「はい。実際に持ち込んでみないと、これからの取引としては分かりませんので」
「確かに予想だけでは話が進まないし、駄目なら取引を断れば良いだけだから」
相手先が旅団と思っているので、取引が成立しないものまで押し付けられるとは思っていないのだろう。
「じゃあまあ、拝見しましょうかね」
「どうぞどうぞ」
エムファスが箱を開ける前から、甘く芳しい香りが漂っていた。
更に蓋を開ければ、より強く部屋を満たしていく。
「うわぁ、良い香りねぇ」
どこからともなく、じゅるりと言う音が、あちらこちらから聞こえてくる。
箱の中からは、丁寧に梱包された、色とりどりの果物が現れる。
果実を傷つけないように、重ならないように、果物ごとに箱が用意される。
「名前は知っているけど、実物を見たのは始めてなのよ」
うっとりと眺めながらも、何か指を銜えてお預けを食らっている感じになっている。
収納能力では、まだ果実の詰まった箱は残っている。
お預けを食らった感じは、あまりにも哀愁を感じさせる。
ギルドが金持ちに恩を売るように、僕もギルドに恩を売っても良いのでは?
更に追加で箱を多めに取り出す。
「えっ!? まだあったの? でもこんなに出されても・・」
ちょいちょいと手招きをすると、エムファスの耳元で囁く。
「うん? 何?」
「もし今日中に売れ残ったら、ギルドで処分していただけますか?」
出来るだけ小声で囁く。
「っ!?」
驚いたように、でも声に出さないように、両手で口元を押さえる。
「皆さんで、仲良く」
囁くようなその言葉に、ブンブンと首を縦に振って答える。
後はよろしくといって商業ギルドを後にして、ユニオンへと戻る。
家の中は恐ろしいほど静まり返っており、作業場には誰もいない。
扉を開け、共同のダイニングに入ると、メインズが腕を組み、まんじりともせず座っているのを見て、予感が的中した事を知る。
「メインズさん、トロナは?」
「死人みたいな表情で、帰ってくるなり部屋に閉じこもったままだ」
「そうですか・・」
溜息を吐きながら言葉を出すメインズに、頷くしかできなかった。
「今は、そっとしておいてやれ」
「ふぅー・・、仕方ありませんね」
扉の方へ向かうも、メインズに止められ、そのまま反対の扉から出て行こうとする。
「何処へ行くつもりだ?」
きっと薬師ギルドにでも行くと思ったのだろう。
「何か食べるものを買ってきます。今日は家の中の方が良いでしょうから」
「そうか・・、そうだな。酒も買っておいた方が良いかもしれん」
彼の言葉を少し頭の中で考える。酒の力を借りる事もあるかもしれないと。
「分かりました。用意しておきます」
腹が減っては良い考えは浮かばない。先ずは皆で腹ごしらえからだ。
目の前には酔い潰れて、机に突っ伏しているトロナ。
隣には、僕と一緒にそうかそうかと話を聞き、酔い潰れたと分かった途端、仏頂面となったメインズ。
「大体の話は分かりましたね」
「予想はしていたが、流石にユニオンを潰すつもりとはな・・」
「メインズさん、一応はやっていけるはずですから」
薬師ギルドも、ユニオンを潰すつもりではなく、価格調整のためであり、薬を安くは無理だが、決して不可能な仕事ではない。
「委託されたのが最高級傷薬だぞ? 他の薬でも良いはずだ。それなのに最高級傷薬と言う事は、他の薬もギルドより価格が下がると判断したからに違いあるまい」
「でも最高級傷薬は、作れない訳ではありませんからね」
薬師が作れる傷薬の最上級が最高級傷薬で、それを委託される事は、薬師として最高の名誉である。
しかし薬を安く広くと言うユニオンのポリシーに、全くそぐわない薬でもある。
「最高級傷薬のレシピが、再生薬と、血止めの草、化膿止めの草、そして聖水だろう。何処をどうしたら安く出来ると言うんだ?」
「かなり難しいですね」
「難しい? 不可能だ! 再生薬は森の奥深く、必ずモンスターが出る場所だ。常時依頼では受けてもらえず、ランクFの討伐と同じ依頼料が最低でも必要な通常依頼だぞ?」
第一の問題が再生薬。メインズさんが言ったとおり、入手にお金がどうしても掛かる。
治癒草や回復草は、危険が少ないという理由で、常時依頼で薬草一枚が銅貨一枚である。
しかしモンスターが何時現れるか分からない場所では、個別に依頼をしなくてはならない。
ランクFの討伐が最低一体で、銅貨十枚が基準となっている。
再生草一枚が、銅貨十枚にしなくてはならない理由でもある。
「再生薬の効能を最大限に発揮するのが聖水だと? 聖魔法を使える魔法使いがヒールと言う回復魔法を施した水? 買う以外に入手不可能だろうが!?」
再生薬を僕とメインズさんで探す事は、危険だが不可能ではない。
しかし聖魔法のヒールを、ユニオンの誰も持っていない以上買うしかない。
向こうもそれを分かっていて、ふっかけられる事があるという。
しかしどちらもお金を出せば、安全に確実に入手は可能だ。
入手に掛かったお金は、当然の如く薬代に跳ね返る。
ギルドの最低価格として設定されているのが、大銅貨四枚で実売は銀貨一枚らしい。
「これが薬を作るだけのユニオンであれば、なんら問題ない。しかし安くとなれば潰しにかかっているとしか思えん」
「そうですね」
「オプファ君・・、そうですね、では済まんぞ?」
「僕たちにはもう一つの方法が残されています。そのための能力だと思います」
「もう一つ・・? もしかしてヒールの魔石か?」
「その通りです」
聖水の作り方は、先の述べたようにヒールの魔法を水に施す事だ。
もう一つ、他の方法で作成する事が可能である。
「モンスターには魔石があります。魔石には属性を持つものがあり、極稀に聖魔法のヒールやその他の回復魔法を使える種が存在します」
「そのモンスターが持っている魔石が、ヒールの魔石だったな」
「聖水は、水をヒールの魔石に一日以上浸す事でも作り出すことが出来ます」
これで最高級傷薬の原価の値段を下げるのだ。
「しかし極稀と言うので非常に高価だと言うぞ? 入手も困難だと聞いているが?」
「商業ギルドに当たってもらって、その間に出来るだけ資金を調達します」
「そのための能力・・と言う事か。無理はするなよ?」
メインズの言葉に、黙って頷く。
男二人が、女子の部屋に入るのは躊躇われたので、布団をかけてそれぞれの部屋に戻る。
「ヒールの魔石か・・。幾らぐらいするんだろう」
『うん? 買うのか』
セイテンが僕の独り言に割り込んでくる。
「買うしかないからね。聖水を都度買うわけにも行かないし」
『ドロップするまで、ダンジョンに潜ったらどうだ?』
「ダンジョンのモンスターだって、必ず魔石を落とす訳じゃないし。ましてやヒールの魔石なんて、そう簡単に手に入るはずが無いだろう」
フィールドのモンスターは、必ず体内に魔石を持っている。
しかしダンジョンのモンスターは、必ずしもドロップするわけではない。
「なあ、セイテン」
『何だ?』
「どうしてフィールドのモンスターは魔石を持っているのに、ダンジョンのモンスターは魔石を持ってないんだろう? 訳を知っている?」
『詳しくは知らんが、モンスターの発生の仕方が違うらしいぞ』
「へぇー、どんな風に?」
どちらも同じモンスターだと思っていたのだが、何かが違うようである。
『フィールドのモンスターは、動植物が濃い魔力を受け続けると色々な物がモンスター化する。その際に体内に出来るのが魔石といわれている』
「ふむふむ」
『以前話したがダンジョンには、ダンジョンを管理する何かが存在する』
「ダンジョンロードの能力の説明の際に、そんなこと言っていたね」
『その何かが、ダンジョンポイントを使ってモンスターを生み出す際に、アイテムを核にするらしい』
「えっ!?」
『モンスターは倒されるとダンジョンポイントに還元されるが、核となったアイテムだけはそのまま残されると言う訳だ』
衝撃の事実を知ってしまう。ダンジョンの中枢に迫る力があるからなのか分からないが、とんでもない秘密が明かされた。
『そんなダンジョンの中に、魔石を核とするものがある。つまり必ず魔石がドロップするダンジョンと言う事だ』
「えっ!? どこにそんなダンジョンがあるの?」
『魔石の町と言うのがあるんだが、その傍のダンジョンは魔石しか落とさない』
「なっ!?」
僕たちが今求めているダンジョンが存在すると言う。
「そんなダンジョンがあるんだ・・」
『ダンジョンは、ダンジョンの数だけ特性が存在すると言っても過言ではない。町に必要なものが違うように、ダンジョンがドロップする物も変化する』
「そんな事言ってたよね」
町の傍に生まれるダンジョンは、町の必要と思われるアイテムをドロップするのだ。
『ただし』
「何か条件があるの?」
『さっきも言っていたが、ヒールの魔石は極稀にしか落とさない。魔石の町の傍のダンジョンも五十階層のランクCだが、ダンジョンボスに挑まなくてはならない可能性がある』
「そっか・・」
いくらセイテンのドロップランク率アップの能力があっても、ボス以外ならランクBまでしか落とさない。
ボスはワンランク上が出現する、つまりランクAのドロップが期待できる。
「全力で挑まなくちゃいけないんだね」
『ほどほどでの全力ではなく、自分の力を熟知した上での全力の必要がある』
剣を振った事のない人間の全力の一振りと、剣を鍛えた人間の全力の一振りの差は、天と地の開きがある。
セイテンの力を借りてランクCの僕が、ソロでランクBのボスに勝つには、それ相応の準備が必要となる。
「分かってる。しばらくダンジョンで鍛える」
『そうこなくてはな』
この日この時、ユニオンのために剣を振るう決心をした。




