新しい仲間
【新しい仲間】
鉱山の町へついて、ベルクヴェルクのダンジョンが出来た理由が分かる。
「へぇー、普通に金属の塊を買い取ってもらえるんですね」
「えっ!? どう言う事でしょうか?」
商業ギルドで、ダンジョンでドロップした金属の買取をお願いしたら、スムーズに出来た。
「いえ鉱山の町と言う事でしたので、買い取ってもらえるとは思わなかったんです」
「ああ、初めての方は驚かれるかもしれませんね。ここは鉱山の町でありながら、鉱山ギルドがないんですよ」
「えっ!? 何故ですか?」
鉱山の町でありながら、鉱夫のためのギルドが無いという。
「この町は昔、鉱山の町として、とても賑わっていました」
「賑わって・・いた?」
「しかし広く深く掘り進める内に、坑道がダンジョン化する事が頻発しました」
「・・えっ!?」
「その坑道は破棄して、新しい坑道を掘ったのですが、やはり広く深く掘るとダンジョン化しました。原因は今のところ分かっていません」
「そんな事があったのですか!?」
鉱山の町に、こんな歴史が合ったとは驚きである。
「鉱夫は一人二人と、この町から去るか、ダンジョン化した坑道でモンスターを狩る冒険者になりました」
「そうなりますよね・・」
何時ダンジョン化するか分からず、戦々恐々と鉱石堀りは厳しい。
しかもモンスターだけではなく、坑道を掘れば、崩落やガスなどの危険もある。
二重三重の危険と恐怖と隣り合わせ・・、逃げ出したくなると言う物だ。
「この町で産出する金属を当てにした鍛冶屋などにも影響し、この町は終わりかと思われた時に、不思議なダンジョンが生まれました」
「もしかしてベルクヴェルクですか?」
「そうです。金属をドロップするダンジョンのお陰で、この町は持ち直しました」
「良かったですね」
「いいえ。町は持ち直しましたが、鉱夫は完全に廃業となり、鉱山ギルドは閉鎖となりました」
「あっ、そっか・・」
深く広く掘れないのであれば、鉱山としては成り立たないのだろう。
「ベルクヴェルクのダンジョンで得られた金属は、インゴットに成型されたり、武器や防具として加工されています。今は鍛冶の町というべきかもしれませんね」
寂しそうに笑う職員に礼を言って、商業ギルドを出る。
それを待っていたかのように、セイテンが声をかけてくる。
『原因ならば分かるぞ』
「えっ!? ダンジョン化の? それともベルクヴェルクが生まれた理由?」
『ベルクヴェルクが生まれた理由は、この町を守るためだったのは、さっきの話で分かっているだろうが』
「やっぱり鉱石が取れなくなったため?」
『正確には鉱石は取れるが、ダンジョン化する、モンスターが出ると言うだけだ』
「それだけも十分に理由になるよ・・」
やはり町の近くに生まれるダンジョンは、その町に必要なアイテムをドロップするようだ。
「そもそもダンジョン化する原因は何で?」
『この鉱山やこの地域のずっと奥に、ダンジョンロードを結びつけた、ランクSオーバーの難攻不落ダンジョンが存在する』
「えっ!? 何で難攻不落ダンジョンが出てくるの?」
『強力ゆえに、細い血管のようにこの辺りまで影響力が及んでいる』
「そんな・・。でもそれだったら影響のあるところ避けて、鉱石を掘れば・・」
原因を町の人に伝えれば、鉱山の町として蘇るはずだ。
『その影響力の範囲は、伸びたり縮んだり、上下左右に変化する』
「厄介だね。それじゃあ何処を掘ったら安全って分からないよ」
『結果、町の傍にダンジョンが生まれたのだろう』
「なかなか上手くいかないものだね・・」
僕一人の考えなど、簡単にひっくり返されてしまう。
意気消沈しながら、町へとで掛けると、更に追い討ちをかける事がある。
「完全にマイナスじゃないか・・」
ベルクヴェルクで手に入る金属の塊を、売って何を買うのか?
武器か? 防具か? 工具か? 持ち運び易いようにインゴットか?
「ドロップ品を売って、何かを買えばマイナス。インゴットにするのにも手数料が掛かるのでマイナス。拾ったままの状態で持ち帰るしかないのか?」
しかしエムファスには取引と言ってある以上、普通はインゴットだろう。
「えらく高くつく特産品になりそうだなぁ・・」
目立たないようにとは思ったが、赤字にしたいとは思っていなかった。
「どうしたら良いか、時間もあるし考えよう」
溜息をついて、薬草採取へと向かう。今回の唯一の救いが、薬草採取であった。
「鉱山だからって、薬草が取れないわけじゃないんだ。坑道の入り口付近は開けていても、木々に埋もれているから、薬草の宝庫ともいえる」
逆に平地が少ないく、高低差が激しく、水を得にくいから農耕地としての開拓が殆どない。
鉱石堀りの仕事以外となれば、狩人か樵になってくるだろう。
「全くの手付かずじゃないから、誰かが採取しているんだろうな」
鉱山の町での鬱憤を晴らすかのように、でも慎重に薬草を採取していく。
そろそろバージスの町へ戻る期日が迫ろうとしている。
「はぁー・・、もう一回潜るか」
前回潜った分は、この町の商業ギルドに売ってしまって手元には無い。
インゴットを新たに仕入れるより、金属の塊を持ち込んで加工してもらい、加工料を金属の塊で支払った方が安上がりだ。
「気が重い・・」
『何故だ? 俺様の能力があれば問題あるまい』
「いや、その時間で薬草採取できるかなーってね」
『・・好きにしろ』
目の前に金を稼ぐ手段があるのに、薬草採取にこだわる僕が分からないのだろう。
「いいから、黙って付いて来れば良いんだよ!」
「俺は、薬草だけで十分なんだ・・」
その言葉に、僕の全身の毛が粟立つのを覚える・・
「冒険者なら、薬草じゃなくてダンジョンで稼ぐんだ!」
「ダンジョンなんて、一度も・・」
僕の全身の血が沸騰し、目が見開かれ、いつの間にか固く拳を握っていた・・
「待ってくれ!? 俺は行きたくないんだ・・」
ゆっくりと振り向くと、四人の男に四十歳ぐらいの男が連れて行かれるところだった。
僕のように・・、両側をがっちりと捉えられ、胸倉を掴まれ引っ張られ、後ろから追い立てられる。
『なあ、オプファ? あれはヤバイんじゃないか?』
「分かっている・・。先ずは冒険者ギルドだ」
『おいおい、そんな悠長なこと言っていて良いのか?』
「セイテン・・。君の能力なら十分さ・・」
ありったけの力を込めて、彼らの後姿をにらみ付け、冒険者ギルドへと向かう。
冒険者ギルドの受付嬢に声をかけ、
「その人なら、メインズさんで間違いないですね」
薬草採取を専門にやっていて、連れて行かれた男性の姿を伝える。
「その人がダンジョンに潜ると言う事は?」
「うーん、ほぼありえませんね。前は鍛冶屋ギルドに居ましたが、身体を痛めてから冒険者になったんですよ」
「へぇー・・」
「奥さんも病気で亡くされていて、まだお若いんですが、静かに余生を過ごすと。メインズさんに依頼ですか?」
「いいえ。薬草採取を専門にされている方から、お話しをお聞きしたかったもので」
「それならば、メインズさんが一番確かだと思います」
受付嬢に礼を言ってから、冒険者ギルドを出る。
町の外へと向かいながら、セイテンに尋ねる。
「ねえセイテン、メインズさんたちの行き先が分かる方法は無い?」
『はあ? あのまま後を付いていけば良かったじゃないか!?』
「間違いなくテレポートリングを使って移動する。そうなると僕自身じゃ追跡は出来ないんだ」
『なる程・・、お前に貸した能力で、か』
何か考えているのかと思えば、俺様の能力をもっとちゃんと使っていればとかブツブツと文句を言っている。
「何を言っているの、セイテン?」
『お前に貸してやった俺様の能力は、殆ど有効的に使われず、宝の持ち腐れの状態だ、と言っている』
「どう言う事?」
『こう言う時のために、俺様の能力を良く使い込んでおけ、と言う事だ』
どうやら薬草採取ばかりしていて、自分の能力が使われていなかった事を言っているのだろう。
「過去の事を・・。分かったから、今度からもっとちゃんと使うよ、約束するから」
『ふん、期待はしないがな』
「それで何か手はありそう?」
『ダンジョンの転送で何処まで有効か分からんが、暗黒魔法に相手を追跡する物がある』「でも実際に転送されると分からない可能性があるんだよね」
『ただ同じ階層に行けば、継続して追跡は可能だ』
「時間との勝負・・、どれだけ早くその階層に辿り着けるか」
今日のうちにダンジョンに潜り始めるとは思わないが、万が一を考えてダンジョンゲートでベルクヴェルクのダンジョンの一階へと転移する。
そのままダンジョンを出て、彼らを待ち受けることにする。
彼らはダンジョンに付くと、すぐにダンジョンに潜り始める。
「追跡の魔法を打ち込めたけど、こんな夕方からダンジョンに入るなんて何を考えているんだ?」
『ん? 簡単だろう? ただの囮を捨てて戻ってくるつもりなんだろう。宿代も一人分浮くしな』
「なっ!?」
流石にそこまでを戸は考えていなかった。自分の甘さを思い知らされた感じだ。
「急がなくちゃ・・」
彼やらはランクDであるなら、最低でも十一階層以降のはず。
「間に合え!」
メインズの影に打ち込んだ、追跡の針と糸を探して、早く深く潜っていく。
目の前にフロアボスの牙が見える。
「どうして・・、こんな事に・・」
無理矢理パーティに組み入れられ、ダンジョンに入って、最初の内はパーティは自分を守ってくれていた。
なんやかんや言いながらも、ダンジョンの事を教えてくれているのかと思ったが、ボスの部屋で置いていかれ、囮にされた事を知った。
「くっそぉ、あいつら! やっぱり最初からこれが狙いだったのか! 絶対に許さん!」
幾ら逃げ回っても、出口の方の階段には進む事ができず、結局は捕まってしまった。
「この町に来て、あいつと結婚して、あいつに先立たれて、無理に仕事をして身体を壊し、薬草採取で細々と暮らして、あいつの菩提を弔って生活しようとしただけなのに・・」
諦め、目を瞑り、最後の時を待っていると、自分を掴むボスの手が緩む。
「えっ!?」
思わず目を開き、顔を上げると、ボスの頭が無くなっていた。
「えっ!? ええっ!? 何が起きたんだ?」
「大丈夫ですか?」
十五歳ぐらいの少年が、ダンジョンボスの後ろから声をかけてきた。
「待ち合って良かった。メインズさんですよね?」
「えっ!? あ、ああ、そうだが?」
「君は?」
「僕はオプファと言います。町で無理矢理連れて行かれるあなたを見かけまして」
簡単に救出までの経緯を話してくれる。
「そうだったのか・・、ありがとう。感謝しても仕切れない」
「いいえ、それよりもここから出ましょう。そしてあいつらに鉄槌を」
「ああ、そうだな」
オプファ君が差し出した手を取り、立ち上がるとボスの部屋を出て一階へと向かう。
僕たちはメインズさんを拉致したパーティの少し後に、冒険者ギルドに到着する。
見目麗しい受付嬢ではなく、サブマスターの所へと向かう。
「上手く言ったようだな」
「ああ、とても役に立ってくれたよ」
にやりと笑うサブマスターに、笑顔で答えるパーティの面々。
「あいつのお陰で、あのフロアはクリアだ」
「しばらくは控えて置けよ? 最後に死亡処理だけはしてやるか」
「そうだな」
とても楽しそうに話しをしている所へ、二人して入ると一気に沈黙が訪れる。
僕とメインズさんが、受付嬢に話しかけ、事情を説明する。
受付嬢は、さも驚いた表情を浮かべ、固まった面々をチラ見すると、すぐに姿を消す。
「ま、まさか・・」
「やばくないか・・」
「お前たち・・、しくじりやがって」
サブマスターとパーティの面々には厳しい裁きが下された。
一段落すると、メインズさんが御礼だといって食事に誘ってくれる。
「メインズさんは、これからどうされますか?」
「うーん、今まで通りだ。静かに薬草採取で暮らすだけだ。ただ、ああ言う事が起きた後だからなぁ・・」
周囲の人間は、色々な感情の入り混じった視線を向けてくる事が予想される。
「僕は一度、冒険者ギルドに殺されました」
「・・そんな事、言っていたな」
ギルドマスターの前で、バーシスの町の冒険者ギルドの経験を話したのだ。
「その後、少しでも薬を安く、多くの人にと言う気持ちでユニオンを立ち上げました」
「ほお! その歳で大したものだ」
「いいえ。まだ二人の小さなユニオンです。何かあればすぐに潰れるでしょう」
「自分のユニオンをそんな風に言うものじゃ・・」
「僕のユニオンに参加してもらえませんか、メインズさん」
メインズの目が見開かれる。
「奥さんのお墓が、ここにあるのは知っています。バージスの町と鉱山の町がかなり距離が離れている事も知っています。それでも、あなたに参加して欲しい」
「同情・・ではないのか?」
彼の頭に一瞬同情という言葉が浮かんだのだろうが、そんなつもりは全く無い。
「バージスの町では、きちんと薬草採取をしてくれる人がいなくて、薬師ギルドの薬も値上がっています。助けて欲しいのです、人手が足りないのです」
「・・少し考えさせてくれ」
「勿論です。もう少しこの町のこの宿に泊まっています」
「分かった」
後は男二人、多少のお酒も入り、四方山話で盛り上がる。
何時ものように、鉱山の町周辺でも薬草採取を開始する。
「あたたたたぁ・・、お酒は苦手なんだよな」
苦手と言うよりも、トロナと二人では、お酒など飲む機会は無い。
「自分で先ずは二日酔いの薬を作らないと・・」
「ほら」
「ありがとうございます」
メインズさんが近づいているのは気が付いていた。
彼から手渡された、二日酔いの薬を飲む。めちゃくちゃ苦かった。
「二日酔いの薬草でも採取していたのか?」
「いいえ、持ち帰るための薬草全般を採取していました」
「わざわざ鉱山の町でか?」
「どの町にも限った事ではありません。商いはユニオンの助けになればと思っています。本業は薬草採取ですからね」
「なる程、その的確な採取方法は、一朝一夕では身に掴んだろうしな」
僕の手元や、採取した薬草の状態を見て判断したようだ。
「自宅や荷物は、今日中に処分する事になる」
「えっ!?」
「ちゃんのうちの奴にも挨拶は済ませてきた」
「メインズさん・・」
「どのくらい役に立つか分からんが、よろしく頼む」
「いいえ、こちらこそお願いします」
二人はこれからの事を、薬草採取の手を休める事なく話し合っていく。




