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商業ギルドの魔王候補  作者: まる
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鉱山の町

【鉱山の町】


トロナには供給傷薬の素材の件で安請け合いをしたが、そんなに簡単な事ではない。


いやセイテンの能力を使えば簡単なのだが、何らかの能力がある事がバレてしまう可能性が高いと言う点でである。


「エムファスさん、ご相談したい事が・・」

「何かしら?」


そのため事前に策を弄するために、商業ギルドまでやってきた。


「あっ!? 薬草園の事? 今幾ら掛かるか試算している所だから、もうちょっと待っててね」

「えっ!? 試算って?」

「アドバイザーを雇う場合の報酬よ」

「もうそこまで話が進んでるんですか!?」


エムファスに相談したのは昨日の事で、既にその段階に入っている事に驚く。


「この際だからザックリ説明しちゃうけど、アドバイザーとしては、学者ギルドを通じて、薬草学に通じている人を何人か紹介してもらっているわ」

「学者ギルドの、薬草学者ですか?」

「ええ。薬草園に関わった人からの情報で、やはり最初は薬草学者の助言が大きいって」

「ふむふむ」

「環境にしろ、土壌にしろ、その手の知識や情報、経験を積んでいる人が必要って事ね」

「なる程」


話を聞けば、薬草学者が適任と言うのは分かる。


「最初は座学ね。学者に来てもらうか、こちらから行くかは、オプファ君の判断ね」

「へっ!? 座学!? 何故に?」

「薬草園が軌道に乗ったら、学者は地元に帰るわけでしょ? ある程度知識を持ってもらって、薬草園の状態を保てる人が必要になるの」

「あぁー、尤もですね」


自分の活動拠点がある以上、いずれはそこに帰るのは当たり前だろう。

となれば、残された薬草園を維持する人を準備しておくに越した事はない。


「ある一定水準の知識が身に着いたら、初めて薬草園を作る場所の地質調査が始まるわ」

「ふむふむ」

「何もしないで植えられる薬草を選ぶとか、植えたい薬草に合わせて土壌を入れ替えるのかと言う話になって、ここからは造園を受け持つギルドとの連携になるわ」

「急に大掛かりになりますね」


その土地の環境によって、植えられる薬草も様変わりするのだろう。


「ある程度形になれば、学者とは手紙でのやり取りや、定期的な調査に来てもらう程度になる、これが一連の流れかしら」

「かなり時間と労力が掛かりますね」

「うん。かなり時間がかかる事は覚悟しておいた方が良いわ」


それでも薬草園作りに、ある程度の進捗があったのだから良しとすべきだ。


「ではこれからのよろしくお願いします」

「お任せあれ」


にこやかに挨拶を交わして、席を立つ・・


「うん?」

「あら?」

「「相談!?」」


お互いの声が重なる。


薬草園の話が大きくなり過ぎて、本題の事をすっかり忘れてしまっていた。




そそくさと席に戻ると、改めて今日の相談事の話を始める。


「それで相談て何かしら?」

「冒険者ギルドにかけている依頼の変更です」

「はいはーい。どう変更するのかしら?」

「治癒草を、回復草に」

「治癒草を、回復草に・・・、えっ!?」


エムファスのペンが止まり、怪訝そうな顔になる。


「どう言う事?」

「いえ、ユニオンの取扱商品が、傷薬から、高級傷薬に変わりまして」


重く、力を込めて、はっきりともう一度聞いてくる。


「どう言う事かしら?」


そこでトロナから聞いた話を、エムファスに聞かせると、ドンドン眦が釣り上がっていく。


「ねえ、オプファ君・・」

「ええ、分かっています。多分トロナも薄々は気づいているんじゃないかと・・」

「間違いなく、圧力をかけて来てるわね」

「でも商売上はセーフですよね?」

「商人としては白、ギルドとしては黒のグレーゾーンね・・」


エムファスが忌々しそうに、顔を歪める。


「よりによって高級傷薬・・、回復草か。ユニオンを潰しに行っていると思われても仕方ないわよ?」

「僕も以前は冒険者でしたからね、分かっていますよ」


高級傷薬のメインとなる薬草、回復草の採取。薬草採取の中で最も不遇な依頼である。


冒険者ギルドでは、薬草採取はどんな薬草も一括りで、一枚銅貨一枚である。

傷薬の治癒草も、高級傷薬の元となる回復草も、同じ一枚銅貨一枚である。


それは薬草より森に近い所に自生するが、森に入らなくても見つけられ、安全に採取できる薬草と言う位置付けのためだ。


森に入れば、モンスターと出会う率が高くなる。

ちなみに一番弱いスライムやゴブリンの討伐依頼は、一体に付き銅貨十枚である。


当然だが森に入るイコールモンスターと戦えると言う事であれば、討伐依頼をこなした方が、遥かに見入りは良いと言う結果になる。


しかも薬草採取はランクEへランクアップの対象依頼とはならない。


「オプファ君は戦闘未経験者。となれば依頼で薬草を手に入れるしかない。当然の事ながら薬代に、そのまま跳ね返るしかない」

「安く売るのが、僕たちのユニオンの信条ですからね」


ギルドとしては、暗にそれをして欲しくないと言っているのと同じである。


「はぁー、そこで止む無く冒険者ギルドに、回復草の採集を依頼するしかないと」

「その通りです」


エムファスが辛そうな表情を浮かべる。


「幾らで冒険者ギルドに依頼を掛けるの?」

「流石に討伐と同額にするのは流石に・・、その半分ぐらいでどう思いますか?」

「何とかいけると思うけど・・」


確実に採取してもらうなら、討伐より良いと思わせるべきだが、そうなると回復草の単価が銅貨十枚を超え、諸々込み込みで高級傷薬が銅貨百枚近くなってしまう。


しかも治癒草の場合は、僕の不在の期間だけだったが、回復草の場合は毎日なので、かなりの出費にもなる。


「まずはその金額でお願いできますか?」

「うん、やってみるわ」


こうやって僕たちのユニオンが、ギルドを通じて、薬草を手に入れているという既成事実を作っておく。


セイテンから借り受けている能力があれば、回復草など幾らでも手に入れられる。


「僕も安全地帯で、回復草の採取に勤しみますか」


敢えてそう呟きながら、商業ギルドを出る。






さて森に入って周囲に気を配りながら、回復草を探して少し奥に入っていく。


回復草の採取は、依頼料の割りに、危険もある不遇な依頼である。

先ほども言っていたし、あまり大事ではないが、二度言った事には理由がある。


裏を返せば、採取する人が殆ど居ない薬草と言う事でもある。

つまり森に入れば、幾らでも見つけられる薬草に早変わりなのだ。


「すごいなぁ・・。薬草じゃない草を見つけるのが大変なぐらいだ」


それは冗談としても、易たる所に様々な薬草が群生していて取り放題である。


「うーん、危険と隣り合わせとは言え、依頼料五倍は行き過ぎだったかも」


セイテンから借り受けた能力が優秀過ぎるためなのだが、これだけ簡単に採取できてしまうと、ちょっと惜しくなってしまった。


奥と言っても、振り返ってちょっと走れば、すぐに森から出られるぐらいの距離だ。


「この辺りでも、トロナはゴブリンに出会っているし、危険は危険だよな」


セイテンの能力があっても、気を引き締めて薬草の採取を行う。




その薬草を大量に持ち帰ると、その量にトロナが目を丸くする。


「・・一体何? 何があったの?」

「商業ギルドで聞いたんだけど、回復草って人気のない採取の依頼なんだって」

「へぇー、それで?」

「もう至る所に回復草が群生してて、取り切れないぐらい」

「すごいラッキーじゃない!」

「うん。商業ギルド経由で、冒険者ギルドに頼まなければ良かったと後悔したぐらい」

「あらまあ」


話を聞いたトロナが、コロコロと笑い転げている。


自分が採取した分だけで、かなりの高級傷薬が完成、販売を始める。






毎日のように森のちょっと先まで入り、薬草を採取しながら考える。


「商業ギルドからは、届けられる回復草の数が少ないけど、冒険者たちが安全マージンを取っているのか、安いと受けたがらないのか分からないなぁ」


トロナの製造、販売する高級傷薬の殆どは、オプファが採ってきた薬草で作られている。


「うーん、薬草採取の現実をどうにかしないと、薬不足は改善できない」


ユニオンがどれだけ頑張っても、町一つを支える事はできないし、ギルドがある以上すべきではない。


「薬草採取を魅力的にするには、お金しかないのかなぁ」


それでは薬代が高くなるだけで、今度は薬離れとなってしまう。


ではお金を稼げばいいのだが、これはセイテンのお陰であって、僕の力ではない。


「今出来るのは、いざと言う時のために資産を増やしておく事か・・。ねえ、セイテン」

『・・うん、何だ?』

「他の町の特産品を手に入れたいんだけど、何処がお勧めかな?」

『前にも言ったが、七つのダンジョンは、何処もバーシスの町に不足している物を取り扱っている町の傍につなげてある。どれでも良かろう』

「今度はあまり大騒ぎにならないものをと思っているんだ」


ギルドマスターの承認を得られたとは言え、ユニオンが不安定な今は、僕が逃げ隠れる事になるのは避けたい。


『調味料の町の岩塩みたいな感じか?』

「そうだね・・。あれも大事になりそうだけど、まだマシな部類かな」

『であれば金属はどうだ?』

「金属・・、鉄とか銅って事?」

『農業に、木工、武器に防具、あらゆる場面で必要だが、この町では取れまい?』

「そうだね・・。うん、ありがとう」

『ふん』


セイテンはぶっきら棒に、鼻で返事をしてくる。






金属の商いについて、探りを入れるために商業ギルドへとやってくる。


「エムファスさん」

「何かしら? また相談、オプファ君?」

「そう、なりますかね。近々、商いに出る予定なのですが・・」


その言葉に、エムファスがピクリと跳ね、目が獲物を狙うかのようにギラリと光った・・ように見えた。


「今度も、砂糖や胡椒かしら?」

「それもそうなんですが・・」

「知っての通り、このバーシスの町では、砂糖も胡椒も入手しにくい状況なの」

「そうですね・・」

「可能であれば、定期的に仕入れて欲しいぐらいなのよ」

「それは何とも・・」


エムファスの喰い付きに、かなり引き気味に答える。


「一応相手あっての取引ですし、僕自身もそこまで動けるかどうか・・。それに必ずしも砂糖や胡椒が手に入ると言う保証はないので・・」

「うん? どう言う事?」

「取引先が各地を回っているらしくて、その時々の商品になるんですよ」

「ほほぉ、旅団だったのね」


商隊そのものは、商品を売買するために、複数の商人が集まって身や商品を守る組織だ。


普通は拠点を持った商人なのだが、拠点を持たず、ずっと旅をしながら売買する商隊が旅団である。


「それじゃ難しいわね。でも、お願いしてね」

「お約束は出来ませんが・・。で、今日の相談ですが」

「そうそう、何だったかしら?」


何とかエムファスの追求を交わして、今日の本題へと話を持っていく。


「その商いで、金属を持ちかけられたら、どうなのかなぁと思いまして」

「そんな予定があるの?」

「前回、もしかしたらと、言われてたので」

「ふむ、金属・・、鉄とか銅よね?」

「多分、そうなるかと・・」


エムファスは、少し視線を漂わせてから答える。


「大きな利益にはならないと思うけど、引き取り手はあるから大丈夫よ。前にも例えで話したけど、この町は金属を他の町から仕入れている状況だから」

「分かりました、ありがとうございます」


金属の取引についての情報収集を終えると、ユニオンへと帰る。






そして半月後の商いでは、エムファスから熱望された調味料の調達から始める。


何時ものように、フライシュのダンジョンで肉を確保し、調味料の町で売り、そして砂糖と胡椒を仕入れる。


そして鉱山の町のダンジョンへと向かう。


「ねえ、セイテン」

『何だ?』

「鉱山の町のダンジョンって、何て名前?」

『ベルクヴェルクだ』

「これだね」


ダンジョンゲートを起動して、ベルクヴェルクのダンジョンへと転移する。




一階層の入り口に到着すると、まず簡単なダンジョンの情報を聞いてみる。


「ねえ、セイテン」

『うん? 何だ?』

「このダンジョンの情報が欲しいんだけど?」

『他のダンジョンと同じく、ランクCの五十階層で金属がドロップする』

「分かった」


そのままダンジョンに潜っていくと、先ほど聞き流したおかしな所に気づく。


「ねえ、セイテン?」

『さっきから何だ?』

「ドロップアイテムって、これ?」

『その通りだが?』


僕の手には、拳より二回りほど小さい鋼とチタンの塊がある。


ベルクヴェルクは金属をドロップするが、アイテムとしてはランクEは鉄である。

ちなみにその下のランクFには、青銅と言った金属があるがドロップしない。


しかしセイテンの能力のドロップレア度率アップのお陰で、ランクDの鋼やチタンとなる。


『深く潜れば潜る程、高価な金属をドロップする。確か・・高価な金属ほど大きさが小さくなっていったはずだ』

「そう言う事を言いたいんじゃなくて・・」

『うん? では何が言いたいんだ?』


セイテンに僕が不思議に思っている事が伝わらない。


「町の傍にできるダンジョンって、その町に必要なものを落とすダンジョンだよね?」

『概ねそうだな』

「このダンジョンのドロップアイテムって、金属なんだけど? この傍の町も鉱山で、金属を採掘するよね」

『・・・そう言えばそうだな。どうしてだ? 少し待て。調べてみよう』


金属を産出する町の傍に、金属をドロップするダンジョン・・、全く意味がない。


セイテン自身、特に気にしていなかったため調べていないと言う。


「僕の方も町に着いたら、それとなく聞いてみるよ

『何か分かったら知らせよう』


その後は初見のダンジョンを、セイテンの能力をフルに使って潜れるだけ潜る。


ダンジョンの宿に一泊してから、鉱山の町へと向かう。





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