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商業ギルドの魔王候補  作者: まる
17/33

高級傷薬

【高級傷薬】


僕とギルドマスターは、行きと同様の方法で帰ってくる。


「ふむ、魔方陣と竜はこのようになっていたのか」


流石はギルドマスター、二回目ともなれば、じっくりと観察できる余裕があるみたいだ。


商業ギルドに戻ると、エムファスを伴って執務室に入る。


「エムファスよ。オプファの商業ルートに関しては、一切の違法性、犯罪性はない。またワシの開拓しようとするルートにも絡んでおらん」

「そうですか。それは良かったですね」


緊張した面持ちだった彼女が、満面の笑みを浮かべる。


「彼は商業ルートの秘匿性を重要視していた事から、商業ギルドの個人、組織共に、彼の商業ルートに支援を求める事を禁ずる」

「分かりました」


ギルドマスターは、きちんと約束を守ってくれた。


その後、エムファスがこちらを向き、深々と頭を下げる。


「今まで大変失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした」

「・・えっ!? ちょっと待ってください!? 何も・・」

「オプファ君は疑われていると思うだけの、何かを私たちから感じ取ったと言う事は間違いありません」

「でもそれは僕のためであり、町のためな訳ですから・・」


商業ギルドも、違法や犯罪を町に入れないように行動したに過ぎない。


「でもオプファ君が正しい事が証明された以上、謝罪は必要です」

「分かりました。誤解が解ければ十分ですから」


そう言い合いをしながら、執務室を出て、いつもの受付の前に来る。


「では、今回の取引商品の買取をお願いできますか」

「分かったわ。今回も胡椒かしら?」

「あと今回から大手を振って買取してもらえると思って、奮発しました」

「胡椒以外にもあるということね」


袋と箱の二種類を取り出すと、袋の方を確認する。


「これは胡椒の方ね。前回同様、質もとても良いわ。もう一つの方は?」

「どうぞ開けて下さい」

「では失礼して・・」


蓋を開け、すぐに蓋を閉めて、驚いた顔で確認してくる。


「こ、これは、砂糖・・よね?」

「はい。その通りです」


エムファスが固まってしまう。


どちらも嗜好品ではあり、庶民にとっては高嶺の花なのだが、有力者や金持ちにとっては、持っていて当たり前、客に見せびらかすために出すほどらしい。


また高級料理店でも必需品であるが、生産地が限られ、バーシスの町から距離があるため、高値で取引され、更にはジリジリと値を上げている。


「先日お願いした、薬草採取の依頼ですが」

「えっ!? ええ、ちゃんと依頼をだして、納品されてわよ?」


愕然としている所に、話しかけられ戸惑いながら答えてくれる。


「この取引で不在の間の、薬草不足を補う分なので、この取引の利益分から依頼料を出すんです」

「十分すぎる程ね・・。それは二倍なんて依頼料出せる訳だわ」


エムファスは死んだような目で、遠くを見つめている。


「そうだエムファスさん」

「なぁに? まだ何かあるの?」

「植物に詳しいギルドって、どこかご存知ありませんか?」

「ん? 植物? 薬師ギルドも詳しいけど、違うって事よね」

「はい、以前エムファスさんが言ってた薬草園が出来ないかと思って」


自宅兼ユニオンの、工房付きの家の庭がまだ手付かずなのを思い出す。


「薬草園かぁ・・。あれは農業とか、学者とか色々な人が参加して作る物だから・・、単独のギルドでは難しいと思うわ」

「そうですか・・。アドバイザー的な人を探してもらっても良いですか?」

「分かったわ。任せて頂戴」


どんな薬草なら街中でも栽培できるか分からないが、より身近に薬草があれば助かる事もあるに違いない。


稼げる内に、色々な施設の充実を図ってしまっておきたい。






商業ギルドで売買や、諸々の手続きを終えると、自宅兼ユニオンへ帰ってくる。


トロナは無事に帰ってきた事を、手放しで喜んでくれた。

食事がてら、お互いのここ一週間の事を報告し合う。


「今回の商いも大成功だったわけね、本当に良かったわ」

「うん、取引相手が良い人たちで。商業ギルドに移れて本当に良かったよ。ありがとう」

「えへへぇ・・・」


彼女は自分が誘った結果を感謝され、照れ笑いしている。


少し話をした後で、商業ギルドでお願いしてきた事を話す。


「でも薬草園か・・。考えもしなかったなぁ」

「薬師ギルドにあるかと思ったんだけどね」


自宅兼ユニオンの建物の庭に、薬草園を作る計画をトロナに告げたのだ。


「どうして薬師ギルドに、薬草園がないんだろう?」


そもそも薬を扱うギルドなのに、薬草を育てて来なかった理由が分からない。


「それはギルドだからよ」

「・・へぇ!? どういう意味?」

「ギルドは、同じ職業者の助け合いの場所なのよ」

「それは、以前聞いたことがある」


エムファスから、ギルドについての説明を受けた時の事を思い出す。


「裏を返せば、自分の職業の事しかしない組織と言えるわ」

「あっ!? そっか」

「薬師ギルドは、薬を作る職人のためのギルドであって、薬草を集めるでも、育てるギルドでもない。そういう考え方ね」

「なる程。僕の考え方自体がユニオン寄りなんだね」


ギルドは同じ職業の人が、情報交換や、技術の向上、一定のルールを決め、お互いに働き易いようにする集団、組織と言っていた。


薬草園は、薬草の事を研究している人が、植物を育てる人と協力して出来る。

そして薬師が薬を作り、商人が販売する。この流れはユニオンに合致する。


「とは言え日々の薬草不足を考えれば、専属の冒険者や薬草園も手段の一つだと思うけど、今ひとつ古い体制から抜け出せていないと思うのよ」

「そっかー」


あのエムファスでさえ、アイデアはあっても、実行するための伝手がなかった。




僕の方の話をあらかた終えると、トロナの方の話を聞く事にする。


「トロナの方はどうだったの?」

「そう! ちょっと聞いて頂戴!」

「えっ!? 何? 何があったの?」

「先ずオプファの不在の間は、依頼を受けてくれた冒険者が居てくれたお陰で、きちんと毎日、商業ギルドから薬草は納品されたの」

「それは良かったね・・」


そう言えば、トロナに薬草採取の報酬が二倍である事を伝えていない。


「しかし、あのギルドマスター。少しはオプファの爪の垢でも煎じて飲めば・・」」


忌々しそうな表情を浮かべ、悔しそうに僕が不在中にあった出来事を話してくれる。






僕が商業ギルドの、ギルドマスターと出かけてから、しばらくして薬師ギルドのギルドマスターから呼び出しがあったと言う。


「急に呼び出して悪かったな」

「いいえ。一段落着いた時でしたから」

「そうか・・」

「火急の用向きという事でしたが?」


ギルドに所属している者が、ギルドマスターに呼ばれる事は早々あることではない。

ましてや火急ともなれば、よほど重要な案件である。


「お前のところのユニオンの調子はどうだ? 独立して何か困ったりしてはないか?」

「そうですね・・、今のところは何もありません」

「そうか・・」


はて、独立した薬師の心配だろうか? ギルドマスターが? 火急とまで呼び出す要件だろうか?


この手の話は、ギルドに薬を納品する際でも、十分事足りる事だと思う。


「傷薬の最低販売価格は、幾らに設定している?」

「二人ですので銅貨二十二枚ですね。ギルドの十枚までは、流石に落とせませんでした」

「実際の販売価格はどのくらいだ?」

「いきなり最低価格まで落とせませんので、今のところ銅貨二十枚です」

「そうか・・」


ギルドマスターの顔が、そうか、と言う度に渋くなっていく。


「・・はっきり言おう。町長から薬師ギルドに業務改善の勧告が来た」

「はへぇっ!?」


町長から? ギルドに? 業務改善? 何故、それが自分に関係するのかと思う。


「独立した薬師は、基本的には、ギルドより薬を安くする事は難しい。何故だか分かるか?」

「理由は二つあると思います。一つは冒険者ギルドと商業ギルドの契約により、安い価格で薬草が手に入る。もう一つは、複数の職員による分業での大量生産でしょうか」

「その通りだ。が、反対に人件費が掛かっており、差は極僅かになる」

「それが何か?」


うーむ、今一ギルドマスターの言わんとする事が分からない。


「薬草採取をする冒険者も少なく、薬草不足で、薬草単価を上げざろう得ない」

「それはやむを得ない事かと思いますが」

「結果として、ギルドの実際の販売価格は銅貨三十枚になっている」

「・・えっ!?」


ギルドマスターの言葉に耳を疑った。


「基本の薬草一枚銅貨一枚は変わらないが、一定量以上は追加報酬を出すようにしており、薬草の単価が上がってしまっている」

「そうだったんですか・・」

「当然だが、傷薬の販売価格に跳ね返ってくる。しかし・・」

「ギルドより安く販売するユニオンが存在する、と?」


ギルドマスターが口を濁していた理由を知る。


薬師ギルドには、薬の安定供給と、薬の市場価格の責任がある。


先の理由から、独立した薬師は、ギルドよりなかなか薬代を下げられない。

だからギルドが、独立した薬師の薬代にあわせる形になっている。


「そうだ。薬師ギルドの責任を果たしていない、ギルドの薬代を下げるように、とな」

「町長からの業務改善の勧告が、それですか」

「お前のユニオンが、薬を安く、多くの人に広くと言う考え方は褒められるべきだ。しかし薬師ギルドとしては、薬師全体と、ギルドの運営を考えなくてはならん」


薬師ギルドは、多くの薬師を抱え、ギルド自体の運営責任がある。


「私に・・、ユニオンにどうしろと仰るのですか?」

「傷薬の製造、販売の委託を変更させてもらう」

「そうですか・・。今度はどんな薬を委託してもらえるのですか?」


話の流れから、まさかと思いつつも、こうなるのではないかと予想はしていた。


「高級傷薬だ」

「そうですか・・、えっ!? えええぇぇぇっ!?」


市場に影響の少ない薬を任されると思ったが、どっこい傷薬の上位品を任される事に驚く。


「い、良いのですか?」

「良いも何も、こちらの都合で委託を取り消すわけだし、ユニオンに迷惑を掛ける事にもなるだろうしな」


薬は上位品になればなる程、利益の還元率が高くなる。

幾らユニオンに迷惑を掛けるとは言え、ギルドの虎の子を手放すとは思わなかった。


「分かりました。喜んでやらせてもらいます」

「迷惑を掛けるが、頼む」


執務室を出て行くトロナを見て、ギルドマスターはほくそ笑む。




トロナは大急ぎでユニオンに戻ると、入り口に張り紙をする。


『諸事情により、傷薬の取り扱いを中止します。

お問い合わせ等、何かありましたら、薬師ギルドまでお願いします』


それを見た客たちが、薬師ギルドへと詰め掛け、職員は対応に追われる。


その報告を受けた、ギルドマスターが呟く。


「悪く思わないでくれ。これも市場と薬師ギルドのためだ」


薬草不足により、ギルドの薬代が下げられない。


それならば独立した薬師を市場に出して、薬代を吊り上げる。

またギルドの薬不足を補うために、オプファを確保する。


この一石二鳥の計画ゆえの傷薬の委託のはずだった。


いざ蓋を開けてみれば、ギルドの最低価格に迫る勢いである。


「今度は高級傷薬。流石に市場の価格安定に貢献してくれるだろう」


薬師ギルドのトップとして、少よりも多を取らねばならない選択だった。






一通りトロナの話を聞き終わると、僕はトロナの予想外の反応をする。


「良かったじゃないか、トロナ!」

「はへっ!? 良かった? 話し聞いてた?」


何で今の話を聞いて、良かったと言うのか驚いているようだ。


「組織って、大事の前に、小事を切る事があると思うんだ。冒険者ギルドみたいにね」

「まあ、そうは思えるわよね」

「でも薬師ギルドとしては、トロナの考えや、行動を支持してくれている」

「そう、なのかなぁ・・」

「じゃなきゃ、高級傷薬なんて任せてもらえないと思うよ。トロナが思ったように、違う薬を委託される可能性だってあった訳でしょう?」


呆然と僕の顔を見ていたかと思うと、溜息を吐いて苦笑いをする。


「オプファは前向きねぇ・・。まあ、言わんとする事は分かるわ」


正直な所、薬師ギルドとしては、トロナを飼い殺しにする事も出来たはずだ。

それをしなかった所を見ると、まだ冒険者ギルドより救いがある。


「うん、オプファの言う通りかもしれないわね」

「そうそう」

「じゃあ気持ちを切り替えて、高級傷薬作りに着手しますか!」

「僕も素材の採取で応援するよ」

「ありがとう」


色々な事は明日からにして、今日のところは余計な事を考えず、食事を楽しむ事にする。





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