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商業ギルドの魔王候補  作者: まる
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商業ギルドマスター

【商業ギルドマスター】


商業ギルドで、エムファスに相談を持ち掛ける。


「エムファスさん、ご相談に乗っていただきたい事があります」

「はい、何でしょうか?」

「二つありまして、一つ目は冒険者ギルドへの依頼を、商業ギルドからお願いできるかと言う事です」

「うん? どう言う事かしら?」

「僕が以前、冒険者ギルドと揉めて、死亡と言う事で抜けたのはお話ししましたよね」

「ええ、覚えているわ」

「しかし、どうしても不足しがちな薬草を集めて欲しいと言う可能性があります」

「なる程、なる程」


エムファスは、僕が言いたい事を理解してくれたようだ。


「オプファ君の名前ではなく、匿名もしくは商業ギルドからとして、冒険者ギルドに依頼をかけた方が良いと考えた訳ね」

「その通りです」

「あの時の経緯を考えたら、しばらくはその方が良いわよね」

「ただ普通の薬草採取の依頼ではなく、報酬を上乗せする代わりに、どの薬草で、きちんと採取され、ある程度纏まった数、一定期間と言った条件を付けたいんです」

「ふむ。上乗せはどのくらい?」


この報酬の上乗せ額によって、この薬草採取が依頼として成立するか変わってくる。


「これだけ条件を付けるのですから、二倍は出そうと思っています」

「に、二倍? 本気なの?」


低ランクの冒険者が、丸一日かけてやっと百枚、朝夕付きの宿屋に泊まれる。

それが半分で良い、もしくは酒代になる、貯金できるともなればやる人は増えるはずだ。


「破格ねぇ・・、良くて一.五倍ぐらいなのよ?」

「それだけ出せる理由が、二番目のお願いと関連してます」


エムファスの目が、細く鋭くなり、表情から笑顔がなくなる。


「この間の商業ルートの件と関連があるのね」

「はい。多分ですけど、僕の商業ルートに関して、商業ギルドから疑いを持たれていて、遅かれ早かれ奪われる可能性があると思います」

「・・・それで?」

「そこでギルドマスターにだけ、僕の商業ルートを明かして、出来る限り秘密を厳守してもらおうと考えました」


僕の商業ルートイコール、セイテンから借りている能力だ。

決して誰も奪う事はできないが、僕自身をどうにかしようとする可能性がある。


そこで商業ギルド自体に、僕を守ってもらう事を考えた。


「つきましては内々にお話を、出来ればギルドマスターとお話しさせて欲しいんです」

「分かったわ。少し待っていて」


すぐにギルドマスターの執務室へと通される。




執務室には、六十歳台のギルドマスターと僕、商人としてエムファスが同席する。


「それで胡椒を手に入れた商業ルートの件だったな」

「そうです」

「ワシにだけ明かすと言うのだな?」

「その前に、ギルドマスターや、その関係組織に胡椒を取り扱う予定はありますか?」


あくまでも、商業ルートであるとアピールする。


「・・・それを明かすわけにはいかん」

「では僕のルートが奪われた場合、どうなりますか?」

「信じてもらう、の一言に尽きる」


あまりに不公平な状況に、エムファスの方をチラッと見ると、表情が固い。

このまま平行線で終わる事を危惧しているのだろう。


「分かりました。その代わり、僕が商業ルートを見せた後、エムファスさんに、ギルドマスターが開拓しようとしていたかどうか伝えて下さい」

「ふむ・・、承知した」

「もう一つ、僕独自のものである場合、個人でも商業ギルドでも利用をしないと約束して下さい」

「えっ!? それはどう言う事なの?」


これにはエムファスが驚く。


「商業ギルドに当てにされると言う事は、広く僕のルートが知れ渡る可能性があります」

「なる程、仕方あるまい。その件も了承しよう」

「よろしいのですか、ギルドマスター?」

「オプファ君は最大限の譲歩を示した。ならば当ギルドとしても応えるべきだ」


商業ギルドとしては、万が一の際に、様々な商業ルートを通じて、色々な物を融通できる強みを持っているが、それを放棄する事になる。


「分かりました」

「ありがとうございます」


エムファスが納得すると、僕はギルドマスターに礼を言う。


「では二週間後ぐらいを予定しています」

「ウム、分かった。スケジュールを調整しておこう」


ギルドマスターはエムファスに合図を送ると、彼女も頷く。




そのまま執務室を出ると、エムファスが声をかけてくる。


「ありがとうね、オプファ君」

「えっ!? 何がですか?」

「商業ルートの話よ」

「ああ、まあ、ご心配をおかけしているようですので・・」

「当然でしょ」


商業ルートを疑うと言う事は、僕を心配してくれている事でもある。


「あとはギルドマスターに任せて、何かあれば全力で守るからね」

「お願いします」


エムファスに見送られながら、ユニオンへと戻る。






商業ルートのことを除いて、冒険者ギルドへの依頼の件をトロナに伝える。


「冒険者ギルドへの依頼に関しては、商業ギルドからやってもらえるって」

「それなら一安心ね。私だけの採取だと、多分足りなくなるから」

「とは言え、どのくらい採取してもらえるかは、分からないのが心配だね」

「それは仕方ないわ」


彼女の中では、あくまでも僕が居ない間の保険と言う位置付けらしい。


「ついでに、二週間後に商隊に参加する事も伝えてきたよ」

「依頼って、あくまでもその期間だけなんでしょ?」

「一応そう伝えてきた」

「了解了解。一応、在庫もあるし、それ程お客も来ないから大丈夫だと思うけど・・」

「いや、お客さんが来ないのは駄目でしょう」


この場合は、不足で困るぐらいじゃないとよろしくない。


「いや薬師ギルドの協力があったって、早々客足は伸びないって」

「達観しているね・・」


トロナの先を見据えた経営に、思わず苦笑いする。


「それに新しい事を始めたばかりなんだから、色々な問題が出て当たり前。そういうのを一つ一つ丁寧に潰して、ユニオンを軌道に乗せなくっちゃね」

「ご尤もです」


思わず自分よりも、トロナの方が商人として向いているのではと思ってしまう。






二週間後、ギルドマスターを伴って、オプファはバーシスの町を出る。


城門から一時間程度は、お互い自己紹介のような他愛もない話しをする。


「ギルドマスター」

「何かな?」


一旦会話の途切れ目で、オプファが居住まいを正して声を掛ける。


「そろそろ町も離れてきました。これから僕の商業ルートの説明しておきます」

「ふむ、頼む」

「まず身の危険や犯罪に関する事以外で、質問は控えていただけますか? また取引の参加も止めていただきます」

「なる程。見せはするが、詳細は教えられぬと?」

「その通りです」

「うむ、承知した」


ギルドマスターは居ないものとして、行動する事の言質を取っておく。


「今回は、前回と同様に、胡椒の取引でよろしいですか?」

「構わんよ。前回と同じ方が、より分かり易い」

「それでは。まず竜が現れ呑み込まれますが、一切危険はありません」

「・・はぁ!? どう言う事だ!?」

「その質問にはお答えできません。ただ安全であると言う事だけです」

「うむぅー、ここは信じるしかあるまい」


ダンジョンゲートの起動を頭で思い浮かべ、調味料の町の傍、フライシュのダンジョンへの転送を行う。


目の前に魔法陣が展開される。


「な、何だ!? この魔方陣は一体・・」


魔法陣が大きくなると同時に、竜の頭が現れ、二人を呑み込む。


「うぉおっ!?」


流石にギルドマスターも、両手で顔を庇いながら驚きの声を上げる。


「ギルドマスター。着きましたよ」


そのままの姿勢で固まったギルドマスターに声を掛ける。


恐る恐る腕を下ろし、周囲を確認する。


「い、一体今のは何だ? それにここは何処だ? さっきと違う場所だが!?」


先ほどまでの良い天気の街道から、薄暗い洞窟に居る事に気づいたようだ。


立て続けに質問してくるが、冷静に最初の説明を繰り返す。


「ギルドマスターの質問に対してはお答えできません。最初に説明をしてあります」

「むっ・・、それはそうだが・・」


自分の置かれた立場や状況が分からず、不安なのだろう。


「ご自分の現状が分からないのは、ご心配でしょう。最初の約束の身の危険に鑑みて、お教えしますが、ここは調味料の町の傍にある、フライシュと言うダンジョンの一階です」

「なっ!? 調味料の町の傍? ダンジョンの一階だと!?」


僕の答えに驚くも、僕の答えを元に、頭の中をフル回転させているようだ。


「(バーシスの町から、調味料の町の傍のダンジョンの一階へ、しかも一瞬で・・。危険がないの発言から、こやつの商業ルートとは・・転移系スキルか!)」


ギルドマスターの百面相を眺める。


「(スキルなら当然、犯罪性はゼロな上に、ひたすら隠す理由になる・・!)」




突然、セイテンの声が頭に響く。ギルドマスターから少し離れて会話する。


『どう言うつもりだ、オプファ?』

「久しぶり、セイテン。何がだい?」

『何故、商業ギルドのギルドマスターに、能力の秘密を晒したと聞いているんだ!』

「聞こえていたか分からないけど、いずれこの秘密はバレる可能性があった」

『それは分かっている』


商業ギルドから疑いの目で見られている以上、何らかの手を打つ必要があった。


「しかし準備の出来ていない僕たちには時期尚早。まだ時間が欲しかったんだ」

『ふむ、時間稼ぎか・・』

「それともセイテン、良いアイデアは出たの?」

『アイデアも何も、先ずはお前が有名になってもらわなくちゃ困る』

「自由な立場で? それとも誰かに束縛されて?」

『勿論、自由な立場でに決まっているだろう』


この能力で他の権力者に抱き込まれたら、復讐の準備がやり難くなる。


「秘密裏に、しかも疑いを晴らし、何かあったときの後ろ盾と時間稼ぎが必要だと思わない?」

『なる程・・、そこまで考えていたのか。流石は俺様の器だけの事はある』

「褒めても何もでないよ」




そこまで話し合ってから、ギルドマスターに声を掛ける。


「本来であれば、このままダンジョンに潜り、得られたアイテムを売って、その町の特産品を買い付けをします。どうしますか?」

「そうか・・。ランクEであれば、ワシも何とかできるだろう」

「分かりました」


テレポートリングで、以前到達した階層へ行こうと思ったが、ギルドマスターの言葉を受けて、一階から潜って十階層のフロアボスの前で止める事にする。


そして次々にモンスターを倒し、トラップを外し、アイテムをドンドン仕舞う。


「(何だこやつの戦闘力は・・。しかも罠に関しても次々に無効化していく。しかもドロップアイテムを次々に収納する・・、まさか)」


堪らずギルドマスターが質問する。


「その戦闘力は一体? 何故、罠の場所が分かるのだ? どこへアイテムを収納している?」

「その質問にはお答えできません」


事前に約束していた通り、回答の拒否をする。


「(ぬぅ・・。何らかのスキルを発動していると考えるべきか。ならば・・)」


何やら目まぐるしく考えていたと思えば、ダンジョンに潜る前に聞くべき質問をしてくる。


「わしはこのダンジョンの事を知らん。どのくらいの深さがあるのだ?」

「このダンジョンのランクはC。五十階層です」

「そうか、分かった。(ふむ、冒険者のランクならCか)」


どうやらダンジョンの深さから、僕の戦闘力を推察したようだ。


フロアボスの部屋の扉の前まで来ると、ギルドマスターに声を掛ける。


「ここから先は、ギルドマスターに万が一があるといけませんので、一旦帰ります」

「分かった」


ダンジョンゲートで一階層に戻る事も考えたが、セイテンの能力のドロップランク率アップでも、ランクDの食材だからと十階層は往復する。


そのまま地上まで魔方陣で上って行き、まだ日が高いので、調味料の町まで向かう。






調味料の町の宿で、一緒の部屋を取る。


「ギルドマスター。これが僕の商業ルートです」

「うむ、分かった。皆にはワシから、一切問題性がない事を告げよう」

「お願いします」


そしてこれからの事を話し合う。


「僕はダンジョンで手に入れたアイテムを売って、この町の特産品を買い付けます。それから残りの期日を薬草採取に当てます」

「ではワシは・・」

「ギルドマスター、お約束をお忘れなく」

「ぐっ!? 分かっておる。余計な買い物はせん」

「ずっと宿にいるのは辛いでしょうから、観光程度は構いません」

「そうか・・」

「ただ、間違っても商業ギルドには近づかないようにお願いします。ギルドマスターは有名なのでしょうから」

「はぁー・・、大人しくして居るわい」


では、と断ってアイテムの売買に出かける。




オプファが居なくなると、ギルドマスターは一人考える。


「これが全てと言う事ではあるまい。奴はどれだけの秘密を抱えて居るのだ?」


ギルドマスターの中では、一つの後悔が渦巻いていた。


「オプファをワシの配下にできれば、世界をひっくり返せるが既に釘を刺されておる」



『個人でも商業ギルドでも利用をしないと約束して下さい』



この時になって、オプファの言葉の意味を痛感していた。


「奴は分かっておったのだ。自分の能力を見れば、誰もが欲しがる事を。だからエムファスを前に約束させた」


ギリギリと歯軋りをして、自分を責め立てる。


「以前のように、人を見て、信頼して、自分の最大限の支援をしておれば・・」


ギルドマスターとして、組織のトップの立場から、犯罪を未然に防ぐ事を選んだ。

それは悪い事ではないし、寧ろ最善の選択だったろう。


しかしヒントはあったはずだ。


素人が大量の胡椒? 犯罪のためにそのような高価な物を渡すか?

オプファ自身が、必死になって商業ルートを隠そうとしたのは何故だ?


何よりも立場が己の目を曇らせ、真実に辿り着く調査をしてこなかった。


「逃がした魚は大きい所ではない。金の卵を産む鶏をみすみす手放してしまった・・」


ガックリと項垂れて、しばらくの間、ベッドから立ち上がれなかった。





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