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商業ギルドの魔王候補  作者: まる
15/33

傷薬作り

【傷薬作り】


私トロナは翌日、薬師ギルドに意を決して足を踏み入れ、ギルドマスターの執務室の扉をノックする。


「トロナです。ギルドマスターにお話しがあります」

「うん? 何のようだ? まあ良い、入れ」

「失礼します」


独立する以上、ギルドマスターへの報告は必須である。


「珍しいな、お前の方から俺の所へ来るなんて」

「すみません。大変急なのですが、独立したいと考えています」

「ふむ・・、そうか」


ギルドマスターも、私の同僚たちから、寿退社?らしきの噂は聞いていたのだろう。

とうとう? やっと? 切り出しただけで、特段驚きはされなかった。


が、実はある一点に限り、私に抜けられると困る事がギルドにはある。


「一つ確認したいのだが・・」

「何でしょうか?」

「オプファ君とセットなんだよな?」

「セットって・・、まあそうですね。それが何か?」

「ふむ、彼の持ち込んでくれる薬草に頼っている現状があってな」

「それは・・」


ギルドとしては、一人の人間に頼った状況とは、本来あってはならない事だ。


しかし薬草採取に力を入れてくれる冒険者は殆ど居らず、逆にそんな冒険者を根性無しと嫌がらせをする始末である。

ただでさえ生活がキツキツなのに、同じ冒険者からの虐めを合う薬草採取という依頼に、誰が注力してくれるか。


この町に限らず、薬草ギルド全体として、いつも薬草不足に悩まされているが現状だ。


そんな中にあってオプファが持ってくる大量の薬草は非常にありがたかった。

私のの独立?は祝福してくれるのだが、薬草の供給が止まるのは痛いと言う。


「お前が独立しても、オプファ君は当ギルドに薬草を持ってきてくれると思うか?」

「流石にそこまでは。彼に聞いてみないと分かりませんが・・」

「継続してくれるように頼めないか?」

「・・私がですか?」


薬師ギルドで期待されていると言えば、オプファは喜んで手伝ってくれるだろう。

しかし勝手に、この場で決めて良いことではない。


口篭るトロナを拒否と取ったのかギルドマスターは、交換条件を私に提示する。


「その代わりと言っては何だが、お前に委託するのは傷薬の予定だ」

「えっ!? 傷薬? 本当ですか!?」


傷薬は、薬師ギルドにとって命綱である。

住人が病気になるよりも、冒険者が怪我をする方が、遥かに多く必ず売れるのだ。


今まで傷薬を委託された薬師は居ない。

しかしそれはオプファの助力を取り付ける交換条件であり、悔しい事だが自分の実力を認められた訳ではない。


「彼に話しても?」

「当然だな。お前一人で勝手に約束できるものでもあるまい」

「・・分かりました」


喜ばしい気持ち半分、苦い思い半分で仕事に手をつける。






何時ものように、薬草を薬師ギルドへ持ち込んだが、何となくニヤニヤしている職員が何時もと違っていた。


「何かあったの?」

「いや、ギルドマスターに独立の話を、ね」


ギルドマスターの部屋を出た後、同僚たちの騒ぎに辟易したと言う。

少々申し訳ない事をしたが、どうも僕が感じている事とは違う雰囲気だった。




夕食を食べながら、ギルドマスターとの話しの結果を聞く。


「独立の話しはどうだったの?」

「ああ独立の話自体は問題ないわ。委託される薬も決まっていたし。そろそろかなぁーって予想していたみたい」」

「へぇー」

「ただオプファに、よろしくない話しがあるのよ」

「・・えっ!? 僕に?」


薬師ギルドに関して、僕によろしくない話しってなんだろうか?


「私が独立すると、オプファが薬師ギルドに薬草を売らなくなるんじゃないかって」

「・・へぇ?」

「出来るなら、今まで通り薬草を売って欲しいって言うのよ。でもオプファとしては、ユニオンとギルド両方の分の採取をしなくちゃいけないから・・大変になるじゃない」

「なる程、そう言う事かぁ・・」

「ギルドとしても、あなた個人を当てにするのは心苦しいとは言っていたけど・・」

「でも当てにされて、悪い気持ちはしないよ。それに薬が安くなれば、多くの人に広く買ってもらえるようになるしね」


そう言うと思ったと、トロナは苦笑いする。


「ただトロナが作る薬の素材と被る物は、ギルドに回らないかも」

「うーん、私一人で作るから、量はそんなに必要じゃないかなぁ」

「その辺は、トロナやギルドと相談しながらかな?」

「じゃあ一応、ギルドマスターにOKって返事しても良い?」

「良いよ」


今まで通り、出来る限りの薬草採取を行うだけの事だ。


僕ははアパートメントを、トロナは寮を出る準備をし、順次引越しをする。

またトロナが必要な機材を確認し、僕がが商業ギルドに発注をする。






ユニオンとして動き始めると、まずトロナが計画を立てる。


「うーん・・」

「どうかしたの? 何か問題でもある?」

「ユニオンで販売する分から、ギルドに納品する分と、最低作成数を考えているの」

「・・えっ!? ギルドに納品って、どう言う事?」


独立した薬師が、何故ギルドに薬を納品する必要があるのだろうか?


「ギルドから委託を受けたじゃない?」

「独立の際に、取り扱う薬の事だよね?」

「そうそう。委託する事でギルドの手が空く、と言うのは建前なの」

「ふむふむ」

「本当は権利を借りているだけで、使用料みたいなものを払う必要があるのよ」

「へぇー、それがギルドに納品する分なんだね」

「定期的な品質のチェックにもなるから、大切な事なのよ」


薬師は独立したら、はいお終いと言うのは、ギルドとしても問題なのだろう。


「どのくらい収めるの?」

「販売数の一割よ」

「十個に一個か。検品として考えれば妥当な数字なのかな?」

「それは分からないけど。そのためにもユニオン販売分の計算中だった訳」

「ん? 幾らでも作れば良いんじゃないの?」

「いや、あのね、私一人で作れる数も限界があるわよ」

「あっ、そうだね。ゴメン」


薬師に無理をさせる事で、大量に作って安く売るのはよろしくない。


「でも、ユニオンをやっていく上では、利益も考えなくちゃいけないの」

「ふむふむ」

「以前にギルドの最低価格って話をしたじゃない?」

「あったね、そんな話」

「ユニオンの最低価格って言うのを考えるようにって、ギルドマスターに言われたのよ」

「それは大切だね」


やはりユニオンのメンバーが、きちんと生活できる事は大前提だ。


「大体町に住む人の一日の平均生活費が、素泊まりの宿屋二日分と同じぐらいなの」

「二日だとだいたい大銅貨一枚、小銅貨六十四枚だね」

「本来なら私とオプファの二人で、一日大銅貨二枚は、最低限稼がなくちゃいけない」

「なる程、それが最低価格になる」


トロナは素泊まりと言ったが、食事は自分で用意しなくちゃいけない。

本来であれば、朝夕の食事付きの宿屋なら、大銅貨二枚は必要になる。


「一日十個作ると仮定して考えましょう」

「うん、分かった」

「傷薬は大体薬草十枚で一個作れる。百枚から十個作って・・、パン一個と薬草一枚が、同じ小銅貨一枚だから・・、オプファの薬草百枚だけど、面倒だから大銅貨二枚として」

「面倒って・・」


確かに百枚だと、大銅貨一枚と小銅貨三十六枚となるから大変になるけど。


「私の生活費として大銅貨一枚の計三枚」

「トロナの取り分が少なくない?」

「家賃がないから良いの良いの。それでギルドに収める分をこの際省いて、傷薬の九個で割ると・・」

「小銅貨で二十二枚だね」

「ギルドの傷薬の最低価格が小銅貨十枚だから、二倍になるわね・・」


ギルドの最低価格は、ギルド内の分業と、大量生産による賜物らしい。

ただ薬草不足で、実売価格としては、もっと高く売られている。


「オプファは最低百枚採取してこなくちゃいけないけど、これはクリア出来そう?」

「問題ないと思うよ」


宿代のためにも最低一日百枚以上採取しているので、トロナの言葉に大丈夫と頷く。


「ユニオンのメンバーが増えたら分からないけど、今のギリギリがこの価格なんだね」


最低価格は、それぞれの一日の生活費から算出した十個作成による価格である。


「はあー、そうなるわね」


生活を維持しつつ、薬を安く広く売ると言うのは、なかなか難しい現実に溜息をつく。


「でもオプファには、この上にギルドの分もお願いするから申し訳なくて・・」

「それは自分で決めた事だから、トロナが気にしなくても良いよ」


一日百枚・・。実は、今のオプファにとっては訳のない数字なのである。

セイテンからの能力をフルに使えば、一日でバーシスの町周辺の薬草を根こそぎ採取する事も可能だろう。


「それよりも、トロナは一日何個ぐらい傷薬作れそう?」

「私? 体力の続く限り何個でも可能だよ」


何故か力こぶを見せてくる。


「どう言う事?」

「オプファは、外で傷薬を作った事ある?」

「あるよ。薬草を潰しながら、水で練った奴だけど」

「うん、そのままズバリだよ」

「・・はぁ!? そんな馬鹿な!?」


冒険者は登録した後で、簡単な講習会に参加できるのだが、その際に応急処置の方法を学び、その中で傷薬の作り方がある。


「応急処置の傷薬は緑で、市販の傷薬はオレンジだったよ!?」

「あのねぇー。応急処置の薬と、市販されている傷薬が一緒だったら売れるわけないでしょうが」

「・・そう言われてみればそうだね」


自分で作れるのであれば、お金を出して薬を買う必要などない。


「薬草って症状に合わせて何種類もあるじゃない? 傷薬にもランクがあって、使われる薬草も治癒草、回復草、再生草の三種類があるのよ」

「それぞれ傷薬、高級傷薬、最高級傷薬に使われている薬草だよね?」

「そうそう。少し細かい話になるんだけど、傷薬に使われる薬草は一種類じゃないのよ」

「へぇー、知らなかった」


薬草と言って一括りの事が多いから、一種類の薬に一種類の薬草と思い込んでいた。


「傷薬は治癒草に、化膿止めの草と水。高級傷薬は回復草に化膿止めと血止めと蒸留水。最高級傷薬は再生草に、化膿止め、血止めに聖水ね」

「結構手間が掛かっているんだね」


値段にはそれ相応の努力と、材料が使われている事を知る。


「此処で肝心なのが、化膿止めの草なんだけど、傷薬のベースとなる薬草と混ざると、あら不思議オレンジになるのよ」

「へぇー、そうだったんだ」

「ちゃんと傷を癒す薬草と化膿止めの薬を使ってますっていう証明にもなるでしょ」

「分かり易くて良いね」


薬師ギルドからも時折、化膿止めとか、血止めの薬草の採取を頼まれていた。


「そうなると傷薬の薬草採取と言っても、一種類だけじゃないんだね」

「ゴメンね、後出しになっちゃって・・」

「大丈夫、傷薬用の薬草、治癒草を探すついでに採取できると思うから」

「無理はしないでね」


傷薬を販売する前に、ある程度の在庫が揃える必要がある。


十個程度であれば、半日あれば作成できるので、トロナも残り半日は、安全な草原保存地帯で採取をする。


オプファも、ユニオンの分を採取しながら、今まで通り薬師ギルドにも持ち込む。






薬師ギルドに準備が出来、ユニオンの販売開始する事を伝える。


まだまだ客足は少ないが、オプファは他の町へ行く事を思い悩み始める。


この状況で、半月に一回行っている、他の町への商いをどうすべきか。

商いに出かければ、薬草の採取が止まり、ユニオンへの供給がなくなる。


自分自身ではどうしようもない事なので、トロナの判断を仰ぐ事にする。


「なあトロナ、薬草の仕入れがなくなったら困るよな?」

「当たり前でしょう。何を今更」


傷薬作りの手を休める事なく、ぶっきら棒に答えてくる。


「いや、個人的な事なんだけど、半月に一回ぐらいで、商隊に混じって商いをしているでしょ? その間の薬草採取が出来ないから・・」


そこまで言うと、トロナが作業の手を止めこちらを向いてくる。


「それはあなたのやりたい事をすべきよ。ユニオンの為にでもある訳でしょう? あなたの時間は、あなたが納得した上で使って欲しい。私のための時間じゃないし、選択の責任を私に押し付けるのはやめて」

「責任を押し付けるつもりは・・」


そうだろうか? 商いを諦めるための理由が欲しかったのではないか?


「たかだか一週間ぐらいでしょう? 自分で採取して来れば良い訳だしね」

「それが心配なんだよ。何も知らなくて薬草を求めて森まで突撃したから・・」

「そ、それはそれ! これはこれよ! 何時までも過去の事をネチネチ言わないでよ」


トロナは過去の黒歴史を指摘され、真っ赤になって反論してくる。


「もう大丈夫よ! 二度と森へは行かない! 壁の周りで十分、草原保存地域だけで薬草が集まるのは分かったから! と言うか最近そこでしか採取してないし!」

「それもそうだね」


トロナも一人の成人した女性だ。森で助けたからと言って、何時までも過保護にする必要はないし、自分の時間の使い方の責任は自分にと言うのも尤もだ。


要するに、自分が何をしたいのかはっきり伝えるべきなんだ。


「トロナ。半月に一度、一週間程度、商隊の商いに参加するんだけど、何か事前に準備が必要かな?」

「そうね・・。商隊での商いの利益を期待して、冒険者ギルドに少し高めに、どんな薬草が欲しいかの依頼をかけても良いかしら?」

「そっか、その方法もあるね」


自分が楽して、自分の資産を減らしてまで、依頼をするのは無意味だと考えていた。

しかし利益から、きちんと条件をつけて、依頼料を高めに依頼を出すのであれば、冒険者に薬草採取をしてもらうのも良いかも知れない。


「僕は冒険者ギルドと良い関係じゃないから、商業ギルドに入ってもらってうのも良いかもね」

「なる程、一度相談するのは必要ね」


そうなると、商業ギルドから疑われたままと言うのは望ましくない。


ユニオンをきちんと設立して、軌道に乗せるまでは、ある程度の資金は必要だ。

これからもダンジョンゲートを使うのであれば、はっきりとさせておいた方が良い。


「後で色々相談してくるよ」

「うん、お願い」


善は急げと、商業ギルドへと向かう。





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