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商業ギルドの魔王候補  作者: まる
13/33

調味料の町

【調味料の町】


翌朝、早くにダンジョン宿を出で、町へと向かう。


「結構早くに出かけなくちゃいけないんだね」

『いくら町がダンジョンに近くても、移動だけで一日が終わってはつまらんだろう?』

「確かに。未知の町に行くわけだからね」

『早く町に言って、お前の驚くのを見たいものだ、クックックッ』

「セイテンって、良い趣味しているよね・・」

『そう褒めるな。何も出んぞ』


いや、褒めているつもりは無くて・・、セイテンには嫌味が通じなかった。






昼過ぎぐらいには、町の城壁に辿り着く。

僕たちと逆に、町から出て行く荷車が通り過ぎていった。


「あれ? 何だろう・・、今の臭い・・」


ほんの微かに、嗅いだ事のない臭いがフワッと鼻に届く。


『臭いとは失礼な奴だ、香りと言え』

「香り・・ねぇ。これは何の香りなの?」

『このあたりの特産品の一つ、胡椒だ』

「へぇー、これが胡椒の香りなんだ・・、えっ!? 胡椒!?ってあの胡椒!?」

『お前の言っている物が、何を差しているかは分からんが、胡椒は胡椒でしかない』


僕が拠点とするバーシスの町にも、胡椒は存在する。

ただ入荷する量が極端に少なく、超一流料理店しか使えない超高級品だ。




荷車の後を暫く眺めた後、城門を潜って、美味しそうな香りでむせ返る町に着く。


『この町は香辛料だけではなく、調味料で有名な町でな』

「へぇー」

『この地方は先ほどの胡椒だけではなく、岩塩、砂糖、芥子と言った物が手に入る』

「そう言った調味料が特産品なんだね」

『その通りだ』


確かに見た事のない調味料が、所狭しと並べられている。


『昔々の事らしいが、この町は単なる調味料の町でしかなかったらしい』

「単なるって、どう言う意味?」


調味料だけでも、十分に有名になる代物だ。


『調味料自体は、ここまでむせ返るほどの香りは発しない』

「じゃあ、この香りって・・」

『当然、調味料を使って肉を焼いている』

「肉って、フライシュのダンジョンからなんだね!?」


調味料を有効に扱う素材、肉だけをドロップするダンジョンが、町の傍に生まれる。


この付近は不思議な事に、調味料以外の作物が育ちにくく、他の食料品と交換と言う事で、酷い労働を強いられていたらしい。


肉ダンジョンの誕生で、この付近の価値は一変し、一気に生活水準が上がった。


「ダンジョンって、本当に傍の町に必要なものを落とすんだね」

『知識と実際に見聞きする事には、大きな差があるものだろう?』


セイテンの言う通り、ダンジョンの摩訶不思議さを実体験する。




町を回ってみるが、正直分からない事だらけである。


「ねえ、セイテン?」

『何だ?』

「・・安いの?」


店によって取り扱っている商品が違い、大量にはあるが適正価格が分からない。

そもそもバーシスの町では、調味料など売っている店には入った事などない。


『知らん』

「だよねぇー」


セイテンには世の価値など必要ない。

物価が高い安いなど分かるはずもない。


「どれを買っていけば良いんだろう?」

『おいおい。当初の予定通りにすれば良いのではないか?』

「予定通りって?」

『ダンジョンに潜って、得られたドロップアイテムを売って、その金で特産品を買って、バーシスの町で売る』


そう言えば、そんな事を言っていたな。


「そっか価値が分からなくても、買えるだけしか買えない訳だね」

『その方が、自分の資産を減らさなくて済むという話だったろう』


まずはアイテムを換金して来なくては、と歩き出す。




商業ギルドの扉を潜り、受付嬢に声を掛ける。


「あのぉ、ダンジョンのドロップアイテムの買取をお願いしたいのですが?」

「はい? ここは商業ギルドですよ?」


当たり前の反応だろう。ダンジョンに潜るのは戦闘職系であり、それぞれのギルドで買い取ってもらえば良い。


「僕は商人でして」

「へぇー、戦える商人って事ですか。珍しいですね」


商業ギルドの登録証を見せる。

冒険者を引退して商人となるケースはあるだろうが、僕のような年齢からは少数派だ。


「分かりました。買取しますので商品をお願いします」

「お願いします」


セイテンの収納能力で、ダンジョンのドロップ品を取り出していく。


「へぇー、収納魔法ですか。それだけで商人としての成功は確約されていますね」

「っ!? ・・ありがとうございます」


しまった!と思わず心の中で叫んでしまう。


当たり前のように他人の前で使っってしまったが、エムファスにも驚かれている。

可能であれば、この能力も隠しておくべきものだった。


何食わぬ顔で、何とかアイテムを取り出していく。


「ふむふむ。ランクDの階層からですね。収納魔法のお陰か、鮮度もバッチリです」

「・・えっ!? ランクD? ランクEではなくて?」


先ずは安いものをと考え、ランクEの階層の物から出したはずだ。


「間違いありませんね。ランクEですと、頻繁に手に入りますので、そこそこの値段しかつきませんが、ランクDなら良い値段がつきますよ」

「そうですか・・」


何故、ランクEのドロップアイテムが、一ランクアップされたのだろうか?

もしかして取り出す順番を、間違えたのか?


「ほぉ! ランクCですか!」

「ランクC・・」


今出したのは、ランクDの階層からのドロップアイテムのはずだ。

どうやらどのアイテムも、ワンランクアップされている、何故だ?


もしかして、ランクCの階層の物も・・?


「えっ!? 何で? ランクBの肉が? しかもこの量は一体!?」

「やっぱり・・」

「肉をドロップする、他のダンジョンにも潜られたのですか!?」

「それは、秘密です」


フライシュのダンジョンは、五十階層のランクCである。

通常のモンスターからはランクBのアイテムはドロップしない。

ドロップするのは、ワンランクアップとなるボスである。


商業ギルドの受付嬢から見れば、僕は大量にボスを倒したように見えるのだ。


「そ、それでは換金しますので、少々お待ち下さい」

「はい」


流石は商人、秘密と言えば、商品の出所までは聞いてこない。


「しかし何でドロップアイテムが、全部ワンランク上になったんだ?」

『おいおい、俺様の貸した能力を忘れたのか?』

「えっ!? セイテン。何か知っているの?」

『知っているも何も、十本の角の能力の一つにあっただろう? ドロップランク率アップって言うのが』

「あっ!? そう言えば・・、忘れてた」

『まあ、設定した俺様もさっきまで忘れていたがな』


あはははは、と高笑いのセイテンに愕然となる。


「やばいなぁ。最終階層のダンジョンボスなんか倒した日には・・」

『安心しろ。さっきも受付嬢が言っていただろう? 肉系のダンジョンは、何もここだけじゃない。ここ以外にも、ランクの高い肉系ダンジョンは存在する』

「あっ、そうなんだ」


この調味料の町の近くじゃないにしろ、ランクの高い肉をドロップしてくれるダンジョンがあるなら心強い。


「お待たせしました。総額で金貨二百六十八枚と銀貨十六枚となります」

「ま、まさかの、き、金貨二百枚越え・・」


今回の買取では、とんでもない金額となった。




そのお金を軍資金にして、スパイスマーケットを巡る。


「どれが良いんだろう?」

『好きな物を買えるだけ買っていけばよかろう。品質に関しては鑑定能力を使えば問題あるまいて』

「いや素人商人が初っ端から、大量の胡椒って、怪しさ百倍だって」

『大儲けする分には、何の問題も無いと思うのだが?』

「取扱商品に問題があるんだよ・・」


胡椒にしろ砂糖にしろ、ど素人がそう易々と取り扱えるものではない。


『それならば・・、そうだな、塩、岩塩なんかどうだ?』

「確かに塩は流通してるけど、当然大手商会とぶつかるってば」

『ぶつかってくれれば、大揉めになるのだろう? 願ったりかなったりだ』

「それをやるには、もう少し信頼とか、後ろ盾とか、力を付けてからだよ。それに揉めたいのは冒険者ギルドであって、商業ギルドじゃない」

『それもそうか』


冒険者ギルドと戦うには、商業ギルドや商人を味方に付けておきたい。


『しかし塩にしろ胡椒にしろ、問題になるのは確実なのだろう?』

「うっ!? そう、なっちゃうね」

『敵対が嫌ならば、多少は驚かせても砂糖か、胡椒などになるのではないか?』

「うーん、仕方がない。手始めは胡椒からやってみようか」


品質の良い商品を扱っている店を探しながら、スパイスマーケットを歩く。




マーケットの中を鑑定しながら、多少値は張っても、質の良いものを取り扱っている店を見つける。


「此処にしようと思うけど、どれ位買って帰ろうか?」

『何処でも、幾らでも買って帰ればよかろう』

「それもそうだね」


店員に金貨二百枚分と言うと、そんなに無いと言う。


「胡椒自体の生産量が少ないみたいだ」

『ならば、今回は買えるだけ買えばよかろう』

「そうだね」


その店の在庫分の十袋を、金貨十枚で購入する。


『そう言えば、有り金全部を他の店も回って、胡椒でも砂糖でも買い占めれて、ダンジョンゲートで他の町に行って、売り捌くと言う手を何故使わないんだ?』

「なあ、セイテン? 一度に短期間であちらこちらの町に現れた事がバレたら、僕は一体どうなると思う?」

『そうか、ダンジョンゲートはまだ秘密だったな』

「一箇所の町で特産品を買うだけなら、僕の存在を覚える人は少ない。これが色々な町で、高級品を売るとなると目立つから、覚えられてしまうと思うんだよ」


どうやって移動しているのか?と言う事に言及されかねない。

商人になったばかりの自分には、時期尚早である。


「あとセイテン。次からはどの町に行くか教えておいて欲しいんだけど。価格調査してから挑みたいから」

『うむ、お前を驚かせたかっただけだからもう十分だ。次からはちゃんと教えよう』


今回のドタバタには、セイテンも思う所があったのだろう。

次回からは、ちゃんと相談した上で、色々なダンジョンや町へ向かう事にしよう。






胡椒を手に入れた後だが、実際にどこかの商隊に参加して、近くの町や村々を回るといっても、戻ってくるまでには、最低でも一週間は掛かる。


その一週間は、拠点であるバーシスの町に戻る訳には行かないと、薬草採取をこなす。


その後に例の竜に喰われると言うエフェクトで、バーシスの町の近くのダンジョン、すなわち因縁のダンジョンの一階に帰ってくる。


「長かったような、短かったような・・」

『たかが一週間に、大層な物言いだな』


確かに高ランカーの冒険者であれば、一週間ぐらい依頼で町を空けることはザラである。


ダンジョンの傍の宿屋で一泊すると、早朝バーシスの町へと向かう。




若干懐かしい思いの、バーシスの城門を潜り、商業ギルドへ。


そのままエムファスに、調味料の町の特産品の買取をお願いする。


「オプファ君! 一体この胡椒、何処で手に入れたの!」

「えっ!? それは・・、その・・」


予想通りと言うか、予想以上の反応であった。

ずぶの素人が、胡椒を持って帰れば大騒ぎになるはずである。


「あの・・、それをお話しして、秘密が守られますか?」

「そ、それは・・」


あくまでも能力を隠したいが故の何の気ない質問に、エムファスが言い淀む。


「今の・・、どういう意味ですか」

「っ!? はぁー、まさか新人商人の一言に動揺するなんて、大失態だわ・・」


エムファスは渋い顔を見せ、商業ギルドの事情を説明してくれる。


「オプファ君の一言、秘密を守られるだけど、イエス、だけどノーよ」

「・・はぁ!? ど、どう言う事ですか?」


「まず冒険者にも、スキルを聞く事や、独自の採取場所を聞くのがタブーなように、商人に対しても、独自の販売ルートを聞く事はタブーなよ」

「そうなんですか?」


当たり前の事だが、相手より一歩先んじる能力なり、情報があるから成功する。


「だけど今回の場合、ずぶのど素人が、超高級品を町に持ち込んだ。確かに稀な事かもしれないけど、ありえない事じゃないわ」

「へぇー、そうなんですね」

「しかし多くの場合、取引に正当性が無い、違法性がある、犯罪性があるものが多いの。特に駆け出しの商人は、早く成功しようと、知らず知らずの内に、犯罪に巻き込まれる事が往々にしてあるわ」

「例えば?」

「不法薬物の密輸人に仕立て上げられる。町に来た当初は、審査が厳しかったけど、徐々に緩くなって、挨拶で町に入れるようになるわよね?」

「ええ、そうですね」


一番最初は身分証明書があっても、色々な審査があって時間がかかった事を覚えている。

その中には、犯罪歴なども確認する事項に含まれていた。


衛兵たちは身辺調査に関して、知らず知らずに犯罪歴を調べたり、嘘を見破る魔道具を使っているそうでだ。


「不法薬物を扱っていたり、殺人などの犯罪を犯したものは、すぐバレるから町には入りにくい。そこで代理人として、町に出入りしている人を使うの」

「そうだったんですか」

「もし販売ルートを教えてくれれば、ブラックリストに載っているか調べられるし、それに関連するダミー商会か調査も出来る」

「それで聞くのはタブーだけど、確認をしたかったと言う訳ですね」

「そう言う事。だけど秘密が守られるかという点に関しては・・グレーゾーンなの」

「グレーゾーン? さっきのイエスでありノーであるという?」


エムファスは気まずそうな表情を浮かべ、言い憎そうに続きを話してくれる。


「実は、真っ白だったルートが、他の商会に乗っ取られた事があるわ。世界中に何件も」

「えっ!?」

「調べてすぐに分かったんだけど、ギルド職員の関係する商会で、奪われた側は当然商業ギルドに怒鳴り込んできたわ」

「ギルドはどう動いたんですか?」

「勿論すぐにギルドも問い質したらしいんだけど、自分で開拓した、前々から目を付けていたとのらりくらりと、最後には証拠はあるのか言って・・ね」

「どうなりましたか?」

「色々・・、本当に色々らしいわ」


辛そうな表情を見れば、死や犯罪に絡む結果となったのだろう。


「この件に関してギルドは、ノータッチを貫く事にしたの。あくまでも調べるだけって」

「ちょっと待って下さい!? あなたの商業ルートに危険が無いか調べると言って、乗っ取られてるんですよ? ギルドに責任はないと!?」

「証拠が・・ないから」


最初はエムファスさんも、僕の事を思って、町の事を考えて、販売ルートの事を問い質したのだろう。


しかしその結果がこれでは、商業ギルドを信頼できない。


「すみません、エムファスさん。契約上、取引ルートを申し上げられません」

「・・そう、なるわよね」


商業ギルドの現状など、言わなくても良いことなのだろうが、聞かれてしまった以上、黙ってもいられなかったのだろう。


「分かったわ。あくまでもあなたの自己責任。商業ギルドは、一切あなたの取引を関知しない代わりに、一切庇い伊達しません」


それだけ告げると、普段の表情に無理矢理戻す。


「胡椒は若干値上がりしているわ。一袋金貨二十枚で引き取るけど、どうする?」

「はい、それで構いません」


一袋金貨一枚の胡椒が、一袋金貨二十枚に化け、金貨二百枚となった。


大きな商いには違いないのだが、心にしこりの残る結果が悔やまれる。





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