肉のダンジョン
【肉のダンジョン】
商業ギルドに行って、他の商会の下働きをする事を匂わせる。
薬師ギルドに行って、商会の手伝いをするので、時折来れない事を告げる。
そしてトロナにも、不在を伝える。
『やれやれ。前にも思ったが、人間とは面倒な物だよな』
「仕方ないじゃないか。今の能力は隠すべきだって思ってるんだから」
出来る限り、能力の言い訳を固めて、町の外に出ての開口一番である。
『まあいい。今回の目的は三つ』
「・・三つ? ダンジョンゲートを試すんじゃないの?」
『ダンジョン一階に行って、目の前にはダンジョン。そして折角他の地方に行くんだぞ? そのまま帰ってくるつもりか、オプファ?』
心底呆れたように、溜息のように言ってくる。
「そうか。出来るだけダンジョンに潜って、素材収集に専念する。素材を売って、特産品を買う。特産品をこのバーシスの町に持ち込む」
『うむ。お前に貸した残り能力の確認、他の町の特産品の影響力、有名になるお前の影響力。この三つが目的となる』
ダンジョンに潜る事は、正直嫌ではあるが、セイテンのうっかり戦闘訓練で、多少の自信がついており、資金を増やす上でも必要なんだと思い込む事にした。
『まずは復習といこう。ダンジョンゲートとダンジョンロードの違いは?』
「ダンジョンゲートが、ほかの町に移動できる能力で、ダンジョンロードが、ダンジョンにハッキングする能力・・、だったよね」
『まあ、そんなもんか。もう少し細かく言えば、ダンジョンゲートは、このバーシスの町に無いアイテムを取り扱う町に最も近いダンジョンに移動できる能力だ』
「それで特産品を持ち込めば、って話になるんだね」
そうだ、と言うと、続けてダンジョンロードについて説明してくれる。
『ダンジョンロードには、移動する能力は無い』
「えっ!? そうなんだ。てっきりそのダンジョンに移動できるものと思ってたよ」
『説明不足だったか。ダンジョンロードは、何処に居ても、何処からでも、七つの難関ダンジョンにハッキングして、アイテムを強奪する能力だ』
「強奪って・・。まあ、その通りなんだろうけど」
ダンジョンにとっては、買った覚えのないアイテムの支払いに、いつの間にか自分の口座からお金が引き落とされているようなものだろう。
溜息をついている僕に、セイテンが催促する。
『ほらほら。時は金なり。能力を試すぞ』
「前回もそれで騙されたような気がするんだけど?」
『あれは失念していただけだ、血の臭いにモンスターが釣られると言う事を。実際に帰る時間を考えなくちゃならなかったのは事実だろう?』
「まあ、そうなんだけど」
僕自身も、借りた能力に驚いて忘れていたから、セイテンを責められない。
セイテンの言う通り、城門の閉まる時間も気にはしていたのも確かだ。
『今回は特に、お前に驚いてもらう事と、冒険者ギルドを追い詰める第一歩なのだからと、気が急いてしまってな』
「分かったよ。で、最初はどんな町に行くの?」
『・・・時々思い知らされるのだが、お前は馬鹿なのか?』
「何だよ、いきなり!?」
『驚いてもらう、と言っているのに、何故にどんな町か言わねばならん』
「あっ・・、それもそうか」
セイテンに指摘された事は、尤もな事だった。
『行ってからのお楽しみと言う事だ』
「悪かったよ、楽しみにさせてもらうよ」
バーシスの町に無いものを扱う町、どんな物があるのかと思いを馳せる。
探索能力をフルに使って、周囲に誰も居ない事を何度も確認する。
尚且つ、出来るだけ身を隠せるような場所を探す。
『そうだ。転移系の能力は、希少性が高い。俺様の能力を隠し通したいなら、使う前に細心の注意を払え』
「分かった」
ダンジョンゲートの説明の際に、まず最初にセイテンから言われた事だ。
『能力の発動の瞬間を見られるのが、特にまずいからな』
「ああ」
何度も周囲を確認し、出切るだけ死角の多い森の中に分け入る。
「うん、ここなら大丈夫だと思う」
『では、行きたいダンジョンを思い浮かべろ』
「行きたいって、どんなダンジョンがあるか知らないんだけど?」
『むっ!? それもそうか・・。では、ダンジョンゲートで行ける所、と思え』
「ダンジョンゲートで、行ける所・・」
セイテンの説明どおり、ダンジョンゲートで行ける所と心の中で思う。
「あっ!? 何か・・浮かんできた」
すると頭の中に、七つのダンジョンの名前が浮かんでくる。
その内の一つが、バーシスの町に最も近い、因縁のダンジョンであった。
『その中に、フライシュとないか?』
「フライシュ・・、あるよ」
『よし。行きたいダンジョンとしてフライシュのみ思い浮かべろ』
「分かった。行きたいダンジョン・・、フライシュ・・」
『感覚的なものだが、ダンジョンゲートを発動するか、と聞いてくる』
「分かる分かる、聞いてきてるよ」
『止めるならば解除、転移するならば発動と言え』
「ダンジョンゲート発動」
突如目の前に、魔方陣が展開され、龍の頭が現れる。
「なっ!?」
そう思った瞬間、オプファはパクリと食べられてしまう。
咄嗟に顔を両手で庇うが、何時までも痛みは襲ってこない。
『くっくっくっくっ・・。何をしている、オプファ』
「えっ!?」
そーっと、ゆっくりと手を下ろすと、何やら洞窟のようだった。
「龍の腹の中・・なのか?」
『そんな訳あるか。ダンジョンの中だ、フライシュのな』
「ダンジョン・・、フライシュ? えっ!? さっき竜に喰われたはず・・」
『あれはダンジョンゲートが発動した時のエフェクトだ』
「何だ、そうだったのか・・。だったら最初に説明しておいてくれよ!」
辺りを気にせず、思わず大声を上げてしまう。
『言っておいたはずだがな? お前を驚かすと』
「ダンジョンゲートのエフェクトも含まれるとは思わなかったよ・・」
緊張を解き、詰めていた息を吐き出す。
『もう分かっただろうが、ダンジョンゲートが発動されると、ああやって竜に喰われる。俺様のもう一つと関連させているからな。くっくっくっ・・』
「毎回あれか・・。分かっていても、慣れないような気がする」
竜・・。ドラゴンとは絶対的な強者の代表であり、恐怖の頂点に君臨する。
見た事が無くても、単なる映像であっても、あんなのにガブリはご遠慮したい。
「しかし、あの一瞬で森の中から、ダンジョンの一階層の入り口とはね」
『これこそがダンジョンゲートの真骨頂だからな』
ぐるりと見渡せば、新人つぶしのパーティに連れ込まれたダンジョンに似ている。
『分かったなら、早速ダンジョンに潜るとしようか。時間も惜しい』
「そうだね」
セイテンに尻を叩かれて、ダンジョンへと踏み込んでいく。
『ダンジョンゲートは特産品の有る町や村を優先しているため、ダンジョンの難易度は度外視している。とは言っても平均五十階層、ランクで言えばCだったか』
「ふーん、セイテンに貸してもらっている力と同じぐらいだね」
『そう言えば、そうだな』
ダンジョンには大きく二つに分かれている。
ランクA以上のダンジョンは、人里はなれた場所にひっそりと存在する。
もう一つはランクB以下のダンジョンが、村や町の近くに突如として現れる。
不思議な事に多くは、村や町に必要と思われそうな物をドロップすると言う。
『ソロで行動だし、ダンジョン内では過干渉も少なかろう。能力もフルに使って、どんどん深くへと潜るが良い』
「うん、分かった」
初めてのダンジョンだ、低階層であっても細心の注意を払ってダンジョンを潜る。
僕の基本能力は、セイテンのお陰でランクCに匹敵する。
一階層から十階層はランクE、十一階層から三十階層はランクD向けとされている。
三十階層の最奥、エリアボスの部屋の前で立ち止まる。
『ここからランクCとなるわけだ』
「本当の力、と言っても借り物だけど、試されるわけだね」
『そうだな。今まで戦ってきて分かると思うが、ボスはかなりの強さを持っている。ここを超えらる力があれば、三十一階層以降も問題にはなるまいて』
「だと良いけどね。そんな事より、目の前のボスに神経を集中しよう」
『尤もだ』
扉を開け、エリアボスの居る部屋へと足を踏み入れる。
「ミ、ミノタウロス・・」
『ほお、オーソドックスな迷宮の番人のお出ましか』
牛頭人身のモンスターが、目の前に立ち塞がっていた。
ボスの部屋の扉が閉まり、鍵が閉まる。ボスモンスターはじっと立ったままだ。
僕が一歩、二歩と歩みを進めると、ミノタウロスが吼える。
ブゥモォォォォー
「ひっ!?」
その雄叫びに、コングとの戦いの恐怖が蘇る。
恐怖が先立ち部屋中を逃げ回り、ミノタウロスに追い掛け回される。
『おいおい。ミノタウロスに走り勝っている時点で、お前の方が上だと気づけ』
「そ、そんな事、言ったって」
『仕方ねない奴だ・・。俺様の言う通りに繰り返せ』
「な、何を・・」
『良いから、いくぞ。
闇よ来たれ、集え、従え。漆黒の御柱を持ちて、五方より圧し、穿ち、撃ち、叩き、貫き、我に敵する事象を、滅し滅ぼせ』
「えーっと、
闇よ来たれ、集え、従え。漆黒の御柱を持ちて、五方より圧し、穿ち、撃ち、叩き、貫き、我に敵する事象を、滅し滅ぼせ」
『ミノタウロスを見て、叫べ。【ダークピラー】』
「ミ、ミノタウロスを見て、【ダークピラー】!」
ミノタウロスの前後左右、上方から、闇色の柱が現れ、ミノタウロスを襲い、完全に覆い隠す。
ぐちゃっ!
身の毛のよだつ音の後、残されていた下方向から、搾り出されたかのように血溜りが広がってくる。
やがてその血も煙のように消えうせていく。
「か、勝ったのか?」
『当たり前だ。暗黒魔法の上級だぞ? ランクCのモンスター如きが耐えられる』
魔法を一発で倒すには、ランクFからEが下級、DからCが中級の威力が必要とされる。
「こ、怖かった・・」
『ふむ。能力は高くなっても、精神的な成長が追いついていないという訳か。今後の課題が見えたな』
セイテンの言う通り、強さには肉体的なものと、精神的なものがある。
いきなり大きな力を与えられたからと言って、そう簡単に恐怖心を拭えるものではない。
『丁度良い。このダンジョンはランクCだ、徹底的に鍛えろ。アイテムを入手するのにも、一役買ってくれる』
「はぁー・・、がんばるよ」
このダンジョンでドロップしたアイテムで、特産品を買う予定なのだからその通りだが、先が思いやられる。
ダンジョンの三十一階層からはランクC。セイテンから借り受けた能力もランクC。
セイテンの望んだように、能力の練習にも、戦う事で心も鍛える事にもバランスが良い階層に到着する。
『さて、どうするか?』
「どうするかって?」
『どれ程町に近いと言っても、隣り合っているわけではない。ダンジョンと町を往復するにも、ある程度時間がかかる』
「そりゃそうだよね」
『向こうを出たのが早朝、今は夕方に差しかかろうとしている』
「えっ!? じゃあ城門の閉まる時間に間に合わないじゃないか!?」
ダンジョンの中は昼夜がないので、時間の感覚が分かり難い。
『ダンジョンによっては、色々な環境がある。昼だけがあるように、夜だけ、朝だけ、夕方だけ、昼夜があったりという感じでな』
「へぇー、知らなかったよ。入った事があるのは、昼間だけの階層ばかりだったからね、じゃなくて、どうしよう・・」
『落ち着け。ダンジョンが町の傍にあると入っても、どんなに近かろうが最短でも半日は掛かる。これは常識だぞ』
「そ、そうか・・。往復だけなら一日でも、ダンジョンに入る事を考えれば、一日じゃ戻れないよね。じゃあ、どうするかって言うのは?」
『ダンジョンの中で一泊か、外で一泊かと言う事だ』
「ああ、なる程」
環境の話しが出たので、ついでに聞いてみる事にする。
「そう言えば、セイテン?」
『ん? 何だ?』
「このフライシュと言うダンジョンだけど、お金と魔石の他は、肉しかドロップしなかったんだけど? モンスターもそんな感じで」
鳥、豚、牛は元より、馬、羊、山羊、鹿、猪系のモンスターしか見ていない。
『フライシュと言うダンジョンは、肉のダンジョンなのだからな』
「肉のダンジョン?」
『主に肉をドロップするダンジョンの事だ。他にも傍の町に合わせたアイテムをドロップするダンジョンが多い』
「ランクB以下の、町の傍にできるダンジョンは、そんな特性を持っているって聞くね。と言う事は、肉を必要とするような町の傍って事だよね」
『それは町に行けば分かる』
「じゃあダンジョンを出て町へ・・、そっか位置口に戻るか、ボスを倒すかしないと」
ダンジョンからの脱出は、その階層の入り口に戻る事である。
『うん? 何を言っている? ダンジョンゲートを使えば良かろう』
「えっ!? どう言う事?」
『ダンジョンゲートは、何時でも、何処でも使う事ができると言ったろう? このダンジョンから、このダンジョンへ転移すれば良い』
「そ、そんな事ができるの!?」
『出来るも何も、そう説明したはずなんだがな』
セイテンが、僕を責めるように言ってくる。
「いや、だって、まさかダンジョンから、同じダンジョンへ転移できるとは想像もしなかったから・・」
『まあいい。過ぎた事をどうこう言っても仕方あるまい。ダンジョンゲートがあれば、本当に時間一杯まで、稼げると言う事だ』
「なる程。覚えておくよ」
『では、話しの最初に戻って、どうするのだ?』
「ダンジョンに出て、皆と同じようにダンジョン宿で一泊しよう」
魔方陣に入れば、一階層に出られる事もあり、時々モンスターが出てきてしまう事がある。
そのため村や町はなかなか出来ないが、ダンジョンに入る冒険者を当て込んで、ダンジョンのすぐ傍には宿屋が立ち並ぶ。
そこで一旦休息を取って、ダンジョンに入ったり、町へ帰ったりするのである。
ダンジョンゲートで、フライシュへと転移する事を思い浮かべる。
初めてと同じように、目の前に魔法陣が現れ、続けて竜が僕を飲み込む。
当然だが、痛みはや傷はなく、目の前にはフライシュの一階層の入り口である。
「なあ、セイテン」
『何だ?』
「この魔方陣と竜って、エフェクトって言ってたよね?」
『そうだが。何か?』
「変更できないの?」
『無理、とは言わないが、能力の発動と結びつける良い物が浮かばんのでな』
「じゃあ、良いアイデアがあれば変えてくれる?」
『・・検討しよう』
セイテンにエフェクトの変更の約束を取り付け、今日の宿屋を探す事にする。
どうやら彼個人としては、自分の分身の姿でもあり、変更は納得がいかないようだった。




