『月波見学園事件録-七不思議の呪殺-』
またまたお久し振りとなりました。
夏も終盤に向かおうという今、ご紹介したいのはこの作品。
真名鶴さんの『月波見学園事件録-七不思議の呪殺-』です。こちらカクヨムの公開となります。
ホラー? と、見せかけた、高校を舞台としたれっきとしたミステリー。
主人公の実鷹は、ある苦悩をずっと抱えて生きています。
想像してください。
もし、自分が原因で、親しい家族が生きて帰らない。そんなことがあったら――――?
実鷹は月波見学園に通う兄に、学園の七不思議の話をせがみます。子供ならではの好奇心で知りたがり、そして、兄は戻らなかった。
自責の念が彼を苛む。
〝それ〟が、まるで時の歯車を回すように起きたのは、じめじめとした夏の雨の日でした。
学園に伝わる七不思議になぞらえて、ある生徒が死亡。
七不思議が、姿を持った化け物のように実鷹にのしかかります。再発する、自責の念。
ここでミステリーには定番、探偵役の生徒の登場です。
彼の名前は姫烏頭蒼雪。探偵役に相応しい、印象的な名前です。
彼は、能役者でしたが、ある出来事をきっかけに、舞台に立てなくなりました。
そう、「能」。
この作品に、真名鶴さん作品に欠かすべからざる重要なキーワードです。
話の展開は、時に能の演目になぞらえながら進みます。蒼雪は時に謡いつつ、推理を披露するのです。
真名鶴さんご自身が能役者でおられることもあり、能は真名鶴さんの作品のそこかしこに頻出します。自身が経験しておられるからこその、説得力と重みが話に加わるのです。
これ以上、詳細を語るのはやめておきましょう。この、非常に魅力的な物語を読む妨げになってはいけません。
最後は作品の宣伝文である、「この世に幽霊なんていない、怪異なんてものはない」に尽きます。
人の弱さと哀しさと、おぞましさと、それから救いと……。
お粗末ではありますが、描かせていただいたファンアートは、作中に出てくる能の演目「藤戸」の要素を取り入れてみたものです。面も、藤戸に使われる河津にしてみました。面を持っているのが九藤イメージの蒼雪。横顔のアップが実鷹。沈んでいく少年が、実鷹の兄です。
非常にクオリティーの高い良作です。あえて夏が去ろうとする、この季節にいかがでしょうか。