『微睡む宵闇 揺蕩う薫香』
少年の憧れ。夢と絶望。快楽と堕落。そして救い。
それらを詰め込んだ作品が、萩尾滋さん作『微睡む宵闇 揺蕩う薫香』です。
少年愛の要素が多いこの作品、賛否両論となるかもしれませんが、ジョイント(麻薬)の虜となった主人公・マシューが、そもそもそうなったきっかけ、そしてそこからどう生きようとするかを書かれた人間ドラマです。
『闇に招く』
一人称で進行していく中、蛇、アビヌス、梟、狼等、マシューを利用しようとする面々は、マシューにあだ名をつけられます。それは鳥の巣頭や銀狐など、彼に好意的な少年たちにも同じ。もちろん、心の中だけでのことです。
そのユニークな名づけが、作品に色を添えます。
『月下美人』
マシューもまた、そのたおやかな美貌に憧れる子たちから「月下美人」のあだ名をつけられます。
宵闇が似合う花は、マシューに相応しいかもしれません。
イギリスのパブリックスクールを舞台にした愛憎劇(と、言ってしまっていいでしょう)、ただいま最終章です。
萩尾さんの作品は調べものが入念にされている上、精緻な筆致、そして解りやすい間の開け方などが特徴です。綺麗な光景もさらりと描く。
光と闇のあわいでもがく少年の物語。
この機会にいかがでしょうか。