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『ワダツミの子』
全てを失った人が再生するには、どんな奇跡が必要でしょうか。
奇跡と呼べるほどのものでないかもしれない。
でも時折、そうとしか呼べない出来事が起こることがある。
今回、ご紹介する津蔵坂あけびさん作『ワダツミの子』は、そんな物語です。
妻と娘を喪い、生きる気力を失くした主人公が、地元の九州で、娘そっくりの少女に出逢うところから、再生は既に始まっている……。
『愛し子ら』
漣という少女。荒波という少女。全く異なる空気を纏いながら、彼女たちは確かに死んだ娘・帆波を彷彿とさせる。
ホラー風味も混じえつつ、九州の方言、漁師言葉、漁や海の描写、美味しそうな魚料理。見どころはたくさんあります。
それらの中で、主人公は、まるで母胎にいるように生まれ直す経験をするのです。
命と心の物語。
波の音が響くようです。




