7饗宴 スローライフには勝てなかったのである……
今日は待ちに待った、人間の王への謁見である!
そこで我は容赦のない“魔族殲滅計画”を披露して、それを受け入れられ、魔将軍たちを人間の手で倒させて大団円! ブラオカの大冒険──完なのだ!
フゥハハハハハ!!
* * * * * * * *
──そして謁見を終えたのだが。
フゥハハハハハ!
そうか、なるほど!
人間の王め……我より極悪な存在ではないか!
我の数日で決着が付く“魔族殲滅計画”より、ジワジワと追い詰めた方が魔王軍側が苦しむとな!
しかも、それを楽しむと表現しておったわ。
それはどこかで聞いた言葉──スローライフという概念に違いない!
我はこれからスローライフというものを楽しもうでは無いか──!
「……んん? う~ん……?」
人間の王への謁見が終わり、城内を歩いていて少し冷静になってきた。
「あれ、もしかしてこれ。我、騙されてね?」
人間の王からすれば、とある密約によって魔王軍からは一定以上の被害が出ないようになっているため、それを叩きつぶされては色々と困るのかもしれない。
そのとある密約とは、神々が定めたものなのだが、話せば長くなるので今は省略する。
いや、そもそもだ。
この魔族殲滅計画は、不甲斐ない騎士団で実行するのは難しいかもしれない。
結果的には、時間をかけて準備をするというのは良かったのだろう。
計画を聞いた者からすれば……直接、我が手をくだせばいいのでは? ということなのだろうが、そこは我の唯一の弱点が問題になってくる。
その弱点とは──“プライド”である……!!
たぶん人間が知ったら大笑いだろう。
たかがプライドで、そんな回りくどいことをやっているのかと。
しかし、我にとっては現実問題やばいのである。
人間と我は、生物として根本的に仕組みが違う。
例えば、にっくき相手を後ろから忍び寄って倒すとしよう。
それは『深淵の暗黒王』にとってあるまじき恥ずべき行為だ。
その時点で、魔王の我は精神にダメージを受けて、現実的な力も急激に弱る。
ちなみに先日のゴブリンは向こうから勝手に襲ってきたのを反撃で倒しただけだし、野良の魔物だったので我は気にしないで済んだ。
そう考えると、我は“最強”にして“最弱”の存在なのかもしれぬ……。
あぁ、まずい。落ち込むとまた力が下がってしまう。
「おいおい、城内に情けないおっさんがいるぜ?」
「ほんとだわ。まったく、みすぼらしいったらありゃしない。あれが私達と同じ騎士だなんてねぇ」
城の廊下をトボトボ歩いていると、そんな心なき言葉がとんできた。
5人の若い集団だ。
装備している豪華な鎧や、その口調からすると……特別入隊のエリート騎士たちだろうか?
こちらを見下して、今にも唾を吐きかけてきそうな嫌悪感がにじむ表情である。
「お前みたいな品格の欠片もないおっさんが、王に御拝謁願うとはな?」
「クスクス。王も下民に対するアピールかしらね。下民中年の話も聞いていますってさぁ」
我はさらに気分が落ち込んでしまう。
貶されたことにではない。
こんな人間という種族に対して、多少なりとも期待をしてしまっていたことに……だ。
身内を見下し、汚物のような言葉を悪意と共に投げかける輩。
……ああ、そうだ。
これはあのときの状況に似ている。
我が魔将軍たちから拒絶された、あの孤独のホームパーティーに。
あのトラウマに似ている……。
「おい、おっさん。黙ってないで何か言えよ? それともエリートの俺様たちが怖くてブルッちまったか?」
「ぷくく……。もう惨めすぎて中年の哀愁が漂ってきちゃってるわね」
これが人間というものか……。
なんと醜い精神、なんと傲った生き物。
魔将軍も、人間も、この世界すらもくだらないような気がしてきたのである……。
ああ、もうどうでもいいのかもしれん……。
我のプライドが砕けるだろうが、この国を一瞬にして消滅させて自滅するというのも一興かもな……。
中級闇魔法──それを発動させれば、この国を軽く包むくらいの空間削除玉が出現するだろう。
もうそれでいいんだ……。
それで全てが終わりだ──。
「──ッお前ら! 僕の親友に何を言っているんだ!」
「な、なんだコイツ!?」
突然走って現れた、普段はお調子者のキザイル。
──だが、響いてきた声は、今まで聞いたことのない覇気に溢れていた。
そして、そのままエリート騎士たちに掴み掛かっていった。
「ちょ、ちょっと待てよ、キザイル。お、お前も貴族だろう!?」
困惑するエリート騎士たち。
お家の関係で、キザイルには手を出せないようだ。
「謝れよ! 僕の親友に謝れよ!」
必死の形相でそう叫んでくれている。
親友と呼ぶ我のために……。
歳も違うし、本当は種族すらもかけ離れている。
なのに此奴は……此奴は……。
「し、知るかよ! 俺様たちは貴族で、あいつは下民のおっさんだぜ!?」
「立場なんて関係ない! オウマはな! オウマはな──!
強くて、誰よりも優しいやつなんだ!」
「は、離せ! このッ!!」
キザイルは振り払われて、無様に尻餅をついてしまった。
……だが、我のためにしてくれた行為は、胸がジーンとしてしまった。
どうやら6000歳という年齢のせいで涙もろくなっているらしい。
「な、なんだよ! やるってのか!?」
未だに睨み付けるキザイルの真っ直ぐな瞳に恐れを成したのか、エリート騎士たちがケンカ腰になっている。
このままでは衝突はまぬがれないだろう。
ところがそこへ──1人の少女が仲裁に現れた。
「その私闘、勇者としては見逃せんな。ここは騎士らしく決闘で勝負を付けるべきでは?」
「ひっ、勇者ステラ様!?」
「この私が見届け人となってやろう。……オウマ殿もそれでよろしいか?」
……人間の世界って、一度は決闘しなきゃいけないルールでもあるの。
あれだけフラグ回避を繰り返してきたというのに。
──ククク。だが、今回ばかりは魔王としての思考は捨ておこうではないか。
我をかばおうとしてくれた人間──キザイルに報いるためにな。
「未熟なひよっこ共。この我が直々に胸を貸してやろうではないか。
──何人でもかかってくるがよいわ」