6饗宴 人間の王へ謁見とか勝ち確定フラグである!
ゴブリンの巣を滅ぼした次の日、すぐ入隊が決まった。
配属先は王城務めの騎士団員だ。
「いやぁ、オウマちゃん大活躍だったからね! 普通ならお坊ちゃんたちしか王城務めになれないんだよ」
「ふむ? どういうことだ?」
ここは王城付近に建っている兵舎の一室。今日から寝泊まりすることになる場所だ。
ちょっとボロいが、男子寮的な感じなのであまり気にはならない。
何かの縁でキザイルと相部屋になっていて、さっきまで二段ベッドの上を主張しまくられていた。
というわけで、今の彼奴は二段ベッドの上でご満悦の表情。
上から乗り出して、こちらに顔を向けている。
「誰でもウェルカムっていうのは体裁を整えるためなのさ。
暗黙の了解で、安全な王都での騎士様は、ただ箔を付けるためのご職業ってわけ」
階級意識の高い人間ならではのやり方というわけか。
「本当だったらそれ以外の一般入隊希望者は、魔族との前線の方で再試験を受けるように紹介状を渡されて終わりさ」
「じゃ、じゃあ我はなぜ、王城務めになったのだ? 試験全てにおいて平々凡々だったはずだ……」
そう見えるように努力をした……!
剣技ではやらかしを華麗にカバー……カバーできていたよね? 我、できてたよね?
サバイバル訓練では、うまく勇者の功績として擦り付け、魔法発動も占星術と言い切る魔王的な発想! 機転を利かせたはずだ……!
「またまた冗談を。オウマちゃん、サバイバル訓練でみんなを引っ張っていたじゃないか」
「なん……だと……」
も、もしかして……誤魔化すために我が方向性を決めすぎていたためだろうか。
ああしろ、こうしろと……。
「まぁ、特別入隊枠と、一般入隊枠のお坊ちゃんだけじゃ、騎士団として最低限の体裁すら整わなくなるしね。
オウマちゃんや僕みたいな優秀な人材が少しは欲しいんでしょ。オウマちゃんや、僕みたいな、僕みたいな、僕みたいな優秀な人材が!」
リピートされた後半はスルーして、気になる部分を聞き返してみた。
「特別入隊枠とはなんだ?」
「あ~、一部の貴族に用意された枠だよ。試験すら必要ないエリートコース」
もはや戦うための騎士団ではないのか……。
試験官たちすら不甲斐なかったのはそのためか。
そういえばふと、貴族という言葉で思い出すことがあった。
「キザイル、お前は貴族の出だと言ってなかったか?」
「ああ、うん。かなりの名家だよ」
「どうして特別入隊枠というやつで入らなかったんだ? 楽だし確実だろう」
「そんなの決まってるだろ。──だって、格好悪いじゃないか」
此奴……しっかりしてるな。
人間にも、このように環境に慢心せず、日々研鑽に励もうとしている若者がいるということか。
この心意気は我も見習わなければならぬだろう。
「女の子に『僕、入団試験の時に優秀すぎてさ~。実力を出しすぎて、やらかしちゃったんだよね~』とか言いたいじゃないか!
それはもうモテモテ確定だよ!? ハーレムだよ!? 首元ファー付き黒ロングコートも買ってあるよ!?」
「えぇ……」
ま、まぁ動機はどうあれだ……。
魔王経験的に、それだけでモテモテハーレムというシチュにはならないし、なったとしても女性同士の鬼気迫る戦いで胃が痛くなったり裁判沙汰になったりして資産をむしり取られるのだろうが。
うぅ……頭痛が。あの当時の我の弱体化っぷりは……。
そういうのはどうあれだ……。
「そ、そうか。がんばれよキザイル」
「うん! 騎士団長とか勇者とか超モテモテだろうし、僕は絶対になってみせるよ!」
男子としては何よりも強い動機なので、意外と立派な職に就くのかも知れないな。
将来が読めぬ若者というのは見ていて楽しいものである。
男子というのは三日あれば……いや、明日にですら羽ばたくような成長を遂げているかも知れない。そういう予想外の大物だ。此奴は。
「あ、そういえば、勇者ステラちゃんからも進言があったらしいよ。
オウマちゃんは、とても優秀で人間的にも尊敬できるって──」
勇者ステラ──彼奴め……。
人間的に、とは。やはり我の正体に気が付いての挑発だろう。
だが、それを利用させてもらおうか。
我が王都に来た目的……、人間の王に近付く機会としてな!
* * * * * * * *
次の日、キザイルは兵舎の廊下で正座をしていた。
パンツ一丁で。
……羽ばたくどころか地に墜ちているな。
「どうしたキザイル」
「聞いてくれよマイディスティニーフレンド……」
いつから我は運命になった。
「勇者ステラちゃんに挨拶をしたんだよ……」
「なんと?」
「やっほー、ステラちゃーん。今日も可愛いね! ……と」
相手が誰でもこの態度とか、しっかりしろというべきなのか、感心すべきなのか迷うところである。どっちにしろ突き抜けているが。
「そしたら、たるんでるって言われて……」
「なるほど。それでパンツ一丁にされて廊下に正座か……。少し強引だが、上下関係が厳しい世界ではしょうがないのでは? まぁ、多少は我も同情はするが──」
「たるんでるから、決闘しようって言われて……」
いや待てなんだ、その流れは。
なぜこうも決闘になる。人間の世界は殺意と決闘で出来ているのか……。
「ルールは僕が決めて良いって言われたから、模擬戦で負けたら脱衣にしようって言っちゃって……。
いや、下心は全くなかったんだよ。
親密になりたかっただけで、あとおっぱいが大きいから気になったとかは全く無く……本当なんだ……信じてくれ……」
何かパンツ一丁の悲壮感がすごくて、突っ込むのが可哀想になってきた。
あとで暖かい飲み物でも差し入れてやろう。
「……あ、それでオウマちゃんに伝言。
頼まれていた、王様への謁見許可が下りそうだって……」
ついにこの時が来たか!
我が提案する魔族殲滅計画──!
それにより、人間の手で魔族を消し去らせるまでの猶予は僅かだろう!
魔王である我の計画は完璧だ……ククク……フハハハハハ!!
「あ、オウマちゃん悪い顔してる──ックション!」