幕間 魔王学校を作ろう!
我とイフィゲニアは、地下室で密談をしていた。
薄暗いランプの明かりで照らされ、顔の凹凸がホラーめいた影を落としている。
「──突然だが、学校を作ろうと思う」
「本当に突然ですね!? 魔王様!?」
普段の愛くるしい猫獣人フェイスとは打って変わって、イフィゲニアは妖怪の猫又とかそんな感じの顔で驚いていた。
影の演出、面白い……。
「パーティーのとき、『王都にまともな学校が必要かな~』って思ったのである」
「す、数日前に思いついて、即実行に移すとは……さすが魔王様ですにゃ……。
暗黒なる魔王学校を人間世界のクサビとして打ち込み、絶対服従の恐怖を植え付けようとは……」
「いやいやいや!? 普通にお勉強のための学校だからね!?」
「冗談ですにゃ」
「そ、そうか。それで、まずは場所をどうしようっていうのがあったんだけど、何か土地問題が解決しちゃったのである」
「ふみゅ?」
ジャスティナや、教会で救った子供たちには教育が必要。
そこで学校を作ろうとホムパ会場で思い立って、ぶつぶつと小声で呟きながら考えていたりしたのだ。
そして──。
「突然、教皇の“禁忌聖女”からの使いとやらがきて、一通の書簡を渡してきた」
「いきなり教会トップからですか……」
「どこで知ったのかはわからぬが……『学校用にバギエルの屋敷を譲渡する』とあってな。かなり広い敷地をゲットしちゃったのである」
「ほうほーう、とんとん拍子ってやつですにゃ。魔王様は持ってますねー」
「フゥーハハハハ! そう、魔王の我を中心に運命が回っているような状態なのだ! 人間の幼体どもよ、魔王のスパルタ教育に恐れおののくが良いわ!」
影絵のように浮かび上がる、我の不気味なシルエット。
「魔王様、顔こわっ!?」
* * * * * * * *
我々は次の日の朝、現地に到着した。
学校となる場所が、どんな雰囲気なのか実際に確かめるためである。
王都から近く、裏手には狩猟用であったらしい森まで用意されている立地。
そう、そこはバギエルの屋敷がある広大な土地。
いや、屋敷があったはずの場所、だろうか。
「フゥーハハハハ……は?」
「焼け野原ですにゃ~」
バギエルの屋敷だったものは、炭になった建材が名残として残っている程度だった。
辺り一面が、超高温で焼かれたような無残さを見せている。
「どういうことなの、これ。バギエルの屋敷を再利用して、学校として使おうと思ってたんだけど……」
「あ、そういえばドゥルシアの奴が『バギエルの家を見つけたから、戯れに焼き討ちしてくるのじゃ~』って言ってましたにゃ」
「どんだけ焼きたいの彼奴は!?」
我はガックリとうなだれてしまう。
どーしよー……。
「ここは、この人魔将軍イフィゲニアにお任せください。魔王様のお眼鏡に適う、素晴らしい学校を建設して見せますにゃ」
「おぉ、頼りになるのであるな! さすが我が魔将軍である……! これでまともな学校が完成したも同然なのである!」
* * * * * * * *
数日後、我は学校建設がどうなったのか見に来ていた。
「あ、魔王様。視察ですかにゃ?」
「うむ、うむうむ。もうここまで建物の形をしているとは、さすがの手腕であるな」
「お褒め頂き光栄ですにゃ」
黄色い安全ヘルメットをかぶった、現場監督っぽい雰囲気のイフィゲニア。
ネコ耳用の出っ張りがあるヘルメットの上から、ポンポンと頭を撫でてやる。
学校の方は土台も作り直され、柱も人間世界では珍しい鉄筋製となっている。
ここから設備や壁などを徐々に作っていくのだろう。
イフィゲニアの部下であろう獣人たちが、せわしなく働いている。
あとで食べ物の差し入れでも持っていってやるのである。
「それにしても、この王都であれほどの鉄筋を用意するのは大変だったであろう?」
「いえ、簡単でしたよ。半壊した魔王城から持ち出してきましたから」
「そうかー。……ん? 魔王城から?」
「グゴリオンが突っ込んできて魔王城は爆散したのですが、今は改修工事が行われているのです。そこから、ちょろまかしています」
えぇ~……。
いいのそれぇ~……。
「ちなみにあの部分は超高純度ミスリルで、機魔将軍の私室から持ってきました」
「それ、本人のボディじゃないの!?」
「あっちの内装は、樹魔将軍の木材予定です」
「それも本人の一部で、しかも世界樹だからね!?」
「校長室には、魔王城の玉座を──」
……もう実質、魔王城じゃないのそれ。
機魔将軍と、樹魔将軍も勝手に使われたと知ったら怒りそうなのである……。
大丈夫なのだろうか、この学校は……ッ!?
先のことを考えるとメンタルがキュッとして、胃が、胃が痛い……。
うぐぐぅ……!!
「魔王様、顔こわっ!?」
「フゥーハハハハッ!!」
とりあえず、笑うしかなかった。




