18饗宴 竜殺しの枢機卿キザイル
大聖堂の床に転がる竜魔将軍の首。
それをやったのは、あのキザイルだった。
普通なら不可能だ、できるはずがない……。
龍神であるドゥルシアの皮膚は人間形態でも、頑強な龍鱗と同じくらいの硬度と加護があるのだ。
それにまとっている龍気も加わり、魔将軍クラスでも簡単には傷付けることができない。
ましてや人間が……まだまだ未熟な腕前のキザイルが、一刀にて断頭は、虚を突いたからといって無理なはずだ。
そして腕前以前に普通は、剣の方が折れる──。
「……もしや、その剣のせいなのであるか」
「正解だよ、オウマちゃん」
いつもの軽い口調でキザイルが喋っている。
龍の首を跳ね飛ばした高揚感も、動揺も無しに。
ただ淡々と、これが日常であるかのように、だ。
「この“渇望の剣”に見初められて、波長が随分と合っちゃってね」
「魔剣、聖剣のたぐいか」
「魔将軍を殺したのだから、聖剣と呼びたいね」
いくつか間違いを正したかったが、今はそれより大切なことがある。
確認をしておかなければならない。
「キザイル、今のお前はキザイルか? それとも渇望の剣か?」
「ふふ、さすが魔王。本質を見抜いている。そうだね……今の僕は、半分がキザイルで、半分が剣の意思といったところだよ」
「やはりそうであったか」
魔剣、聖剣のたぐいには魂が宿ることがある。
あのジャスティナが引き抜いた聖剣のように。
渇望の剣と呼ばれた存在にも魂があり、それが持ち手に影響を与え、“竜殺しの枢機卿”を生み出していたのだろう。
たぶん騎士団長ライオネルの様子が突然変わってしまったのも、渇望の剣に操られていたと考えれば妥当だ。
「僕はね、夢の中でまどろんでいるけど、その心の本質はそのままだよ。オウマちゃん」
「どの口が──剣ふぜいが我が友、キザイルを語るか……」
「ああ、友だから語り、そして友だから超えたいと渇望し──その友を殺して、望みを叶えてあげるのさ!」
「随分とゆがんだ希望の叶え方だな! まるで質の悪い詐欺師のようだ!」
赤黒い剣を構えてきたキザイルに対して、我は瞬時にステラの元まで飛びのいた。
あのドゥルシアの肌を切り裂く聖剣、最大限の警戒をしなければならない。
「ステラ、剣を借りるのである! 普通の剣でも、我の素手よりかは──」
「オウマ殿、ご安心ください。神剣に御座います」
「なぬ」
ステラから受け取った剣は、たしかに神気を感じられる。
「ジャスからパクってきました!」
「なかなかにひどい姉であるな……」
だが、これは僥倖である。
持ち主と認められていないために、かなり不機嫌な魂を神剣から感じられるが、それでも並大抵の武器以上の性能をほこる。
それに魂が宿る程の武具というのは、大体がすさまじい強度なのだ。
これを破壊するには、余波で星が滅ぶレベルの攻撃が必要となる。
「よそ見をしないでよ、オウマちゃん!」
「くっ!?」
瞬間的に跳躍してきたキザイル。
その速度は発射された弾丸のようだ。
明らかに以前の彼奴とは桁違いの戦闘力。
音速を超える剣の切っ先を、躊躇なく振り下ろしてくる。
超音速爆発の不快な音と衝撃波で大聖堂を引っかき回しながら、目にも止まらぬ連撃。
「やめろキザイル……! そのような無茶な戦い方では、お主の身体も……ッ!」
「ならオウマちゃんが止めてみなよ! ただし生半可な止め方じゃ無理だ! どちらかが死ぬまでッ! 続くんだからねぇッ!」
渇望の剣によって柱が切り裂かれ、衝撃波で分断された木椅子が宙を舞う。
「オウマ殿! キザイルは……蘇生の加護を受けていません! 殺してはダメです!」
「やっぱり、そうだよね~……」
ステラの言葉を聞かなくても、何となくわかっていた。
だから安易に反撃ができないのだ。
キザイルが相手というのに動揺して、我のポンコツメンタルが不安定なのもあるのだが……。
「オウマちゃんに殺されるのなら本望だよ! オウマちゃんを超えたい、つまり殺したいという渇望があるのだからッ!」
「ぐぬゥ!」
キザイルの打ち込みが激しすぎる。
ただ激しいだけではなく、その渇望の剣が生きているかのように、我の防御に対応して、一挙手一投足を学習してきている。
まったくの油断ならぬ相手ゆえ、不安定な我の状態では、下手をすると反撃で殺してしまうのだ。
これはドゥルシアとはまた違った厄介さ。
何か大きく隙でも作る事ができればいいのだが、それも現状難しそうだ。
「こうやって剣を振っていると思い出すねぇ、オウマちゃん!」
聖剣を神剣で防ぎ、火花散らす猛攻を受け続ける。
キザイルは眼を狂気に染めながらも、表情はいつものように飄々と笑っていた。
「僕たちが出会った、あの剣術の入隊試験をさぁ!」
「ああ、思い出すのであるな──!」
我はなんとか神剣で攻撃を捌きながら、その反動でキザイルが傷つかないようにコントロールしていた。
「なんでこんな変なおっさんが、って思っちゃってたよ!」
「そうであろうな! 我、ちょっと変わった魔王だから!」
我も懐かしさについ笑みが漏れてしまう。
たしか──『おっさんではない。オウマ・ブラオカという人名がある』とか、とてもおかしな自己紹介をしてしまっていた。
普通なら変人と思われて無視されるのだろうが、キザイルは違った。
彼奴は我を見ても、いつものように飄々と──『じんめい? ああ、名前ね。僕はキザイル。すぐ騎士団団長になって、その後に勇者と呼ばれる男さ!』と笑顔で返していたな。
「それが初めての親友になるとは思いもしなかった!」
「我もだ。ウェーイウェーイ言っていたチャラい若造と、まさか親密になるとは思わなかったのである!」
剣戟による命のやり取りを続けながら、我たちは想い出話に花を咲かせる。
「その次のサバイバル試験では、オウマちゃんがバテて大変だったね!」
「アレはフリなのである! 本当はキザイルが疲労困憊だったんじゃ?」
「あはは、バレちゃってたか! おっさんであるオウマちゃんも疲れてるかなって思ったりもしたんだけどね!」
たしかにあそこは気遣いもあったと思う。
キザイルは意外と優しいやつなのだ。
「あのとき、ゴブリンが攻めてきたときも──僕は力が足りなかった!」
「……力への渇望、か」
「ああ、そうさ……。オウマちゃんがエリート貴族騎士たちから馬鹿にされたときも、僕は力なく無様に突き飛ばされただけだ……!」
「そんなことはないのである……。あのとき、キザイルが勇気を振り絞ってかばってくれたのは、とても嬉しかったのである」
「ダメなんだ! それじゃあ! 僕は力が欲しい! オウマちゃんがゴブリンを追いはらったときや、百人の騎士を倒したときみたいな!」
キザイルは動きを止めて、ギュッと剣握って、歯を食いしばっていた。
「キザイル……お主……」
「僕だって……男なんだ……。大好きなオウマちゃんとステラちゃんに守られていて、情けないって思う事だってあるさ……。
二人の力になりたくて、もしかしたら逆に守ってあげられる騎士に──勇者になれるかもって言い聞かせたさ……」
「それなら、地道に修行を──」
「無理だよ……。知れば知るほど、二人は才能を持っていて元から強いって実感できちゃうんだ……。
それに二人は努力だってしているから、一生追いつけることはない……」
そんなことはない、という言葉をかけてはやれなかった。
それは刃より残酷な言葉となる。
我は種族が根本的に違い、ステラは途方もない才能を秘めている。
キザイルの言うとおり、ステラのスタート地点にさえ、数十年の努力程度で近づけるか怪しい。
「だから……この剣の声のままに求めたんだ……。二人のために、二人を超える力を……」
「竜殺しの枢機卿へと至る、渇望の剣の声、か……」
「ああ、そうさ……。殺せば殺すほど、剣に蓄積されている経験が溜まっていく……。三度、龍神を斬りつければ殺せるほどに……」
ゆらりとキザイルが動き出した。
「ねぇ、だからオウマちゃん──」
こちらに赤黒い剣を向けて迫ってくる。
「オウマちゃんの力になるため、オウマちゃんを殺して超えたいんだ。死んでくれないかな……ッ!?」
三日月をなぞるように閃く、妖しくも華麗な斬撃。
一刀に乗せられているのは強い意志だ。
凄まじく純粋な殺気、それは悪意ではなく善意。
我のために吐き出されているものであった。
我はそれを神剣で、いなし、防御に徹する。
「キザイル、お主は──我を殺したあとはどうするのだ?」
「その次はステラちゃんの力になるため、ステラちゃんを殺して超えるよ!」
完全に渇望の剣によって意思をねじ曲げられているようだ。
だが、その半分はキザイルの意思であるというのも事実。
我は受け止めてやらねばならない。
最後に説得した公爵家の“彼”に任されたというのもある。
「キザイル、お主はなぜ騎士団に入ろうと思ったのだ!? 公爵家なら、道などいくらでもあっただろうに!」
「そんなの、父からも期待されてなくて、ただの兄さんのスペアだった僕が力で見返してやろうと──」
「本当にそうなのか!? キッカケはもっと何かあったのではないか!?」
「そ、そんなもの……」
攻撃の手が若干ながら、緩められてきた。
やはりキザイルの意思が半分あるのなら、その気持ちが渇望の剣と同調しなければ万全の力を発揮できぬのだろう。
「幼き頃、許嫁の少女を守るために身を挺したのであろう!」
「なんでそれを……」
キザイルの親しい者から聞いたのだ。
それは十年くらい前の話──。
当時、一人で街を歩いていた幼いキザイル。
その途中で少女を見つけた。
大人達に殴られ、蹴られている、泥で汚れていて男女かもわからぬ程にボロボロの格好をした少女だ。
のちに許嫁となるその少女は、まだ地位も何もない浮浪者同然。
それをキザイルは、理不尽だという義憤から大人たちへと立ち向かった。
そこに女性だからとか、家柄だとかとか、そんなものは関係なく。
何かのリターンを求める部分は一欠片もない。
結果は情けなく、力が足りずにボロボロに負けたが、少女がそれ以上の暴力を振るわれることはなかった。
少女からの『ありがとう』というお礼に満足して、キザイルは名前すら告げず去って行った。
本人すら忘れている、誰かを守るための……力への渇望。
その根の部分。
「思い出したよ……そんなこともあったね……。でも、なんでそんなことを知っているんだよ……」
「お主の父上に聞いた」
「父さんから……!?」
「お主の父上は立派な方だ」
我が最後に説得した公爵家の長──それはキザイルの父親であった。
警戒しながら屋敷に訪れたのだが、意外にも歓迎された。
どうやら我のことを、キザイルの親友と知っていたらしい
キザイル自身とはしばらく会っていないが、気になって密かに様子を探らせていたとか。
「あんな人間が……僕をただのスペアとしか見ていない奴が立派なはずは──」
「たしかに褒められる部分ばかりではない。息子に勘違いさせるような不器用な人間だ」
「勘違い……? 僕を、兄のスペアなりに交友関係でコネを作って、せめて公爵家に貢献しろと言ってきた相手の何を……」
「それはただ、お主が公爵家とは関係なく、一人の人間として友を作って欲しいという……親なら誰もが持つ願いなのだ」
「そんなはずは……」
そう思ってしまうのもしょうがない。
話してみてわかったが、キザイルの父上は凄まじく口下手なのだ。
聞けばプロポーズの言葉すら『私の物になれ』の一言。
意訳としては数千文字にのぼると、公爵家の執事長が教えてくれた。
あとは顔面が岩か鉄で出来ているかのようにポーカーフェイス。
我より魔王に向いている威圧感だった。
子供にとっては恐怖の存在でしかないだろう。
「なぜ、立場だけで食いついてきた友を否定したか」
「それは……」
息子のキザイルのためを思ってだ。
「なぜ、公爵家にとって無利益な一般入隊を許したか」
「た、たぶん僕が言わなかったから知らなくて……」
「ライオネルから既に連絡がいっていた。彼奴も貴族の出だからな。知っていて、あえて止めなかったのだ」
「そんなはず……ッ!?」
「そもそも、この元は初心者用の魔剣だったものも、お主の父上が用意したもの。家宝の一振りを目に付くように、不器用に餞別として置いておいたのだ」
今はこの手にある神剣。
元はキザイルが家出同然で持ち出してきた名工作……、一級品の初心者用魔剣だ。
そんな規格外のものが、都合よく持ち出せるところに置いてあるのがおかしかったのだ。
今思えば、この父の不器用さがあったからこそ、持ち主をジャスティナ移した剣が王都を救ったのかも知れない。
「あの冷血な父さんが……僕のことを……いや、そんなはずは……」
「そうだな、たしかに冷血だ。バギエルの行為に荷担していたのだからな」
「ほ、ほら、やっぱり──」
「言うことを聞かねば、お主に害が及ぶと脅されて、公爵家の力を差し出したのだからな。とても冷血な悪なのである」
「僕の……ため……」
「親とは、子のためなら魔王より冷血になれる悪の存在であるな。だが、それが親というもの。──絶対的な親の正義というものなのである」
動きがヨタヨタとおぼつかなくなるキザイル。
かなり気持ちを揺り動かせたらしい。
もう一押しで完全なチャンスが出来る。
その時に渇望の剣を奪えば、安全に戦いを終わらせられる……!
「で、でも……僕は……ライオネル団長にも使われた剣で、同じ力への渇望を連綿と受け継いで、殺して殺して殺し尽くさなきゃ……」
キザイルは記憶の混濁が進み、もはや自分が剣か人間かもわからなくなってきているようだ。
だから、それらをすべて──そう、すべて否定してやらなければならぬ!
「キザイル! お主は、自分のためだけ力を渇望したライオネルとは違う!
力を渇望したのは自分のためではない!
──優しいお主はいつも……誰かのためであろうッ!?」
「そうだ……僕は泥で汚れた女の子のため」
キザイルの眼に光が戻ってきていた。
「頑張りすぎてるステラちゃんのため、何もかも一人で抱え込みそうなオウマちゃんのため、重すぎる運命を背負ったジャスティナちゃんのため……」
「ホームパーティーを台無しにされて、魔王城から逃げ出して、ぼっちで人間不信だった魔王を最初に救ったのはお主なのだ! キザイル!」
「オウマちゃん……」
「お主から見たら特別な魔王でもない、ただのおっさん。
それも出会ったばかりの見ず知らずのはずなのに……。
それでも、何度もかばってくれちゃったのであるな!」
「うん……」
「我、魔王なのだぞ!? それをもう、普通の友達のように接して、話して、楽しそうにして、大馬鹿者なのだぞお主は!」
キザイルは申し訳なさそうに笑った。
「そうだね。すごく失礼だったかもしれないね」
「だが、魔王として許す! チャラい大馬鹿者でも、我にとって初めての……人間オウマの“友”……。
──いや、キザイル、お主はかけがえのない“親友”なのだ」
キザイルの緩んだ手から、渇望の剣が離れそうになっている。
今、この瞬間が待ち望んでいたチャンスだ。
「何度も心を救われたが、今度はお主の心を救わせるのである!
つまらぬ“渇望の剣”なんぞには渡してやらぬぞ!」
ここで渇望の剣を奪い取るしかない。
「幼き者を──愛する者を守るのは、おっさんの役目なのである!」
キザイルに飛び掛かるように、その手を伸ばした。
だが──。
『渡スモノカ……。コノ竜殺シノ枢機卿トシテ、最高ノ同調ヲ見セル主人ヲ……』
それは幾星霜も罪、重ねてきた血吸いの妄念か。
手の中の“渇望の剣”が喋り、エーテルをまとって強制的にキザイルの身体を動かそうとしていた。
このままだとノーガードの我はバッサリと斬られてしまうのだが──。
「いや、返してもらうぞ“龍を殺せぬ枢機卿”よ」
──既に勝負は決していたのだ。
彼奴が起き上がっていた。
そしてこちらを見て、口腔を大きく開けて赤光を発していた。
我が魔王軍──竜魔将軍ドゥルシアだ。
『ナンダト!? 首ヲ落トシテ殺シタハズダ! リュウマショウグン!!』
「くふふ。首と胴が離れたくらいで、龍神の妾が死ぬはずないのじゃ」
ブレスを発射したあと、首の位置を微調整するドゥルシア。
我ら上位存在にとっては普通の光景だ。
「キャッチなのである!」
パシッと、極細バスターブレスに弾かれた渇望の剣を掴み取る。
「じゃ、ちょっと聖剣を破壊しに宇宙まで行ってくるのである」
唖然とするステラと、軽く手を振っているドゥルシアに、我は『ちょっと散歩行ってくる』テイストでそう言った。
今の我はフルパワーモード。
敵はドゥルシアでも、キザイルでもない。
これは一ミリも同情しない人斬り聖剣なのだから、精神がまったく揺らがない。
『聖剣ヲ壊セルハズガナイ……莫大ナ、エネルギー、ガ必要ナハズダ……』
うん、たしかにそうなのだ。
計測用聖剣である、あのロリコン聖剣は別だが、この竜殺しの聖剣は死ぬほどの強度がある。
常識でいえばヤケクソの強度。
素のオリハルコンなんて目じゃないくらいだ。
魂が入った武具というのは、元のオリハルコンの何千倍も硬くなる。
「だから余波が平気な、宇宙で破壊するのである」
上級第一位魔法を使って空間転移。
* * * * * * * *
一瞬にして目の前の風景が変わった。
真っ暗な宇宙空間。
逆に太陽からの光は眩しすぎて、眼精疲労おっさんアイにはきっついきっつい。
「ん~……、なんかしっくりこない。イメージ的な問題だけど、足場が欲しいのであるな」
気分は大事、超大事。
テキトーな足場になる場所へ着陸。
すっごいゴツゴツしてる空気のない星だ。
住んでいる者もいないし、ここでいいだろう。
「それじゃあ、魔王のお仕置きなのである」
『ヤメロ……。マサカ本当ニ聖剣ヲ破壊シヨウト……シテイルノカ……。ソンナコトガ可能ナハズガナイ……』
我は大きく息を吸い込み……。いや、宇宙だから空気がないけど、これも雰囲気が大事。
そして、聖剣破壊で用意するのは、ただ一つの拳のみ。
「聖剣を正拳で破壊、な~んちゃってなのである!」
拳にエーテルを込める。
ドゥルシアと戦った時とは比べものにならない量のエネルギー量。
彼奴の神器“龍神火砲”よりも、強く、濃く、禍々しく。
──手の形をした、何者をも破壊する圧倒的最強の力。
「憤ッ!!」
我は“ゴツゴツした星”の地面に置いた聖剣へ、ただのチョップを振り下ろした。
「……あ、しまった。正拳じゃなかったのである」
テヘペロッと若者っぽく舌を出すと、“渇望の剣”は真っ二つに割れた。
ついでに“ゴツゴツした星”も真っ二つに割れて爆発した。
「フゥーハハハハ! 魔王チョップは聖剣も、星も、そして渇望も断つのである!」
誰も見ていないが、ちょっとどや顔で言ってみた。
* * * * * * * *
「ただいま~。宇宙から戻ってきたのである~」
まだ上級第一魔法が使えるテンションだったので、転移で大聖堂に戻ってきた。
大気圏突入でもよかったんだけど、火の玉で戻ってくるおっさんって、流れ星に願う子供たちのトラウマになりそうじゃない?
「お帰りなさいませ、魔王様」
「お、良い感じに首がくっついたのであるな。ドゥルシア」
龍神として落ち着き、おしとやかな一礼をする彼女。
夫とやらの仕事を人質に取られていたときとは大違いだ。
「あの……オウマ殿。宇宙って、空の向こうにあると言われる星座の世界ですよね?」
「星座の神はここらへんにはいないが、まぁ大体そんなところだ」
まだ状況がわかっていないステラの頭をポンッと撫でてやった。
「あぅ……。わかってはいましたが、オウマ殿はスケールが違いすぎます」
「そんなことはないぞ~。今、いちばん我の中でスケールが大きいのはホームパーティーのことなのである! フゥーハハハハ!」
「あ、すっかり元気な感じに」
よーし、これでやっと帰ってホームパーティーができるぞー!
キザイルは気絶しているが、ライオネルのケースを考えれば記憶が混濁する感じですぐに目覚めるだろう。
我が魔王だとかそういうことは、な~んか夢だったとかテキトーに誤魔化そう!
まさにパーフェクトプラン!
「それじゃあ、帰ってホームパーティーをするのである。実は料理は、既に温めるだけで平気なくらい調理って、別次元にしまい込んでいるのである」
「別次元って戸棚代わりに使っていいんですか……」
何となく呆れ顔だが、いつもと変わらないステラが横にいる。
それはとても幸せなことかもしれない。
後は帰るだけ。そう、帰るだけだ。
さすがにもう何か起こったりは──。
「こんばんは、魔王ブラック・オブ・カオス」
「あ~、早く家に帰りたいのに~……」
半壊した大聖堂の入り口に、それらは現れた。
認識阻害がかけられた魔法の白ローブで顔を隠している集団。
その数は十一。
我は察した。それは──“枢機卿”だと。
そして、それが左右に分かれ、中央に道を作る。
歩いてくるのは一人の女性。
「お主は──」
「はい、私は教皇。──他の者からは“禁忌聖女”と呼ばれていたりもしますね」
まずいな。
枢機卿相手ならまだしも、教皇は油断ができない。
ヘタに手を出すと教会勢力との戦争になるのとは別に、警戒すべき理由があるのだが──。
「お前は竜殺しの枢機卿と、大司教バギエルの親玉かえ? 妾は機嫌が悪い、今すぐ死ぬのじゃ」
「あ、ちょっ!? まっ、ドゥルシアァァ──ッ!?」
一瞬の躊躇もなく発射される赤光のブレス。
早く家に帰りたいどころか、大惨事コースに発展しそうなのである……。




