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【連載版】ホームパーティーに誰も来なくて、冷めた手作り料理を孤独にモソモソ食べる魔王様『……そうだ! 王国軍に一般入隊して魔族を滅ぼそう!』  作者: タック
2章 ホームパーティーをしよう!

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16饗宴 少年の渇望

※キザイル視点。

 僕──キザイル・マクドゥガルは、公爵家の次男である。

 家族構成は父と、優秀すぎる兄が一人。

 母は既に亡くなっている。


 幼い頃から僕は、兄の予備だった。

 跡継ぎである大切な兄に、何かあったときだけに役立てればいい存在。

 そのために父とはあまり仲がよくなかった。

 父の口癖は『お前の兄には到底追いつけないのだから、今後のために交友関係でも広げておきなさい』──だった。

 役立たずは公爵家のためにコネでも作ってろ、という意味だろう。

 本当に僕なんて、どうでもいい存在だとわかる言葉だ。


 そのために居心地の悪い家族より、甘やかしてくれる心地良い友達を優先した。

 僕が公爵家だと名乗れば、誰も彼もが優しくしてくれて、交友関係はどんどん拡がっていった。

 ……でも、父は誰一人として『交友関係を持つに値しない』と認めてくれなかった。

 それはまるで父から、僕自身への否定でもあった。


 そして、あるとき僕の婚約者に指摘された。

 ──『それって本当の友達なの?』と。

 そんなことは……とうの昔に気が付いていたのかも知れない。


 何をしても空回りだ。

 求めても何も得られない。

 父からの信頼も、友も、自分自身で得られるものなど何も無い。


 兄は魔術の才能もあって、貴族としての品格も、人格も兼ね備えた完璧な存在。

 それに比べれば、僕個人なんて家柄だけのゴミだ。

 やけっぱちになった僕は──『せめて剣では兄に勝てるんじゃないか?』という浅はかな考えで、倉庫の初心者用の魔剣を持ちだして、家出同然で一般入隊に望んだ。


 ……それは父からの哀れみの眼から逃れるためだったのかもしれない。

 でも、そこから僕の人生は変わった。

 オウマちゃんや、ステラちゃんと出会った。


 こんな自分でも何かできるかもしれない、もっと強くなりたいという意志が生まれた。

 だけども……僕には圧倒的に実力が足りなかった。

 親友のために力が欲しい。


 もうオウマちゃんに守られないで、ステラちゃんを守れるくらいの力が欲しい。

 そうやって力が欲しいと願い──。


 僕の鼓動に呼応するかのような、不思議な剣を拾った。




* * * * * * * *




 パーティー会場の準備から抜け出す、ドレス姿の少女が見えた。

 夜の世界へ跳んでいく姿は、まるでおとぎ話の妖精の導き手(ティンカーベル)

 僕は最初からこうなるとわかっていたので、永遠の少年(ピーターパン)のように追いかけ、共にゆくのだ。


「キザイル、お前か」


「やぁ、ステラちゃん」


 僕たちはそれから、しばらく言葉を交わさずに街の中を歩き続けた。

 二人とも覚悟は決まっていたからだ。

 オウマちゃんがいなくなってから二日が経ち、あと1時間でタイムリミットの夜8時になる。


 オウマちゃんのことは信じているが、どうにも遅れてくる悪いクセがある。

 それまでせめて、“子供”と言われてしまった僕たちでも──力足りない僕たち二人でも、時間稼ぎ程度にはなりたいのだ。

 そうしたら遅れてやってきた、いつも不思議な雰囲気のオウマちゃんがすべて解決してくれるはずだ。


「今夜は良い月だな」


 月下の光にみちびかれ、教会までの幻想的なレンガ敷きをあるく二人。


「エスコートしますよ、お姫様」


「どちらかというとお前の方が、お姫様っぽい性格じゃないか?」


「んだよぅ、ひどいなぁ」


「まぁ、たまには気まぐれでエスコートされてやろう。頼りない王子様」


 二人はクスッと笑いながら、とても戦いに行くとは思えないドレスとタキシード姿で、剣をスッと鞘から引き抜く。

 たどり着いたのだ。

 眼前には大きな教会──、警戒していた多数の修道兵たち。


 話し合いによる直訴や交渉も考えていたが、ここまで守りを固められているということは、バギエルは自覚しているのだろう。

 自分がどういうことをしているか、ということを。

 ならば、話し合いの余地はない。


「な、何者だ! 止まれっ!」


 ざわつく修道兵たち。

 教会武装である片手用メイスをこちらにむけて警告してきている。


「──敢えて汚名を名乗ろう。我こそは最弱の勇者ステラだ!」


「僕は~……最弱のイケメン騎士キザイルって、ところかな?」


「ふふっ。お互い、最弱というところはバッチリだな」


 僕たちは歩く。

 間違いなく、死地への道を。

 まだ明るいうちに教会で“蘇生の加護”を受けようとしても何だかんだと理由をつけられて断られたため、ここで死ぬと本当に死ぬ。

 でもまぁ、冗談を言いながら、微笑んで死地へおもむくというのも悪くない気分だ。


「──我が妹! ジャスティナの件で直訴に参った! バギエル殿と会わせろ! 我が道を遮るというのなら、容赦はせぬぞ雑兵共ッ!!」


 周囲を震わせる気迫、それが伝わってくるステラちゃんの恫喝(こえ)

 怒らせたらマジこえーなーって思う。


「ならぬ! いくら勇者とて、教会の決定を覆すは不可能なり!」


「まっ、そりゃそうだよね。バックの貴族連中がガッチリとサポートしてるもん。正面からじゃ王ですら覆せない理不尽な御命令ときたもんだ」


 たぶん僕の父親も関わっているかもしれない。

 それに負い目も感じてしまう。

 だけど、その不可能とも思える状況を、オウマちゃんはたった二日で貴族達を掌握して合法的に、ジャスティナちゃんの今後も考えて覆そうとしているのだ。

 それなら僕たちも、無茶をしてでも力になりたいと思うのも当然だろう。


(まか)り通らせてもらう」


 とても16歳の少女とは思えない皇女のような威厳を漂わせるステラちゃん。

 一瞬だが敵である修道兵も、まるで崇拝する相手を見るかのようにひるんでしまい、ギリギリまで動けなかったらしい。

 だが──ここを通してしまったら職務怠慢とされてしまうのだろう。

 ハッと我に返り、教会の入り口を固める修道兵たち。


「と、通せるかぁーッ!」


 無謀な修道兵の一人目が、メイスを振りかぶりながらステラちゃんに向かっていく。

 ステラちゃんは、それを児戯と言わんばかりにカウンターの剣で貫く。


「……グハッ!? これが勇者の力……か」


「最弱だがな?」


 死と同時に転移で身体が消える修道兵。

 やはりこうなると予想していて“蘇生の加護”を適用していたらしい。

 僕は内心ホッとしていた。

 だって──。


「つ、続け! 数で押すんだ!」


「力を見せてくれよ──渇望の剣(ブラッドソード)!」


 ──勢い余って大量殺戮者(ひとごろし)になってしまうかもしれないじゃないか。


 僕は群がってくる修道兵たちを、その赤黒い刀身で斬りつける。

 その鋭さはチェーンメイルくらいなら、僕程度の腕前でも切断可能だ。


「な、なんだこいつ!? ただの少年騎士だと思ったら手強いぞ!?」


 いや、なぜか剣の切れ味というより、僕自身の身のこなし(モーション)すら向上している気がする……。

 一人、二人、三人と斬っていくと、まるで経験値が蓄積していくかのような充実感が身体中を駆け巡る。


「キザイル、普段の修練のたまものか?」


「たまにオウマちゃんに稽古を付けてもらってるからね」


「やるようになったじゃないか! それなら私も負けてられないな!」


 ステラちゃんはそういうと、いつの間にか片手で巨大なハンマーを持っていた。

 ドレス姿だったのにどこから……。魔術的な仕組みでハンマーが収納されていたのだろうか?

 ガンガンと、まるで暴風のように敵を打ち倒していくステラちゃん。

 巨大なハンマーの射程に入ると問答無用で叩きつぶし、なんとか接近した相手も、もう片方の剣で的確に斬りつける。

 とても教会の対人戦法が役に立つとは思えないような蹂躙だ。


「我らの教会に攻め入って、よそ見をするとは余裕だなぁ! 少年騎士ぃ!」


「ああ、お前ら程度なら僕でも余裕さ」


「なッ、速……いッ!?」


 やっぱり、ステラちゃんは強い。

 僕も一瞬は強くなれたとは思ったけど、ちょっと良い剣を手に入れた程度じゃあ、届くレベルにはいない。

 まだ足りない。

 もっと、もっと、もっと、もっと──力が欲しい。

 そう願いながら、強くなるために修道兵を渇望の剣(ブラッドソード)で斬りつけまくる。




 ──そうして我武者羅(がむしゃら)に戦っていたら、いつの間にか生者は2人になっていた。

 さぁ、この立っている相手を斬ってもっと強く──。


「キザイル、終わったな」


 ……何を考えているんだ僕は。

 目の前にいるのはステラちゃんだろう。


「う、うん。そうだね」


「それにしてもその剣、大した武器のようだな。さすが竜殺しの枢機卿が使っていたものだ」


「ステラちゃんにはバレちゃってたか……。拾ったから有効活用させてもらっているんだ。まだまだ分不相応だけどね」


 元の持ち主である騎士団長、いや──竜殺しの枢機卿ライオネル。

 彼は蘇生されていたのだが、記憶が混濁しているようで教会関連のことは覚えていなかった。

 そのまま罪人として城の牢に拘束されている状態だ。


「別にいいじゃないかキザイル。その武器に相応しいお前になればいいだけだろう?」


 その言葉は僕を後押ししてくれた。

 渇望の剣に相応しい者。

 つまり、そうなんだ──力がまだ足りない。




* * * * * * * *




 教会の中を探し回るも、なかなか大司教バギエルは見つからなかった。

 寝所、執務室──あとはその横にあった階段から行ける、鍵付きの地下室くらいだ。


「ひ、ひぃっ!? 殺さないで!?」


「ん? なんだ? もしかして蘇生の加護をかけていないのか?」


 地下に降りて、重厚な扉の前にいた修道兵に剣を突き付ける。

 そこは教会というより牢獄のような作りになっていた。


「い、いや……だって蘇生つったって、死ぬほど痛いだろう……? 別に俺は信者でもないし、バギエル様に甘い汁だけ吸わせてもらえればよかったんだ……」


「ふんっ、金目当てか」


 ステラちゃんはつまらなさそうに剣を納めると、相手の手首を、落ちていた縄で縛った。

 ……なぜ、縄が落ちている?

 いや、よく見たら鉄の鎖や、使い方がわからない機具が数多く置いてある。

 ステラちゃんは奪ったカギを使い、奥にバギエルがいないか確かめるために扉を開けた。

 いや、開けてしまった──。


「どうしたんだい? ステラちゃん、急に固まって」


「……ッ」


 僕は不思議に思い、その扉の中を覗き込んでみた。

 そこには複数の子供たちがいた。

 ジャスティナちゃんくらいから、それこそ僕たちくらいの歳まで。男女問わず。


「これがバギエルの甘い汁の正体か」


 子供たちは粗末な奴隷のような布きれ一枚で裸体を隠しきれずに、アザだらけの子もいて、眼はよどんで、絶望していて、僕たちに向かって頭を地に着け、ひれ伏していた。

 どんな扱いをされているのか想像してしまった。

 女の子があんな顔をしていて、男の子がプライドを壊された態度。

 薄ら寒さと恐怖でガクガクと身を震わせ──だ。


 普段なら怒りや哀れみなど感情がわき上がってくるのだろうが、今は不思議と違っていた。

 力無き者の当然の末路──。

 冷たく、そうとしか映らない。


「へ、へへ……。なんなら、そこのガキ共を好きに使っていいから……」


 拘束されている人の形をした畜生(ケモノ)が声を発したので──。


「あがッ!?」


 僕が手にしていた渇望の剣(ブラッドソード)が勝手に心臓を貫いてしまった。


「き、キザイルお前……すでに縄で縛っている修道兵を……」


「あ~、ごめんステラちゃん。コイツ(・・・)つい殺しちゃったみたい」


 もう命の重さがわからない。

 だけど強弱の重さはわかるかもしれない。

 弱ければ何も望みを叶えられず、強ければ何もかも自由にできる。

 僕の方が強かったから殺した、ただそれだけだ。


「……すまないキザイル。血にまみれた私なんかと違い、お前をこのような場所に連れてくるべきでは──」


「それじゃあバギエルを探そうか」


「あ、ああ……」




* * * * * * * *



「キザイル、大丈夫か? 顔色が悪いぞ……?」


 ここまでの記憶があいまいだが、広い大聖堂の中。

 そこに僕たちは立っていた。

 目の前には追いつめた大司教バギエル。


「だい……じょうぶだよ。バギエルを拘束して時間稼ぎをすればいいんだよね?」


「ああ、そうだ。だが、無理をするなよ。キザイル」


「みどもを拘束するとォ? 子供の侵入者が何をおっしゃるかと思えば、まァったく方腹痛いですねェ!」


「なんだと? 大司教バギエル、貴様を守る修道兵はすでにいないのだぞ? この勇者の力にかなうとでも思っているのか──」


「ところがァ! みどもには、神から授かりし力がありますからなァ」


 ステンドグラスから差し込む月光が大聖堂内部を照らした。

 信者たちがいない空席の長椅子、神の巨像、それとバギエルが持つ──謎の物体。

 見たことが無い装備だ。


「この銃というものが──神の加護さえあれば、みどもに勝てる者などいないのですよ?」


「銃……。なんだそれは……」


 バギエルの手には、くの字に曲がった小さな黒金の物体が握られていた。

 それが銃という神の力らしい。

 足元にはそれと同類のようなモノから、杖のような長い形状のモノも置かれていた。


「こういうものですよ──」


 バギエルは、銃をステラちゃんに向けていた。

 そしてカチリと音がしたあとに、何かの大きな破裂音。


「うぐッ!?」


「ステラちゃん!?」


 離れた位置にいるはずのステラちゃんが、うめいて後ずさっていた。

 何かの攻撃を受けたというのか……?

 この長い距離を瞬間的に攻撃するのは、並大抵の魔術では難しい。

 弓矢ならわからなくもないが、バギエルはノーモーションでそれをおこなった。


「だ、大丈夫だ……。とっさに魔力を防御にまわした」


 ステラちゃんはガードした腕に大きなアザを作りながら、バギエルの視界から隠れるように柱の隅まで移動していた。

 僕もその判断は正しいと感じて、柱に隠れる。


「くくく……遮蔽物に隠れるか。

 もしかして時間を稼げば、なんとかなるとか思ォっているのかな?

 そう、あのオウマ・ブラオカというおっさんがどうにかしてくれるとォ?」


 説法をするための建物でもあるので、大聖堂はバギエルのネチっこい声がよく響く。


「ちっ、オウマちゃんが貴族たちをどうにかしようとしてるのは、もうバレちまっているらしい」


「まぁ、それも無駄ですがねェ。……ハハハハっ!」


 無駄……? オウマちゃんに何かあったのだろうか。

 いや、だがそんな言葉にまどわされている場合ではない。

 どうにかして、あの“銃”とかいう、射程が長くて威力の高いモノをくぐり抜けて、バギエルを倒さなければ。


「……キザイル、私がオトリになる。あとは任せたぞ」


 横にいるステラちゃんは、痛々しいアザの出来た腕を押さえながらそう言った。


「ステラちゃんをオトリになんて……。それに今はドレス姿だ……ミスリル鎧も無しに……」


「さっき食らってみてわかった。アレは鎧を貫通する威力だが、魔力によって数発くらいなら耐えてみせるさ」


「ダメだステラちゃん! 一発でそのケガ! 今度こそ、本当に蘇生の加護なしで死ぬかもしれないんだよ!?」


「適材適所だ。たとえこの身砕けようとも、妹を……地下の子供たちのような目にあわせるわけにはいけない」


「……で、でも!!」


 焦燥する僕を見て、ステラちゃんはフッと表情を緩めた。


「それに……オウマ殿に笑われたくない。あの人が(つむ)ぎたかったものを、私にも(つむ)がせてくれ」


「……そう、だね。ステラちゃんは一度言ったら引き下がらないよね。

 わかったよ、ここで言い合っててもオウマちゃんに笑われる。

 僕は弱くて目立たないからね、ぴったりの……役目さ」


 ──僕に力があれば、ステラちゃんをこんな役目にさせなくて済んだのだろう。


「では、いくぞ!」


 ステラちゃんは先に跳びだし、両腕で顔面をガードするような形で仁王立ちした。


「はっはァ! マトになりにきましたか! 顔と身体はなかなかだったので、みどものコレクションに残したかったのですがねェ!」


「貴様の銃とやら、魔力か何かが切れれば役立たずと見た! さぁ、撃ってこい!」


 銃から放たれる何か。

 それがステラちゃんにぶつかっていく。

 一発、二発、三発──。どれもが重く強く、ドレスを貫き、身体に大きなアザを作っていく。

 魔術師の防壁などと違って、肌に直接魔力を張り巡らせての防御方法。

 そのために防いでもダメージがあるのだ。


「くそッ!」


 ステラちゃんが引きつけてくれているんだ。

 今のうちに僕がなんとかしなければいけない。

 僕は、しゃがみながら大聖堂内部に設置されている木椅子に低くまぎれ、バギエルの方へと近付いて行く。


「ぐっ、うぐッ!?」


 ステラちゃんの苦痛にまみれた声が聞こえる。

 僕は自分に言い聞かせる。焦ってはダメだと。

 ここで急いで行動してバギエルに気が付かれたら、それこそステラちゃんの覚悟が無駄になる。


「耐えますねぇ。いやぁ、銃の弾が切れてしまいましたよ?」


「ふふ……根比べで私の勝ちということか……」


「では、みどもの第二弾を発射いたしましょうかァ?」


「なッ!? その下に置いてあるのも、まさか全て銃というモノなのか!?」


 僕の位置からは見えないが、銃の発射音が凄まじいペースになってきた。

 まるでバッファローの大群が走るかのような、破壊的なリズムの速さだ。

 もし──それが全てあの銃というもので、ステラちゃんに吸い込まれているのだとしたら……。


 ゾッとした。

 今、ステラちゃんがどんな状態になっているか。

 まだバギエルの攻撃が続いているということは、立っているはずだ……。

 でも、立っていれば立っているほどに銃撃を受け続けているということになる。


 くやしいが……僕はどんな激情に駆られても、今は声を出してはいけない。

 欲しい、力が欲しい──。

 ステラちゃんを守れる力が──オウマちゃんに頼らなくても平気なくらいの強い力が……。


「──そういえば、あのマクドゥガル家の小僧はどこ──ッにィ!?」


 丁度、死角にまわった瞬間の僕と、運悪く見回したバギエルとで目が合ってしまった。

 見つかった。

 残念ながらまだ距離がある。

 僕の方に向けられる銃。

 もう破れかぶれで突っ込むしかない。


 ──バギエルに飛び掛かるように地面を蹴った。


「騎士風情が! 死ねェーッ!!」


「まだ死ねねぇんだよ!!」


 空中の僕は、もう軌道を変えられない。

 こちらに向けられる、杖のように細長い銃。

 それは特別製らしく、何発も連射してくる暴力の雨となって僕に降り注ぐ。


 だが──。

 不思議なことに、時間がゆっくりに見えた。

 鈍色の弾丸がはっきりと、回転しながらこちらに向かってきているのだ。

 よく見ると僕への直撃コースはたった2発。


「簡単なことじゃないか。なぁ? 渇望の剣(ブラッドソード)!」


 銃弾を斬った。

 ひねり、切断された銃弾の軌道をずらしながら。


「なにッ!?」


 そのまま返す剣で、バギエルの持つ銃を手首ごと切り裂く。


「子供の夢を奪う時間は終わりだぜ? 大司教バギエル(キャプテン・フック)


 チャキッと、バギエルの首に刃を突き付ける。

 そのまま斬ろうかとも思ったが、バギエル自体は弱いので無価値だ。


「僕たちの勝利だね。ステラちゃん」


「あ、ああ……。やったな、キザイル……」


 ステラちゃんは着ているドレスがボロボロ、身体中も傷だらけ。

 でも、命に別状はなさそうだ。


「ステラちゃん、頑丈すぎない?」


「ふふ……ドレスが破けてしまったのが、一番痛いかもしれないな……」


「見ようによってはセクシーかもね」


 痛々しいのだが、同時に戦闘後の勇者という貫禄ある風体で格好良くも思う。

 自然と破れたドレスがスリットのようになっていて太股が見えていたり、それはもうドレスの布地より肌色の方が多くなっていたりもするが。


「この格好でオウマ殿のホームパーティー……どうしようか」


「大丈夫、ギリいける! ファッションとしてギリ!」


 何はともあれ、これで決着だ。

 あとはオウマちゃんが貴族たちを抑えてくれるのを待って、ギリギリホームパーティーに間に合えば大勝利。


「オウマ・ブラオカ──。お前たちは、愚かにも奴を信じて、まァだ待っているのか?」


「なに?」


 バギエルは醜い顔をさらに醜くして、地の底から響かせるように笑った。


「フヒハハハァ! オウマ・ブラオカァ、やつァ死んだァ!」


「……え?」


「これが証拠だ。ほォれ」


 バギエルがふところから取り出し、地面に投げたのは革鎧の切れ端だった。

 それは紛れもなくオウマちゃんが愛用していたモノ。


「う、うそだ……。これくらい、似たようなものを……。オウマ殿は、すぐに王都に帰ってきて……」


「ああ──その通り。もうすぐ首だけが運ばれてくる予定だ。貴族を嗅ぎまわってるネズミがいて、処分したらオウマ・ブラオカだったのだよォ?」


「オウマちゃんが……そんなはずは……」


「オウマ・ブラオカの首を使ってジャスティナを素直にさせ、みどものモノにしてやるのだァ!」


 オウマちゃんが死んだ……?

 ウソだ、ウソに決まっている……。

 きっと、僕たちを動揺させて……。

 だけど、この追いつめられた状況でウソなんて吐く必要があるのだろうか……。

 そう考えたら、残念ながら……。


「オウマちゃんは……死んだのか……?」


「そう言っているじゃあ、ありませんかァ?」


 頭が真っ白になった。

 目の前のバギエルを殺すことしか考えられない。

 力が、もっと力があればオウマちゃんを死に追いやる事もなかった。


「ヒッ!?」


 渇望の剣(ブラッドソード)が弧を描き、バギエルを一刀両断する──はずだった。

 だが──。


「やれやれ、(わらわ)が出ねばならんとはのぅ」


 突如現れた何者かによって、指一本で受け止められていた。


「や、やっと出てきたか! 遅いぞ!」


「チッ、妾の弱みを握っているだけのバギエル(ゴミ)が……」


 剣を指一本で受け止めるという信じられない行動をして、余裕の悪態を吐いている。──それは人の形をしていた。

 女性らしい豊満な身体を薄くつつむノースリーブ黒ドレス、炎のようなウェーブの赤髪、優雅さを携えた高貴な顔の作り。

 

 しかし、人間ではないのは一目瞭然だった。

 なぜなら曲がりくねった硬い角と、太くヌラヌラした尻尾、大きな翼があったからだ。


「妾は温厚ゆえ、そうさな。このまま引くというのなら命だけは取らずにおいてやってもよい」


 彼女は指をついっ、と動かすだけで、僕ごと渇望の剣を跳ね飛ばした。

 圧倒的な重力を相手にするかのように身体ごと、ステラちゃんの近くまで吹き飛ばされる。


「ぐッ!?」


「き、キザイル大丈夫か!?」


「だ、だいじょうぶ……らしい。殺意があったら一瞬で殺されていただろうけどね……」


 僕にかけよってくるステラちゃん。

 もう二人ともボロボロだ。

 新たに現れた存在が強すぎて、どうやっても勝てる気がしない。


 それにオウマちゃんはもういない。どこにも希望無しの八方ふさがり……。

 どうすれば……いいんだ……。

 見逃してくれるからって、このまま逃げろっていうのか……!?


「──小僧。お主、名は何という?」


 空気が変わった。

 角と翼の彼女が、その赤い瞳孔周りを黒く染める人外の眼で、自らの指先を見ている。

 テラリと光る一条の血液。


「キザイル・マクドゥガルだ」


「気が変わった。妾の身体を傷付ける戦士と認めて、お主を消滅させてやるかのぅ」


竜の逆鱗(・・・・)に触れちまったかな……?」


「くふふ、勘が鋭いではないか。

 妾は“竜魔将軍ドゥルシア”とも呼ばれた龍神(そんざい)

 ありがたく、破壊の吐息を(しとね)に逝くがよいぞ?」


 彼女──竜魔将軍ドゥルシアは、まるでオペラを歌うかのように口腔を開放した。

 口の中から溢れる、真っ赤なルージュよりも深紅の光。

 それが指向性を持って、僕とステラちゃんの方へ広がり、ドッと放たれた。

 とても避けられる速度、範囲ではない。

 たぶん──その吐息に抱擁されて死ぬのだろう。


 ステラちゃんを……ジャスティナちゃんを守れなかった。


 僕は──人間は──なんて弱い存在なんだ。

 ホンモノの化け物の前では、努力や才能なんてなんの役にも立たない。

 力が──力が欲しい。

 竜を殺せる圧倒的な力が……ッ!!


 ──僕が主役だったら、ここで奇跡の力に目覚めて、格好良く竜を倒すんだろうけど、そんなことは都合良く起きなかった。

 眼前まで迫ってくる深紅の破壊光。大聖堂の半分を崩しながら、こちらに向かってきている。


 僕は安心した(・・・・・・)


「主役は僕じゃない」


 ──そのたくましい背中を見られたのだから。


「やっぱり主役はキミだよ──親友(・・)


「すまぬ、大聖堂(パーティー)に遅れたのである」


 空から天井を派手に突き破ってきたオウマちゃん。その渋い声を聞いたら気が抜けててしまったのか、僕の意識は失われてしまった。

 素手で深紅の破壊光を殴り消しているのが見えたけど、オウマちゃんなら、それくらい普通だと思える安心感だった。


 あとはまかせたよ、親友。

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新連載を開始しました。
国を救うことに疲れてしまった強すぎる竜装騎士が、相棒の竜と共に田舎に移り住むスローライフ(?)なお話です。
どうぞ、こちらもよろしくお願いします。


『伝説の竜装騎士は田舎で普通に暮らしたい ~SSSランク依頼の下請け辞めます!~』
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