15饗宴 旅立ち
「大丈夫であるか……?」
我はイフィゲニアを抱き抱えてシュタッと着地。
空からの攻撃によって消滅した倉庫から、すんでのところで脱出していたのだ。
すでに狙撃者の姿の見えない頭上をながめる。
「はい、魔王様……。けど……あれって、あのブレスって……やっぱりアイツですよね?」
「彼奴であろうな──竜魔将軍ドゥルシア。破壊龍神のブレスに違いあるまい……」
「もー、ドゥルシアのやつ……! 魔王様はともかく、ボクは一歩間違えば死んでた威力でしたよ! 纏っていた魔影もぶっ飛んじゃいましたし!」
めずらしくイフィゲニアが怒っている。
同時に我に抱かれているからか、耳と尻尾が嬉しそうにピコピコ動いているのは見なかったことにした。
「とりあえず……首に回してる腕を離して欲しいのである」
今はただの男装した猫娘を地面に下ろしながら、途方に暮れる我は溜め息を吐く。
あの龍神が敵にまわっている可能性が高くなったからだ。
さきほどのブレスは倉庫一つ吹き飛ばしたにもかかわらず、威力は限界まで抑えていたものだろう。
たぶんだが……拘束された枢機卿が尋問されるのを恐れての“破壊”──というところだろうか?
その目論見どおり、竜殺しの枢機卿ライオネルは教会送りとなった。
転送される光も見えたので、蘇生の加護はかかっていたはず。
「この状況はまずいのである……。イフィゲニアの進言通り、外堀から埋めねばならぬか。だが、残り時間はあと二日……」
事態は思った以上に逼迫している。
ジャスティナ救済は、最後の手段として力押しも考えていたが、そのような甘い状況ではなかったのだ。
一歩、行動を早まっていれば、あの竜魔将軍を真っ正面から敵に回していた。
ここはリスクを承知で決断するしかない──。
「オウマ殿! ご無事でしたか!」
「オウマちゃん! よかった……生きてて……!」
我の元に慌てて駆け付けてくるステラたち。
キザイルにいたっては泣きそうな顔になっている。
……そうか。事情を知らぬ者たちからすれば突如、ここらへんが爆発したかのように見えたのか。
「お、おい。おっさん……今の爆発は……?」
「あ~、ハゲ筋肉人間……。あれは~……そのね、えーっと……。つ、つまり~……──」
我、なんて説明すればいいのであるか!?
魔王と魔将軍と枢機卿が戦っていて、そこに証拠隠滅ブレスを龍神がぶち込んできたとか言えないよね!?
──というところでフォローが入った。
「あれはですね、倉庫に在庫として置かれていた魔道具が誘爆したんですにゃ~。
いやぁ、大変でしたにゃ~。
突然、獅子のようにおっかない大男が倉庫に乱入してきて剣を振り回し引火。
そこにいたボクは、オウマ様に助けて頂いたのですにゃ~」
うぉぉ……すごいぞイフィゲニア。
よくもまぁ、そんなウソを即興でスラスラと……。
「あなた達はオウマ様のお知り合いなんですね。ボクは猫獣人のイフィーといいます。オウマ様とは以前からの知り合いで偶然、再会したところですにゃ~」
「そ、そう! そういうことなのだ! イフィーというのだ此奴は!」
ペコリとおじぎをするイフィゲニア。
たしかにこれなら第一印象としては人なつっこく、警戒されにくいという雰囲気だ……!
おまけにイフィゲニアと親しげに話しても問題ない設定!
「なるほど。そういうことでしたか」
意外とすんなり受け入れるステラ。
キザイルはとりあえず、おじぎを返している。
「おっさん、ライオネルのボウズはどうなった……?」
「……たぶん転移で教会に送られたのである」
「そうか。街中でこれだけのことをやらかしたんだ。ローランド王に話して拘束してもらう。証拠がこれだけありゃ、教会も手出しできねぇだろう」
我もそれを頼もうと思っていたが、ハゲ筋肉人間もおなじことを考えていたようだ。
今は時間が惜しいので助かる。
まぁ、しばらくは蘇生の衰弱もあるだろうし、あの禍々しい剣ブラッドソードを使うこともできまい。
これで安心して──この街を離れられる。
「ステラ、キザイル。今回のことはよくがんばった。大人である我は、自らを不甲斐なく思う」
「オウマ殿……そんなことは……」
「そ、そうだよ! オウマちゃんが間に合ったから!」
「いや、あのような剥き出しの刃のような輩を、まだ子供のお主たちに近寄らせてしまった……」
ライオネルは数日前とは比べものにならないくらい、ひどく精神が歪んでいるかのように思えた。
彼奴が日常を偽っていたのか、それとも──。
「いいか? あとのことは我にまかせるのである!」
「オウマ殿、なにを……?」
「なぁに、ちょっと家を留守にするのであるが──期限までには解決してみせる」
「お、オウマちゃん……なにか僕たちに手伝えることは……?」
「ああ、そうだ。ステラとキザイルには重要な任務がある」
パァッと明るくなる二人の表情。
「それは──」
「そ、それは!? なんだってするよ!?」
「ホームパーティーの準備を頼んだのである!」
「う、うん……」
なぜか期待していなかった答え、とでもいうように表情が一気に暗くなってしまった。
うむむ? なにか二人の気に入らぬことを言ってしまったのであるか……?
だが、ジャスティナが教会に引き渡されるまでのタイムリミットは二日しかない。
同時にそれはホームパーティーの開催時刻。
我はその二つを手中に収めるために、イフィゲニアと外堀を埋めなければならない。
外堀とは、貴族たちのバック──それを潰していくのだ。
イフィゲニアによると、王都教会との関わりを持つ貴族は、いくつかの街の大貴族にまで渡るという。
それをたった二日でどうにかするのだ。
不眠不休の作業となるだろう。
危険な目にもあうだろう。
それをどうにかするのは力ある者──我とイフィゲニアの役目なのである。
「お、オウマちゃん……僕……」
「どうしたのであるか? キザイル?」
めずらしく暗い表情のままだ。
いつもならすぐ立ち直ったりして、明るく我を応援してくれるのだが……。
「う、ううん。なんでもないよ……いってらっしゃい」
その少しだけ悔しく、悲しそうな親友の笑顔を背に──我は旅立った。
* * * * * * * *
──誰もいない場所で、キザイルは禍々しい剣を拾っていた。
よどんだ心に反応するかのように輝く魔性の刀身。




