14饗宴 魔影纏い潜む者 ─シャドウ・イントルーダー─
我、余裕綽々で『またせたな』とか格好つけちゃったけど、内心はドキドキである。
本当にね、もう間にあってよかったよ、うん。
ライオネルが“竜殺しの枢機卿”と気がついて、ステラの家から移動してきたのだが、さすがに距離がありすぎた。
普通に移動していたら絶対に間にあわない。
そこで、街での活動に特化したイフィゲニアの能力に乗せてもらったのだ。
……いや、魔影に入って、街中の影から影へササッと高速移動するのは、乗せてより入れてもらってのほうが表現として適切だろうか?
まぁ、どちらにしてもおっさんが、オリンピア選手も驚く猛ダッシュで変態移動するよりは目立たないで済んだ。
さすが工作活動を得意とする人魔将軍。
事前調査で人のいないポイント、時間を頭に入れているとかで、付近の民家の中で影からヌッと出てきて、窓パリンしてライオネルの凶行をふせいだのだ。
教会でも窓パリンしていたような気がするのだが、あだ名が窓ガラス破壊魔とかにならないか心配なのである……。
ちなみにそれを受け止めたのは、民家の中で拝借したモップである。
なんかとっさに掴んでしまった。
「……なぜ、モップでオレの“渇望する剣”を受け止められるのだ……?」
「あっ」
しまった……!
直前にハゲ筋肉人間の剣が武器差で砕かれたばかりなのに、我ったら、ただのモップでどうにかしちゃったよ!?
ええと、何か理由を……よし!
「じ、実は伝説のモップなのである……!」
伝説のチェーンソーとか、そんなありがたみのない武器も存在してるし、わりといけるのでは。いや、いける! 我は確信する!
うぐ、ステラとかキザイルが何とも言えない表情をしているのである……。
まずっちゃった……かな?
「なるほど、このオレの攻撃をまともに受けられるのが証左と言える。
ふさわしき相手よ、オレの心に火を付けた張本人──オウマ・ブラオカ!」
信じた! 意外と純真だった“竜殺しの枢機卿”!
よし、ここまではセーフだ。
まったく不自然ではない……はず!
だが、問題はここからだ。
此奴は人間をかるく超えている。
それ相手にこれ以上、ただのおっさんが立ち回っている姿を見られたら不審がられてしまう。
とくにステラに魔王とか知られたらダメだ。かなり毛嫌いしていたし、それはもう大変なことになるだろう。
ここは──我が配下にもう少し頼るか。
「神の道を踏み外し枢機卿よ。お主もバギエルと共にジャスティナを狙うのか?」
「……バギエル? ああ、あの汚ぇ大司教か。ジャスティナには興味はあるが、オレがここにいるのは偶然だ。……いや、龍のニオイがしたなら必然か?」
「む、バギエル一味ではないということか……」
考えてみれば、たしかにジャスティナを手に入れることと、街中でいきなり暴れ出したことに関連性が見いだせない。
むしろ期限までは穏便にしたいバギエルにとっては、マイナス要因でしかない。
「ただ戦いたいときに戦う。それで殺し合うには十分な理由だろう?」
「教会もマトモな奴はいないらしいな」
──我が魔王軍、魔将軍もだが。
そう独りごちながら、モップの切っ先をライオネルに向ける。
「この我がゴミ掃除をしてやろう。ついてこれるか?」
「おもしれぇ、やっとやる気になったか! 底の見えない男──オウマ・ブラオカァ!」
挑発に乗ってくれて、我ホッとする。
ふたたびモップにエーテルを通して、魔法の杖のように強化をほどこす。
実のところ、ただの鉄の剣よりは、我にとっては木の棒の方が使いやすい。
エーテルの伝達率が鉄より、木の方が高いためである。
……見た目はモップでひどいが!
「おっらァッ!!」
ライオネルの剛刃なる一撃。
もはや剣ではなくハンマーのように扱い、一直線に振り下ろされた先の地面が砕け散る。
けん制の初撃だと読んでいた我は、既に大きく飛び退いていた。
「甘ぇ!」
一瞬にして、かなりのマージンを取っていたはずだが距離を詰められた。
肉薄──獣のような息がかかる。
ドスを突き刺すような動作で、密着からの串刺し狙いをされた。
リーチのある長物モップの弱点をついてきたか。
「──だが!」
我はモップで棒高跳びして、さらに後方へ下がる。
「チッ」
舌打ちしながらライオネルはさらに追いかけてくる。
猪突猛進に近いが、素早さと機転もあるために厄介だ。
我は押されている。
──……ように見えるはずだ。
誘導は順調。
そのまま、誰の目にも入らない無人の倉庫へと飛び込む。
「逃げても追い続けるぜぇ! このオレの“渇望する剣”は狙った獲物に何度も何度も刃を突き立てようとするんでなァ!」
「……お主、武器差で勝って嬉しいか?」
「またそれか。んなもん、勝ちゃあ良いんだよ、勝ちゃあ!!」
戦いの場は昏い倉庫の中に移った。
昏い、とても昏いのだ。
ただの暗き闇より深き、その黒自体が意思を持つかのような漆黒。
不自然なほどに──自分たちの影すら見えない。
「なっ!?」
ようやく気が付いたライオネル。
既に遅い。
ここは“彼奴”のテリトリー。
「そうだよね。ボクも同意見だよ」
「う、動けないだとッ!?」
「勝てばいいんです♪ 勝てば♪」
闇の中に生まれる巨大な影。
眼のような、口のような暗澹。
それは何かはわからない。
ただの無邪気な悪意の抽象画のようなものだろう。
彼奴は“魔影纏い潜む者”と呼ばれる撲朔謎離の存在──。
我が十二の魔将軍が一体、人魔将軍イフィゲニアである!
「“魔影”のトラップで完全拘束完了。これであの時の借りは返しましたよ」
ライオネルは闇の中、さらに濃い闇である“魔影”に身体中を掴まれていた。
「さぁ、魔王の名の下に選ばせてあげましょう。誇りで潔く死ぬか、足掻いて無残に死ぬか」
ちょーっと待つのである! なんか魔王への風評被害じゃないの!?
それにライオネルは殺さないからね!
という意思を込めて、人魔将軍イフィゲニアらしきモヤモヤした物体を睨み付ける。
「……と思わなくもないけど、ボクがここにいたのは偶然なのさ。あとは人間同士に任せるよ」
どうやら察してくれたらしい。
なんとな~く、相手から見たらできすぎな気もするが……。
神出鬼没な人魔将軍なんてそんなもの! と思われていそうなのできっとセーフ。……セーフになれ! なれ!
「さてと、それじゃあ色々と聞きたい事が──」
「えっ」
ライオネルを拘束したところで尋問開始。
……というところで、イフィゲニアの入念に仕掛けたトラップの魔影すら貫く何かが見えた。
それは頭上からの赤い棒状の光。
巨人族の機械でレーザーサイトというのがあったが、あれのような光線だ。
──それが倉庫の天井をも貫通して、ライオネルの身体を照らしている。
「これはマズイ──」
我とイフィゲニアは、この赤光を知っていた。
全てを破壊する吐息の前兆。
「は……ははははは!! やっぱりニオイのした通り“龍神”が居たんじゃねーか!
一度、食らってみたかった! そして次に戦う時に──」
ライオネルが最後まで喋りきる前、倉庫は消滅した。




