11饗宴 角と尻尾の魔将軍?
※三人称視点です。
暗い路地裏。
陽に愛されたような明るい色の金髪ツインテールを揺らしながら、その6歳の幼女はトタトタと歩いていた。
少しだけ動きにくい、分不相応に重い剣を背負っていてバランスは危うい。
それは以前キザイルが所持していて、命がけで幼女──ジャスティナに渡した剣だ。
鳥魔将軍グゴリオンとの戦いのあとも、『いつか僕がそれに相応しい男になるまで使っていてくれ』と──預けられたままなのだ。
なので大切に使わせてもらうことにした。
「キザイルさんの言ってたおみせは……こっちだよね?」
ジャスティナは不安げにつぶやく。
ひとりでも平気だと家から飛び出したものの、途中で道に迷いそうになったり、何となく路地裏の方が楽しそうだと未知に飛び込んだりして──。
王都では珍しい“クラッカー”を購入しに小さな冒険をしている最中なのだ。
現在地は、目的の店の方角に進んでいる……ような気がする程度である。
今歩いている路地裏で誰かと出会えれば、道を聞いたりもできるはずだ、と自らに言い聞かせながら進む。
「で、でも……。そういえば、へんなウワサがあったような……」
ジャスティナが見ている、暗く不気味な路地裏の視界にリンクして、オウマたちと話した都市伝説が思い出される。
姿は暗くてよく見えないが、角と尻尾のような人外のシルエットが現れるという。
もしかしたら……今、この瞬間にも現れるのでは……?
ジャスティナは身をブルッと震わせる。
いくら勇者の力に目覚めていたとしても、怖いものは怖いのだ。
それに──“力は使えない”。
「おぉっと、お嬢ちゃん。1人で歩いてどこに行くのかなぁ……?」
「ひっ!?」
誰かがジャスティナに話しかけてきた。
今まで考えていたウワサのせいで、ビクッと跳び上がりそうになる。
「おいおい、怖がりすぎだろう?」
存外、優しい声だった。
それに安心して、視線を向けると──。
「何かするのはこれからだってのによぉ?」
「幼女が高級剣しょって来やがったぜ」
「た、食べられる、かな。オデ、だべられるかな!?」
チビモヒカン、入れ墨ハゲ、デブリーゼントという見事なテンプレのゴロツキ三人組だった。
着ているものは黒光りする革のジャケットや毛皮、オマケにドクロを頭上に載っけているのもいる。
あまりのインパクトにジャスティナは呆気にとられていた。
「あ、あたしになんのごようでしょうか……」
人は見た目で判断してはいけないとオウマに教えられたので、落ち着きながら質問をしてみたが……。
「おう、ご用だ。身ぐるみを剥がせてくれや」
どうやら本当に見た目どおりの人間らしい。
明らかな敵意を感じたジャスティナは咄嗟に、背中の剣に手をやろうとするが──そこで動きを止めた。
「おいおい、お嬢ちゃん。まさかそれで戦おうっていうのか? もしかして、この王都を救った“小さな勇者さん”にあやかろうとするブームでもきてるってのか?」
「ヒャハハ、もしかしたらコイツがホンモノかもしれないぜ!」
「うぅ……」
他人にどんなことを言われても、ジャスティナは剣を抜く決心が出来ない。
それは、師であるオウマの言葉が、どんなことよりも重く優先されるからだ。
あのときに教えられた言葉──『誰かを守る時』だ。
……それ以外は力を使えない。
「そうそう、ガキは大人のいうことを素直に聞いてりゃいいんだよ」
「さぁ、ケガはさせないから身ぐるみを剥がされなぁ!」
ジャスティナは認めたくなかった。
こんなのが、オウマと一緒の“大人”だとは。
小さな身体に伸ばされる、ゴロツキ3人の無骨な手。
次の瞬間には悲鳴か、それとも無残に引き裂かれる衣服か。
そう思わせる場面。
だが──。
「な、なんだ……!?」
暗い路地裏だが──さらに昏い真の闇がぶちまけられたように広がり、ベタリベタリと塗りたくられてゆく。
その“魔将軍”のエーテルに、人間であれば一瞬にして戦意を失う事だろう。
全員の視線が、闇が伸びてくる方向に向けられた。
黒のみで形作られた人のようなシルエット。
頭には龍の角のようなモノ、後ろに尻尾が揺れている。
光すら逃げる異形の相手が近付いてくる。
「ひ、ひぃぃ!?」
「ご、ごめんなさーい! マジメに働きますー!」
「オデたち、ロリコンじゃないから、本当に金目の物をもらおうとしてただけなんでずぅ!」
元々、根っからのゴロツキでは無かった三人組は一目散に逃げ出した。
その“闇の主”は、なにかしようと思えば一瞬にして様々なこともできたのだが、特に目的でもなかったので歯牙にもかけなかった。
ただジャスティナの方へゆらりと近付くだけ。
「つ、つの……しっぽ……」
ジャスティナは恐怖していた。
相手の強大な力に、というより、子供らしくウワサが怖いのだ。
「も、もしかしてドラゴンさんですか!?」
「にゃ? 違うにゃ?」
一瞬にして周辺は明るくなり、そのシルエットだったものを現実へと形作っていく。
「ボクは猫獣人だにゃ~。こんにちは、小さな勇者さん」
マイペースに猫っぽい言葉を喋る、猫耳と尻尾の獣人少年。
水色のさらさらショートカットを陽の光にすかしながら、小さなジャスティナを見下ろして微笑んでいる。
「あれ? つのじゃなくて、おみみです?」
「うん? なにかと勘違いしてたのかにゃ? ボクに角なんて生えてないよ~。怖い龍神じゃあるまいし~」
のんきに言葉を続ける。
「さっきまでくもってたのが、急に晴れたから驚いちゃったのかにゃ~。疑心暗鬼にゃらぬ、疑心暗龍ってね。にゃはは」
その姿は健康的な半ズボンに、白く清潔なシャツ、オシャレなスカーフを首に付けていた。
ジャスティナからすれば、とても悪い存在には見えない。
「あ、そういえば、さっきのゴロツキたちを逃がしちゃったけど──……大丈夫そうだにゃ」
路地裏から出たところでゴロツキ三人組は、駆け付けたオウマにラリアットを食らっていた。
「にゃっほー」
「お、お主は!?」
魔王と人魔将軍イフィゲニアの再会であった。




