10饗宴 予兆
「なるほど。そのような間柄であったか」
騎士団長ライオネルの過去から、それぞれの人間関係がわかった気がする。
だが、その話の中に出てきたハゲ筋肉人間の“家族を魔物に殺された”という過去が気になってしまう。
魔王軍の面々は非戦闘員がいる場所には近付かないようにしているし、むやみに蘇生の加護がかかっていない人間を殺すのも我が禁止していたはずだ。
今の魔王軍はわからないが、少なくとも過去の魔王軍はそれが厳守されていた。
野良のモンスターも、なるべくは生息範囲を人里に寄せ付けないように誘導していたはず。
本当に我々側の存在がやった事なのだろうか……?
「私もかねてから、それとなくお噂は聞いていたのですが……。前団長は、今とずいぶん雰囲気が違うのですね……」
そのステラの言葉に同意してしまう。
昔は復讐鬼のようだったハゲ筋肉人間。
今は普通に気の良いハゲ筋肉人間という印象だ。
「だっはっは! 恥ずかしい昔話だな! 人間、結婚したら色々と変わるのさ!」
「そういうものであるか?」
「おうよ、そういうもんだ。おっさんも結婚すればわかるぜ」
結婚──このキーワード……。
ステラの前で言うと何か今までのパターン的に強引に迫られそうな……。
そう思ってステラの方を見ると、目線が合ったらしく一瞬にして顔をそらされてしまった。
なぜか彼奴の頬が赤いのだが。
強引に迫ってくるつもりはないらしいが、これはこれでまた違う厄介さを感じる……。なにこの謎の変化。
それは置いといて、我の個人的な疑問タイムである。
「空気的にツッコミにくかったのだが……」
「ん? どうしたおっさん?」
「本名はハーゲンというのか!」
騎士団長ライオネルが語っていた内容にサラッと出ていたのだ。
ハゲだけにハーゲン? とかとてもじゃないけど言いにくい雰囲気だった……!
「俺のフルネームは“ハーゲン・アム・トイトブルガー・ヴァルト三世”だ。
紹介しわすれていたな! だっはっは!」
「やだ、格好良い」
キザイルが中二病ネームに眼をキラキラさせているが、我も同意見だ。
あと、気になった点がある……。
髪が生えていたらしいということだ。
「ハーゲン前団長は昔は髪も生えていて、ワイルド系イケメンと呼ばれてモテていたからな。大型ファンクラブもあったくらいだ」
そう補足してくるライオネル団長。
この現在はハゲていて、筋肉ダルマ色黒マッチョの此奴にファンクラブが……!?
結婚で変わりすぎでは……?
いったいどんな相手と結婚したのやら……。
「おいおい、やめてくれよライオネル。冗談でも妻に聞かれたら王都ごと焼き払われる」
「ひえっ。恐妻家ってやつっスね……」
なるほど。
やはり人間の世界でも、妻というのはそれくらい恐ろしいという例えなのだろう。
本当に王都を焼き払えるはずもないし。
「まぁ、団長コンビが揃ったんだ。荷物持ちはまかせてくれよ! なんなら、店ごと運ぶか?」
ハゲ筋肉人間ならわりとやれそうだから困る。
「はい! では合流したことですし、意気揚々と買い出しを再開しましょうか!
家ではジャスが飾り付けや、紙の帽子を作ったりしながら頑張ってくれていますし──」
「あれ? ジャスティナちゃんなら、クラッカーを調達しにいくって言ってたぜ?」
「なっ」
出発しようとするステラだったが、キザイルの一言で固まった。
きっとジャスティナが1人で出かけるのが心配なのだろう。
それを察したキザイル。
「ステラちゃん、安心しなよ。
まだ教会はあと二日は手を出してこないし、それに万が一でも今のジャスティナちゃんに敵う相手なんてそうそういないでしょ」
「そ、それもそうだが……」
たしかにキザイルの言う通りだ。
教会の後ろ盾で下手に動けないのは、大司教バギエルも、我たちと一緒なのだ。
人間のルールで期限を決めたのだから、それを安易にやぶることはできない。
だが──なにか引っかかる。
剣の師として、まだジャスティナが一度も人間相手に戦っていないことを思い出したのだ。
いや、それどころか攻めてきた魔王軍以外とは戦った事が無い。
それと例の“龍のような角と尻尾の人影”のウワサも気になる。
我が心配性なだけかもしれぬが……。
「キザイル。ここらでクラッカーが手に入る場所は?」
クラッカーで使う火薬は、人間にとってはかなり珍しいものなので入手場所が限られるはずだ。
そのため追跡はしやすい。
「ここらへんだと舶来品を扱う一軒だけだね。ジャスティナちゃんにもそこを伝えておいたけど。場所は──」
キザイルから教えられたのは割と近くの店だった。
その店と、ジャスティナが家から出る地点を繋げて考えれば、捜索場所は限られるはずだ。
「悪い、ちょっと様子を見てくるのである」
我は買い出し用のメモを書いて、キザイルに渡す。
「お、オウマちゃん……ごめん。ちょっと僕が軽率だったかもしれない」
「いや、我が、念には念を入れて見に行くだけなのである。
キザイルは、みんなのためを思って善良な行動しているだけなのだ」
少しだけ落ち込む表情のキザイルを励ましながら、我は皆から離脱した。
「僕に力があれば……」
ふと、そんなもどかしげな呟きが聞こえた。
あの昔話に、生い立ちが似ているキザイルが感化されたのだろうか……?
一瞬だけ振り返ると、ライオネル団長の羽織ったローブの隙間から、禍々しい剣が何かに反応して光ったように見えた。




