8饗宴 騎士団長と前騎士団長
「うぅむ。キザイルには服を選んでもらったし、ステラには家を世話してもらった……。我もなにかお返しをしたいのであるな……」
誰かと合流するらしい道すがら、そんなことをつぶやいてしまう。
幸いなことに、まだそこら中に目新しい店が建ち並んでいる。
どこか良い店はないかと目移りさせていると──。
「ほぉ、オリハルコンのアクセサリーであるか」
看板の一つに、そんな珍しいことが書かれていた。
少量のオリハルコンを入荷したので、それを加工してアクセサリーにしてくれるというのだ。
魔族側でも入手が難しい希少金属オリハルコン。
少量とはいえ、人間側でお目にかかれるとは……!
これは二人へのお返しにいいかもしれない。
なんとなくロリコン聖剣の拾い忘れた破片な予感もするが気のせいだろう。
「どれ、入って見るか──」
その瞬間、サッとブロックされた。
「ちょ、ちょっと待つのですオウマ殿!」
「そ、そう待つんだ親友!」
店への道を塞ぐのは、ステラとキザイル。
なにを慌てているのだろうか?
「どうしたのだ二人とも。我はオリハルコンのアクセサリーとやらを見たいのであるが……。ほら、看板にもプレゼントにオススメと書いてあるし……」
「ホームパーティーの主役はオウマちゃんだから、そんな気を遣わなくていいのさ!? それに少量でもすご~く高いよ!?」
「そ、そう! もうオウマ殿の料理などのオモテナシだけで十分プレゼントです!」
うーん。言われてみればそうかもしれないのだが……。
二人の反応が必死すぎるような……?
もしかして……偶然これを我にプレゼントしようと計画していて……いや、まさかね~。
値段をよくみれば、言われたとおり個人で買うには高すぎるのである。
個人から個人への秘密のプレゼントとしては、ちょっとありえない。
「さ、さぁ! とりあえず待ち合わせの時間も近いので、まずは合流しましょう!」
そうか、時間が迫っているなら仕方が無い。
プレゼントなら二日後のホームパーティーに渡すのだから、選ぶ時間もそれなりにあるだろう。
……そういえば、誰かと合流するとだけは聞いていたのだが、肝心の該当人物がわからない。
「いったい誰と合流するのであるか?」
「騎士団長ライオネルと、前団長です」
* * * * * * * *
公園で合流した我らなのだが。
そこにいたのは──。
「よう、おっさん! いや、もう勇者剣術指南役サマか? だっはっは!」
「おぉ、お主は不死身のハゲ筋肉人間ではないか!?」
「おいおい、ひでぇ呼び名だな……」
もしや、前団長というのはハゲ筋肉人間──此奴のことなのか。
どうりで何度、死にそうになっても平気で……。いや、さすがに肩書きだけでアレがどうにかなるワケは無い。
真面目に考えると防御系の上級魔法でも使えるのだろうか……?
だが、そこまで強い人間というのも世界に少数だろう。
本当に何者なのだと興味が尽きない。
「なんだ。オウマ殿は、前団長殿と知り合いであったか。何を隠そう、この方もホームパーティーの招待客なのです」
ステラもハゲ筋肉人間と顔見知りだったのか。
世の中、せまいものである。
「我がこの街に到着したとき、色々と世話になってな。
入隊試験のときに案内を頼んで──いや、そうか……。
此奴が前団長だったから、コネで我が飛び込み参加できたのか!」
あのときは少し引っかかる程度だったが、今考えれば納得だ。
我のような、街に来たばかりの怪しい者が飛び入り参加できるとか。
「いや、コネとかそんなことはねぇぞ」
ハゲ筋肉人間は、相変わらずピッカピカにワックスで磨かれたようなハゲと、健康的な小麦色の筋肉を見せつけながら話している。
「あのゴブリンへの機転を利かせた知識が兵士として役に立つと思ったからな。キチンと実力で推薦しておいただけだぜ?」
……あの頃の我は、人間の常識を知らなかったから魔物知識を披露しまくってたなぁ。
今考えると、物凄く疑われそう。
魔王だとバレそうな件である……魔王だと……魔王だと──。
「そういえば──おっさんは、どうしてあんな知識を持ってたんだ?」
「まおッ!?」
つい考えを読まれたかのようなタイミングで聞かれたため、驚いて変な声が出てしまった。
「んん? どうしたんだ、おっさん?」
見られてる、ハゲ筋肉人間にメッチャ見られてる……!
すんごく精神が動揺して変な汗が噴き出しそう……!
「──そ、そんなことより! お二人が親しげに話しすぎて、ライオネル殿が入りにくそうにしてるじゃないですか!」
我の前に割り込んでくるステラ。
偶然とはいえナイスタイミングである!
まるで我の秘密的に都合の悪い話だとわかっているような感じだが、そんなことはありえないので平気だろう!
「そ、そうなのである! ハゲ筋肉人間と、ライオネル騎士団長とどんな関係なのであるか!?」
我も全力で話題を振る。
離れていた場所でキザイルと話していた、獅子のような男──ライオネル。
騎士鎧の上から大きめのローブを羽織り、ライオンのような髪型の頭を出している。
ふと、バギエルに会いに行ったとき教会で似たような人物を見かけたのを思い出したが、そのときに下げていたらしき禍々しい剣は──羽織っているローブで今は確認できないな。
「ん、あぁ。わりぃ、キザイルの坊ちゃんと話してて聞いてなかったわ」
そう笑い飛ばすライオネル。
周りのことをあまり気にしないという豪快さだ。
たしかに騎士団長という座に相応しい風格を感じる。
いや、そういえば剣の腕前も人間にしてはかなりのものだったな。
騎士百人組み手のときは、こちらが木剣だったとはいえ、それなりに食いついてきていた。
だが、同時に疑問が生じる──。
「いやぁ、なんで団長が──あのときの戦場にいなかったのかなって。ほら、僕たちが到着したのは遅れてからだったでしょ?」
キザイルが我の気持ちを代弁してくれた。
そう、そうなのだ。
たぶんライオネルは、ステラと肩を並べるような実力。
本気を出していた魔族相手ならそうはいかないが、まだ本気を出す前の魔族相手なら無双もできたはずだ。
だが──あの戦場での報告に名前がなかった。
「そのことか。丁度、オレが野暮用で王都を離れていたときに鳥魔将軍が攻めてきてな。あの場にはいなかったってわけだ」
「なるほど」
……納得はできる。
しかし、そう考えるとまた引っかかるところがある。
ライオネルもステラもいないときを狙って、グゴリオンが攻めてきたというのだ。
さすがにこれは偶然なのだろうか……?
「んで、オウマの方が聞きたいのは、オレと団長──いや、前団長との付き合いか?」
「だっはっは! まだライオネルが、そっちのキザイル君か? キミくらいの歳からの腐れ縁だ」
やれやれと落ち着いているライオネルと、いつもの笑いのハゲ筋肉人間。
30そこらに見えるライオネルが、16歳の頃からの付き合いか。
十数年。結構、深い知り合いなのだな。
「そう、あれはオレが騎士団に入ったばかりのガキだった頃の話だ──」
話を逸らすためとはいえ、聞きたいと要求したのは我だからね。
ライオネル騎士団長の昔話を聞くとしよう。
それに人間世界では頼れる数少ない存在なので、人となりを理解すれば、いざという時に協力をしてくれるかもしれない。
──以前、あのタイミングの教会で似たような人物を見かけたのは気になるが。




