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【連載版】ホームパーティーに誰も来なくて、冷めた手作り料理を孤独にモソモソ食べる魔王様『……そうだ! 王国軍に一般入隊して魔族を滅ぼそう!』  作者: タック
2章 ホームパーティーをしよう!

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7饗宴 魔王にも衣装

「さぁ、この僕が! オウマちゃんと、ステラちゃんに服を選んであげよう!」


 キザイルに主導権を握られるのは何かシャクだが、適材適所というものがある。

 ステラは幼い頃からの環境もあって戦闘以外はからっきしだし、我も人間のオシャレとかには詳しくない。


「よ、よろしく頼むのである」


「オッケー! まずオウマちゃんは~……」


 キザイルは衣装棚を一通り見たあと、店員に話しかけていた。

 何かと思ったが、しばらくした後に奥から衣服が運ばれてきた。

 それは──。


「こういうビシッとしたタキシードが似合うと思うよ。燕尾服やモーニングとはちょっとイメージが違うからね」


「……そうなのであるか?」


 並べられた何着ものタキシード。

 細かな差異はあるのだが、ほとんどどれも同じに見える。


「オウマちゃんは黒が合っている気がするね。あとは白い手袋に、蝶ネクタイに~……」


 キザイルは慣れた手つきで服を選び、それをこちらにポイポイと渡してくる。

 意外とかさばるタキシード一式セット。


「うん、ホームパーティーならこんなもんかな」


 キザイルのホームパーティーイメージは、なんか無駄に格式高そうな予感がする。


「それじゃ、そっちの奥の部屋で試着してきてよ。

 服っていうのは実際に人と重なって、始めて相性を確かめられるからね。

 ピッタリなら服が人を必要としてくれるのさ」


「わ、わかったのである」


 つい勢いに気圧されてしまう……。

 く、悔しい……っ! 我みたいなおっさんが、こんなに若いキザイルに頼っちゃうなんて! でも、含蓄(がんちく)あることを言ってるし受け取っちゃう!


「オウマちゃんは、普段はおっさんっぽい表情をしてるよね。

 でも、たまに見せるキリッとした表情はちょい(わる)オヤジって感じで格好良いんだからさ。

 もっと自信を持ちなよ! ちょい悪デルモ王になれるって!」


 ちょい悪というより、魔王なんだけどな~……。


 我はそんなツッコミを心の中でしながら、試着室に入っていった。

 この店は試着室の設置や、仕立ての良さを(かんが)みるに、割と技術レベルが高いようだ。

 もしかしたら、どこかで魔族か異世界の技術でも得たのかもしれない。


「サイズはピッタリであるな。キザイルの意外な一面といったところか」


 デザインの差異はわからなかったが、装備の仕方は心得ていたので素早く着替え終わった。

 袖を通した感じだと、たしかに安物とは違って気を遣っている部分は多い。

 表面の肌触りなどの外見的な部分だけではなく、中までスルッと着やすいというか、心を感じるのだ。

 ひたすら着る相手のことだけを考えたような──名工が作る剣にも似た心意気。


 この店、この服を選んだキザイルに感心してしまう。


「キザイル、なかなかに良い服だな。これは」


 それは魔王(われ)としては、人間が制作した衣服への最大級の褒め言葉。

 試着室を出て、姿を外へとさらす。

 高貴なる黒に包まれたかのような、キリリとしたタキシード姿。


「ばっちりキマってんじゃん。イケメンだよ、オウマちゃん」


 うんうん、と満足げなキザイル。


「こ、このまま式場に向かいましょう!」


 何か鼻息が荒いステラ。

 怖い。

 目をギラギラ光らせて、距離を詰めてくる怖い。


「んじゃ、次はステラちゃんだね。遠慮せず──ひんむいちゃって」


 指をパチンと鳴らすキザイル。

 それに反応する女性店員。


「かしこまりました。では、失礼致します。抵抗は無意味です」


 ステラの肩をガシッと掴んで、女性店員は試着室まで引きずっていく。


「な、なにを……!? オウマ殿、オウマ殿ォォォオオオ!?」


 なぜ我を呼ぶ……?

 そう胸中でツッコミながら、試着室の闇に吸い込まれ、悲鳴を響かせるステラを見送った。




 ──数分後。

 我は着心地のいいオシャレなタキシードを見ながらニコニコしていたのだが、試着室から恐ろしい声が響き渡ってきた。


「ウギャアァァァ!! きつい、きついぃぃ!!」


「大丈夫です、キザイル坊ちゃんのご友人。コルセットが死ぬほど辛いのは最初だけ。慣れていけば瀕死で済みます」


 何やら死闘が試着室の向こう側で行われているようだ。

 我と一緒に外で待つキザイルは、これが普通だという顔をしている。


「き、キザイル……。人間女性(オトメ)の服というのは、大変なのであるか……?」


「うん。僕も遊びで女装したときは苦労したよ。ドレスのコルセットは内臓がね、こう、ホントやばい」


 服が内臓に影響とか、ゾッとするしかなかった。


「あ、あぁぁ……なんだこの安定性の無い靴は!? 訓練用の拘束具なのか!?」


「淑女たるもの、ハイヒール(これ)で華麗に演武を舞えるくらいでなければダメですよ?」


 足を拘束する道具……。

 中でどんな地獄が繰り広げられているのだろうか。


「ついでに軽く化粧(これ)もしましょうか」


「うぇぇん……や、やめてください……もう……にゃあああ!? 液が!? 次にべったりした液が!? 粉が!? 絵の具が!? くっ、殺せぇぇぇえええ!!」


 ステラの弱々しい声が聞こえたと思ったら、断末魔のような怒号が響き渡る。

 なにか得体の知れぬ汁や粉で連続ダメージを受けているらしい。

 我はメンタルにダメージを受けそうなので、耳を塞いで縮こまる。


「あとはキザイル坊ちゃんが選んだドレス、レースの長手袋、ティアラを付けて──終わり(・・・)です」


 全然塞げていなかった耳から、そんな生命の終わりを告げる言葉が聞こえてきた。

 ステラは、人間の衣服儀式に耐えられず死んでしまったというのか……?


 シャラッ──と試着室が開け放たれた。


「うん、お綺麗ですよ。殿方の二人に見せてあげてください」


 苦痛にもがいて死した、ステラの遺体を見せようというのだろうか……ガクブル。

 我は両手で目を塞いでしまう。

 怖い、人間の服屋怖い……。


「お、オウマ殿……どうですか?」


 死んだはずのステラの声が聞こえる……。

 我、これ知ってる……。

 不魔将軍が得意とする死体を操る能力。


 我は恐る恐る目を開けた。


「す、ステラ……なのであるか?」


 すっかり変わってしまったステラ……。

 いや、待て。

 別人のように変わってしまっているが生きている。

 むしろ照れて赤くなっている顔は血色良く──。


「は、はい……ステラです。あの、恥ずかしいのであまり見ないでくれませんか……」


 普段の無骨なミスリル甲冑とは違う姿のステラ。

 今──目の前で自信なさげにたたずむ16歳の小柄な少女は、胸元の開いた、優雅な純白のドレスに身を包まれている。

 シルクの長手袋や、宝石で彩られた銀のティアラを(いただ)くその姿は気品に満ち溢れていた。


「……それでオウマ殿。その……私、きれい……ですか?」


「うむ、とても見目麗しい淑女なのである」


 素直な感想を()べると、ステラはますます顔を赤くしてうつむいてしまった。

 頭から蒸気のような魔力をのぼらせている。

 平常運転のキザイルは、ステラに顔を近づけて話しかけた。


「いいよー、いいよステラちゃん! そこらへんのお姫様より可愛いよ!

 とくにこぼれそうな感じの胸元がグッとくる!」


「う、うぅ……これをチョイスしたのはお前の趣味か……キザイル」


 ステラは反射的に、腰の剣に手を伸ばそうとしたが──ドレスなので装備されていなかった。


「うぐぐ……本来なら叩き切ってやるところだが……」


 ふと気を抜き、優しい笑顔を浮かべ──。


「ま、まぁ、今日のところは感謝しておいてやる! その、だ。……ありがとう」


 少し恥ずかしそうに、とても素直な言葉を伝えていた。


「どういたしまして。普段と違う服で、良い気分転換になったなら何よりだよ。

 なーんか二人、表情が優れなかったからね?

 剣のウデもまだまだな僕じゃあ、こんな方法くらいでしか力になってあげられないのさ」


 キザイルは片目をつぶってウインク。


「……お前……私たちを気遣って……」


「ああ、そうそう。それと僕の家のことは気にしないでいいよ」


 一瞬、立場の違いを気にせずこれからも付き合ってくれ、という意味だと思ったが──。


「教会と関係ある貴族のマクドゥガル公爵家も、もしそんなことに荷担しているのなら貴族として相応しくない。高貴なる者に伴う義務(ノブレスオブリージュ)さ」


 どうやら我が親友はどこか抜けているようで、しっかりと今回のことを把握していたらしい。




* * * * * * * *




 ──それから我々は店員に謝辞を述べ、服屋を後にした。


 もちろんタキシードとドレスはあのままというわけにはいかないので、元の革鎧とか、ミスリル甲冑とか着慣れたものに戻してある。

 一張羅というのは、ふさわしい場所──ホームパーティーで身につける最強装備なのだから。


「僕が地道に剣の稽古を続けて、いつか勇者を超えるスーパーキザイルになったら──その時は実力で助太刀するよ」


「わかった、私を抜かすのを期待しているぞ」


 肩を並べて歩くステラとキザイル。

 普段は堅物と軽薄。対照的な二人だが、意外とデコボコなコンビとして気が合うのかもしれない。


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新連載を開始しました。
国を救うことに疲れてしまった強すぎる竜装騎士が、相棒の竜と共に田舎に移り住むスローライフ(?)なお話です。
どうぞ、こちらもよろしくお願いします。


『伝説の竜装騎士は田舎で普通に暮らしたい ~SSSランク依頼の下請け辞めます!~』
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