6饗宴 オウマ買い出し紀行
「どうしたァ? そちらから、みどもの元に来たのだァろう?」
寝室の中でジリジリと追い詰められる我。
既に着衣は乱れ、黒髪ロングとは対照的な、陶器のようにシミ一つ無い白い肌が露わになってしまっている。
まさか本当に……幼い子供を求めていたのは御しやすいという理由では無く、ただの性癖で?
し、しかし……教会公認ということは、少なくとも教会側としての理由もあるはずだ……。
個人的な思惑が絡もうと、その背後には強大なものが潜んでいる……。
「さぁ、恥ずかしがらずにィ……さぁ、さぁ……」
何か脱ぎ始めたぞ、初老のバギエル。
にやけた豚のような表情を浮かべ、腹をだるんだるんさせている。
いや……だが、考えようによっては、ここで12歳少女バージョンの我がバギエルのご機嫌を取って情報を引き出せば──。
……あんなことや、こんなことをされて情報を引き出せば……。
「──無理なのである、ムリィィィ!!」
股間を丸出しにしてきたバギエルに対して、我はテーブルに置いてあった酒瓶を握りしめ、相手の頭部に振り下ろした。
ガラスが小気味よく飛び散る。
「ぐえぁっ!?」
悲鳴を上げるバギエル。
メンタルにダメージを受けまくった少女精神の我は混乱し、何も考えることができない。
「あわ、あわわわわ……」
「くくく……強引というのも、みどもは燃えるぞォ……。抵抗しようとしても、こちらには“神の加護”として渡されたモノが──」
バギエルは速効でダメージから立ち直っている。
目をハートマークにして、こちらをイヤらしい目で眺めながらだ。
「ふぁぁぁあああ!!」
「か、髪が、みどもの髪がっ──」
バギエルの頭髪をむしり取ったあと、
「ウボァー!?」
スカートがめくれるのも気にせず回し蹴り。
我はそのまま振り返らず、だるんだるんした裸体から逃げるために、窓に向かって大ジャンプ。
腕をクロスさせながら、窓ガラスをパリンして脱出した。
二階の部屋だったが、シュタっと地面に無事着地。
そのまま全力で教会の敷地を走り去る。
「はぁ……はぁ……」
かなりの距離を稼いだ。
精神的ダメージで弱体化してしまった我は疲労して、息を切らしてしまう。
ゆっくりと歩きに移行しながら、そこらへんの芝生にゴロンと寝転がる。
「もしかして我、潜入に向いていないのでは……?」
人間とは違う生物である我は、基本的にうそぶいたりしている時に弱体化しやすい。
精神状態に、身体の上限が引っ張られてしまうのだ。その逆も然り。
……つまり一言でいうと、極度の豆腐メンタル体質。
そのために魔王軍ではそれぞれの特化力を持つ、十二の魔将軍のサポートがあったのだが……。
「はぁ……」
彼奴がいてくれれば……と一体の魔将軍が脳裏に浮かんだ。
「人魔将軍イフィゲニアがいればなぁ……」
* * * * * * * *
──それから数十分後。変身を解いたおっさん状態の我。
「酷い目にあったのである……」
「どうしました、オウマ殿。拾い食いをして当たったような表情をしていますよ?
私も経験があるので、腹薬なら──」
「いや、拾い食いはしてないからね……」
教会の悪夢から脱出した我は、ホームパーティーの買い出しに向かっていた。
教会の件も大事だが、その一方でホームパーティーの成功も、我の精神状態を保つには大事なことなのである。
街を歩くメンツは我、ステラ、キザイルだ。
途中から誰か合流するとかも言っていたな。
「何というか、ちょっとジャスティナの気分を味わってきたのである……」
ちなみにどう問題を解決するのかは保留中だ。
強引に進める手段はいくつかあるのだが、それはなるべくしたくない。
バギエルのバックは強力なため、うかつに動けば戦争、もしくは王都が滅ぶことになる。
あくまでジャスティナのために全人類を敵に回すのは、二日後のタイムリミットをすぎた場合だ。
今回の件を円滑に進めるには、まだ何かが足りない。
その何かを掴んだら──。
きっとまた、バギエルの元にアイルビーバックしてやるのである!
「ま、まさかオウマちゃん。小さい子がいっぱい登場する英雄譚を読んで、ジャスティナちゃんの気持ちに!? なかなかにマニアックだね……」
キザイルが勘違いで言っているのは、ロリコンの者が喜ぶような本のことだろう。
昨日の書簡のことを知っているステラだけが、なにか察したような表情を向けてきてくれた。
「──そ、そんなことより! オウマ殿! キザイル! 本日はどんなものを買うのですか!?」
我に気を遣ってか、ステラが話を切り替えようとしてきた。
正直、トラウマっているので助かる。
我もいったん気持ちを切り替えよう。
それと、口では色々言っても、実際に手を出さないロリコン聖剣にはもうちょっと優しくしてやろうと思った今日この頃。
「んー、そうだね~。
僕の方で騎士団全員に声をかけちゃったから結構、色々なものを用意しておいた方がいいかもしれないね。
食事とかはオウマちゃんにまかせるとして──」
調理の下ごしらえは、既に大部分を終わらせて保存しているので大丈夫なのである。
この前のハンバーグに使ったソースや調味料なども、割と作り置きが多いのだ。
「本人が直接行って合わせないといけないのは、ホームパーティー用の服だね。
オウマちゃん、あまり持ってないでしょ?」
「服であるか~……」
確かに我は人間用の服をほとんど持っていない。
魔王軍では、身長3メートルの魔王に化けていたからサイズが合わない……。
「さすがに、そのいつも着てる革鎧じゃね~。ホムパ達人の僕がウェーイと選んであげるよ!」
「う、ウェーイ……」
おっさん魔王、あまり若者のノリについていけないが、何とかついていこうとするのであった。
さっきまでの少女バージョンの性格はあんなにも若々しかったが、アレは知能低下すぎて危険なのである。
もう二度と12歳に変化はしたくない……!
とか考えてしまうとマーオちゃん再登場フラグっぽいのが、自分でも不安なのである。
「さぁ、着いた。ここらへんは良い服屋もいっぱいあるよ!」
到着した場所、それは──。
多種多様な商店が押し込められた賑わいあふれるストリート。
店先には見たことのないような人間特有のアイテムが、右も左もところせましと並べられている。
魔王の我から見ると、かなりうさんくさい物──。
ビキニのような鎧、動物のフンのコーヒー、落書きの高級絵画、へし折りたくなる十字架、聖剣の木刀、ガラスで作られた水晶髑髏。
いくら魔族側の方が技術レベルが高いとはいえ、それぞれの文化というものは大幅に違う。
特に服だ。
魔物は体型の違いでバリエーションが狭まってしまっている。
それに比べて、人間は背丈や肩幅が少し違うくらいで、1人ごとに着られる種類がとても多い。
人魔将軍イフィゲニアなどは、潜入用だとか言い張って経費で服を買いまくっていたな……。
あの猫娘、なぜか少年用の服も大量にコレクションしていた。
「それじゃ、あそこに入ろうか」
キザイルが立ち止まったのは、服屋が密集する地点だ。
「よし、たまにはキザイル、お前にエスコートを頼もう」
「オーケー、ステラちゃん。任せてよ!」
いつもは情けないが、たまに良いところを見せようとするキザイル。
ステラも、やむを得ずといった感じで笑っている。
「エスコートを頼むのである」
我も同じセリフで、キザイルの後に続く。
ステラと一緒で、こういう店には慣れていないのだ。
「オッケー、オウマちゃんも任せて任せて!」
我は、ステラに耳打ちする。
「キザイルが調子に乗ると、大抵は失敗するパターンなのであるな」
「いえ、意外と奴は、こういう分野にかけては──」
キザイルは一番高級そうな店に入っていった。
我としては、見栄を張りすぎて追い返されると思っていたのだが──。
「やぁ、久しぶり」
「ありゃま!? キザイル坊ちゃんではありませんか! しばらく見ない内に背も伸びて……今日は新しい服を50着ほど、オーダーメイドで仕立てましょうか?」
出迎えた品の良い女性店員と、古くからの顔馴染みだと言わんばかりに会話をしている。
店内に飾られている衣服は、王族が着るような高級品がズラリ。
一着で、我のお気に入り革鎧が何百着買えるんだ……。
「坊ちゃんはやめてくれよ。
今はマクドゥガル家の人間じゃなくて、ただの騎士として──。
友のために、その身を包むに相応しい衣服を選びに来たのさ」
「おぉ……。あの甘えん坊だったキザイル坊ちゃんが、こんなにたくましく立派になられて……」
普段とのギャップありすぎだろ此奴。
最初に出会った頃は、ウェーイと勇者に軽くなってやるとか言っていたのを忘れておらぬぞ……。
まぁ、実際に行動をして立派になってきたというのだけは認めるのであるが。
「キザイルは、ああ見えてマクドゥガル公爵家の次男ですからね」
「公爵?」
ステラの言葉に、いまいち実感が湧かない。
種族や国によって、立場などをあらわす言葉はかなり変化するからである。
「──ローランド王の血縁でもあり、本当なら騎士団で箔すら付ける必要が無い身分です」
何かすごい気がしてきた。




