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【連載版】ホームパーティーに誰も来なくて、冷めた手作り料理を孤独にモソモソ食べる魔王様『……そうだ! 王国軍に一般入隊して魔族を滅ぼそう!』  作者: タック
2章 ホームパーティーをしよう!

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4饗宴 大司教バギエルからの書簡

「ふむ、ではホームパーティーをするのは三日後の夜ということであるな?」


「うん!」


 我は渋々、ロリコン聖剣の欠片が入った布袋を拾ってきて、家の広間でお茶をしていた。

 茶菓子を持ってきたジャスティナも加わって現在3人。

 そこでジャスティナがホームパーティーの日程を提案してきて、我が了承したところだ。


 饗宴開催まで三日……!

 ホームパーティーの魔王と呼ばれた我にかかれば、三日もあれば十分なのである!


 ちなみにロリコン聖剣は、教育に悪い発言をしたら、次は溶鉱炉に投げ込むと言っておいたので今は自重しているらしい。


「丁度、オウマ殿の“サプライズ歓迎会”の日程も三日後だったので、都合がいいですね!」


「……ステラお姉ちゃん、なんで言っちゃうの」


「……え?」


 冷めた眼のジャスティナと、フリーズするステラ。

 似ているようで似ていない姉妹だ。


 サプライズ歓迎会とか我、初耳なんだけどな~……。

 とりあえずお茶を飲もう。うん、おいし。


「キザイルさんからも口止めされてたのに、もう~」


「わ、私はなんてことを……」


 ティーカップを持つステラの手がカタカタと震え始めた。

 それは次第に大きくなり、震動させすぎて8割方のお茶がビチャビチャに飛び散る。


「あ、あああ……オウマ殿のサプライズ歓迎会が、サプライズでは無くなってしまった……。

 ァァアアアッ!! かくなる上は首を差し出しまァァァゥゥッ!!」


「ヤメテー! 我のために開幕グロとか怖いからヤメテー!

 あと火傷とかダイジョウブー!?」


 慌てる我と、拭く物を持ってきて溜め息のジャスティナ。


「はっ!? 見苦しいところを申し訳御座いません。これくらいの熱さなら大丈夫です、勇者っぽい根性で!」


 勇者って人間の割に頑丈だなぁ……。


「それじゃあ、お姉ちゃんはいつものことだし、ホームパーティーのためにいろいろと準備もしなきゃだね! あたしもいっぱいてつだうよ~!」


 ジャスティナは喋りつつ、普段から慣れているのか、涙目ステラの小手を器用に外しながら拭いてやっている。

 ときおり頭を撫でていたり、どちらが姉かわからない状態だ。


「ジャス、最近は(ちまた)で変な噂があるから気を付けるんだぞ」


「うわさ~?」


「うむ、数年前に竜のような角と尻尾の人影が出るという噂があったのだが──」


 我は茶を噴き出しそうになった。

 お行儀が悪いのでギリギリで頬を膨らませるくらいで耐えたが。


「おや、オウマ殿?」


「い、いや、ナンデモナイヨー」


 数年前……竜のような角と尻尾……。

 丁度、竜魔将軍ドゥルシアが寿退役(ことぶきたいしゃ)した時期と一致するのだが……。偶然だろう。きっとそうだ、そうに違いない。

 そもそも、龍神の彼奴(あやつ)が人間の街に出没するとかありえない。

 結婚相手もきっと名のある神とか龍とかだろうし……。


「その噂の人影が、また最近出たというのだ」


「へ~、怖いね~」


 ドゥルシアが本当にいたとしたら、きっと『下等な人間と同じ空気を吸うとか、(わらわ)には耐えられぬのじゃ』とか言って王都を、いや、国ごと……機嫌を損ねられて火吐息(ひといき)で焼きそうである。

 突拍子も無い奴だから、我の秘書として無理やりに戦場に出さぬように引き留めておいたのだ。


「こ、コワイネー」


 今の──人間に肩入れしてしまっている我を見たとき、ドゥルシアは何をしでかすかわからない。絶対に会いたくない魔将軍の1人である。

 精神状態によっては、我でも危うい相手だ。


「──ところでオウマ殿。私は濡れてしまいました」


「うん、お茶がこぼれて濡れてしまったであるな」


「今からお風呂に入りたいと思います」


「ああ、気が付かず、すまなんだ。我がお湯を溜めておこう」


 ニッコリと笑顔のステラ。


「ありがとうございます。チャンスですよ?」


 えーっと。

 ……ステラの入浴中に、我に突撃してこいという意味なのだろうか。


「我、あとでお湯を頂くから……ちゃんとステラが上がるまで待つのである」


「……そんな!?」


 我がそんなリアクションを取りたい側なのである。




* * * * * * * *




「良いお湯であるな~」


 ここはバスルーム。


 なぜかステラが、いつものように食い下がらずに、先にお湯をゆずってくれた。

 16歳と6歳の少女の前におっさんが入るとか、本当は申し訳ないのであるが……。

 我、一番風呂である。

 お湯は翡翠色(エメラルドグリーン)に染まり、身体を芯までポッカポカに温めてくれる。


 これは我が温水を魔法で出す時に、一緒に薬草袋を入れて成分が抽出されたものである。

 薬湯というやつなのだ。

 ちょっとだけピリピリと肌にシゲキがあるのだが、それもまた心地良い。


 名付けて魔王温泉……!

 いま名付けた!


「ジャスティナには少し早いかも知れぬな。次からはもう少しまろやかな湯にするのである」


 バスタブに浸かり、半透明の湯からうっすら見える我の腕。

 様々な人間を見たあとだからわかるのだが──若干、筋肉質かも知れない。

 人間男性に化けるとき、これくらいか? とテキトーにしすぎたのである。


 鏡を見ると、大胸筋ももう少し薄い方が標準に近かったのであるな。

 まぁ、服を着ていればおっさんに見られるからギリ普通に抑えられる体格と言ったところだろうか。


「もしかしたら、人間の女性に化けていた方が良かったであるか……?」


 試しに性別を変化させてみる。

 人間に見られたらビックリされそうだが、元々、我に明確な性別は存在しない。

 気分次第で変わる程度のものだ。

 根本的に、常識的な生物(・・)とかけ離れた存在なのだから。


「ふむ、この姿でも特に違和感はないのであるな」


 一瞬にして性別逆転させた身体。

 外見年齢は下がり、自然とイメージで25歳くらいだろうか?

 鏡に映る女性の姿──長い黒髪が漆黒の眼を隠すように伸びていて、少しだけ背や骨格の良い体付き。

 一見、こちらでも人間として潜入するには問題ないかもしれないのだが──。


「胸がジャマであるな……」


 ステラより大きい胸は、人間っぽい近接戦闘をするのも大変だし、鎧のサイズを探すのにも苦労しそうである。

 この女性声もハスキーではあるが、怒号を上げて前線で戦うのは似合わなさそうだ。


「試しに、もうちょっと年齢設定を下げて──」


 今度は12歳くらいになってみる。


「う、うーん……。これはジャマな胸以前に、戦闘が無理であるな……」


 真っ平らな胸は動きやすそうだが、さすがに背も縮んでしまって、これで戦ってしまったら人間では例外中の例外の存在として扱われてしまうだろう。


 そう……今のジャスティナのように。

 大司教バギエルが怪しげな目で見ていたが、あれでそのまま引き下がってくれるのだろうか。

 人間というのは度し難い生き物だからな……。


 さて、今は我の小さき身体のことだ。

 機魔将軍がこのくらいの外見で戦っていたが、あれはケイ素生物なので鋼鉄に近いボディ。

 うーむ……。


 小さき身体の利点としては、ジャスティナの友達にでもなってやれそうなくらいか。

 もちろん、やるとしても正体を隠してだが。

 おっさん認識されている我が、女体化しちゃったらどんな眼で見られてしまうか。

 その時はメンタルが一瞬で崩壊しそうだ……。


 やっぱり、おっさんボディが一番しっくりくるのである。


「……ふぅ。それにしても、少女の身体だとお湯に深く浸かれるのであるな~。

 んぅ~、極楽、極楽ぅ~♪」


「──オウマ殿!? オウマ殿!? お背中をお流ししますよ!?」


 す、ステラの声がバスルームの外から聞こえてきた!?

 ついに来てしまったか!

 だが、さすがに我もステラの行動が予測できるようになってきた!

 かたよった人類観察の賜物(たまもの)である!


「ステラお姉ちゃん、ここは通さないようにいわれてるから! ぜったいししゅだから!」


 ふふ~り!

 先読みして、ジャスティナにガードマンを頼んで、ステラから守ってもらっている!


「うぐぐ……6歳の妹からの視線が痛い……!」


 たしかに痛そう。


「だが──! オウマ殿の……裸が見たい……ッ!」


 女の子が何を言っちゃってるのであるか。

 もしかしてこれが肉食系女子というものなの……。


「ジャス! 土下座をするから通してくれ!」


「ステラお姉ちゃん、今ならオウマの部屋に入り放題だよ?」


「ちょっと合い鍵で入ってくる」


 ……え~。

 外の騒がしい声は止んだけど……え~。


「オウマ、ミッションこんぷりーとです! ステラお姉ちゃんから、おふろばは守りました!」


 代わりに我の部屋は守れていない。犠牲になったのだ。

 だが、自らに課せられた使命をまっとうしたジャスティナは褒めてあげなければ、大人としてダメダメである……!

 部屋の安否に少しだけゲッソリとしながらも、バスルーム外のジャスティナに声をかけてやるのであった。


「ジャスティナ、感謝するのである」


 ──うっかりと、少女の身体のままで。


「あれ? オウマ? ……声が高くないです?」


 シマッタアアアアアアアアア!!

 痛恨のミス!?


「あ、おふろだからですね。うわさでは、歌もうまく聞こえるとか!

 いっしょに入って、歌いましょう~!」


「え、ちょ──」


 外で服をポンポンと軽快に脱いでいくシルエット。

 幼女ゆえに余計なものは装着していないので、一瞬にしてバスルームに飛び込んできた。


「オウマー? あ、おふろの中にもぐってるです!」


「ブクブクブクブク……」


「オウマ~!」


 バスタブに入ってきた小さなジャスティナは、そのまま沈んでいる我の身体を覗き込んできた。


「……ぶはっ!! オウマダヨー!」


 セーフ。ギリギリセーフ。既に我はおっさんボディにチェンジしていた。

 幼女と一緒におっさんが風呂に入るのはギリギリアウトな気もするが、お互いに気にしていないので第三者が見なければ平気だろう。


「アレ……アレレーオウマー……?

 長くて黒いオンナの髪の毛が浮かんでるよー……?

 もしかしてあたしの知らないオンナがいたのかなー……?」


 突如、ジャスティナがハイライトの消えたような、深海の如き蒼い眼で睨み付けてきていた。

 小さな指先には、長くて黒い毛……我の女性バージョン頭髪である。


「き、きっと掃除に使った馬の毛ブラシの一部でアルヨ、ハハハ……!」


「へぇ~? そォ~なんだァ゛?」


 え、なんで幼女がこんなに、静かな凄みを利かせた声を腹の底から出せるの……。


「ふ、フゥーハ……ハハ……」


 そのあと、めちゃくちゃ洗いっこして誤魔化した。




* * * * * * * *




 風呂から上がり、我の部屋のベッドで待機していたステラをバスルームへ追いやった。

 その隙に軽めの夕食をキッチンで作り用意する。

 今日のメニューはレギン鹿のハンバーグと、山菜のコンソメスープ、近くの店のふっくらパン。


「なんと!? これをオウマ殿が!?」


 風呂上がりの全裸だったステラは、慌てたジャスティナに服を着せられていた。

 あまりにもナチュラルな立ち居振る舞いだったので、家の中では全裸派なのかもしれない……。

 ちょっとワイルドすぎない、この娘。


「うむ。まだキッチンをあまり使い慣れていなく、材料も出来合いのものであるが!」


「これは冷めない内に頂かねば」


「ステラお姉ちゃん、服をさいごまで着てからね?」


 我は一応、礼儀として見ないようにしていたのだが、まだステラは全裸に近い状態で話していたようだ。


 ジャスティナがオーケーサインを出したあとに、全員でテーブルに着いた。

 今日のメニューは、聖剣の洞窟付近で採ってきた食材のテストでもある。

 腐らないように邪竜の皮膜袋の別空間で保存しているのだが、結構な量のために多少は使っても問題はない。


「頂きます! 食べる前からおいしい雰囲気漂いまくりですが──」


 ステラが最初に手を付けたのは、レギン鹿のハンバーグだ。

 たっぷりかかっている茶色のデミグラスソースが、皿にトロリとした池を作っている。

 ナイフが差し込まれると凝縮されていた肉汁が噴き出し、切り出された肉ブロックがフォークで口に運ばれる。


「──食べてみると想像以上に美味い!

 野生の鹿をこんなにも口に運びたくなる日がくるとは!

 皿の上に(こぼ)れきってしまったと思ったのに、噛むとギュギュッと湧き出る肉汁!

 ソースと混ざり合って絶品です!」


 モグモグと勢いよく食べていくステラ。

 山菜のコンソメスープも熱さを気にせずグビグビと飲んでいる。

 パンも次から次へ押し込むような速度だ。

 美味しそうに食べてくれるのは嬉しいのだが、野性味溢れすぎている。


「すごいです……ステラお姉ちゃんがつくるハンバーグとちがって、ふんにょーやのーみその味や臭いもしない、吐かないで食べられるお家ハンバーグとか……」


 ジャスティナが食事中とはかけ離れた、マナー的に言ってはいけない言葉を呟きながら、お行儀良くモクモクと食べている。


「そういえば、そうだな……。オウマ殿は、どうやって鹿一匹をハンマーで潰して、このハンバーグにしたのですか……?」


 我の料理はちゃんと内臓とか血抜きとか処理してるから……。

 ステラには、料理より先に常識を教えた方がいいかもしれない……。


 いや、だがこれから我と──ジャスティナと──ステラの3人で一緒に住み続けるのだ。

 それが自然と家族のようになり、常識くらい見よう見まねで身につくかもしれぬ。


 そう、今のところ平和な日々。

 焦ることは何も無い。

 まずは三日後のホームパーティーを、ゆっくり楽しみながら成功させることを考えよう。


 ──と、そのとき。


 コンコンと玄関の方で音が鳴った。

 ドアノッカーが叩かれたのだ。


「来客ですね。既に食べ終わった私が行くので──」


「いや、ステラ。我も行こう」


 何か嫌な予感がしたのだ。

 このタイミング、ステラの元に──いや、ジャスティナの元に来るであろう者だとしたら──。




* * * * * * * *




 その教会からの使者が持ってきたのは、大司教バギエルからの書簡(てがみ)だった。

 王が下した決定すらくつがえして、ジャスティナを差し出せという内容。

 期限は三日以内。


 教会全体の意思としてらしいので、前のようにバギエル自体をどうにかしても無駄だろう。

 貴族たちもバックに付いているはずだ。

 これは一筋縄ではいかない。


「我が妹は……力無くば(さげす)まれ、力を持てば権力に(もてあそ)ばれる……。

 どうしたらいいというのですか……神よ……」


 我と共に書簡の内容を見たあと、ステラは崩れ落ちてしまった。

 魔物が相手なら力でなんとかなるかもしれないが、教会や貴族が相手となれば──人間すべて(・・・・・)を敵にするようなものなのだ。

 人間であるステラはどうすることもできない。


 だが、くだらない今の神が願い一つで助けてくれるはずもない。

 助けるのは神では無く──。


「幼き者を守るのは大人(おっさん)の役目なのである」


 我は、書簡──大司教バギエルの言葉を握り潰す。


「そ、それなら私も一緒に抗議を……」


「我から見たら、ステラもまだまだ可愛い娘よ」


 涙をこぼしそうになっている、勇者を名乗る少女の頭を──我の無骨な手で撫でてやる。


「ステラは、ジャスティナと一緒に三日後のホームパーティーの準備をしておくのである」


 ……そう、ホームパーティーも三日後なのだ。

 つまりバギエル、教会、貴族らをどうにかせぬと、ホームパーティーはできぬ。


 ──ククク。

 ホームーパーティーとジャスティナ救済、両方やらねばならぬのが魔王(おっさん)のつらいところよ!

 フゥーハハハハハハ!

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新連載を開始しました。
国を救うことに疲れてしまった強すぎる竜装騎士が、相棒の竜と共に田舎に移り住むスローライフ(?)なお話です。
どうぞ、こちらもよろしくお願いします。


『伝説の竜装騎士は田舎で普通に暮らしたい ~SSSランク依頼の下請け辞めます!~』
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