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17饗宴 オウマ・ブラオカ。ただのおっさんだ。

 我が名は深淵の暗黒王ブラック・オブ・カオス

 地上最強の魔王である!


 急いで駆け付けてみればピンチのジャスティナ。

 それを襲おうとする憎き魔将軍が目の前にいたので、とりあえず軽く小突いてしまった。


 ……よく見たら、しばらく魔王城にはいなかった人魔将軍イフィゲニアだった。

 ちょっととばっちりで攻撃してしまったが、1%も力を込めてないのであの猫娘の魂は消滅していないだろう。

 うむ、北の山ごと吹き飛んでしまったが、ジャスティナのピンチを救うためにはしょうがなかったのである!


 よし、我、悪くない!

 精神に強く影響される、我の魔王特性的にも大丈夫!


 いや、それどころか……攻撃するための正当な理由をバカな誰かが作ってくれたおかげで、神々をも凌駕する本来の力を発揮できる状態だ。


「オウマ・ブラオカ……。聞いたことの無い名前ですねぇ……」


 そのバカな誰か──最も憎き相手、鳥魔将軍グゴリオン。

 此奴(こやつ)は、我が誰かわかっていないらしい。


「どうですか? その人魔将軍イフィゲニアを一撃で倒した力、新魔王であるワタシの元で存分に振るってみませんか……?」


「新……魔王だと?」


「そうです。自分で言うのもなんですが、ワタシはやり手ですよ? 前魔王の近辺を用意周到に操り、(おとしい)れ、長年かけて精神的に追い詰めたのです」


「ほ~う……?」


「まぁ、警戒しすぎな“あの方”の指示で精神的に弱らせてから暗殺する計画でしたが、普段から前魔王は戦う姿を見せませんでしたからね。

 本当は精神だけではなく、力も弱かったのでしょう」


「ほうほ~う……?」


「たぶんホームパーティーをワタシに潰され、泣きながら逃げたか、消滅しました。

 ワタシはやり手ですが、やりすぎて弱い者虐めをしてしまいましたよぉ……!

 ククク……ヒャハハ!」


 グゴリオンは九官鳥のようにベラベラと喋り、我の力を更に更に更に高めてくれている。

 ちなみに我が魔王城の玉座から動かなかったのは、下手に本気を出してしまうと大変なこと(・・・・・)になってしまうからだ。


「それでどうですか? 愚かな人間側を離れ、ワタシの元で働く気に──」


「我、ジャスティナと約束があるから無理なのである」


「いやいや~……そこをなんと──かッ!!」


 グゴリオンはこちらに近付いてゴマをすっていたが、突如──その手から邪炎を放ってきた。

 我の顔面に勢いよく放出して、鳥特有の大きな手でガッシリと掴んできた。


「クヒャヒャ! アナタが悪いんですよぉ~……オウマ・ブラオカさぁん。

 ああ、もう脳まで焼かれて聞こえていませんね。

 ワタシの元へ来ていれば、生きていられたというの、に──!?」


 邪炎が収まり、傷一つない我は──グゴリオンを無表情で見つめていた。


「なぜワタシの邪炎を食らって平気ィ!? これに耐えられる生物なんていないはずですよ!?」


 何もしていないこちらを警戒しすぎて、グゴリオンは慌てた表情で後ろに飛び退いた。

 もしかして今のが攻撃だったのだろうか?

 我の炎耐性によって、微塵も熱さを感じなかった。


 まったく、最近の魔将軍は不甲斐ない……。


 今はどこかに去ってしまったが、我の秘書であった竜魔将軍ドゥルシアなどは、龍神の力を行使して敵対してきた異世界を星ごとブレスで焼き尽くしていたというのに。


 それに比べれば、グゴリオンの邪炎は火花の一つにすら劣る。

 あまりにも情けないので、火の使い手の末席として胸を貸してやる事にした。


「本当の炎を魅せてやろう」


 我の背中から黒炎が噴出する。


「な、なんですかそれは……!?」


 それは横に拡がり、形なき炎が──形を成していく。

 三対六枚の翼。

 二枚で頭を隠し、二枚で身体を隠し、二枚で風を巻き起こす。


 安定させた後にすべての翼を一気に広げた姿は、巨大な黒炎のカーテンを背負うが如く。その闇は光すら焼き尽くす極黒。


 我は深淵に堕とされし暗黒の王。


 神は呼ぶ──混沌にして──黒炎の──と。


「なんですかアナタはぁ!? そんな魔力は感じた事がない! そもそも魔力なのかもわからない!!」


 我の姿を見て、さらに後ずさるグゴリオン。

 その顔は恐怖に歪んでいる。

 とても()い表情だ。


「も、もしかして勇者より希少とされている、魔法が使える人間……魔法使いでは!? そうだ、そうに違いないですよ!!」


 む、魔法使いとやらと勘違いされてしまった。

 だが、そうだな。

 我も魔術ではなく、魔法を使える人間なんて、この世界ではあまり見たことが無い。


 もし誰かに魔法を使っているところを見られてしまったら、魔法使いですと言い訳をしてみよう。これは良いアイディアをもらった。


 まぁ、今この場にいるのは目の前のグゴリオンと、倒れて意識のないステラとジャスティナだけだから平気だろう。

 姉妹とも、我が来た時からこの状態だったし。


「だが魔法……魔法なら、ワタシにも対策がありますよぉ!」


 やたら饒舌だな、此奴(こやつ)


「クヒャヒャ! “あの方”からお貸し頂いた、この鏡がねぇ!」


「……鏡?」


 グゴリオンが取り出した小さなそれは、微かに神気を感じる。

 どうやら普通の鏡ではないらしい。


「神々が作りし神鏡! 古来より伝わりし、世界に一つの伝説級(レジェンド)アイテム!

 その効果は魔術、いや、上級魔法ですら無効化してしまう無敵の──」


 鏡は一瞬にして割れ、ドロリと溶けていた。

 ちょっと我の翼から、小さな黒い羽根一本を飛ばしてみただけで……だ。


「……くそっ、ワタシとしたことが……物理的なものでしたか!」


「いや、分類的に我の翼は魔法だが……」


「な……ッ!?」


 驚きで固まってしまうグゴリオン。

 だが、気を取り直したのか、ポーズを整えてから笑い始めた。


「……く、クヒャヒャ! 炎の魔法で負けるのなら、それを使えないようにすればいいだけです! ワタシだけしか使えない、中級魔力吸収魔法デスストリームマナドレインを食らいなさい!」


 いや、たぶんそれくらいなら他の奴も使えるんじゃないか、とツッコミを入れそうになったが、空気を読んで我慢をした。我、偉い。


 グゴリオンの手から黒い球体が拡がり、周囲を覆い尽くした。

 我だけを狙うのなら、もっと小さく凝縮してもいいと思うのだが……魔法の使い方が下手すぎる。


「おぉぉ!? このグゴリオンの中に信じられない量の力が吸い込まれてくる!

 悪いねぇ! オウマ・ブラオカァ!

 数秒後にお前は魔力切れどころか、ミイラのようになっていますよォオ!!」


 ……1%も吸い取られていないのだが。

 ノミ一匹が、竜に張り付いてよろこんでいるような感じなのだろうか?

 だが、ごく微量ながらも我のものを奪われるというのは良い気分ではない。


 それに無駄に広範囲なため、倒れているステラとジャスティナにも影響が出そうだ。

 我はため息を吐きながら、無詠唱で魔法を発動させる。


事象対消滅魔法(カオスキャンセラー)


 以前、剣の試験のときにも使ったものだ。

 今回は人間に見られていないので、発動時の現出を隠蔽はしていない。


 天空から、塔と見間違う巨大な虹槍が降ってくる。

 一本、二本、三本、四本、五本──……数は増して計百本。

 平原は一瞬にして針山のように。


「な、なんだこれは!? このグゴリオン様の中級魔力吸収魔法デスストリームマナドレインが消えてゆく!?

 ありえない、ありえないことですよ!?」


 これは対象の事象のみを改変して打ち消す魔法。

 本当は対魔法だけでなく、全ての事象に干渉できるのだが、世界への影響が大きいために普段は自重している。

 だが……グゴリオンの魔法が弱すぎて一本で平気だったかもしれぬ。

 まぁいい。


「では、ごく微量だが我の魔力を返してもらおう。

 ──“上級第一位魔法・魔吸収マナドレイン”」


 我の指先から、グゴリオンと同じ種類の魔法が放たれた。

 ただし、ビー玉程度の大きさだ。


「く、クヒャヒャ! 聞いたことの無い程の田舎魔法!

 変な小細工はできても、吸収魔法は得意ではないのですねぇ!

 ワタシの方がよっぽど大き──あェ……魔力が抜け……ぜぜぜ全部抜けて……」


 一瞬にして、グゴリオンの全魔力を吸い取らせてもらった。

 そもそも見た目の大きさは関係ない。

 グゴリオンの生命を含む中途半端な魔力吸収より、きちんと対象の魔力だけ吸い取り、生命力は完全に残してやっている。

 ミイラになってしまうことはないだろう。


「な、なんだその魔法は……。

 ただの上級魔法ではなく、上級第一位魔法とはなんだ……!?」


「ふむ、最近の魔将軍は知らぬのであるか。

 簡単に言うと、お主たちが定義する上級魔法の上の上の上の上の──本来の純粋な神々の魔法。

 ──我の通常攻撃のレベルである」


 我は指を弾き、グゴリオンの魂にビー玉大の魔法を撃ち込んだ。


「ひぃ!? ワタシになにをしましたか!?」


「お前の邪炎と似たようなことだ」


「……も、もしかして蘇生しても残る吸収魔法をワタシに!?

 そ、そんな高度なことが……だけれど、この規模なら数日我慢すれば消え──」


 しまったな。

 まさかグゴリオンの邪炎はそんな、ちゃちぃ力だったのか。

 例えに出してしまって、混乱させてしまったかもしれない。

 ちゃんと説明してやるのである。


「一万年は我慢してもらおう」


「い、一万年ですと!? ただの呪いが、そんなに継続するはずないですよ!?」


「蘇生しても、転生しても残る。何度生まれ変わっても魔力を使えない身体になってもらったのである」


「因果を超えた呪い……ありえない、ありえるはずがない……」


 グゴリオンはガタガタと震え始めた。

 今は魔力がゼロになっただけだが、それがこれからも一生……いや、ほぼ永生(むげん)に続くのだ。

 先の見えない、実感が出来ない恐怖。

 魔王の特性を発揮している我は、そういう敵対者の顔が大好きなのである。


「ぢ、ぢぐじょう……嘘だとしても許せませんよ……!

 ここはアナタを殺して解呪しておくことにしましょう!

 魔法がダメなら、ワタシ自慢の物理でねぇ──!」


「その魔法は因果から完全に孤立しているから、我がどうなろうと関係ないのだが?」


「……う、ウワァァァァアア!! 死ねぇオウマ・ブラオカァァァアア!!」


 グゴリオンは発狂と共に真なる姿を現した。

 世界樹(ユグドラシル)の頂上に留まっているという“死者を飲み込む者(フレースヴェルグ)”にソックリの巨大鳥。

 その表面はガーゴイルのように石の鎧が張り付いている。


「このワタシの本当の姿を見た者は皆死ぬのデスゥ!!

 唯一かなわない魔法を使われる前に爪で切り裂き、クチバシで(ついば)み殺してあげましょう!

 もし何かの奥義でもあるのなら、死にものぐるいで抵抗でもするのデスゥ!!」


 真グゴリオンは巨体の割に、突風の如くスピードでこちらに飛んでくる。

 魔力なしの身体能力でここまでやるとは……。

 そこだけは必死さを褒めてやりたい。

 だが──。


「んー、ちょっと停止魔法(ストップ)なのである」


 慣性の法則すら無視して、真グゴリオンは低空飛行中にピタリと止まった。

 超格下相手にしか通じない時間停止魔法だが、いともたやすくかかってしまった。

 我は溜め息ひとつ。


「こんな力を悪用されると、また人間や魔族に迷惑をかけそうであるな」


 我は追加で魔法をいくつか唱えた。

 先ほどの魔力永久吸収と同じようなもので──。


 上級第一位魔法・力吸収(ストレングスドレイン)──。

 上級第一位魔法・速吸収(アジリティドレイン)──。

 上級第一位魔法・体力吸収(タフネスドレイン)──。

 上級第一位魔法・器用吸収デクステリティドレイン──。

 上級第一位魔法・運吸収(ラックドレイン)──。


 ……そこらへんをダウンさせるものを適当に。

 日常生活に支障が出るのは可哀想なので、グゴリオンが見下していた人間たちレベルにだけは残してやる。

 あとは反省も後悔もできなくなるので知性低下はかけない。


 ──グゴリオンの魂に埋め込み完了。


「よし、それじゃあステラたちが起きて目撃されても面倒なので、フィニッシュとするのであるか」


 上級第一位魔法・(ストーン)

 我は大気圏外に疑似太陽を召喚した。

 これを軽く落とせばグゴリオンは塵芥(ちりあくた)も残らないだろう。


「……む、これだと──この星が崩れるか」


 危ない危ない。

 ドジっ子魔王になってしまう直前で、我は魔法をキャンセルした。

 ついでに疑似太陽の放射などで地表が大変な事になる前に、影響も打ち消しておいた。


「うーむ、大体の通常攻撃で星が崩れたりしてしまうのである……」


 10%の力も出してはいけない現状だと、我専用の神器を使う機会は来なさそうだ。


「やはり素手が一番堅実であるな」


 我はゆっくりと、地面スレスレの低空飛行中で停止しているグゴリオンに近付く。

 相手が無駄に大きいので拳は届くし、殴れる場所もいっぱいある。

 軽く拳を握り、まず一発目の打撃。


「これが我の分である」


 グゴリオンの表面の石鎧が砕け、表面が拳の形に大きくへこんだ。

 時間停止中なので、グゴリオン自体はその場から動いていない。


「これが呆気なくやられた勇者ロトシアその他の分」


 二発ほど殴っておいた。


「これが理不尽に操られたであろう魔物たちと、王都の騎士たちの分!」


 五発ほど若干の力をいれて殴る。

 少々、気が乗ってきた。


「これがステラとジャスティナとキザイルの分ッ!!」


 50発ほどマシンガンのように拳をぶち当てていく。

 巨大鳥がフライドチキンのように、羽毛が禿げ、ひしゃげている。


「そして最後に──」


 我は大地をしっかりと踏みしめ、腰を落とし、拳にエーテルを込めて、光速を超えた魔王ラッシュを撃ち放つ。


「ホームパーティーの冷めてしまった料理の分だァァァァァアアアアアッッ!!

 ッオッラアアアアァァァァァァァァァァァアア!!!」


 数え切れない程の工夫や素材や技術や手間暇や愛情を込めた料理。

 それと同じく数え切れない程の怒りを撃ち込んでゆく。

 グゴリオンだったものは、もはや拳跡が付けられたオブジェでしか無い。


「……殴れるところがなくなったのである。そろそろ時間停止を解除してやろう」


 ──というところで思い出した。

 時間停止前、グゴリオンは『もし何かの奥義(・・)でもあるのなら、死にものぐるいで抵抗でもするのデスゥ!!』と言っていた。

 勘違いされては困る、あの場所(・・・・)に吹っ飛んでいく前に訂正しなくては。


「おっと、言い忘れていたが──」


 グゴリオンの止まっていた時間が動き出した。


「今のは奥義ではない。──鉄拳制裁(ただのコブシ)だ」


 もはや原型が無くなるくらいにボコボコになったグゴリオンは、遙か遠くの魔王城(・・・)まで吹っ飛んでいった。

 一発一発の拳エネルギーで弾道計算しながら、うまくホールインワンするようにしておいた。

 今頃きっと、魔王城と共に爆散しているだろう。




 非常にすっきりしたのである!

 これで心置きなくホームパーティーができそ──。


 ……何か頭に引っかかっている。

 もう一つ、爆散した何かがあったような。

 ええと……人魔将軍イフィゲニアを殴ったとき、どこかへ吹き飛ばしてしまった。


 そっちを恐る恐る見るのだが、北の方だ。

 うん、北……北の山……。

 誰かが行くと言っていたような……。


 確か数日前、王都で偶然出会って、北の山に資源調査に行くと──。


 思い……出した……。


 彼奴(あやつ)……また……。


「……ハゲ筋肉人間。

 この魔王の中で、お主は気高き戦士として記憶しておいた。

 せめて安らかに眠るが良い……」


 爆散してしまった北の山に向けて、魔王軍式の敬礼をした。

 そして我は、ステラとジャスティナを背負って、王都へと凱旋(がいせん)したのであった。

 王都中から歓声があがったのは言うまでもない。




* * * * * * * *




 数時間後。


「ふぅ、正体不明の黒い影に吹き飛ばされて助かったぜ」


 ハゲ筋肉人間生きてた!

 人間こえてりゅ!

 いつも感想、評価、ブクマありがとうございます! 非常に励みになります!

 これからまたしばらくはコメディっぽいものに戻ると思いますが、お付き合い頂けると幸いです。

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新連載を開始しました。
国を救うことに疲れてしまった強すぎる竜装騎士が、相棒の竜と共に田舎に移り住むスローライフ(?)なお話です。
どうぞ、こちらもよろしくお願いします。


『伝説の竜装騎士は田舎で普通に暮らしたい ~SSSランク依頼の下請け辞めます!~』
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