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15饗宴 王都強襲、鳥魔将軍グゴリオン

※視点変更あり

 オウマ達が聖剣探索に向かったあと、王都レギンレイヴはひどく混乱していた。


 信じられない事に、今まで数千年以上の均衡を保っていた前線──魔族と人間の境界線が突破されたのだ。

 それをおこなった者は、魔王(オウマ)の唯一の弱点であるメンタルを攻めて、結果的に追い出すことに成功した“鳥魔将軍グゴリオン”であった。


 彼は魔王軍を引き連れて、王都へ一直線の進軍をしているという。

 もちろん、人間側もそれをただ見ているわけではなかった。

 人間戦略兵器である勇者上位(ワールドランカー)5人が、馬よりも鳥よりも速く移動して防衛に当たった。


 同行している各勇者のパーティーメンバーも一騎当千の手練れ揃い。

 しかも人類最強と言われている“希望の勇者ロトシア”が指揮するのだ。

 ロトシアの斬撃は鋼鉄を切り裂き、ただ1人しか使えないとされている極大対軍雷撃魔術(ギガボルテッカー)は地形すら変えるという。


 人々は勝利を確信した。

 普通の勇者1人でも魔将軍1人に匹敵すると言われているので、戦力差は人間側が圧倒的有利。そう誰もが思っていた──。


 だがしかし、一瞬にして人間側は全滅した。

 なだたるパーティーメンバーも、人間戦略兵器の勇者たちも、最強のロトシアも全員が……いとも呆気なく死亡した。

 蘇生の加護を受けていたため、教会で復活を待っている状態なのだが……とても王都侵攻までには間に合わない。


 王都レギンレイヴ防衛に間に合うのは、もはや勇者ステラ──ただ1人になったのだ。




* * * * * * * *




「あの勇者ロトシア殿が負けたとは……にわかには信じられん」


「ボクだって信じたくはないさ。でもステラちゃん、伝令に走っている途中で見てしまったんだ……」


 私──ステラは大急ぎで王城へ馬車で引き返していた。

 何が何だかわからない。

 遙か昔の歴史から前線で抑えてきた魔族が、今になって王都へ侵攻しているというのだ。


 平和ボケだったのかもしれない。

 勇者と言われる英雄たちさえいれば、人の世は平和なのだと心のどこかで思っていた。


「それでキザイル……どうやって勇者ロトシア殿は……人間たちは負けたのだ?」


 ボロボロの格好で馬に乗って、村に現れた新人騎士のキザイル。

 彼が伝令として使わされたらしい。

 実戦経験があるベテランたちは防衛準備にかかりきりだろうし、若手の中で私たちをよく知るのが彼だったのだろう。


「かなり遠目から見ていたけど……最初に勇者ロトシアがピカッと光るすげぇ魔術を放ったんだ。そのときの衝撃にやられて、このざまさ」


「……極大対軍雷撃魔術(ギガボルテッカー)か。あれは広範囲を稲妻で撃ち払う雷系最強の魔術だ。普通ならそれで魔物はおろか魔将軍すら戦闘不能のはず」


「ボクも転びながら『やった勝った! オウマちゃん達へは勝利の伝令に変更だ!』って思ったものさ……でも、魔王軍のやつらは平然としていたんだ」


 おかしい……。

 あれが戦場で放たれた場面も直に見たことがあるが、魔物が耐えるなど今までそんなことはなかった。

 不発……ではなさそうだ。光った時点で雷が発生している。


「魔術耐性か、魔術反射の道具でも発明したというのか……」


「その直後に勇者ロトシアに影のようなものが纏わり付いて、動けなくなったところに鳥の頭をした魔物──鳥魔将軍グゴリオンが鋭い爪を突き立てていた……」


「なんてことだ……!? 力ある勇者がこのタイミングで死ねば、王都襲来までに蘇生は完了しないだろう……。生き残りはいないのか?」


 キザイルは馬車で揺られながら目をそらした。


「たぶんいた……ボクが見た時は……」


「そ、それなら生き残りに回復魔術をかけたあとに助力を!」


「グゴリオンのやつは、女だけ瀕死にして、戦意を削ぐために顔を焼いてわざと生かしておいているようだった……。それも普通に癒やせない呪いの炎で……」


「女の顔を……なんと卑劣な」


 つまり残る勇者は私1人だけということか。

 先に聞いていたが、やはり勝てるとは思えない。

 最強の勇者が負けたのに、最弱の偽物勇者である私が……。


「私が戦って勝てるのだろうか……」


 迷いが口から出てしまった。

 普段はジャスティナも見ているので、弱気な事はいわないようにしているのだが……。

 今はキザイルと二人きりの馬車だからだろうか。


 こんなとき、オウマ殿がいてくれたら──いや、あの方を巻き込むわけにはいかない。

 ジャスティナと共に村に残してきたのだ。

 私になにかあっても、きっとあの2人なら──。


「ステラお姉ちゃんなら、きっとかてます!」


 ──そうジャスティナが村から応援してくれているような……ん?

 本当にジャスティナの声が聞こえるではないか!?


「な、なぜここにいる!?」


「荷物にかくれてコッソリついてきちゃいました」


 ゴソゴソと荷台の袋の中から出てきたジャスティナ。

 急ぎの出発のためチェックをし忘れていた荷物だ。


「なんてことを……今すぐ降り──」


「ステラちゃん、もう王都が見えてきたよ! 魔王軍に防戦している最中だ!」


 この距離で1人下ろせば、さらに危険か。


「キザイル、お前に頼みがある……」


「わかってるよステラちゃん! この騎士キザイルに任せておきなよ! 自慢の魔剣でジャスティナちゃんを守ってやるさ!」


「今だけは頼もしく思っておこう。その初心者用の魔剣(・・・・・・・)とやらでもな」


 私は、キザイルに笑いかけた。

 それが最後の別れになるかもしれないが、気の利いた言葉は言わないでおく。苦手だから。


「勇者ステラ! 参る!」


 王都前の平原地帯。

 そこは今や、騎士と魔族がぶつかり合う戦場となっていた。

 力と力が、数と数がひしめき合い、砂ぼこりが巻き上がっている。

 私は馬車から飛び降り、その魔族陣営の横っ腹に特攻していく。


 オーク、リザードマン、ドラゴン、アイアンゴーレム、スケルトン。

 目の前の敵を手辺り次第に切り裂いていく。

 いける。このまま魔族側の数を減らせるという手応えがある。


 勇者ロトシアが負けたというのは、魔術対策が成されていたためだったのだろう。

 つまり物理攻撃しかできない私にとっては無意味!

 ──これは勝てる!


「や、やった! 勇者ステラが間に合ったぞ!」


「すげぇ勢いで敵を倒していってやがる!」


 王都騎士たちの士気も高まってきた。

 となれば勝機をこの手に掴むしかない。


「このまま一気に敵将の首を取れば──!」


 放たれた矢の如く敵陣深く突っ込み、一切合切(いっさいがっさい)斬り捨てる。

 踏み込み、ひたすら踏み込み、振り返らずに。ただ剣で切り拓く眼前だけを睨み付ける。


「見えた! 鳥魔将軍グゴリオン!」


 鳥の頭と翼を持つ、茶色と白の体毛の人型魔物が立っていた。

 その鋭い眼光は知将を思わせる鷹のようだった。

 ダメ元だが、私は大声で要求を叫んだ。


「鳥魔将軍グゴリオン! この勇者ステラと一騎打ちをしろ!」


 グゴリオンは目を細めて笑った。


「良いでしょう。ワタシは貴女のような清く正しく美しい方とは、正々堂々戦うのが信条ですから」


 喋りは丁寧だが、声はれっきとした男性のものだ。

 少し甲高い声なので中性的とも言えるが。


「ほう、魔物にもそのような心の持ち主がいたとはな」


 こちらの油断を誘うための言葉かとも思ったのだが、どうやらそれは違うらしい。

 敵のまっただ中にいるというのに、他の魔物たちが本当に攻撃をしてこない。


「では──尋常に勝負!」


「はい、勝負です」


 グゴリオンはスラリと剣を抜いた。

 奴の体格は背も高く、小娘であるこちらとは比べようもない。

 魔将軍の1人であることを考えると、私のスタミナでは長く戦えないかもしれない。

 ここは短期決戦だ──!


「ハッ!」


 まずは大きく横薙ぎの一撃。


「おぉ!?」


 グゴリオンは剣で防御をしたのだが、小娘が相手だと高をくくっていたのか、剣を弾かれて体勢を崩していた。

 私はそのまま一撃、二撃と剣を振るっていく。

 前へ、前へ!


 相手の秘密兵器があっても、それが魔術耐性だけなら──!


「食らえっ!」


 防戦一方のグゴリオンが大きく後ろへよろめいたところで、私は剣を投げ放った。

 これなら意表を突けると戦闘経験が判断した。

 そこから背中に背負っていた両手鎚(ハンマー)を装備して──追撃!


「やばい、これはやばいですね……!」


 剣で剣を弾いているグゴリオンは隙だらけだった。

 今、私が全力で横方向に振るっているハンマーを防ぐには、剣を握っていない方の片腕一本を犠牲にするしかないだろう。

 そうなれば、その後の展開は勝ったも同然である。


「もらったぁーッ!!」


「いやー、やばいですねぇ?」


「なに……!?」


 グゴリオンはやばいやばいと言いつつ笑っていた。

 そして、私の渾身のハンマーを指一本で受け止めていた。

 どういうことなのかわからなかった。


 混乱していた。

 なぜ、互角以上に戦えていたというのに。

 突如──。


「ぐッ!?」


 腹部に衝撃が走った。

 凄まじい威力の膝蹴りが、目に捕らえられないスピードで飛んできていたのだ。

 相手から見れば小さく軽い私は、簡単に地面に倒れてしまった。

 頑強なミスリル鎧も砕け散っている。


「いやぁ、その顔が見たかったんですよ、その顔が。

 ふふふ……前魔王も、そのような顔をしていたのでしょうねぇ……。

 このワタシ──新魔王グゴリオンの思惑にハマってね!」


「ま、魔王……だと……」


「新、魔王ですよ。勇者さん」


 グゴリオンは表情一つ変えずに、倒れている私の上に足を掲げて一気に踏み付けた。


「ぐあっ!?」


 身体に激痛が走る。

 情けない姿だが、まだ勝機はある。

 既に、あれだけの数の魔物を倒しておいたのだ。


 そうなれば、グゴリオンだけ意表を突いて倒せば何とか──。


「役立たずの前魔王と違って、ワタシは魔族たちに手加減をさせるのは止めにしました。あなた達、そろそろ起き上がっていいですよ?」


「ど、どういうことだ……」


 困惑する私を横目に、今まで倒してきた魔族たちが続々と起き上がってきた。

 一体、二体、三体……十体、二十体。


「──やれやれ。俺たちいっつも演技してたんで、やっとって感じだぜ。もう手加減はしなくていいんすよね?」


 ゴキゴキ首をならして、準備運動を始める魔族たち。

 ──倒れているのは人間側だけとなっていた。

 絶望が襲ってきた。


 まだ残っていた王都騎士たちも、武器を落とし始める。

 やっと倒したと思った相手が、手加減をしていたと言って立ち上がってきたのだ。

 どうしていいのかわからない。


 だが、それでも──絶望しても立ち止まってはいけない。

 後に続くための者のために──妹のために──敵を一体でも減らしておかなければならない。


「まだ……だ!」


 私は立ち上がり、落ちていたハンマーを手に取る。

 そして確実に倒せそうな、一番間近のゴブリンに殴りかかった。


「ギャッ!?」


 後ろを向いていたゴブリンは後頭部に衝撃を受けて、そのまま倒れた。


「いける!」


「……ってぇなぁ?」


 突然、倒れているゴブリンが喋った。

 ゴブリンが……言葉を喋るはずがない。

 しかも、元気よく立ち上がっている。


「魔力でガードしてるつっても、タンコブが出来たらどうすんだよ?」


「そんな……」


 ただのゴブリン一匹、私では倒せないというのか……。


「まだ……なにかできること……もう……なにかできることは、ないの……か……」


「グゴリオン様、こいつブツブツと言ってるけど壊れちまったか? 俺のせいじゃねーよ?」


 苦笑いするゴブリン。

 腹を抱えて大笑いするグゴリオン。


「勇者がゴブリンを倒せなくて、精神が崩れ去ってしまいましたか。これは滑稽(こっけい)

 そういえば、あの追い出した前魔王も心だけは弱かったですねぇ?

 ずっとずっと周辺に手を回して、奴の信頼できる者から遠ざけていたかいがありました! そしてワタシは“あの方”のご助力もあり、魔王の座を頂けた!」


 コイツが……前魔王とやらを追放したのか。


「ワタシは前魔王のアイツとは違う!

 恐怖で魔王軍を操り、世界全てを支配するのだ!

 まずその第一歩として王都を落として、魔王軍内部で従わない前魔王派のやつらに力を示すのですよ……!」


「くくく……あはは!」


 私は思わず笑ってしまった。

 だって、やつの方が滑稽(こっけい)すぎるだろう。


「何を笑う、勇者」


「小物。絶対にグゴリオン──アナタは小物だ。

 前魔王の方が人望があって、それを“あの方”とやらの力を借りて引きずり下ろしただけだ。

 魔族は魔族でも、まだ見ず知らずの前魔王の方が百倍格好良いじゃあないか!」


「っこの、ゴブリンにも勝てぬ小娘のくせに……このワタシを! この新魔王グゴリオン様を小物扱いするだと!?」


 小物のグゴリオンは、小物らしく挑発で怒り狂っていた。

 私の細い胴体を鳥のような片手で掴み上げると、人形を観察するかのように顔を近づけてきた。


「いいでしょう、ワタシの力を披露してあげます。まずは周辺の人間どもに魔法をプレゼント──初級吸収魔法(デスドレイン)!」


 球状の闇が拡がり、辺りが一瞬のうちに暗くなった。

 そして騎士達が倒れ始める。


「な、なにをした!?」


「ちょっと生命力を吸い取っただけですよ。普通の人間ならあのように倒れてから──ほら、死んでますよ?」


 倒れた騎士達は、順番に消滅していった。

 蘇生の加護を受けていたために、王都の教会へ死体が転送されているのだろう。


「くっ、外道め!」


「普通に戦っても勝てますが、こっちの方がおもしろいじゃないですか? 勇者であるアナタは元気なようですね。よかったよかった」


「なにを……?」


 グゴリオンは、私を掴んでいる手をグッと握りしめ、空いている方の手で炎を出し始めた。


「この誰も助けに来ない状況で、今からアナタを殺さずに顔だけを焼きます。ワタシの呪炎は治療が難しいですよ……ウヒヒヒヒ」


「ぐ、グゴリオン様……まだ年端もいかない女の子にそれは止めてあげましょうよ……」


 さっき後頭部を殴ったはずのゴブリンが心配してきている。

 身内から止められるということは、このグゴリオンはあまり信頼されていないようだ。

 私は死に際にトゲを残してやると覚悟して、さらに挑発をする。


「新魔王様とやらは、その程度の嫌がらせしかできないのか? 今の私には蘇生の加護がかかっていない。このまま殺しておかないと後悔するぞ?」


「ぐ、グゴリオン様……ほら、可哀想ですし、やっぱり解放してあげ──」


「黙れ、ゴブリン風情が! 大体、お前の上司の人魔将軍イフィゲニアが魔王追放にもっと協力的なら楽だったのにだ!!」


 私をかばってくれたゴブリンは、グゴリオンの炎に焼かれてのたうち回った。


「ギャアアァァァアッッッ!!」


 周りの魔物達は、それを見て見ぬ振りをしようとしているが、雰囲気は重苦しいものだった。

 人間の私でもそれくらい伝わってくる。


「お前らも逆らうとこうなるぞ!?」


 口調が荒くなるグゴリオン。

 明らかに王の器ではない。


「ク、ククク……クヒャヒャッ!

 勇者よ。顔を焼かれた後に、王都の人間が皆殺しにされるのを見ているが良い!

 語り継ぐが良い! 新魔王グゴリオン、世界制覇の第一歩をな!」


 顔を焼かれてもどうってことはない……!

 痛みの恐怖はあるが、ただそれだけだ!!


「年頃の女の顔を焼くのは最高に楽しいぞ? いくら強がっても、好きな男の前で二度と笑えなくなるんだからなぁ!」


 私はその言葉に身体が硬直してしまう。


「さぁ、良い肉の焼ける音を聴かせてくれよ?」


 迫るグゴリオンの真っ赤な手。

 触れずとも熱気が伝わり、長い金髪の毛先が焦げ始める臭いがする。

 これが肌に直接当たったら……。

 情けないことにギュッと目をつぶってしまう。


 ──そして。


「ぐっぎゃあああああ、あづい、あづい!? この新魔王グゴリオン様の顔があああァァッ!!!」


 次に目を開けたとき、とても小さな背中が見えた。

 それは、いつも私の後ろを歩いていたはずの──。


「今度はあたしがお姉ちゃんを助ける!」


「ジャスティナ……!?」


 小さな勇者の聖剣によって弾かれて、グゴリオンの手は鳥頭本人にべったりと密着していた。

 ぶすぶすと羽毛が焼けている。

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新連載を開始しました。
国を救うことに疲れてしまった強すぎる竜装騎士が、相棒の竜と共に田舎に移り住むスローライフ(?)なお話です。
どうぞ、こちらもよろしくお願いします。


『伝説の竜装騎士は田舎で普通に暮らしたい ~SSSランク依頼の下請け辞めます!~』
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