13饗宴 聖剣探索と世界の仕組み3
「ドラゴンハンバーグを食べさせることができなくて残念だ」
「は、はは……」
あの下級竜を撃退したあと、我たちは村へと立ち寄った。
民家のいくつかは竜の火息によって半焼していたが、幸いなことに死者はいない。
我は重軽傷者に霊薬を使ってまわり、陽も落ちてきたところを村長の家に誘われ、お世話になっている。
木造家屋だが品の良い作りで、土地が余っているのか結構な広さだ。
一晩を過ごす客室も用意してもらっている。
今はリビングで、村長とお茶をしながら雑談中なのだ。
ちなみにあのステラを“愚かな小娘”と呼んで、村を焼き、我たちの前で調子に乗ていた下級竜……。
挑発した愚かな小娘の手によって──、竜とは思えぬむせび泣き、もう殺してくださいと懇願しながら、最後まで生きながらモザイク必須状態になり、切り離された竜翼や竜爪を遺して本体……だったような部位は消滅した。
まぁ、魔王軍側へ転送されて蘇生されるのだろうが。
きっと向こうで蘇生担当をしているデビル神官たちが送られてきたアレを見て、心的外傷後ストレス障害を負うことになるだろう。
史上類を見ない猟奇殺竜といえる……。
うん、いくら我でもどん引きである。
「え~、ステラお姉ちゃんのハンバーグ、いっつもマズイからキラーイ」
村人たちも勇者様と崇めつつどん引きなので、無邪気なのはジャスティナくらいであった。
というか、ハンバーグもそれなりに作り方や手順があるため、さすがにアレを焼いたくらいでハンバーグにはならない。
竜丸ごとどころか、土とか色々と混ざってたよアレ……。思い出したらベジタリアンになりそう……。
「ええと、それで勇者様ご一行歓迎ということで、我が家でささやかながらパーティーを催そうと思うのですが……」
村長が、パーティーと恐る恐る提案してき──いや、パーティーだと?
我が家でパーティーだと……!?
うぅ……いつものトラウマが発症しそうだ。
だ、だが……我も人間の世界にきて成長した。
このくらいで発狂などせぬぞ!
もし魔将軍が目の前にくるシチューションなら別だが!
特に鳥魔将軍グゴリオン……ッ! 彼奴にだけは良心の呵責なく本気の力を出せるであろう……。
──と、苦悶している我の横で、ステラが返事をしていた。
「ほぅ、歓迎痛み入る。私も勇者として遠慮されるだけというのも面白くない。手伝わせていただこうか、料理とか大得意なので。大得意なので」
「い、いえぇ……そんな、勇者様にそのようなことを……」
年老いた村長はガタガタと震え始めた。
「なに、まだ食材はある。竜のミンチ肉は消えてしまったが、“竜翼”と“竜爪”を焼けばきっと美味いぞ?」
ステラァァァァァア!?
嫌な予感しかしない。
百歩譲って竜翼は生ものだとしても、竜爪は爪。ただの硬い爪である。
しかも焼けば平気というワイルド思考。
ここで我が止めなければ全員が大変なことになる。
「りゅ、竜翼と竜爪は、加工すれば有用な武具になるから、我欲しいな~、なんて~……」
「さすがオウマ殿! そのように柔軟な発想を持つとは!」
『えぇ……』
我と村長の声がハモってしまった。
ステラの常識が、なんだか良くわからないがやばい。
この子やばい。
「では、竜翼と竜爪はオウマ殿に献上致します。……あ、愛と共に!!」
「……あ~い」
リアクションに困る我はつい適当な返事。
決して、ギャグで言ったのではない。
* * * * * * * *
「こんなところにいたのであるか、ジャスティナ」
「オウマ……」
勇者歓迎パーティーが賑やかに行われている間、ジャスティナの姿が見えなかったので辺りを探していた。
すると、外の離れた場所にある椅子に1人で座っているのを見つけたのだ。
「パーティーは嫌いか?」
我はそう問い掛ける。
村の大人たちが楽しげに酒を飲み、野外で豪快な料理を作り、どんちゃん騒ぎ。
子供からしたら、びっくりしてしまうだろう。
あとステラが、そこらへんの虫を焼き料理にしようとしていたので、それは止めておいた。全力で。
「キライ……じゃないと思う。だけどね、いろいろと思い出しちゃって……」
村の家族──両親と子供が家族団らんしているのを、まだ6歳のジャスティナは見つめていた。
「ふむ?」
今まで、ステラとジャスティナと接してきた感じだと、過去に何かあったように感じる。
だが、我は人間では無いので、そこまで踏み込んでいいのかは判断が付かない。
「ねぇ、オウマ」
「なんであるか?」
「ちゃんとあたしが勇者になって、ぶじに戻れたら──。
ステラお姉ちゃんと、あたしとで、いっしょに住もう! それでホームパーティーしよう!」
わ、我にホームパーティーをせよと……。
あの時の“孤独のホームパーティー”を思い出して、目眩と吐き気が襲ってくるのである……。
だが、目の前には、無邪気な期待の瞳を爛々と輝かせている6歳のジャスティナ。
きっと、聖剣の勇者選定が不安で、何かの約束というか、ご褒美が欲しいのだろう。
我、苦渋の決断──。
「わ、わかった。帰ったらホームパーティーを催そう。約束だ」
「ほんと!? ほんとにほんとだよ!?」
「ああ、我は約束を違えぬ。例え、それが最高神であっても律儀に貫き通してやったからな」
「よくわからないけど、わかった!」
まぁ、ジャスティナは不安になっているが、大きなトラブルなど起こるまい。
聖剣が勇者と認めるのは、ほぼ確定済みなのだ。
そのあとは王都レギンレイヴへ帰るだけ。
いや、その前にホームパーティー用の食材も調達せねば、か。
良さげな場所があったら道草でも食ろうてやろう。
「よーし、それじゃあ、勇者になれるように剣のおけいこをする! オウマ、訓練用の剣かして!」
「こんなところでもか。まぁ、いいだろう。ただ、我の見ていないところでは剣を握らぬようにな」
あれからも、ジャスティナの剣の型は完成していない。
柔の剣──魔界剣。
様々な種族がいる魔界で柔軟に戦うための剣技。
剛の剣──王陣剣。
王が配下の者へ剛直なる威厳を示すための剣技。
この二つの基本を修得して、自ずと我と同じ剣技、
──最強成りし魔王剣へと至る。
そこまでになれば体内のエーテルを剣に纏わせ、“本気の魔将軍”相手でも手傷を負わせられるだろう。
この小さき者が、いつそこに至るのか楽しみである。