9饗宴 我の過去を知る偽勇者ステラ
「な、なぜ我にそんな秘密を打ち明けたのだろう……!? 勇者ステラ! ……さん」
「そんなに畏まらないでください。もっと気軽にステラとお呼びください」
えぇ~……。
なにこの怪しい態度。
「それで、その……オウマ殿なら大丈夫だと思ったからです──」
大丈夫とな!?
もしや我の秘密を握ってるから大丈夫という!?
「やはり以前のように強く──」
以前のように!? 以前の魔王のように!?
「偉大な御方と確認できましたので……!」
偉大な御方……魔王だよね、魔王。
魔王と確信しちゃったから、秘密共有的に心臓を握り合おうみたいなことだよね……。
これは完全にバレている。
勇者ステラは、我が王都に忍び込んだときから、ずっと疑うような言動を向けてきていた。
それを先の百人組み手で確信したのだろう……我が魔王だと。
これはもう覚悟するしかない。
今まで敵対してこなかったということは、勇者にも深い理由があるのだろう。
「あ、あの……突然ですが……」
勇者ステラは、こちらに一歩近付いてきた。
まずい、自然と距離を詰められた。
このまま一撃入れられてしまうか!?
い、いや、だが勇者ステラの手は何かを祈るかのように胸の前で組まれている。
ゼロ距離の魔術を無詠唱で放とうというのか……?
ッグアァー!? ヤバイ!?
「貴方を──お慕い申しております! オウマ・ブラオカ殿!」
「貴様、御死体にしてやるだと!? ……んゃ? お慕い?」
魔王ブレインが混乱しはじめた。
慕うとは、愛情をあらわすアレですよね?
なぜ勇者が魔王に?
いや、ニセモノの勇者と最初いっていたな。
わからない。我、わからない。
「あたしもオウマ好きだよ!」
張り合うかのように、小さなジャスティナも告げてきていた。
こちらは、遊び相手として好まれているということだろう。
素直に理解できる。うん、こっちは理解できる。
「そうか、ジャスティナ」
心を落ち着かせるために、仔犬の頭をなでつけるが如く、ジャスティナの金色の髪を手でポフポフ。
このままジャスティナと遊んで現実逃避でもしようかな、我……。
なんか放置してるステラからすっごい眼力を感じるけど。
……帰りたい、実家帰りたい。
「ステラよ……。魔王の弱点を突こうとしているのか……?」
きっと精神的弱体化を狙って、我を倒そうという魂胆に違いない。
そのためにニセモノの勇者とか、慕っているとかデマカセで混乱させようと──。
「申し訳ありません……オウマ殿。
恩人である貴方の優しさという弱点につけ込むようで……。
私からの好意より、謝意を表したいのですが気が逸ってしまいました」
「お、恩人……?」
我は勇者ステラを直接助けたことなど無いはずだ。
ゴブリン退治のときも、そこまでのことではないだろうし。
「お忘れかも知れませんね。あれはもう何年も前のことですから……」
あ、これ回想入るやつだ。
「以前、母と幼き私を、暴漢から助けて頂いたのです。
そのとき、母のお腹にはジャスティナもいました」
うーん……? 人を助けたことなんてあったっけ?
思い出せないので回想はキャンセルだ。
だが、6年くらい前に一度、この姿で人間の街に忍び込んだことはある。
そのときに何かあった……のか?
「あのときと変わらぬ姿、オウマ・ブラオカと名乗られた声──」
あ、思い出した。
人間の繁殖を防ごうと、そういう行為をしようとしていた男を殴り飛ばした。
たしか、そのとき咄嗟に偽名を名乗ったはずだ。
知らぬ間に人間状態の顔を見られ、人助けをしていたのか。
我のうっかりさん……。
「私はずっと、あの時の恩人ではと観察していたのです。試すような事ばかりをしてしまい申し訳ありませんでした……」
「い、いや。なに。我も勘違いをしていたようだ。あ~、あのときの娘か。うん。バッチリ忘れてる、うん」
つまりまとめると、だ。
我を魔王と疑っていたのではなく、恩人かどうか見極めようとしていたと。
我は魔王と疑われていなかった!
そして……やっかいなことに勇者ステラから、なぜか慕われてしまった。
──いや、待てよ。我を混乱させるための嘘八百ではないとすれば、勇者ステラは、ニセモノの勇者ということなのか?
「ええと……それですまぬが、最初の“ニセモノの勇者”というのはどういうことなのだ?」
「オウマ殿のご友人が戻られるかもしれないので詳細は省きますが、妹のジャスティナが真の勇者なのです」
なるほど、合点がいった。
確かにステラは人間としては強いが、ギリギリで勇者の入り口に立つ程度のチカラ。
たぶん勇者と呼ばれる中でも最弱だろうとは思っていた。
勇者で無いものが、いくら研鑽しても辿り着けるのはそこらへんだ。
それに比べて、ジャスティナは何か計り知れないものを感じる。
サバイバル訓練の時の森──普通は見えぬモノが見えていた。
「納得した。ジャスティナは特別に思えたからな」
「さすがオウマ殿……! 今まで……! 今までどれだけジャスティナの才能を見抜けぬ輩に敵意を向けられてきたか……!」
ギュッと手を握るステラに、うつむいて悲しそうな顔をしてしまうジャスティナ。
何かつらいことを思い出しているのだろう。
「……それを打ち明けたいがためだけに、我に会いに来たのではなかろう?」
「はい……。今日は折り入って頼みがあって参りました」
この後に続く言葉は予想外だった。
前提として我は魔王で、ジャスティナは真なる勇者。
「ジャスティナを──勇者育成を頼みたいのです!」
ブッチャケ・アリエナーイ……。