ドドンである
ハロー皆様。ご機嫌麗しゅう。ワタクシの名前はシェヘラザード・ウィル・キドウィック。
キドウィック伯爵家の一人娘である。
そんな私はいわゆる前世の記憶というものがある。なに、そんな大したものではない。やつれたOLであり、オタクであり、ゲームとアニメ鑑賞が趣味でオタクの祭典ではっちゃけるのが好きというどこにでもいる陰キャだった記憶である。何も特別なことはない。唯一特別なことがあるとしたら私がいわゆる乙女ゲーのヒロインとして生まれたというだけである。
そう、ヒロインである。悪役令嬢ではなく、ヒロインである。
そもそも私が記憶を思い出したのはひどい高熱に魘されてからである。いや、実を言うと結構前からその予兆はあった。冬に寒さに耐えきれなくてどこから知ったのか分からないが、こうすれば暖かいと四角形の木を貰ってコタツの下のあの形を絵を書いて街の建設家に作ってくれるよう頼んで、そして作ってもらって、フカフカの布団をしいて、気休めとして中に暖かいお湯を入れた袋を入れて簡易的だがライトを布団の上部に付けてたりと色々工夫して暖かいいわゆるこたつを作った。メイドに好評だった。いつの間にか市井で広がっているほど好評だった。いつの間にか、である。それまでは貴族のお嬢様としてある程度距離を置かれていたのにそれを作って以降奥様方から暖かくなりました!ありがとうございます!となんかお礼を言われるようになった。もはや街の人たちは私のお忍びを見逃すということをしてくれなくなった。見かけたらお礼とともに商品をくれる。申し訳ないからお金を払おうとしたら要らないと、無理矢理渡される。お忍びってなんだっけ?状態である。いや、そんなことは置いといていやいや、置かれても困るんだけど、しかして、そんなふうに前世の記憶をフル活用とは言わず、ある程度活用していた所に高熱を出して記憶を思い出すである。なんというか、困る。今までどこでそんな情報手に入れたっけ?と思っていたのがいきなり前世からです!である。困惑しかないけど、最初は別に平気だったのだ、そうか、記憶があるのか、ラッキーくらいにしか思ってなかった。だって前世の記憶があると言うだけである程度世界観は違えどほかの子達と経験値が違うというわけである。それはもういわゆる強くてニューゲーム状態と言っていいのではないだろうか、主に勉強が。数学が。しかし、名前で私は気がついた。記憶を取り戻してしまえば自分の名前が有名な物語の女性の名前だと気が付き、更にそこから派生してあれ?である。前世の使えない私はお菓子作りの趣味も日曜大工の趣味も、植物作りの趣味も、果ては友達と外で遊ぶという趣味もなかった。と言うか友達がいなかった。寂しいヤツである。しかして料理は食べられる程度位の腕前だし、友達を作れるほどのコミュニティ能力を有していた訳ではない私の唯一の趣味はただ一つ、ゲームをすることだった。アニメ鑑賞も好きだったが、ある程度年を重ねるとそこに面白さを見出すことが出来なくなっていた。故に唯一楽しいと思えたのはゲームをする事だった。そんな私は乙女ゲームよりも格闘系が好きだったが、その中でほぼほぼ唯一乙女ゲームでハマったゲーム、「千夜一夜恋物語」と言う明らかに題名考えるの諦めただろと言うゲームであった。その中でシェヘラザードは6人の男の子達と出会う。
まず一人目王太子候補のガルフレッド・ギルウェル。候補がつくとおり、他にも王子がいるが、ガルフレッドよりも優秀な王子はいないということで、ガルフレッドはもはやその他の王子と争う必要が無いとも噂されるほど優秀な王子である。そして王子らしく腹黒であった。
2人目宰相閣下の息子のひとり、宰相閣下の息子の中で最も優秀と名高いシスティ・ヘレナ。女みたいな名前だが男である。名前の原因は宰相閣下の早とちりという設定だったはずだ。願望ともいうが。こんなに情報が少ないのは多分前世の私がシスティがあまり好きではなかったからだ。そもそもシスティの性格は俺様系であり、私は俺様系が大嫌いだった。正直俺様されてキャーー!という意味がわからない人だった。だから名前の割に俺様とかプッである。
3人目は有力貴族カオスディス家のサウス・カオスディス。カオスディス家は有力貴族だが両親仲は周りが引くほど悪く、サウス自身も性格が歪んで一部のプレイヤーからはうざいと言われる始末の性格だった。しかし、最後には嬉しそうに微笑んで「ありがとう、よろしくね」と言うその様は見ものである。そこを見るためだけに今までめんどくさいのを我慢してきたのだ…!と言ってる人もいた程である。まぁ、一番めんどくさいが、一番攻略が簡単なのも彼である。理由は後々説明する。
4人目は騎士団長の一人息子ギルベルト・ウルウェイ。ギルベルトは快活なお兄さんという感じで、騎士としての誇りを持ち、幼い頃から社交界に出るより父と体を動かすことが好きで、何よりも剣を握ることが好きな男の子で、女性との関わりなどメイドと母親ほどしかない。故に女性の扱いが苦手で、主人公とも、最初はぎくしゃくした関係しかない。その後色々弱いところを見せてくれるようになるが、そこからがまた長い。攻略までが一番長いのは彼である。
5人目はハマウェス・ヘレナ。言わずもがな宰相閣下の息子のひとりである。追加情報としてはブラコンである。同時に、兄に対して劣等感も抱いたていると言うめんどくさいキャラ設定であったはずだ。そもそも、兄が好きなのは彼は妾の子であり、ほかの兄弟達からはまるで汚物でも見るような目で見られていたところを、唯一システィだけが彼をひとりの人間として見てくれたことに起因する。そして、劣等感を抱くのは兄に比べて自分には何も無いということを周りの兄弟から指摘されるからだ。最終的には兄に劣等感を抱く事なく、元々兄よりも唯一優れていた人に教えるという才能を持って教師となる姿が書かれる。
6人目はどうしてここで年上が出てくるのか分からないが、有力貴族のうち唯一の独身貴族であったカナドリ・イルウェル。そもそも、カナドリにはひとりの想い人がいた。しかし、想い人はカナドリが幼い頃に死んだ。婚約者だった。その後も次々と婚約者が立てられるが、その全てが謎の死を遂げ、遂には誰も立候補しなくなったというのが真相である。何故謎の死を遂げたのかは物語が終わった後も明かされはしなかった。最後まで謎の人である。
この千夜一夜恋物語、攻略対象にはカナドリ、ギルベルト、サウス以外いわゆる悪役令嬢の役割である婚約者が存在する。サウスに婚約者が存在しないのは両親が彼のことを諦めているからである。こんな暗いヤツに婚約などできるはずなどない、と。故に、悪役令嬢が出てこないから、彼の攻略は簡単であったのだ。邪魔者がいないという事だ。ギルベルトは両親に自分で選びたいと頼み込んだ故にいない。人はそれを俗に問題の先送りとも言う。カナドリは言わずもがなである。
そもそも、千夜一夜物語を元ネタとしたこの物語は物語の創作が好きな主人公がたまたま出会った男の子達に自分が想像した物語を話していき、恋心を育むというセクションの元プレイヤーは主人公を操作してゆく。主人公は物語の創作が得意というその独特の感性を遺憾無く発揮し、攻略対象を攻略してゆく。時には何故そうなった?!という解釈をして対象を笑わせたり、プレイヤーでは考えつかないほど深い考えをして対象を慰めたり、物語の創作が好きで本が好きな割に活発で、走るのが好きだったり、頭がよかったり、いわゆる完全無欠の女子である。なんと羨ましい事か。いや。今は私がそうなんだけど無理じゃね感が半端がない。千夜一夜物語はとある王様に殺されないように物語を、千一夜披露し、いつの間にか妃になっているという物語。しかし千一人も攻略対象を作れるわけがない。なら1週間を千一としよう。日曜は含まないよ☆という理由があって、6人の攻略対象者がいる。まぁ後々七人目が出てくるのだが。
ここで三人目以外の婚約者を紹介しよう。王太子の婚約者、公爵家の一人娘であり、気品高く、貴族としてのプライドもあり、自分の立場を弁えており、主人公がヘマをした時注意はすれど、イジメは言語道断と一切しない。周りがしようものなら率先して止める。真正面から対決する少女、メイル・ヘキディア。最終的に王太子を攻略した後、個室で婚約破棄をする。その時の彼女は涙を浮かべながら「私は、あなた好きでした」と、王太子を睨みながら言うのだ。その姿にプレイヤーの多くが暴動を起こすという事件が起こるほど、おそらくプレイヤーから最も好かれていた少女である。しかもその時のスチルが悲しい。泣かないように我慢しているが、こぼれ落ちる涙。憎いが愛している、そんな複雑な想いが絡み合う絵を見事に絵師が描いているのだ。それはそれは美しかった。
次にシスティ・ヘレナの婚約者である、アメリア・オスカディオ。オスカディオ侯爵家の娘のひとりである。彼女はイジメをする。そう、する。と言うか、メイル以外はする。そもそもシスティにとって彼女は婚約者ではあるが、仲の良い友人という認識だった。しかし、アメリアは、システィに恋をしていたのだ。どうしようもない恋を。しかし、自分を向いてくれないシスティ。でもそれでいいと思っていた、自分は将来結婚するのだから。でも、そこにシェヘラザードが現れるのである。瞬く間にシスティから恋心を掴み取った。それが憎くて憎くて、虐める。最終的にシスティにこう言われるのだ。「君がそんなやつだとは思わなかった」っと、その言葉に泣き崩れ、学園すら来なくなり、さらに引きこもり、婚約は静かに破棄された。アメリアのイジメはなかなかにプレイヤーを苦しめたが、その姿はそれまでを清算してもあまりあるほどに、可哀想だった。
三人目、ハマウェス・ヘレナの婚約者ミルキー・アマデウス。アマデウス公爵家の一人娘である。最初こそハマウェスの情けない姿に呆れていたが、だんだんと絆されて最後にはハマウェスに恋をするというどちらかと言うと姐御肌の少女である。主人公を虐める理由は離したくないという独占欲とともに、ハマウェスを任せられるか試すという理由であった。姐御肌の女子というのはやはりどこの世界でも好かれる様で、ミルキーは女子に人気であった。そして、その自分を慕ってくれる女子を利用してイジメてくるのだ。女子ってわからないものである。プライドの高いメイルはいじめないのに、姐御肌のミルキーはいじめるのだ。やっててまじで困惑した。最後はハマウェスに何も言われず、ただただ悲しそうに「さようなら」を告げられる。彼女はその言葉に全てを察して婚約破棄を素直に受け入れるのである。
そう、今まで話した通り、このゲームにはそれぞれがそれぞれに理由があり虐める。ただひたすらに愛した少女達はそれぞれ悲しいエンドを迎えるのである。さて、前話したとおり、このゲームには七人目が登場する。それな誰かは置いといて、まずはこのゲームの話をしよう。このゲームは改定版が後に出される。そこには前バージョンにはなかった、婚約者を含めたそれぞれのその後がオプションとして見られる他、攻略対象にシークレットとして七人目が登場した。それが何を隠そう、プレイヤーから最も愛されたメイル・ヘキディアである。いきなりの百合展開である。
そもそもヘキディア家は冷めていた。カオスディス家程ではないにしても、冷めていた。母に似て美しいメイルは父からは政略結婚の道具として、母からは居ないものとして扱われていた。そこに優しい言葉を唯一くれたのが王太子だったのだ。そこから彼女は腹黒であった王太子が自分を愛していないことに薄々気づいていながら、しかし、彼に愛さられるように、彼の隣に立てるように立派になろうとするのである。その姿は美しいかった。その後彼女の単独本が出されるほど、彼女は人気が出た。彼女を攻略した後の彼女はとても優しい瞳をしていた。主人公が作った物語を話すのを優しい瞳で見つめて、主人公の髪を優しく梳くのだ。主人公場所変われと思った。そう、何を隠そう私もメイル派なのだ。ドドンである。