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第九話:【甲拶】

お待たせ致しました、今回はかなり試行錯誤して時間がかかってしまいました。すみません……


あと今回、もうじきハロウィンですから絵描きさんがネタに使えそうなちょっとした小ネタを挟んでおります。

後書きにも簡潔に書いてありますので、ネタだけ見てみたい方はスクロールで本文すっ飛ばしてokです!(


それでは、是非ご堪能ください!

 言動が豹変しているアギトに苦戦する中、ミユリとリアと少女を逃がし何とか状況を翻そうと奮闘するディスター。自身の戦闘能力を一時的に飛躍させる能力“憑鬼”を発動させるも、振るう剣技は一度もアギトの身にダメージを与えられない。発動させていられる時間は限られており、切り裂かれた胸の傷がそのタイムリミットを狭め、刻一刻と危機が迫る。その為、ディスターは休息の隙を与えて不利が嵩むのを避けようと、距離を詰める為に床を蹴り前へ跳躍する。すると突如、黒く大きな布が上から垂れ落ちるようにしてアギトとの間を遮った。

「な、何だ……これは……」

「がはっ……っぁああああああ!!」

「アギト!!」

 遮られた直後、豹変してから一度も攻撃を喰らわず余裕ぶっていたアギトから思わぬ絶叫が部屋中に響いた。

「なぁんだ、まだまだ全然弱いじゃん。態度デカくてムカつくから試しに遊んであげようと思ったのに」

 黒い布の向こうから聞こえてくるもう一つの声は、アギト達より少し年上に思える女性の声だった。

「な、何者だ!!?」

「あ~はいはい、もぅ~男の子はどの子もせっかちねぇ……カーテンご開錠~♪」

 黒い布が中央から左右に割かれてカーテンのように開かれ、左右の端でくるまった布はポップ調に弾けるようにして消滅した。開示された光景は、残虐で異常な背景に更なる異常が招かれていた。

 アギトは床に倒れ、ショーテルを縦に引き伸ばしたような、何らかの生き物を象った奇妙な槍の先端が突き刺さっていた。



 その持ち主は、横に広く大きい形で魔女を連想させる帽子を被り、黒と紫を主張する露出の多い服装でパッと見で魔女と思わせる格好をしている、背が高く胸の大きい女性だった。胸骨の中心に紫色のハイヒールが食い込み、押し込むようにして爪先を左右へ揺らし体重をかけられている。

「ぁああ……!」

「アギト!! くっ……貴様も俺達の敵か!?」

「ちっが~う!! ほら、見て分からない? どう見てもピンチを助けた味方でしょ?」

「そいつは……アギトは俺の仲間で、学院の生徒だ。敵じゃない」

「知ってるわよ~? だから暫く様子見した後、貴方じゃ荷が重そうだと思って助けに来てあげたんだけどな~」

「様子見していた……だと!? と、とにかくそこを退いてくれ!(住民と俺達以外の気配は、ここに来てからずっと無かった筈だ。何者なんだコイツは……!? いや、今はこいつに構ってる暇はない。一刻も早くアギトを元の状態へと引き戻し、リア達の元へ連れて帰らねば……。先ずはこいつをどうにか退かせて傷を塞ぐ!)」

 アギトを襲った謎の魔女へと奮起し、一歩足を踏み入れる。すると部屋中の凍てつく殺気と共に、ディスターの形相から鬼が消え去り、剣先を床に突き立て膝をついた。

「あら、もう限界なのかしら? 似合わない顔が消えてスッキリしたわね」

「くっ……(こんな時に……もう、身体が……!)」

 謎の魔女は何か探るような視線をディスターとアギトへ交互に向ける。謎の魔女が次にディスターへ視線を送った直後、アギトは右手で謎の魔女の足首を強く掴んだ。すると、魔女は反射的に一瞬身体の軸が振れ、尾骨辺りから突如猫の尻尾のようなものがポップ調に弾けたエフェクトと共に現れた。



「ひゃぅっ!? と、突然女性の足首を掴むなんて……変態だにゃ!!?」

「……黙れっ!」

「(何だ……? 尻尾を生やして口調が変わった!?)」

 掴んだ足首を握りつぶす勢いで力を込め、骨を軋ませる。

「っんにゃあ!? こんの……おとなしく寝てろクソガキ!!」

 突き刺さった異形な槍の先端が一度寸止めの位置まで引き抜かれた瞬間、アギトは掴んだ足首を突き返すように前方へと投げ飛ばした。謎の魔女は不満気な顔を浮かべながら軽々と宙返りし、ふわりとゆっくり床に足をつけた。アギトは槍に貫かれた傷に手を押し当て、よろめきながら立ち上がる。そしてアギトの傷が、煙を立ててすぐに塞がった。

「(あの槍に貫かれた傷が、一瞬で塞がった!? 何がどうなっているんだ……アギトはいったい……)」

「ちっとは痛い目みて大人しくなると思ったんだけどにゃ~……、ほんと気にくわない態度なガキにゃね!」

「いい加減そのふざけた喋り方をやめろ、耳障りだ」

「はぁ……お姉さんを口説くのに、もっとマシな言い方は無いのかにゃ!」

  謎の魔女が指を鳴らすと、アギトの背後から2本の鎖が突出し腕ごとアギトの胴体に巻き付いた。身動きを封じられたアギトは床に膝をつき、謎の魔女は手元で軽快な破裂音と煙をたてて板チョコを出現させ手に取った。それを魔女が頬張ると、生えていた尻尾が音を立てて弾けるように消えた。

「この状況で、菓子だと……!?」



「チッ、また鎖でグルグル巻きかよ……全く、芸のない奴等め」

「むぐむぐ……あら、被っちゃった? 誰とかは知らないけど、アンタに一番似合いそうなのがそれだと思ったのよね~。 にしても、流石に血生臭い所で食べたらチョコも不味く感じるわね……。さっさと終わらせないと」

 謎の魔女が槍を上に掲げ、部屋全体が一瞬にして目映い光に包まれた。その光に飲まれるようにして、アギトの意識は途絶えた。

 次にアギトが目を覚ましたのは、夜空を写す窓際のベッドの上だった。徐々に瞼を開き、ゆっくり意識と共に視界を取り戻すとベッドの周囲に数人集まっているのを確認できた。ミユリは視界の右側ですぐ傍の位置で椅子に座っており、リアは視界の左側で椅子に座りベッドに突っ伏して静かに寝息を立てている。正面の奥には薬宰がデスクに向かってキーボードを叩いている。ディスターはその横で壁にもたれて腕組をしている。

「ミユリ……リア……、ディスター、それに薬宰先生?」

「アギト! 良かった……いつものアンタに戻ったのね……」

「いつものっていうことは、またボクは意識を失って……ミユリ達を?――ってこれ!?」

 アギトの両腕は鎖でベッドの両柵に、何重もきつく巻かれ拘束されていた。困惑した様子に気づいた薬宰は、椅子を回して眠そうな顔だけアギトに向けた。

「おう、目が覚めたか。悪いが両腕を拘束させてもらった、そのまま目が覚めて暴れられたら面倒なんでな。本来ならもっとベルトで全身を固定してギッチギチになるところだったんだぞ? 俺とこいつらが提案者に説得してその程度でいられてんだ、もう少しそのまま我慢しとけ」



「あ、えっと……すみません。横でリアも寝ていますし暴れたりはしませんが、状況を説明してもらいませんか? 今のボクはもう大丈夫ですし、拘束も解いていただけると……」

 ディスターが壁から離れ、キーウェポンを解放しながらアギトの方へとゆっくり歩を進める。ミユリが慌ててベッドの前で立ち塞がる。

「ち、ちょっと何してんのよアンタ! アギトに何する気よ!」

「アギトは魔女に貫かれた槍の傷を即時回復したんだぞ? 以前ミユリの偽物に刺された時は薬宰先生に治療していただいたらしいな。なら、こうすれば今のコイツが本来のアギトか判明する筈だ」

 声を荒げるミユリに対し、一言一句冷静な口調で淡々と言葉を募らせる。キーウェポンを逆手に握って振りかぶった右腕が、立ち塞がるミユリを前に留まっている。

「退いてくれ、今のコイツが本物のアギトなのかどうか、正確に確かめなければ先のようにやられるぞ?」

「……ボクが気を失っている間に何をしたのかは分からないけど、それで確かめられるなら構わずやってくれ」

「アギトまで何言ってんのよ!! 落ち着いて、いつもの冷静なアンタに戻ってよ! アンタまでおかしくなってどうするのよ! リアだっているんだよ? アンタがこんなことしてリアがどう思うかなんて分かるでしょ!?」

「ディスター、ここは医務室だ。武器を仕舞え、お前は優秀なαクラスのお前がそんなんでどうす――……zZZ」

「面倒くさそうに言いながら寝ないでくださいよ……。仕方ない、手を引かないっていうなら一旦この腕をへし折って――」

 捕まれた手首が軋みの音を上げる時、閉まりきった窓際から突発的に風が吹き荒れた。風の吹く方へ顔を向けると、そこには黒いマントを靡かせて座った姿勢で宙に浮いている魔女が現れていた。



「気になって様子を見に来てみれば、暴れてるのがアギト君じゃなく鬼公じゃないの――つぅか、この状況で呑気に寝てんじゃないわよ薬宰!」

 傘の柄のように先が曲がっている赤と白の二色が交差する棒状のキャンディが魔女の手元に現れ、手に取った魔女はそれで薬宰の後頭部を小突いた。

「いってぇな……用があんなら少しは優しく起こせっての。そんなんだからいつまでも相手が出来――」

 言葉を遮るようにして、先端にイチゴが刺さっている銀色の細い棒が薬宰の喉元へ瞬時に突き立てる。

「この子達を放ったらかしにして寝ていた上に、そこから先の言葉を連ねて私の機嫌を損なわせるようなら、アンタのその甘ったるそうな血でフォンデュしてあげるわよ?」

「……確かに俺は毎日あのコーヒーを二本は欠かさず飲む程度だが、血は決して甘くならんぞ」

「分かってるわよ! ホントつまらない男ね――あ、そうそうそっちも取り込み中だったわね。ほい!」

 魔女が右手で指を鳴らすと、手元のイチゴが刺さった棒が消え、同時にディスターの握っていたキーウェポンがイチゴの刺さった棒へとすり替わった。

「なっ、俺のキーウェポンが……!?」

「方法自体はまぁ悪くないんだけど、大事なお友達にやる方法としては見過ごせないわよね~。見過ごしてる教師はそこにいるけど。まぁ甘いもの食べてリラックスしなさい、イケてる顔なんだから崩しちゃダメよ?」

「……」

「俺は見過ごしたんじゃない、やれないと分かっているからスルーしただけだ」



「分かってても止めなさいよ馬鹿!」

「いてっ!! また人の頭を……重役の頭を叩くんじゃねえよ、仕事に支障が出たらどうしてくれんだ」

「自業自得でしょ、あとその叩いたキャンディはもういらないからあげるわ。それ食べて仕事に精を出しなさい」

「これ以上出させて俺を殺す気か?」

「可愛い生徒の為に死ねるなら本望でしょ、私が手伝ってあげてるんだから生徒の為に命を燃やしなさい!」

「はぁ……へいへい」

「あの……もしかしてそちらの方は……」

「あぁすまん、そういや初対面だったな。コイt……この人はここのベテラン教師で、レコット=べリス=カスティラーチェ先生だ」

「せ、先生!!?」

「えぇ、美味しそうな名前でしょ? っふふ」

「なるほど、それで俺達の任務を監視していた訳か」

「でも、グレードが入学初日のトライグレードから、ツヴァイグレードへ進級して数日の今までにお目にかかったことは一度も――」

「あぁ安心してミユリちゃん、私をこの学院で実際に見た生徒は、昨日まで誰一人としていないわ。教師の方も片手で数える程度で、大半は噂程度にしか認知されていない。役職の都合上ね」

「私の名前……それに役職って――」



「あぁ話の途中で悪いんだが、積もる話はまた明日にでも持ち越すとして本題に入らせてくれ。そいつもずっと繋がれて窮屈だろうしな」

「っはは……でも色々と驚くポイントが多すぎて、窮屈と感じる間もなかったですけどね」

「――ふぅん、なるほどね~」

 レコットが指を鳴らし、アギトの両腕から鎖が解かれて消失する。アギトはゆっくりと上半身をお越し、手首を回して凝り固まった感覚をほぐす。

「あの、別室に閉じ込められていた小さな女の子は――うわっとと!?」

 問いかけに食い気味なタイミングで固めの物体が投げ込まれる。水色で風を象ったような装飾が施された、真っ白に輝く右腕用の厚い籠手。

「そいつは魔力を帯びた攻撃、要は術式魔法や魔物の魔力攻撃を弾く為の、特殊な細工をした試作品だ」

「……!?」

 手に取った籠手を凝視する。

「まぁ弾くと言っても、強力な攻撃にはまだ対応出来ていなくてな。そこのクソ魔女に何度も殺されかけたわ」

「遠慮無しに攻撃しろと言ったのはアンタでしょ?」

「“程度を見計らいながら”遠慮なく打てと言ったんだ!」

「あら、そうだったかしら?」

 薬宰は自身の苛立ちを軽い咳払いで押し止める。



「――あの黒い霧を弾く為に試作してみたんだが、やはり霧が自分の身に侵入されるケースの実証が出来なくてな、確証が得られんから積極的に使えとは言わん。詳細な実証データ等または追って連絡する。それとアギトの言うガキについてだがミユリ、今はお前らんとこの家にいるんだったよな」

「はい……今うちでリリス先生に見ていただいてます」

 少女の安静を示す自身の言葉に、曇りの表情が漏れるミユリ。ディスターは黙ってその様子に目をやり、薬宰はやや早めのペースで話を畳もうとする。

「もう夜も遅い、他にも色々と説明すべきことがあるが翌日に回す。アギトはまたここで一晩過ごし、他は各自明日に備えて帰宅しろ」

「はい」

「承知しました」

 ディスターがリアを起こそうと近づくと、レコットが間に入って制止する。

「何の真似でしょうか、カスティラーチェ先生?」

「この子は私が送り届けてあげるわ、アンタはこれ食べながら歩いて帰んなさい」

 レコットが指を鳴らすと、ディスターの何もない手元からビニール包みの飴玉が数個飛び出してきた。ディスターは慌てる素振り無く空いた片手で重心を揺らさず掴み取る。

「この時間に生徒に間食させるおつもりですか?」

「飴玉の1つや2つなんてたかが知れてるわよ、ほらさっさと行く!」



 レコットは両手で丁寧にリアを抱き上げ、宙に浮きながらディスターの後ろをついて医務室を出る。

「俺は研究室で作業の続きしてっから、何かあったらすぐ連絡しろ」

「えっと……何か作って持ってきてあげるから、待ってて」

 ミユリは足早に、薬宰は欠伸しながらゆっくりと退室し、医務室にはアギト一人が残る形となった。静寂な空間に落ち着かない様子で上体をお越し、窓越しに夜空を見つめる。そして任務から先程までの出来事を振り返り、得た情報から記憶の縫合を試みることで、耳が痛くなる程の無音さから意識を遠ざけようとした。

「(……アイツに黒い霧で覆われてからの記憶が思い出せないけど、皆無事であの子を連れて来れたんだな……良かった――しかし、さっきのディスターの行動……またボクは異常な行動を取ってしまったのか。今回もまた記憶が抜けているせいで、正直もう今のこの自我が本来の自分であるかすら自信が持てない。そのせいでディスターにあんな事を……最低だ!)」

 思い詰めた先で、ふとディスターが言っていた妙な事を思い出す。

「(そういえば、傷が勝手に修復されたとか言っていたが……確かにアイツに裂かれた鎖骨辺りの傷が塞がっているな。だがボクにそんな力を持った覚えは無い、これも記憶の欠落によるものなのか?)」

 自身への数多の疑念が、形を成す事無く脳裏で乱雑に跳弾を繰り返す。次第に頭痛に襲われ、両手で頭を抱えた途端にアギトの全身が切り取った写真のように不自然にピタリと静止する。そして、ベッドの左に隣接したローラー付きのデスクの上に、小刻みに震わせた左手がゆっくりと手を伸ばす。月明かりで僅かに光を帯びる白銀の拳銃を、汗ばんだ手の平で強く握りしめる。



 手に取ったアルゼントをゆっくりと自身の胸元へと持って行き、銃口を喉元に密着させる。顔が青ざめるも、グリップを握る力が緩まない。トリガーに掛ける指が遠ざかったり触れたりを小刻みに繰り返す。下顎から垂れる一滴が手の甲に落ちる時、室内に瞬発的な騒音が響き渡る。だがその音は、瞬きの隙に手元に着弾した激痛によって、“鳴るはずだった銃声”から自身の肉声へとすり替えられていた。激痛によって反射的に左手に握っていたアルゼントを手放し、床を滑らせた。恐る恐る電流のような痛みが走る手の甲へ目線を向けると、意外なものが突き刺さって傷口から血が垂れていた。

「棒付きの……飴……?」

 手の甲には、バニラとイチゴのマーブルな飴玉が付いた白い紙製の棒が貫通していた。痛みに悶え困惑するアギトの前に、再びレコットが呆れた表情で姿を現した。

「嫌な予感が的中してリアちゃんを鬼公に引き渡して来てみれば、何してんのよアンタ」

「いや、これは……その……――っ!?」

 ベッドの上に跨がれ、身の筋が凍るような冷徹で高圧的な目で見つめられる。それによって恐怖心を抱いたアギトの身は硬直する。

「色々と辛い目にあって困惑しているよね……、でもそういうことはしてほしくないな~」

「っ……」

 飴玉の棒が刺さっている左手に、レコットが優しく両手で包み込むように掴み胸元へ引き込む。

「これは、お姉さんに辛い思いをさせたお仕置きよ。私が良いと言うまでじっとしていなさい」

 


 飴玉をレコットの舌がゆっくりと撫で始め、棒が揺れる度に刺さった時と同じ電流のような激痛が瞬時に頭上まで突き抜ける。そして反射的に身体をビクつかせ、飴玉を取ろうと右手を近づけると目線を合わせられ恐怖にひれ伏すようにして右手を下ろした。アギトは奥歯を噛み締めて声を出さぬよう必死に堪え、レコットは半ば上機嫌になりつつ無言で飴玉を舐め続ける。そういった仕打ちが数分間行われた後、レコットの方から言葉を切り出した。

「中々の辛抱強さね~」

「も、もう終わりにしてもらえませんか……?」

「だ~め、まだ言ってないでしょ?」

「何を言うん、でしたっけ……」

「はぁ……やれやれ、今度露骨な誘導の仕方を教えてあげなきゃね」

「くっ……」

「そうそう、このお仕置きの名前、今思い付いたんだけど聞きたい?」

「……何でしょうか」

「あら、素直に聞くのね。てっきり聞きたくないって怒鳴るかと思ったのに」

「(これ以上機嫌を損ねられると何されるか分かったもんじゃない! ここは耐えるんだ……)」

「っふふ、面白い顔ね。鬼公の怒った顔よりよっぽど面白いわ」

「……」

「さて、このお仕置きの名前だけど、題して……甲突きキャンディ♪ なんちって!」



「……は、ははっ……(なんつうドS思考してんだこの魔女は……目付きといい恐ろしすぎる!!)」

「顔が引きつってるわよ? それは痛みによるものか、それとも命名に引いちゃったか、どっちかな~?」

「い、痛みに感覚が麻痺しているだけですよ……ははっ……」

「ほぉんと建前な態度が下手ねぇ、っふふ! 嘘つきな子には~……こうだ!」

「っぅぐぁ!!?」

 レコットが飴玉を加えて棒を揺さぶり、堪らず押し返そうと右手を肩に触れようとしたが直前で手首を捕まれ下ろされる。

「(こんな拷問、いつまで続ける気なんだ……まさかもう一本取り出して“追加入りま~す♪”って刺したりしないよな? って何言ってんだボクは! 終わりの見えない異常事態に頭が可笑しくなったのか? そろそろ自我を保つのも限界だ……、先生というだけあって腕力が相当あるようで、自力でどうにか出来る気がしない……)」

 飴玉が2回り小さくなったところで、医務室の扉がゆっくりと開いた。両手で四角い包みを持ったミユリだ。

「アギト、食堂のおばぁちゃんに厨房貸してもらって弁当作ってきたの! 良かったら食べ――え?」

 ミユリの両手から包みが滑り落ち、床に瞑れる直前で宙に留まった。そしてミユリの手元へゆっくりと上昇し、再び両手でミユリは包みを持った。

「もう来ちゃったか~、一本終わるまでやるつもりだったんだけどなぁ。食べ物は大事な生きる資源なんだから、粗末にしちゃダメよ? って私のせいか、ごめんんぇっと!」



 手の甲に刺さった棒が、飴玉加えた状態で勢いよく引き抜かれた。そしてレコットは上機嫌に身体を浮かせて窓際に座る。手の甲の貫通した穴からだらだらと溢れ出る血がシーツを染めてゆき、ミユリが慌ててアギトに駆け寄って治癒の術式魔法をかける。

「続きはまた今度やりましょ、んじゃまた明日ね~♪」

 レコットは窓をすり抜けて颯爽と飛び去っていった。

「何よあの先生……生徒にこんな怪我させといて!――神経には触れてないみたいだけど、一応確認ね。ほらグーパーグーパーってしてみて?」

「あ、あぁ……ごめんな、夜遅くにまた来て治療までしてもらって」

「アンタが謝ることじゃないでしょ――うん、大丈夫みたいね。弁当作ってきたけど、食べれる? 何かスゴいことされてたみたいだけど……」

「あぁ……まぁ大丈夫。せっかく作ってきてくれたし食べるよ、ありがとう」

 その後、アギト達はシーツを取り替えて医務室を綺麗な状態に落ち着かせる。いい加減連日の医務室寝泊まりにうんざりしたアギトは、薬宰に電話で帰宅の許可を得る。ミユリはその事にイマイチ賛同しかねる様子だったが、二人で一度明日の授業に備えて一度帰宅するのであった。



つづく


はい、では前書きで書いた通り本文に書いた小ネタを紹介します。読んでいただいた方の中にお気づきの方はいらっしゃるかと思います。そう、


〉〉甲突きキャンディ〈〈


です! ……え~コホンッ、要は「魔女の格好したお姉さん(ロリも可!)に棒付きの飴を手の甲に突き刺されてペロペロされる刑」っていう、自分でも頭おかしいんじゃないかって思いながら書いたイタズラですね。


何故飴かというと、本文に出ていたお菓子好きな魔女ってのもそうなのですが……実際にあのチュッ○チャ○スを手の甲に突き刺すとか不可能ですよね?

つまり超能力持った二次元の子限定っていう、真似出来ない処置ですね。


もしどうしてもやりたかったり、超能力持たないキャラにやらせたいなら……


①イヤリングみたいなの(指の間から手の甲の真ん中までの長さ)、棒付き飴、静電気グッズを用意

②棒を真ん中で切ってイヤリングみたいなのを接着

③イヤリングみたいなのの皮膚密着部分に静電気が来るようグッズを分解し取り付けて完成



はい、実際にやるとなると超面倒くさいですね。これはノットファンタジーなキャラに向けたイラスト案ということで、いつもと違い長くなってしまいましたがこれにて一旦区切ります。



ではまた次回!来月はアサクリオリジンやるので多分1ヶ月後に間に合うか分かりません(おい

(需要あればまた案を出すかも……)

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