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第七話:【蒐集】

今回は少しだけ早めの投稿です

 ノイテックフィン・タウンの錆びれた入口から続く森。依頼を受けて転移してきたアギト、ミユリ、リア、ディスターは、街中で大柄な男から暴行を受ける直前だった少女を救った後に転移場所に戻って治療を施した。そして、意識を取り戻した少女の言葉を、4人は静かに待つ。少女は消えかけの声を震わせながらゆっくりと言葉を紡ぐ。

「わ、私……は……」

「大丈夫よ、ゆっくりでいいから。落ち着いて」

「誰が来てもボクらが守ってあげるから」

「リアの料理が」

 間が空くに連れて少女の様子が一変する。瞼を大きく開き、視線が呼吸と共に過度な乱れを生じ、正気を失いかけている。ミユリが少女の両肩に手を添え、優しく小さな声で少女を宥めようとする。息を整えるよう背中をさすり、必死に落ち着かせようと宥めるのに徹する。暫くしてようやく少女が落ち着き、か細い声で呟く。



「わたし……化け物……と、言います……」

 僅かに沈黙が及び、やがてアギトが切り出す。

「えっと……待ってくれ、まずは君の名前を――」

「化け物って言うんです!! 町の皆がそう呼ぶんです!! 本当の名前は知りません!!――そうだ……早く町に戻らないと……皆死んじゃう! 殺されちゃう!!」

「待って待って落ち着いて! 私達はそう呼ばないから、大丈夫だから!」

「離して!! このままじゃ皆殺されちゃう! わたしのせいで皆死んじゃう!!」

「えっとえっと……じゃあ、この子の名前を決めましょ!」

「そうだな、名無しじゃ話しづらいし早く事情を聞き出さないと」

「ですから!! 名前は――んぐむぐ!?」

 テントから出ようと暴れる少女を、ミユリが一人で抑えて口元を手で覆う。

「しっ! 誰か来る……落ち着いて」

「んっんっ……」

 少女は大人しくなり、ミユリは少女の拘束を解いてテントの奥に座らせる。

「ディスターはキーウェポンを解放しテント前を警戒、ミユリとリアは学院へ転移する準備を頼む」

「アギトは?」

「先行して時間を稼ぐ、来る方向からしてあそこの住民に間違いないからな」



「私も行く、さっきのアンタを見た後じゃ任せらんないでしょ」

「ミユリはその子の傍にいてやってくれ、今その子を安心させられるのはミユリだけなんだ」

「でも……――っ!?」

 1人分の地を蹴る音が、通常の人間とは思えない速さで大きく近づいてくる。それも猛獣を連想させられるような、地に足をめり込ませながら鈍重な身体を力任せに押し進めているような重々しい足音。

「森のどこかで隠れていた魔物か、それともさっきのおっさんか……」

 ディスターが外に出て片刃剣のキーウェポンを解放すると同時に、近づいてくる獰猛な足音は止んだ。その直後、強烈な金属の衝突音が鳴り響いた。

「な、何っ……!?」

 片刃剣と交えた金属は、血痕が付着し所々が少し錆び付いた鉈だった。それを握って空中から切りかかっているのは、魔物でも先程の大柄でもなかった。鉈の先にいるのは、少女より1回り大きい灰色ロングな髪で、アギト達と歳が離れていなさそうな少女だった。

「へぇ~、一応それなりの訓練はしてるのね」

 鉈を持った少女は、両腕をバネのようにして背後に跳躍し距離を取る。すると鉈を持つ少女の背後から、中年の男性が5人程息を切らしながら少女と合流してきた。

 リアは少女を匿う為テントに残し、アギトとミユリがディスターの背後から横へ並び入口へのルートを封鎖する。鉈を持つ少女はアギト達の戦闘態勢をチラ見し、少し口角を吊り上げた後に中年男性らへ一喝を放つ。



「遅いよアンタ達!! ホント約立たずな男共ね……」

「す、すいやせん……お頭……」

 中年男性らの先頭には、あの大柄な男が立っていた。大柄な男は初対面の時と同様に激しい発汗をしているが、それに加えて辛そうな様子。アギトはその男の異変にすぐさま気づく。

「う、腕が……」

 大柄な男の右腕は、肘から先までの部位が無くなっていて包帯が巻かれていた。アギトの声を聞いた大柄な男は、目が血走り今にも一人先走って強襲しそうな勢いだ。しかし、お頭と呼ばれている鉈を持つ少女が前に立っているせいか、怒りを僅かに押しとどめているようにも見える。

「さて、武器を構えてるって事は、そこに誰かを匿ってるって事かしらん?」

 場違いな程の陽気な口調で鉈持ちの少女が問い、その少女の心臓部に銃口を向けるアギトが答える。

「悪いが、アンタ達の目当ての子は既に学院へ転送済みだ。もうここにはいない」

「そっかぁ、じゃあちょっと確認させてくれない? こんな喋り方だけど、他所の子を簡単に信じる程の楽観主義でも無いのよね~」

「他所の人間を、簡単に拠点へ入れると思うか?」

「まぁ、そうなるわよねぇ……じゃあ、実力行使してあげる!」

 鉈持ちの少女は、人並外れた脚力でセンターに立つディスターに目掛けて距離を詰める。同時に中年の男達は、背負っていた農具を手に襲い掛かる。ミユリが鍛治鎚型のキーウェポンを奮い、大半の男共を薙ぎ倒す。アギトも最初にほんの一瞬躊躇いはしたが、避けられないと悟り急所以外を狙って魔力吸収弾を放つ。



 その戦闘の最中、大柄な男だけはその場から1歩も動かず、怒りに打ち震えたまま立ち尽くしている。

(何でアイツ、全く動かないんだ……? 今にも暴れ出しそうなのに、何かを待っている……のか?)

 アギトの放った弾丸は、農具を持った男達の手足に被弾し銃痕を付けずに通過していく。弾丸がすり抜けた途端、その手足から力が抜けて態勢を崩す。ミユリとアギトの連携によって、大怪我を負わせず男達を無力化させた。

 一対一で相手をしていたディスターの方は、牽制はしているがかなり押され気味であった。規則性はあれど、視認出来ないほど素早い剣技を放つディスター。一方で鉈持ちの少女は、武器の振るいは差ほど速くないが遅れは取っていない。

「(くっ……何だこの女戦士は……、動きから全く法則性が読めん!?)」

「うーん……まぁまぁかなぁ、あんまり面白くないしそろそろ目的を達しちゃおうかな」

「フッ……な、舐められたものだな……」

「いやぁ舐めてなんかいないよ? まぁ物理的に舐めたい子は他にいるんだけど」

「それは、お前達が狙っている子の事か?」

「いやいや、アタシそんな趣味無いし。んじゃそろそろ行かせてもらうね」

 少女は隙を狙ってディスターの片刃剣の合間を潜って、軽やかな身のこなしで腹部から斜めに切り上げる。

「ん゛ぅぐ!!……がぁはっ!!」

「「ディスター!!」」

 切り傷から少量の血飛沫が舞い、地に倒れる。アギトとミユリは駆けつけようとするが、先程力が抜けて無力化した男共が突然飛び掛かって取り押さえられる。



「何だこいつら……さっきと力が全然……」

「私の力でも振り切れないなんて……」

 ディスターの倒れるシルエットを視認したリアは、小さく声を漏らす。

「お兄……ちゃん?」

「あら? 中にもう1人仲間がいるのかしらん?」

「(まずい……非戦闘員のリアが出てきたら、更に不利な状況に……くそっ、自力で何とか立ち上がって無事だと思わせないと……)がはっ!?」

 腹部を抑えてうつ伏せになっているディスターの背中に、鉈持ちの少女は靴底を強く押し当てる。

「あっはっは、そんなんで立とうとしたって無駄よ。アンタじゃアタシに勝てない」

 ディスターの悲鳴に耐えきれず、リアがテントから飛び出し鉈持ちの少女に向けて杖型キーウェポンを構える。

「よくも……お兄ちゃんを……!」

「よ……よせぇ!!」

 鉈持ちの少女は、手に持つ刃で空を裂く。おそらくリアが術式魔法を発動する前に、首元へ届くであろう。

「やめてぇええ!!」

 しかし、その刃は皮膚に触れる直前で静止した、テントの中から響き渡る少女の叫び声によって。やがてテントの中から、少女がゆっくりと足を震わせながら出てきた。

「や~っと出てきたわね」



「ごめんなさい……お願いだから、もうこの人達に酷いことしないで……」

「はぁ~? 何その言い方、それじゃあまるでアタシ達が勝手に襲ってるだけみたいじゃない。こうなったのはアンタが町から、私の元から出ていったせいなのよ? まぁ連れ去ったコイツらの仕業みたいだから、ちょっとだけお仕置きしてあげたのよ」

「ごめんなさい……ごめんなさい……もう出ていかないから、町に戻るから、この人達に手を出さないで……」

「アンタ、今アタシに指図したわよね? いつの間に偉くなったのよ、化け物のくせにさぁ!」

 リアの首元から鉈が離れ、代わりに鳩尾に膝が入り胃液を吐き出す。そして両手で腹部を抑えて地に(うずく)る。

「がはっ……! ぅお……ォエエエッ!!」

「っ!?」

「リアぁああ! クソッ……こんのっ……退けよ畜生……!」

 鉈持ちの少女は、リアの背中を必死に撫でてる少女の前へと立って見下ろす。

「アンタがこの人達に助けを求めて、わざわざ町に呼んだんでしょ? でも残念だったわね、来た人みんな弱くて頼りないんだから……さっ!」

 片手で少女の首元を掴んで持ち上げ、大柄な男の元へ軽々と放り投げる。それを大きな右手がしっかり掴みとり、今にも握り潰そうとするかのように震わせる。

「やめろぉおおお!!」

 鉈持ちの少女の表情がにやついて、鉈を持たない方の腕を上げて静止の合図を出す。大柄な男は不満げに力を緩める。



「フフッ、やめてほしい?」

「……その子と仲間の拘束を解いてくれ。仲間は直ちに帰還させて、学院からこの町への干渉を禁止する申請を通す」

「アギトっ……!」

「あら、自分は含まないのね」

「……ボク1人の身柄確保を条件に、仲間の解放とその子の安全を約束してくれ」

「アンタにそれ程の価値があるって事?」

「扱い、次第ではな……」

「フフッ、面白いわね。けどダ~メ!」

「くっ……」

「状況分かってる? 今アンタ達は無力化されて、一方的にアタシの言う事を聞かなくちゃいけないの。そういう事でそろそろ好きにやらせてもらうね。んじゃアンタ達、その3人を町の地下牢へ放り込みな!」

 中年の男共は、リア達3人を後ろで両腕掴んで拘束し町へ戻っていった。

「んで、デカブツは化け物をそのまま手に持ってアタシに付いてきな!――さて、アギト君……だっけ? アタシの部屋に連れてってあげるから、早く立って」

 背後から腕を回し、刃がアギトの首元に添えられる。

「下手な事した途端に首スパンッだか――ひゃぁん!」



 アギトは立ち上がると同時に、鉈持ちの少女の腰に銃口を突き付けてトリガーに力を加えた。しかし、発射まで握りきるより先に鉈の刃が胸骨を薄く裂いた。

「っあぁあああ!!」

「もう、いきなり下で突き付けられたからドキっとしたじゃない、危うく身柄を1つ無くす所だったわ……。フフッ、焦らなくても後でちゃんとやらせてあげるから、今は我慢しなさい」

「ぐっ……(クソッ……見切られないよう動作を抑えながら手を回して身体に当ててしまった……、肝心な時にヘマしてばかりだな畜生! 頼む、皆無事でいてくれ……)」

 そのままの状態で森からノイテックフィン・タウンの中央へと連行され、一際目立つ大きめの古びた館の中へ入る。そして入口からすぐの広い階段を上がってゆき、二枚扉の部屋の前に到着する。その扉には、学院で使われてるものと少し異なる形式の魔法陣が描かれている。

 少女を拘束した大型な男は隣の小部屋へ入って中から鍵を閉め、鉈持ちの少女は二枚扉に描かれた魔法陣に向けて目を赤く光らせ二枚扉を開けた。

「さぁ、入るわよ」

 半ば押し込まれるようにして中へ入る。部屋のレイアウトは、生活空間や私用部屋として使うには色々と物足りなく、代わりに魔術の類とする触媒や道具で散らかっていた。その中で最も目線が引き寄せられるのは、床の中央から大きな魔法陣が描かれていて、その真ん中で入口向きに置かれている横長のソファだ。両端に手錠が取り付けられていて、所々が破れている。



「……(あそこに座らせる気か、やはり隙は無いか)」

「じゃ、ここで横になって両手足を手すりに乗っけて。言っておくけど、また変な事したら今度はあの化け物の身に被害が及ぶわよ」

 言われた通りソファで横になり、手足を施錠される。魔法陣の影響か、少女の命令から外れた行動をしようとする際に多大な負荷がかかり、抗うだけで力尽きてしまいそうになる。

「……あの子をそうやって呼ぶな」

「あら、気に障った? 僅かな時間で随分と仲良くなったわね」

「あの子が町の人全てから〝化け物〟と呼ばれているのは何故だ? 何故あの子に名前が無い?」

「はいはい順番に話してあげるから待ちなさい~よっと」

 鉈持ちの少女は鉈を背中の鞘に納めて、アギトの腰辺りに飛び乗る。

「がぁっ!?」

「何よ、アタシそんな重い?」

「ふっ……馬乗りになって鉈で脅し、何を吐かせる気だ?」

「まぁその前にぃ、まずはアタシの名前を教えてあげるね! アタシ、ミスティアスっていうの。ミスティーって呼んでね!」

「誰が呼ぶか――っぁあ゛あ゛あ゛!!」

 両手足に電流のような鋭い痛みが駆け巡る。



「ほらほら、ミスティーって呼んで!」

「がぁっ……あ゛ぁあああ!」

「あ、そんなに動かれると出っ張りが食い込んできて……あぁっ」

「(このままでは好転を狙えず力尽きる……、まずは突破口を考える為の時間稼ぎと状況の把握だ。なるべく勘づかれぬよう、刺激させないように)」

「――はぁ……はぁ……結局呼んでくれないのね。まぁ他を堪能出来たし、今は良しとするわ」

 途端に手足を駆け巡る鋭い痛みが消えた。

「おとなしくなったみたいね、痛みで疲れたのかしら?」

「……アンタは、ボクに何を要求するつもりなんだ?」

「あら、まだ元気なのね、良かった。んじゃ、それを言う前にまずはアギト君の状況を説明しちゃいま~す」

「頼むからまず降りてくれないか?」

「イヤよ、ここがベストポジションなの! これ以上文句言ったり逆らったりしてると、斬っちゃうよ?」

「……」

「じゃあ説明したげるね、まずアンタのお仲間さんは地下牢に一人ずつ隔離中。証拠にほら」

 ミスティアスは自服のポケットからOHSを取り出し、画面に映し出されている各部屋の天井の隅から見下ろすカメラ映像をアギトに突きつける。

「(2人ずつ牢の中で見張っているな……ボクを従わせる為のカードというわけか。さっきの農具は持っていないようだが……さっきみたいに素手でいる方が強いのか?)」



「アギト君が何か逆らう度に、この人達が酷い事されるかもね~。特に女の子2人は危ないんじゃない?――ってちょっとアンタ達何やってんのよ!! 先にやったらカードの意味が無くなるだろうが! いいから離れなさい! ったく野蛮なだけで使えない連中ね……」

「(下手に動かなければ、皆には手を出さないようだな。ディスターの裂傷もあのままか……早く皆とあの子を助けないと……)」

「あ、そうそう次はこれね」

 監視カメラの映像が隣部屋に切り替わった。大柄な男がベッドに座っていて、前に座らせた少女の首を手で覆っている。

「くっ……、お前の要件は何だ!! あの子を苦しめてまで、何をさせたいんだ!?」

「それを今から話すのよ、いい? ちゃんと聞いてね?」

「……」

「命令は3つ」

「(3つ……、機関情報の漏洩と魔物の排除、あとこの町への援助要請ってところか? だが学院以外の機関部の情報は生徒に知らされていない。それにボクら4人を捕まえて取引材料にしたところで、損するだけの取引に学院側は応じる筈がない)」

「1つ目は~」

「……」



「アギト君とあの化け物だけこの町に残りなさい。2つ目、学院側がこの町に干渉しないように要請すること、絶対に承認させなさい」

「(ん? 町の発展を望まないにしても、何故ボクが残ることを望んでいるんだ?)」

「3つ目は~」

「……」

 ミスティアスは覆い被さるようにゆっくりと上半身を倒し、後頭部へ腕を回して密着する。

「アタシとぉ~」

「っ……!?」

 耳にかかる吐息がアギトの心拍数を上げる。反対側に置かれているOHSから、2人分の甲高い叫び声が鼓膜を刺激する。ミスティアスは牢にいる2人にわざとこの状況を声だけ伝えて、あちら側にもタイムリミットが設けられているのだと挑発をしていた。

「ちょっと何してんの……!? アギト君に手を出したら……許さないから!!」

「そんな猟奇的な女に惑わされんじゃないわよ、アギト!!」

「フフッ、あ~んまりうるさくしてると、か弱い方の女の子から静かにさせちゃうよ~?」

「分かった! 分かったから皆には手を出すな!!」

「今は命令していいのアタシだけなんだけど?」

「くっ……(これだけ状況を固められたんじゃ、今のボクには動きようがない……。こんな時に術式魔法が使えたら……)」



「3つ目はアタシとぉ~」

「……」

 押し付けられた少し大きめな柔らかい感覚の奥から、加速していく鼓動が伝わってくる。耳にかかる吐息のリズムが狂い、上に乗っかっている身体が微妙に動いて互いの衣服が擦れる。段々と嫌でも察しがついてしまうものの、アギトは必死に意識を逸らす。しかしミスティアスが一言で逃げ場を失わせる。

「……セクセク、しよ?」

「っ!?」

「……うそ……何よ、それ……! そんなの絶対許さ――」

 OHSの向こうから発せられた、リアの声が絶叫に差し掛かる前のタイミングで切られる。

「返事は?」

「……何を、言っている……?」

 ミスティアスは反射的に自らの上半身を起こす。

「え、今ので伝わらなかったの!? そ、そりゃ恥ずかしくて少しモジっちゃったけどさぁ……分かるでしょ?」

「……リア達を困惑させて、より不利な状況へと追い込む気か?」

「それもあるけどぉ……本心はそこじゃないの!! アタシこれでも本気よ!?」

「……」

「その……、要するにアンタがアタシのいる場所に残って、あれ……して……あ、愛っ!……してほしいの……アタシを。まだしたこと……ないし」



「……」

「こ、ここまで言わせておいて無反応なの!!?」

「いや、その……内心かなり困惑してて、思考が追いついてないというか……」

「……っ!! なら、今すぐ分からせてあげるわよ!」

 ミスティアスは羞恥か悔しさか、顔を急激に赤らめつつ両手で自身の上半身を脱ぎ出す。

「ま、待て待て待ってくれ!!」

「な、何よ」

 上半身の下半分を露出したところでミスティアスの手が止まる。

「命令できるのはアタシだけって言ったでしょ」

「初対面の相手に、それも仲間を人質に取って命令で無理やりする事じゃないだろ……。それにボクは敵であるお前とする気はない」

「……これ以上、命令に背いて勝手な事ばかり言うようなら……」

 ミスティアスの上半身から、青みがかった黒い霧が湧き出てくる。そして、その霧がアギトの胸部から体内へと侵攻する。

「がぁっ……ぁあああ!!」

「アギト君もアイツらみたいに、命令に背けない魔物に変えてあげる」

「ま、魔物……だと……!?(何を言ってるんだ……? それにこの霧……)」



「そ、あのオッサン共のようにアタシの命令に絶対従うようにするの。あ! アイツらにはこんなサービスしてないわよ? アイツらを魔物に変えたのは、あの化け物よ」

「(あの子が!? ますます分からなくなってきた……一体どういうことなんだ……)」

「あの化け物がこう呼ばれてる理由はね、この町に2人できて暫く過ごした後のとある一日が切っ掛けなの。あの化け物の身体に密かに仕込んでおいた、この霧が暴発して町の人全員を魔物に変えたからなのよ」

「……何……だと!?」

 容赦無く侵入してくる霧によって、苦痛で何度も意識が飛びそうになる。しかし、聞き逃せない言葉の羅列に集中し何とか意識を繋ぎとめる。

「(あのミユリを凌ぐ程の怪力は、魔物になっていたからなのか!? だが、人を魔物に変えることが本当に可能なのか? だとすると、このまま気を失えば魔物に……けどもう……意識が……)」

 手錠を引っ張る腕の力が抜け、目から生気を失う。

「あら、そろそろ変身した?」

 僅かに互いの沈黙の時が流れ、アギトの眼に別の光が宿る。そして勢い任せに手足の錠を引きちぎり、ミスティアスを床へと押し倒す。

「かはっ……! あ、あれ……アギト君、アタシの魔物になったんじゃないの?」

 体勢が逆転し、今度はミスティアスが両手首を掴まれ拘束される。胸元に少し粘り気のある透明な液体が次々と垂れ落ちてくる。その液体が付着した箇所の衣服が溶け、肌が露出されていく。



「あ、あら……やっとその気になってくれた?(う、腕を押さえる力が強すぎる……アイツらとは全然比較にならない……どういうことなの?)」

「……お前の……」

「ん? あ、主をお前呼ばわりとは失礼ね、これは躾が必要っ……ねっ! んっ……く!(びくともしない……ウソでしょ……?)」

「……お前の魔力……全部寄越せぇええええええええ!!!」




つづく

下旬に更新して、月2ペースでいけるよう目指していこう

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