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第六話:【感染】

お待たせしました、第六話です!


キーウェポンのイメージを何とか伝えきりたいのですが、描写がなかなか難しい……

先日に違反行為を犯した懲罰として、ノイテックフィン・タウンへ遠征任務に向かうこととなった万従アギト。

 彼の体内に侵入した謎の黒い霧の影響で、不可解な行動を取るようになったアギト。彼一人では任務の遂行に問題を生じない可能性は低いとされる為、ミユリ、リア、ディスターの3名が同行者として参加することなった。

 4人は任務開始当日、出立時間の30分前に揃って学内の〝任務転送ステーション〟という体育館と同等の規模の施設に到着する。そして一足遅く、アギトに任務を言い渡した│薬宰零加やくざい れいか│も到着する。

「何だ何だ、揃いも揃って早い到着だな。もう少し遅くたって良かったんだぞ? 俺、今から転送術式の起動準備やるし」

 欠伸をかきながら、教員証のカードキーを取っ手の近くに配置されている電子ロックにかざし解除する。

「準備してなかったんですか!? というか衛士育成の教員がそんなんで良いんですか……」

「相変わらずの先生ね」

「仕方ないさ、俺達の生存率を上げるために魔物の解析、研究、生徒の教育、任務ってとても一人じゃ回せない激務をさせられてるんだからな」



 5人は任務転送ステーション内に入り、薬宰は奥にある転移術式起動装置を操作する。すると装置の近くに直径10mの術式方陣が展開される。

「よし、準備出来たぞ。予定より少し早いが……まぁ良いか、お前ら準備出来たらその円の中に入れ」

「「「はい」」」

「……」

「おいアギト、どうした? 早く入れ」

「――あ、はい! すみません!」

「ダーリンま~だ寝ぼけてるの?」

「あ、はは……」

「……」

「1ヶ月分の授業内容については、学内アプリにその日の分を自動で受信する設定にしてあるから、ちゃんとこなしとけよ」

「「「「了解しました」」」」

 4人を囲む術式方陣が発光し、真っ直ぐ上空へ伸びた光が消失と共に瞬時に4人を転送させた。

「行ったか。さぁて、コーヒー飲んで教室行くか……」


―――

――


 ノイテックフィン・タウン、外れの森。4人は町のすぐ近くにある森の出口付近にて、地にステーションと同じ術式方陣が描かれた場所に降り立った。

「着いた……って、ここ森じゃない!」

「場所は術式方陣が描かれてるから、合ってるはずよね」

「OHSのマップによると、森を抜けた先に町がある。多分そこだな」

 4人はひとまずディスターを先頭に出口へと歩き出す。

「はぁ……何でわざわざ離れに描いてあんのよ、もう!」

「町の規模はそう大きくないな、森に隣接していて、周囲は畑や川……自然に囲まれた田舎の町ってところか」

「術式魔法が浸透していない可能性があるって訳ね」

「あぁ、多分な」

「じゃあさ、私達ってその町の中で術式魔法は使っちゃダメってこと?」

「まぁ魔物が出た時には、流石に使っても問題ないだろう」

「そうだよね、良かった~」

「さて、森を抜けてっと……ん?」

 森へと続いていた広めな出入口の前には、鍵付きの錆びれた重苦しい雰囲気な鉄格子の扉が町への入口を塞いでいた。



「な、何だこれ……」

「私達が森から抜けてきたってのもあるけど」

「歓迎されそうな感じじゃ無~い!!」

「アギト、お前また全然喋ってないがどうした?」

「……ん? あ、あぁ……魔物の気配が無いか気を張っていたんだ。って何だこの鉄扉!?」

「遅ぇよ」

「鍵は……閉まっているみたいだな」

「余所者は断固拒否ってか、だが俺達は任務を依頼されて来たんだ。入る権利は当然ある筈――」

「人通りは無いみたいだし、突っ立っててもしょうがないわね。この鍵、私の術式魔法で外してあげるわ!」

 そう言って首から提げた杖形のキーホルダーを、接続部から切り離すことで等身大のキーウェポンへと変形させた。杖の先端を錠前に向け、ディスターに片腕で遮られる。

「待て待て! 無理に開けて入ったら警戒されるだろう、ここは人が通るのを待っ――」

「すみませーん!! カーディナル養成機関学院から任務を承って来ましたー! ここを開けてくださーい!」



 ミユリは錆びついた鉄格子の扉を強く叩きながら、声を張上げて呼びかける。

 しかし、4人の元へ来るどころか人通りの気配すら感じない。アギトが先頭に立ち、鉄格子の扉から視認出来る範囲の住居を数件見ると、人の整備が行き届いている生活感が確認出来る。


(この様子なら住民は確かにいるはず、任務の開始時間には間に合っている。なぜ出入口を塞いだまま出迎えが来ないんだ……?――ここはもしや……)


 アギトの脳裏に一つの仮説が閃き、3人に問う。

「多分……だけどさ、ここは普段使う出入口じゃないんじゃないか?」

「ふむ、つまり他に出入口があるかもしれないと。だが、迂回するにはまた森を抜ける必要があるぞ」

「ここで立ち往生してるよりマシだろ?」

 森へ入ろうと踵を返すアギトをリアが呼び止める。

「待って! それって変じゃない? 転移した場所から、真っ直ぐマップ通りに歩いてきたのに封鎖されてる出入口に着くなんて」

「確かに変だけど、ミユリの呼びかけに応じなかったんだ、他の出入口を探すしか……」

「何で任務概要に依頼主の名前と連絡先が書いてないんだろうな……依頼する気あるのか全く」



 リアがキーウェポンをキーホルダーに形状を変化させ、ネックレスの先端に戻す。

 すると、出入口に一番近い住宅の2階の窓から、一人の少女らしき人影がアギト達を覗く。察知したアギトが覗き返すと、窓にいた人影が驚いた様子で顔を引っ込めた。

「……?」

「どうかした?」

「あぁ、あの家の窓に誰かいたような……」

「本当!? やっぱ人いるんじゃん、何で応えてくれないのよ……」

「魔物に限らず、余所者に対しても強い警戒心を抱いてるのだろう」

「だからって、開始時間になっても依頼先に出迎えも連絡もしないなんておかしいわよ! もう時間だし開けちゃっても良いよね?」

「仕方がない、後で事情を話すか」

「よし……いっくよー!」

「――!? 待ってくれ!」

 リアがキーホルダー化したキーウェポンを握ったところで、アギトが右手を挙げて静止の合図を出す。

「っ! もう、アギト君まで――」

「誰か来る!」

 先程窓に人影が現れた建物の、奥の方から小柄な少女らしき者が一人。アギト達の方へと歩みを進めてきた。

「……ほんとだ。小さな女の子みたいだけど、一人でこっちに来て大丈夫かな……?」

「依頼主だったりしてな」

「まさかそんな……いや、有り得るかも」



 鉄格子の扉から距離10mを切ったところで、容姿がハッキリと確認できた。腰までの長さで濃い色の茶髪、袖や腹部に当たる箇所が破れていて露出が多く傷んだ衣服、切り傷が目立つ素足、そして身体の至る所に巻かれていて血が滲んでいる包帯。

「――!? あの子怪我してるじゃない! 鍵壊すからアギト、そこどいて!」

 ミユリが自身の腰ベルトに付いているキーウェポンに手を掛ける。しかしアギトは再び静止の合図を出す。

「何でまた止めるのよ!」

「今あの子の手元で何か光った、多分ここの鍵だ。――問題を起こして町中での行動が制限されると厄介だ、あの子が来るまで待とう」

「もしあの少女が倒れた際には、鍵を壊し俺が事情を説明する」

「うーん、というか何か変じゃない?」

「変とは?」

「だってあの子の怪我を見たらさ、普通は町の人が慌てて駆け寄るじゃん。あんな道の真ん中を歩いてるのに、お兄ちゃんが事情を説明しなくちゃいけないっておかしくない?」



「ふむ……、あの怪我の原因は住民によるものしれないな。断定は出来んが」

 よろめきながら4人の元へと歩み寄ってくる少女。距離3mにまで到達するも、前髪で少し隠れていて顔が確認出来ない。そして町の入口の手前側にある、住宅で阻まれた死角から、一人の大柄な男が若干苦しそうにして全速力で少女へと走り寄ってくる。

「はぁ……はぁ……おい!! テメェどうやって抜け出して来やがったぁああ!!」

 大柄な男の怒鳴り声に、少女は驚いて身体をビクつかせ、怯えてその場で立ち尽くす。ミユリとリアが特攻しようとするも、アギトがそれを止める。やがて大柄な男が少女の前で仁王立ちする。

「はぁ……っはぁ……出るなと言った筈だよな」

「……」

「おい、聞いてんのか!!」

「……」

 目の前で鳴り響く怒声により、膠着状態に陥る少女。大柄な男は鉄格子の扉へ一瞬目をやり、すぐに視線を戻す。

「……また呼びやがったな、こんのクソガキ!!」

 大柄な男が大きな右腕を振り下ろす。



 しかし、その大きな右腕は少女には当たらなかった。少女の眼前で静止したのだ、一発の銃声によって。

「お、お前っ……!」

 怯んだ様子の大柄な男がアギトを睨む。だがアギトが向けた銃口は、大柄な男の右腕を捕らえたままブレない。

「その子に手を出さないでもらえますか、次は当てますよ」

 声に表情は無く、冷静な口調で警告する。大柄な男の足元に銃痕が一つ、そこから僅かに煙が上がっている。

「へ……へっ! ガキが……! 民間人を撃てんのか? 撃てねえだ――」

「再度警告します。その子に手を出すようであれば、カーディナル機関の一員として民間人の防衛処置を取らせていただきます」

「ぐっ……、や、やれるもんならやってみやがれ!!」

 大柄な男は少女の顔を掴んで持ち上げ、手に力を込める。

「んっ……んっ……!」

「へ、やっ……やっぱ手ぇ出せねぇじゃねぇか! 所詮は機関の犬だ――」

「ディスター、録画出来ているか?」

「あぁ、問題ない」

「よし、証拠は確保出来たな。少女の救出を開始する!」



 アギトは開始宣言と共に、大柄な男の右前腕に向けて銃撃を放つ。被弾した右腕から力が抜けて、少女は地に落ちる。

「撃ちやがったなこの野郎……!ち、力が入らねぇ……くそぉ!!」

「大丈夫ですよ、対魔物用の特殊な弾丸なので人に被弾しても怪我は負いません」

 大柄な男に目掛けて撃ったのは、魔力吸収弾。体内にあるエネルギーの1つとされる魔力を、弾丸がすり抜けながら吸収してかっさらっていく。すかさずミユリが鉄格子の扉の錠前をキーウェポンで破砕し、勢いで開いた扉からアギトが一人迅速に少女と大柄な男の間に入った。そして大柄な男の額にアルゼントを突き付ける。

 アギトに続いてミユリとリアも町中に入り、少女の元へ駆け寄る。ミユリが抱きかかえて大柄な男から入口の方へと遠ざけ、後にリアが術式魔法を用いて少女に治療を施す。

「……ッフン、殺す気満々じゃねぇか、余程頭に血が登ったか?」

「命は取りません、あくまで少女を救う為です。それに、撃つのは先程のと同じ弾です。少し気を失いますが、すぐ町の方に呼びかけますので安心してください」


(にしても変だな……、道の真ん中でこんな騒ぎが起きているのに誰も来ないなんて。このデカいおっさんが怖いからか? にしたって大怪我してる少女一人を無視するなんて変だ。けどリアの言っていた事がもし本当だとしたら……いや、それ以上に何か別の妙な違和感がある。銃を突きつけられて何で笑ってんだこのおっさん……)



 アギトが思考を巡らせて静止してる間、大柄な男は不敵な笑みを浮かべて身体のあちこちに多少の痙攣が生じている。発汗の量もひと目でわかるほどに増している。右腕の撃たれた箇所を大きな左手で抑えて、身動きが取れる様子ではない。一切の余裕を感じられない状態だが、アギトを見るなり不気味に微笑する。

「クックック……撃たねぇのか?」

「撃たずに済みそうなほど、貴方が動揺していますからね。このまま少女に手を出さないと誓って身を引いてください」

「……撃てねぇんだろ」

「っ!?」

 地底から這い寄るような不気味で低い声が、アギトの平静を揺さぶる。

「さっきお前言ったよな、『撃っても死なないから安心しろ』ってよぉ。なら何で撃って気絶させねぇんだ?」

「……」


(くそ……この違和感が拭えない今、下手に撃って事態を悪化させる訳にはいかない! この事態を把握しきれていないような変な感覚は何だ……? 相手は一応一般人だし、優勢はこっちにあるはずだが……)



 銃を突き付けたまま、一向に動きを見せないアギト。少女を運び終えたミユリは、アギトの様子に異変を感じて傍へと駆ける。

「やっぱりまだ本調子じゃないのかも……、アギト! しっかりして!!」

 大柄な男が、自身の右腕を押さえていた左手を見せびらかすかのようにゆっくりと放す。すると、それを見たアギトの銃口は動揺で小刻みに振れ始めた。

「そ……そんな……」

「い、一般人は……怪我を負わないんじゃ……なかったのか? これはどういう事だ? あぁ!?」

 傷口からの痛覚に堪えながらも、余裕な態度でアギトに問い詰める。アギトの表情は蒼白と化し、膠着状態に陥る。そして、鮮血がこべりついた左手を握りしめ、大柄な男はアギトの胸部へと剛拳を打ち出す。

「っぐぉは!!?」

 そして背後にある住宅へと打ちつけられ、地に身を伏せ悶える。

「アギト!!」

「アギト君!!」

「何やっているだアイツ……」



 大柄な男の前へとミユリが瞬時に割り込む。

「なんだァ?テメェ……雌犬の癖に生意気な――」

「せぇや!!」

 細腕から放たれた小さな拳が、大柄な男の鳩尾にめり込み殴り飛ばす。

「んぐはぁ……!?――何だこの雌ガキ……俺以上の腕力を持ってやがるってのか……!?」

「アギト!しっかりして! もう、何やってんの……っよ!」

 アギトを抱き起こし、背中に手の平を当てて勢いつけて少し前に押し出して気道を戻す。

「んんっ!? がはっごほ……はぁ……はぁ……」

「とりあえず、あの子を連れてここから出るわよ!」

「はっ! 逃げんのかよ糞ガキ共」

「アンタは早く病院に行きなさい!!」

 ミユリの威厳によって、少し身を縮ませた大柄な男はズルズルと町の奥へと退散した。ミユリはアギトを連れて町の入口にいるリア達と合流し、森の中にある転移術式の場所へ戻っていった。



 少女を着替えさせる為、アギトとディスターは少し離れた場所で待機する。

「アギト、お前何故あれほど長い時間硬直していたんだ? それも焦りに満ちていた様子だったが」

「……悪い、多分あの男に大怪我を負わせたかもしれない」

「大怪我……だと? だが、お前が撃った弾丸は人間への物理的な損傷を負わない物なんだろう?」

「あぁ、確かに吸収弾を撃った。けどあの男の腕には貫通してる銃痕があったんだ」

「ふむ……、一度被弾した直後の様子を録画データで確認するぞ」

「あ、あぁ……」

「――リアのこと、気にしているのか?」

「え!? あ、あぁいや……えっと……」

「あの時お前がした行為について許すつもりは無い、だがお前を責めるつもりも無い」

「ディスター……」

「リアは何かと勘の良いヤツだ、責め立てられた後のアギトの様子を見た途端、俺に雷撃を喰らわせるだろう」

「は、はは……」



 離れで待機し15分程経過した所で、アギトとディスターはミユリ達の所へ戻っていった。

すると、ミユリ達のいる場所が紫色の龍鱗のついた幕が筒状で上に先細るようにして包まれていた。中の様子は僅かに透化した3人のシルエットだけが確認できる。アギト達は血相を変えて慌てて駆け寄り、ディスターがペンダントにぶら下げたキーウェポンを片刃剣へと変形させて縦に幕を切り裂りさいた。そしてアギトが切り込みから掻き分けて中へ突入する。

「大丈夫か!!?」

「いっ!?」

「へ……?」

「ひぐっ!?」

 3人の状態にアギトは一瞬硬直した。中の状況はというと、リアは救出した少女を後ろから抱くようにして支えており、膝をついて立った状態からミユリが2人の方を向いて近距離で肩から制服のジャケットを脱ぎ始めていた。少女は少し気だるそうにリアに背中からもたれている。



 ミユリと少女は顔が火照り涙を浮かべ、リアはアギトが固まっている様子に疑問を浮かべたように首を傾げる。

「あ……あ……」

「……お邪魔しました」

「違うから!! そういうのじゃないから!!」

「む? どうした?」

「こ、来ないでー!!」

「あっはっは、何恥ずかしがってるのよミユリ」

「うるさい! 男子は早く外に出てって! あとアギト、この子に着せるからジャケット貸して!」

「わ、分かったよ……ほら」

 状況がイマイチ把握出来ないまま、アギトはジャケットを剥奪され、幕の外へと追い出される男子組。数十秒後にミユリから中へ入るよう呼び出しがかかった。

「――とりあえず、順を追って説明してもらおうか。まず、この外からは魔物にしか見えない幕はなんだ?」

「あぁこれ? これはねぇ、私が術式魔法で呼び出した特製テントなの! 凄いでしょ! というかお兄ちゃん、後で入口直しといてよね!」

「全く……わざわざ紛らわしいのを用意しおって……」



「あの……もう少し普通のデザインにしてくれないか?」

「えぇ~、これ魔物の攻撃をかなり防いでくれるし伸縮自在だから便利なのに」

「さっきみたいに心配になるからさ、分かりやすいようもう少しデザインを変えてほしいんだ」

「むぅ……、アギト君がそう言うなら工夫してみる」

「頼むよ、この間食われたばっかりのボクとしては本当にビックリしたからさ」

「あ……ご、ごめん」

「まぁ良いって。で、その子の状態はどうだ?」

「一応、私の術式魔法で怪我は治したんだけど……体力の方は相当消耗してるみたいでずっとぐったりしてるの」

 少女はアギトのジャケットを羽織って、リアの膝を枕にして横になっている。

「そうか……。じゃあ、まずはこの子の回復に専念して、後で事情を聞くとするか」

 ディスターの指示で2組に分かれ、それぞれ役割を担い昼前まで遂行する。ミユリとディスターはテント周辺の警護と調査、リアとアギトは引き続き少女の保護。リアは少女を毛布の上に寝かせ、備品から調理器具を取り出しテント内でスープを作り始める。

 アギトはテントの隅で出入口側を向いて、アルゼントを片手に呟いている。



「――アルゼント、いつまでそうしているつもりだ? いい加減起きてちゃんと喋ってくれ」

「どうしたのアギト君? そんな隅でコソコソしてないで、もっとこっちに来なよ」

「さっきの事もちゃんと説明を――え? あ、あぁ悪い……一応その……外を警戒していたんだ」

「そっか、2人がいない間に襲撃されるかもしれないもんね、魔物じゃなくさっきの町民とか」

「そ、そうだな……可能性としてはあまり考えたくないが」

「――アギト君さ、まだこの間の事……気にしてる?」

「あ、えっと……」

「私の方を向いて銃を握りたくない、とか思ってない?」

「……はは、流石に露骨過ぎか」

「この間の事は、いきなり飛びついて無理にしがみついた私も悪いの。だからもう思い詰めないでよ」

「その、リアの事もそうなんだが……」

 一呼吸置いて自分を落ち着かせ、ゆっくりと口を開く。



「多分、人の方を向いて上手く銃を握れなくなったのかもしれない」

「それって……普通じゃない?」

「そうなんだけど……リア達と4マンセル組む時にも支障が出るかもしれないんだ! さっきあの男と対峙したように!」

「その時はまた皆でカバーすればいいじゃない、私達の武器は本来魔物と戦うためのものなんだから。それに人に物理的な損傷を与えない弾丸だってあるんでしょ? さっきもそれを撃ったんじゃなかったの?」

「……それが――」

「ん、うーん……」

 少女の目覚めによって、アギトの発言が遮られる。リアが鍋の中を掻き回しながら少女に微笑む。

「あ、気がついた? ご飯もう少しで出来るから待っててね~」

「ここ……は……?」

「私達のテントの中よ、怖いものは何も無いから安心して」

「ありがとう……ございます……」

 少女は身に纏っている少し大きめのジャケットが気になり、じっと見つめる。

「あぁ、それ? 私の着替えがまだ送られないから、代わりにそこのお兄さんのを着てもらってるの。本当はお姉ちゃんのを貸して、お兄さんのを私が着たいところなんだけど――」

「リア」



「あ、ご……ごめん! えっと、今ここにいないお姉ちゃんが着せちゃったからさ、私の服が届くまで少し我慢してね」

「……はい」

 返事をした直後、少女は不思議そうに眺めていたジャケットの裾を顔に押し当てて深呼吸する勢いで匂いを嗅いだ。

「ちょ、ちょっと! 私がやろうと思ってたこと先越さないでよ!」

「リア……」

「あ、ち……違うの! 本当は違わないけど今の無し!! というか私のローブと取り替えっこしよ? ミユリの勢いでついそのまま着せちゃったけど、普通ローブの方を羽織るよね!」

「ご、ごめんなさい……」

 少女は萎縮した様子でジャケット越しに自身を強く抱く。

「怖がらせてどうする」

「あぁ、いやそんなつもりは……」

「自重しようか」

「……はい」



「それ気に入ったのなら、リアの私服が届いた後も着てていいからな」

 少女は小さく頷き、自身を抱く力は緩まった。だが、姿勢そのままに時折ジャケットの裾を顔に押し当てて深呼吸をしている。

「……アギト君、制服のジャケットに何か細工した?」

「いや、何もしてないが……まぁちゃんとした服に安心したんじゃないか?」

「そっかぁ。じゃあさ、アギト君そのままだと落ち着かなそうだし私のローブを貸してあげるよ! ついでにこの子の真似もしていいから! というかして!」

「いいからそのまま着てろ」

「……はーい」

 昼食が出来上がると同時に、ミユリ達が調査から戻った。

「ただい……って、どうしたのよその子……。というか何であんた少し泣いてんのよ」

「み、ミユリのせいなんだからね!!」

「えぇ!?」

「アギト……俺のいない間にまた一人│たぶら│かしたのか」

「え!? アギト君、私達以外の子にも手を出してたの!?」

「いや誰ひとりとして出してないから! あと、さり気なく『手を出された』って捏造するのはやめろ! この子の前で変な発言するのはやめてくれ」



「だって……だって……――み、ミユリのせいなんだからね!!」

「分かったわよ!! もう……ほら、これあげるから泣かないで」

 ミユリがポケットからOHSを取り出し、リア宛に何かを送信する。リアは画面を開いて、送られた何かを見た途端に興奮を押し殺すかのように顔を潜める。そして一瞬不敵な笑みを浮かべた後、その笑顔が満面に様変わりしてミユリに飛びついた。

「ありがとうミユリ~! 大事にするね!」

「っふふ、はいはい」

 アギトは送られたものが気になるも、あまり良い予感がしないため気にしないフリをした。

 リアの作った昼食を取り終えて、一息ついた後にアギトが話を切り出す。

「さて、じゃあまずボクらの情報を整理する前に……君の名前を聞かせてもらえるかな」

「あ! アギト君から〝 君〟って上品に呼ばれてみたいって願望がぁ……また先越されたぁ……」

「いいから黙ってこれ見てなさい」

 再度リアのOHS宛に何かが送られ、リアが嬉しそうに眺める。アギトは咳払いをした後、もう一度少女に名前を聞く。少し戸惑いながらも少女はゆっくりと口を開く。

「わ、わたしは……」




つづく

今回は前編って感じですね、第七話もとい後編はなるべく早めに上げようと思っています


次回をお楽しみ!

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