第1話 彼は再び外の世界に目を向ける。
どうも、始めましての方は始めまして。
他の作品を見た事がある人はお久し振りです。
近衛です。
今回はプロローグなので、割りと短めです。
次回からもう少し長くするので、今回は我慢してください。
「んぅぅんんん!」
ランプの灯りのみが部屋を照らす暗い空間で少年は一人本を読み耽っていた。
本の題名は【魔道大全】
その名の通り、この世に有るほぼ全ての魔法や魔術が載っている。
終盤に差し掛かっているそれに、栞を挟んで閉じると、凝り固まった身体を解し始めた。
長時間座り込んでいたのか、身体からはバキボキと言う音が聞こえ、少年は欠伸をしていた。
それを終えるとカーテンを開けた。
窓の外から注がれる太陽のキラキラとした光に、目を細める。
窓の外には木々が一面に生えており、人の気配は一切感じられない。
それはそうだろう。
何せこの付近には少年を含め、三人しか住んで居ないのだから。
少年が物思いに耽っていると、ドアをノックする音が部屋に反響した。
「失礼します。朝食のご用意が完了しました」
「ありがとう、ティノ」
「いえ、メイドの勤めですので」
ティノと呼ばれた少女は謙遜しながらも、照れているのか頬を紅く上気させていた。
少年はそれに気付いてい無いのか、部屋を少し片付けてから出る。
と言っても、少年が片付けたのでは無く、物が急に動き出し本棚や箱の中と言った場所に修まっていた。
まるで、それは物が自我を持ったかの様に自然に行われた。
その光景に少年も少女も何の反応もせずに、廊下を歩いていた。
それは当然の事。
先程の現象は少年が無詠唱で行った魔法による物だからだ。
さて、今更ながら少年らの説明をしよう。
少年の名はグレン=フレイア。
天職は【討伐者】副職は【勇者】
外見年齢は十六歳。年齢は四桁に入った位。
髪色は輝かんばかりの銀。瞳は今は総てを呑み込まんばかりの黒。
背は百八十三センチ。
少女の名はクラウソラス。
天職は【聖剣】
外見年齢は十五歳。年齢は四桁直前。
髪色は艶やかな金。瞳は太陽を連想する様な赤。
背は百六十二センチ。
そう。
天職から分かる通り、少女は聖剣。少年は勇者なのだ。
では、何故こんな山奥で暮らしているか。
それは、少年が隠居中の先代(十二代前だが本人は知らない)の勇者だからだ。
「あっ、おはようございます!御主人様!」
「うん、おはよう。今日のご飯も美味しそうだね」
「ありがとうございます!」
大輪の華の様な笑みを浮かべるこの少女はアロンダイト。
外見年齢は十八歳位。年齢は四桁。
髪色は黄色に近い明るい金。瞳は空色に近い薄い青。
グレンが勇者として神から授けられた最初の聖剣だ。
食卓にはシチュー、パン、サラダ、ハム、目玉焼きが準備されており、保存の魔法で出来立ての状態を保たれている。
グレンが席に着くと、クラウソラス・アロンダイト共に席に着き保存の魔法を解いた。
そして、
「「「頂きます」」」
食事の開始の挨拶を行う。
これは初代勇者である異世界人ケンタ=スギハラが広めた物の一つで、世界中の殆どの人が使っている。
勇者ケンタ=スギハラが遺した物はその殆どが食事(料理)関係であり、カレーや唐揚げ、ラーメン等が挙げられる。
食事以外だと、農法や水車、刀や交通路等が挙げられる。
世の歴史研究家は「初代勇者様が広められた者だけで世界の技術は数十年……いや、数世紀は進められた」と述べている。
実際、その農法等が改良や発展して今の形(数百年前)になったのだから。
「ごちそうさまでした。」
「いえいえ、御粗末様でした。」
主が食事を終えるのを待っていたのか、アロンダイトの言葉の直ぐ後に一羽の鳥が入ってきた。
太陽の光を反射するその美しい羽は太陽と同じ赤に近い橙で、瞳は明るい黄緑をしている。
今は小鳥程の大きさでは有るが、実際はその数十倍を誇る。
その種族名は不死鳥。
だが、部屋に入ると共に人の姿を取った。
「主様~!会いたかったよ~!」
「うん、僕も会いたかったよ」
人化するなり抱き付いてくる彼女を抱き留める。
不死鳥の名はリディア。
グレンが使い魔としてリディアと契約した時に与えた名だ。
髪色は毛色と同色、瞳は先程と変わらず。の容姿をしている。
本来は三桁終盤の年齢では有るが、無限の時を生きる幻獣には年齢=外見年齢とはならない。
それを主張するかの様に外見は十四歳程にしか見えない。
それと服の下からも二つの山が主張しているがそれは、まあ良いだろう。
「ず、ズルいです、リディアだけ!」
「そうですよ!」
「べ~だ!私は任務をしっかりこなして来たんだからこれ位のご褒美が有っても良いじゃないか」
そう言ってリディアはグレンの腹辺りに頬擦りする。
グレンは苦笑しながらリディアの頭を撫でていた。
さて、話は変わるがリディアの言っていた任務とは、精霊界の歪みを正すと言う物だ。
グレンの使い魔であるリディアは、グレンの力の三割程の能力を与えられている。
勿論、グレンが弱体化する訳ではなく、グレンから与えられる魔力で能力が強化されると言うだけの話だ。
「そう言えば、もう籠り始めてから六世紀位経つんだっけ?」
「そうですね。五百四十一年が経過しました。」
グレンの問いに答えたのはクラウソラス。
疑似精霊で情報収集を行うのも彼女の仕事の一つで有るため、こう言った問いへの答えは必然的にクラウソラスになる。
「なら、一度外の世界に出てみようか。丁度、魔道大全も殆ど読み終わったしね。」
そうと決まれば、読み終えようか。