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「夏夜に見た悪夢」  作者: 四つ足ジョバンニ
【04】 閉ざされた中の死 ― Death in the Closed ―
9/17

冷蔵庫

「何にもないね……」

 ココナが残念そうに零す。

 ボクとココナは、病室の隅々まであれこれと調べてはみたけれど、ここでも、これといった収穫はなかった。

「やっぱり、誰かが助けに来てくれるのを待つしかないのかな……」

「まだ分からないさ。次の部屋に行ってみるぞ」

 ボクは、しょんぼりするココナを元気づけながら、その病室の隣にある以前は調理場として使われていた部屋に入った。

 扉を開けて室内に入るなり、

「あ、あれ見て」

 とココナが天井の一部を指し示した。

 その先の天井には、正方形をした四角い穴が空いていた。その真下辺りの床には、同じような大きさと形をした、格子状のプレートのようなものが転げている。

 おそらく、その形状からして、それは換気口の蓋で、その上の天井に空いている穴が、その蓋が嵌められていた換気口なんだろう。留めていたネジが緩むなんかして、剥がれ落ちてしまったらしい。

「あの穴って、換気口だよね? だったら、その中を通って、外に出れたりしないかな? 映画とかでそういうの見たことがあるよ」

 とココナは意気込むけれど、

「いや、無理だろ。仮に、ダクトの途中が、ダンパーとか金網で区切られていないとしても、あの大きさじゃ、ボクたちはダクトに入ることさえできない」

 その換気口は、幼い子供でさえ身体を通すのが難しいくらいの大きさで、既に体つきは大人なボクたち――肥満体型のヒロタは特に――では、そこを通ってっていうのは無理だ。

「そっか……そうみたいだね……」

 とココナは再びしょんぼりとしかけたけれど、

「あっ、冷蔵庫があるよ。もしかしたら、ジュースとかが入ってるかも」

 と他の調理器具と並んで壁沿いに置かれた大型の業務用冷蔵庫へと近づく。

 そのココナの後を追いつつ、

「あったとしても、飲める状態じゃないだろ」

 この危機的状況下では、いつ助けが来るか分からない以上、食料や水分の確保は最優先事項だ。肝試しの打ち上げ用に持参してきた菓子類やジュース類があるけれど、それもこれだけの大人数の空腹を長時間満たし続けるだけの量はない。

 だから、他に飲み食いできるものをここで見つけることができたなら、大助かりではあるけれど、それ以前に、その食料や水分が身体に悪影響を与えるものではないかには、十分に注意を払わなければならない。

「この廃病院には、電気が通っていないんだ。壊れていないとしても、稼働していないんじゃ、中に食料なんかが入れられたままにしてあったとしても、全部腐ってるさ」

「でも、賞味期限が切れてない缶詰とかも入ってるかもよ?」

「だとしても、それが安全だって保証は――」

 言いかけて、その冷蔵庫のランプが点灯しているのに気づいた。なぜか、電気の通わないこの廃病院にあって、稼働を続けているようだ。

「この冷蔵庫、電気が通ってるみたいだな……」

「え、マジ? そうなの?」

 とココナが嬉しそうに。

 ボクは、そんなはずは……と怪訝に思いながら、その裏から伸びる電気コードの先を追ってみた。

 床に据え付けられた長細い机に隠れていた部分に、小さめの発電機らしきものが置かれていた。誰がそうしたのかは分からないけれど、それで冷蔵庫に電力を供給しているらしい。

「なんだ、だったら、ジュースとかが入れられてたら、それで水分補給できるってことじゃん」

 ココナは、一つも怪しもうとせず、浮かれたように言うと、

「開けちゃおっと」

「ちょっと待て、なにか変――」

 とめようとしたボクの言葉を無視して、ココナが、その冷蔵庫の蓋をぱかりと開く。

 熱気に満ちた中、ひんやりとした冷気を帯びた空気が、白いもやとなって漏れ出るのと一緒に、その中に収められていた何かが、ずるりと床に零れ落ちた。

「きゃあああああああああああ!」

 その何かを見た途端、ココナが絶叫しながら、床に尻餅をついてへたりこんだ。


 驚愕に見開いたボクたちの目に映るもの――。


 開かれた冷蔵庫から出てきたのは、憐れに後頭部を叩き割られた、人間の死体だった。



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