ノウガキ退治
ここが陰磐城の里かあ
とぼくは辺りを見渡した。
きれいな田んぼと畑が並んでいる。
さっと見た感じあまり陰武蔵の里と
違いがぼくにはわからなかった。
美味しそうな桃の木がこっちの里にもずらりと生えている。
そんなことを思っていると
遠くから怒鳴り声が聞こえた。
何だか向こうの山で誰かが怒鳴っているようだ。
それも大人数の声である。
「なんか、向こうで声がするけど」
とぼくが言うと
わぼうが「ほんとだ」と気づいて
遠くを見るためかぴょんと飛び跳ねた。
「かっちゃん。あの山に行こう!」
わぼうがそう言うので
ぼくたちはまた荷台に乗り
人々の声がする方へ飛んでいった。
空からそのその山を見てみると
小人が河童と喧嘩しているように見えた。
河童のほうが喧嘩には勝っているのだけど
小人の数が凄く多い。
百人以上はいるように見える。
それに比べて河童は十人ぐらいしかいない。
今は何とか河童が勝っているが
だんだんと疲れてきたら
小人に河童が負けるのだろうなとぼくは思った。
「あ、あぼうがいた。
かっちゃん。あそこに降りて」
わぼうの言うとおりにかっちゃんが降下すると
ぼくらは荷台から降りた。
そしてわぼうが「あぼう」と呼ぶ人物を見てみた。
あぼうはわぼうと服装は良く似ていた。
緑色のちゃんちゃんこを来て
おかっぱの髪型をしている。
でも年は十五歳くらいに見えたし
落ち着いていて、とても賢そうである。
そこがわぼうとは大きく違うなとぼくは思った。
「あぼう。仲間を連れてきたよ。
何だかあぼうにお願いがあるみたい」
わぼうが元気よくそう言うのを聞いてから
あぼうはぼくと希美子をちらりと見て
ユキちゃんの顔をじっと見ていた。
「ちょうど良くかっちゃんを連れてきてくれたと思ったら
人間も連れているのか。
まったくわぼうは困ったものだな。
陰の里には人間は入れては駄目と言っているだろう」
「だって、みんな仲間だよ。
いいじゃない別に」
わぼうはあぼうに怒られていたが
まるで反省してないようだった。
「まあ、子供だからまだマシか。
それよりノウガキにてこずっていてね。
ちょうど人手が足りていなかったんだ。
君たちも手伝ってくれないか?」
あぼうがぼくと希美子を見てそう言った。
「できることなら手伝うけど
ノウガキって何なの?」
とぼくがあぼうに聞いてみた。
「空から見えただろう。
あの小人たちのことだよ。
あいつらは悪さばっかりするから困っているんだ。
応援に来たんだけど思ったより数が多くてね。
手を焼いている」
「でも私たちが手伝っただけでどうにかなるの?」
と希美子が聞いた。
「ああ、もう退治はあきらめて結界を張って
中に入らせないことにしたんだ。
でも結界を張るには里をぐるりと回った
五ヶ所にこのお札を貼らないといけないから困っていたんだよ。
でもかっちゃんが来てくれたから何とかできそうだ」
あぼうはそう言うとぼくと希美子にお札を一枚ずつ渡してくれた。
「いいかい。このお札をみんなと同時に地面に貼らないといけない。
君はここにお札を貼ってほしい」
と言い、あぼうは希美子を見た。
「そして君は西のほうに一キロほど行くと
磐城と大きく彫られた岩があるから
その辺りに札を貼ってほしい」
と言ってあぼうはぼくの方を見た。
「いま戦っている河童たちは手が離せない。
二人ともやってくれるかな?」
とあぼうが聞いてきた。
「やるよ」とぼくは返事した。
病気を治してもらおうと思っているわけだし
ぼくだけ何かしてもらうのも不公平だと思ったからだ。
「やる、やる、楽しそう」とわぼうが喜んでいた。
「手伝ってくれるのはいいけど
わぼうは言うとおりやるんだぞ」
とあぼうが念を押していた。
あぼうが詳しくやり方を説明してくれた。
あぼうとわぼうとナニワガッパ
そしてぼくと希美子の五人でお札を同時に地面に貼ればいいみたいだ。
貼るタイミングはかっちゃんが空で火を噴くので
それを合図に地面に貼ればいいみたい。




