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第89話  復讐する者たちと少女ら(6)

 

 ***



 昨夜のニュースを知った、レイ。胸騒ぎを感じたのだろう。嵩旡こうきに相談したが、彼もまた同様に感じていたのだ。


 朝7時半過ぎ、碧から最初の連絡を受けた少女は、即報告。10分もせず明水神社へやって来た、敬俊けいしゅんと嵩旡。

「2人が組織に殺されてしまうのでは」と、懸念する17歳命毘師がいる。NSネスの懐に少女を「行かせるわけにはいかない」と、反対する阿部阪親子がいる。

 彼女の正義感と命への執着心は、強過ぎた。その目には、恐怖を超えた闘志さえある。言葉にも重みがある。決心は清いものである。守護者である彼らの反対を押し切ってでも、向かうことにした、少女。熱意に負け仕方なく承諾した建毘師の指揮官は、息子に同行を命じた。

 9時前、近くのゴルフ場から碧が手配したヘリに乗り、2人は東京へ。途中、仕事で横浜に来ていた須佐野憲剛と、みなとみらいで合流することに。


 須佐野は伊武騎の依頼だから、というより、危険な現場へ行こうとする少女命毘師を護りたい、という気持ちのほうが、強かった。碧も同様の想いはあったものの、「警察が動いている以上、僕は現場に行けない」、と残念がっていた。



 ***



 朝10時頃――


「伊豆海くん、“大変よくできましたぁ”! 」


 優しそうな微笑みを見せながら、顔の近くで軽く拍手するNSネス若手幹部。ところが、手を止め下げた瞬間冷ややかな表情に、急変した。


「ですが……考え、変わりました。……ここまで助けに来てくれた、ん? 助けてないなぁ……味方してくれた、か弱〜いメスを、そ〜ぅ簡単に葬ることが出来るおめぇ……君が、信用出来ないです。というか、君、もうウザい……

 警官殺しの首謀者と共犯者として、上には報告しておくから、消えちゃって。あっ、姉さんのことも心配しないで。あとで処分しておくから! 」


 少年の表情に怒りや冷酷さは、見当たらない。それどころか、微笑しているように、見える。いや、呆れている、に近い面持ち。それは男に対してなのか、自分に対してなのか。

 フラつきながら静かに立ち上がる、傷を負った少年直毘師。

 肩を貸そうとする傍の女を突き飛ばし、今ある気力を両手に注ぎ込む。


「ぅわあーーーーーーーーぁ、なっ!? 」


 絶叫。……気づいた、遅かった。


 ドゥスッ!

 ヴゥチッ!

 ズゥスッ!


 攻撃、された。両肩、両腹、両腿へ、小物体による受撃。


「な、お……」


 ヴォヲーン

 ビキッ


 骨の異常音と共に、少年の体は斜めになり、足は地を離れ、数メートルほど右後方へ、飛ばされた。そのまま叩き付けられるように、背中から、落下。

 正面左から風圧のようなエネルギーの塊が、肩、腹、腿から出血の彼を、直撃。トドメを、刺された。


「ょぅ!? 陽、よおーぅ! 」


 守れなかった、泣き叫ぶ女祓毘師。四つん這いで近寄ろうとするが、虚無感に襲われその場に伏せてしまった。


 右手のみで引き上げさせる、合図。そのスーツ男は2人に背を向け、遠ざかった。

 それに気付き追いかけようとする、耶都希。だが立ち上がる気力すら、すでになし。地に額を付け、哀哭あいこくする他なかった。



 ***



 約25分後――


 血まみれになった少年の呼吸と脈拍を確認。かろうじて生きている状態、と言える。


「陽くん、大丈夫!? 目を開けて! ねえ、陽くん! 」


 大粒の涙を下瞼で流れるのを防ぎ、必死に声を掛け続ける。



「湊くんは私が……嵩旡くんは、あっちを見てきてくれ」


「分かりました。お願いします」


 少年を心配する、哀しげな声の彼女の元へ。



 重たい瞼を動かし、ほんの少し目を開けるも視点が定まっていない、少年。


「だ……れ? ……」


 少女の顔が、見えていないようだ。


「レイ、私はレイよ。……陽くん、迎えに来たの、一緒に帰りましょう! だから頑張って! 」


 再び目を閉じようとする。


「だめ! 陽くん、目を開けて! お姉さんがいるんでしょ。お姉さんのとこに帰ろう」


「…………」


 少年建毘師は、彼の状態を確認。奉術のダメージではなく物体攻撃での全身からの出血に、絶句。




 女祓毘師の背中側へ回り込む、進毘師。片膝を地につけるように、腰を落とした。両腕を前に軽く差し出し、ボールを掴むような手の平を両外側に向ける。そして、大きく深呼吸、両目を閉じた。肺中の空気を全て吐き出した後、他人には聞こえないほどの小声で唱え始める。


「万の命、我が求」


 両手の平に、緑がかったもやが生じ、空間が歪んでいるような球体が徐々に膨張していく。ナチュレ・ヴィタール(自然界生命エネルギー)の集合体、を発生。

 大男にも少女の悲愴感漂う声が耳に入ってくるが、やるべきことに注力。バスケットボール大の球体が二つ出来上がる頃、外側に向けていた手の平を内側に返し、右手の球体を対象者の首の後ろに、左手の球体を腹に添えた。


「人の浄、御講ず」


 体内へ左右同時に、吸収させた。二呼吸ほどすると、彼女から蒸気のようなものが出、うっすら白発光し、ゆっくりと収まった。

 清原せいげん、完了である。




 目を閉じ、微動だにしない一つ歳下の、少年。彼の痛ましい姿を直視する少女は、胸が締め付けられる感覚を止めることが出来ず、大粒の涙を誘った。今は、ひたすら声にならない声を掛け続ける、しかなかった。


「いやぁ! だめっ! 目を、開けて! ねえ、陽くん、まだまだ、これから、楽しいこと、あるんだから。素敵なことも、待ってるんだから。だから、お願い! 頑張って! 」


 そばでは、エネルギーを集中させようとする、同世代の建毘師がいた。

 その目前で唇を動かそうとしている、多量出血の少年。必死にその声を拾おうと口元に耳を近づける、優しき彼女がいる。


「……ひかり、ねえ、さん、を、たす、け、て……」


「うん、わかった。……でも、一緒に、助けに、行きましょう。そして、お姉さんと、一緒に、幸せに、なろぉう」


 口角を少しだけ上げ、笑みを見せる少年。


「……いい、んだぁ、ぼく、なん、て……」



 ***



 

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