表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/109

第87話  復讐する者たちと少女ら(4)

 

 ***



 約27分前――


「……こと、わる」


 後ろから聞こえた一言に驚く表情と視線は、彼へ。耶都希は以前、彼から告知されていたから、だ。


『僕だって醜い人間だから。もしNSネスから姉さんの処理を指示されたら、迷わず実行する。だから、僕のことも信じないほうがいいよ』


 だが、堂々と拒否した。


「そうですかぁ〜……」


 男の苛立ち。左足のゆすりに、現れている。


「では、こうしましょう。もう一度、チャンスを与えますね。そこの女に君が闇儡するか、こちらの直毘師なおびしがあなたのお姉様に闇儡を行なうか、どちらかを選んでください。

 あ〜っ、そうそう、報告遅れました。上役だったら怒られますね。……ひかりさんって言いましたっけ!? お姉さんは既に名古屋の自宅にはおりません。君の知らない場所にお引越ししてもらいました」


 笑顔の男に、鋭眼するひかりの弟。右手の平を前に突き出し、攻撃態勢へ。待機してあった血の玉を制御しようとする。


「無謀な行動は控えたほうがいいですよ。もし君がまだ歯向かうなら、お姉さんの闇儡だけでなく、この首謀者のメスブ、……女は……まっ、警官殺しの実行犯として射殺しても、な〜んの問題も、ありませんからねぇ」


 三つの銃口が全て、仕立て上げられた実行犯に向けられる。差し出した腕をゆっくりと下げる少年は体制を崩し、尻餅をついた。立っているのも限界だった。


「よおうぉ」


 駆け寄った。だが、助けに来てくれたはずの耶都希に、脱力気味の陽は目を合わせられず、俯いていた。


「さてさて、マジで、あっ、……本当に夏バテしそうなので、さっさと……早く決断してくれませんか」


 ふざけた男のセリフよりも、少年を助けたい、と真っ先に思ったのだろう。


「陽、私に闇儡して。そしてお姉さんを助けなさい」


「…………」


「大丈夫、私はそんなやわじゃない。訓練も受けてる。それにレイさんたちが、こちらに向かっているはず……でも、ココに入ってこられないかも、ね。

 ……陽にはお姉さんがいる、私は独りよ。だからお姉さんを、光さんを助けてあげて。私は銃で死ぬより、陽の力で死んだ方がいい」


 やっとのことで目を合わせる、弟のような少年。姉さん、と呼んできた女は、微笑んでいる。


「……ごめん」


「ううん、私こそ御免なさい。助けに来た、つもりなのに、結局、足を引っ張ってしまった」


 目を閉じ、歯を食いしばりながら沈黙していた少年は、やる気なさそうに左手を顔の位置まで上げ、覚悟を示した。


「伊豆海く〜ん、手加減なしですよぉ。最高の闇を、プレゼントしてください」


 ニヤつく男を冷視する。が、反抗する気もなく視線を戻し、待機させていた怨度の高い幽禍を一つ、左手の平の上に呼び寄せる。微かに白っぽいものが見えるドス黒い幽禍を、彼女の背中から体内へ、吸い込ませた。

 付き人の進毘師が三佐波さんざみに、ボソッと、報告している。


「そうですかぁ……伊豆海くん、“大変よくできましたぁ”! 」



 ***



 前日夜――


 ――『次のニュースです。警視庁刑事部に属する捜査員2名が殺害された事件をお伝えします。殺害されたのは、捜査第一課所属の○○さん48才、捜査第二課所属の△△さん44歳です。○○さんは昨日午前7時頃、川崎市の物流倉庫内にて、そこで働く従業員が発見。△△さんは昨日午前11時頃、新宿のホテル一室で従業員により発見されました。

 警察のこれまでの発表によりますと、死因は2名とも自殺に見せかけた銃による他殺であることが判明。解剖の結果、犯行時刻は昨日未明であることも明らかにしております。さらに防犯カメラの映像および関係者の証言により浮上した、16歳の少年が何かしら関与している、とし行方を追っているもようです。……』――


 この報道に疑惑の念を抱き、即連絡した。


「陽なの、3人を殺したの? もしかして、組織ネスに嵌められていない? 」


 問い詰めるが、応えない。確信したのか「一緒に闘う」と伝えた。彼を護りたかったのだろう。しかし、女は攻撃する能力が低い。直毘師と組むか、直に接触し闇を注入するしかない。攻撃が得意な直毘師に、祓毘師の力はそれほど必要としなかった。それが分かっていても一緒に闘うことを望んだ……が、


「ありがとう。でも大丈夫。姉さんに迷惑をかけたくないし……」


 通話が、途絶える。

 困惑と焦燥の女。少年の復讐を止めるために、月光でうっすらと照らす瀬戸内海に浮かぶ島を、出た。彼がいる可能性のある東京へ、向かうために。制限速度などお構いなしに高速道路を、突っ走る。悔しさと悲哀を抱き、涙しながら愛車《RX》のアクセルを、全快にした。そして自分の無力さを、考えた。


「私一人じゃ、どうすることも出来ない。陽にもしものことがあったら私……誰か、誰か……レイ!? 」


 ふとレイの顔が浮かんだようだ。だが否定するように、首を横に振った。これまで彼女に対する酷い言動があったからだろう。彼女が助けてくれるとは想像すら、出来なかったのだろう。敵対心が強い、と思い込むのも仕方がない。

 ナビ画面を操作、『アオイ』を選択していた。登録されている、電話帳の名。ただ、陽と碧は敵として闘ったばかり。彼に助けを求めるのは、気が引けたのだろう。画面を地図に戻した。


 夜の高速は大型車両が多く、思いの外スピードが出せない。イライラしながら、かつ葛藤しながら、ひたすらヘッドライトをハイビームにして高速を、疾駆。案が浮かばないまま、東京に近づく標識板を見ながら、焦燥感だけが増していった。


 朝日がすでに起こした大都市へ、到着した。だが、どの辺りを探せばよいのか見当も、つかない。陽に電話をかけるも、応答しない。地理感のない彼女は、差し当たってカーナビを見ながら霞ヶ関周辺を、巡回することに。次第に通勤車やタクシー、バス、そして駅から通勤する人たちが、増えて来た。


 人の多さに埒が明かないと考え決意する、耶都希がいる。少年を助けるために命毘師を、そして組織を倒すために建毘師らの助けの必要性を、直観。悩んでいる余裕はなかった。

 ブルートゥースで電話をかけ始める。連絡先を知る彼にお願いすることしか、なかった。


「碧くん、ごめん、お願い、助けて」



 ***



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ