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第83話  闇、染まる少年

 

 ***



 2001年1月25日、現場――


「シゲ、あっちへ回れ! 」

「はい! 」


 慌てふためきながら駆け走る男を追いかける、伊豆海刑事。

 両腕を広げれば両壁に届くほどの狭い路地をひたすら逃げる男は、連続強盗殺人事件の容疑者の1人。右角を曲がり、左角を曲がり、少し広めの商店街歩道に出た。ほんの数秒、間に合わなかった、若い刑事シゲ。


「待てぇー」


 路地から出てきた伊豆海は、シゲ刑事の後ろを追走する形に。

 商店街を抜け左折する男の前に、現着した覆面パトカーが急停車。急ターン、逆方向の低い階段を駆け上り逃走を続ける。2人のデカは追走、パトカーは再発進、追跡。


 容疑者が逃げ込んだのはフォークリフトが走り、労働者が勤務中の、倉庫街。

 そこで、後方に2人のデカ、前方のパトカーで挟まれてしまった容疑者。背中側に隠していた黒い物を取り出し、叫ぶ。


「ぅおりゃあーーー!」


 デカたちに一発、覆面パトカーに一発。倉庫街に響く銃声音。デカ2人は壁に身を寄せ、パトカーは急ブレーキ。その間に倉庫内へと飛び込む、逃走男。

 伊豆海は「向こうへ回れ」とシゲに指示、逃走男が入った扉へ。一旦身を隠すように、入口手前で制止。そこにパトカーのデカ一人が合流。アイコンタクトで入っていく。パトカーはバックし、逃げた方向へと疾駆した。


 パレット積みの貨物が一杯の倉庫内で二手に分かれ、小走りで隙間を確認。暫時捜索すると、銃声が一発。その方角へ走り出す伊豆海。反対側出口付近で、腹部から出血し倒れているは、シゲ。

 周囲に犯人はいない。遅れてきたデカに彼を任し、隣の倉庫に飛び込んだ。山積みの内部を小走りで探索中、再び銃声音二発。


 そこへ走り寄ると、腰を落とし荷に寄りかかる犯人と、犯人の銃を持つパトカーで追跡していた、もう1人のデカ。

 緊張感を脱ぎ、銃を終いながら近づく刑事の脳に、犯人の銃で一発。後ろに直立で倒れる伊豆海の最期。そして気絶している犯人の右手に銃を持たせ、口内に一発。自殺と見せかけたデカ。そこに駆けつけたペアのデカに、一言。


「任務終了」


 伊豆海刑事は捜査中の殉職として、処理された。



 ***



 息子のようは、父のこと、母のこともあまり覚えていない。

 2歳になる前、刑事の父が殉職後、母はショックで精神的に異常をきたす。当初は鬱的症状のみであったが、子どもへの虐待が始まり、次第に悪化。さらに薬物に手を染め、我が子――陽と、6歳のひかりにも投与してしまう。二児の体調悪化に恐怖し、母自ら病院へ。身体のあざも見つかり、通報された。


 母が逮捕された後、姉弟きょうだいを引き取ったのは、父側の祖父母。退官していたが、祖父は元警察官。だが、姉弟きょうだいの不幸は、続いた。

 陽の成長発達が遅いことで、姉と弟の育成格差が次第にエスカレート。光は心優しい姉で、弟を可愛がり世話をしていた。祖父がそれを邪魔し始めたのだ。姉には学習塾や吹奏楽などに注力させ、弟は家から一歩も出さなかった。さらにマナーが悪い、約束を守らない、色々な理由で体罰を与えた。

 食事などで差をつける祖母がいた。姉が手作りハンバーグなら、弟は冷凍コロッケ。姉がスパゲティなら、弟はカップ焼きそば。買い物や宿泊旅行するにしても姉のみを連れ、弟は独りで留守番。その際の食事は、缶詰、食パン、乾パン、クッキー等。風呂も着替えもなし。就寝中は6歳になっても紙おむつ着用厳守。

 おまけに、弟は保育園など一度も行ったことが、ない。友だちも、いない。だから会話もなし、感情表現を出す機会もなし。

 姉は祖父母の目を盗み、弟に本を読み聞かせたり、字の書き方などを教えた。しかし幼い姉には限界がある。

 周囲の大人たちによって、幼い陽の心は暗い闇へ追いやられていくことに。


 伊豆海姉弟の子ども時代は、“悲惨”というコトバが適切だろうか。結果的に“悪魔姉弟”とののしられることとなった。弟が6歳の時、その祖父母は自殺。その後も、姉弟きょうだいの身近で、異変、いや事件が起きた。弟の陽が望んだ、からである。

 彼には唯一の友だち達がいる。誰から教わることなく、遊びながら、試しながら、友だち達を利用していった。

 いつしか彼は、優しい姉だけを守りたい一心で、その能力を磨く。自身を苦悩させてしまう結果になることも、知らずに……



 ――――◇



 伊豆海陽は幼き頃から、実父が殉職だと聞いていた。実姉もそのように聞いていた。しかし……


 陽より四つ上の姉、ひかりの記憶を元に、当時父が配属されていた警察署の署長を調べる。そこから、殉職したとされる事件当日に現場にいた2人の刑事も、調べ上げた。そして真相に辿り着いた、のだ。彼なりの、おどし、によって。

 幽禍かすかを注入し、恐怖心を与え、白状させた。


 彼の持つ闇の発端は、信じていたNSネスへと、つながった……



 ***



 2015年7月31日の夜――


 ――『次のニュースです。警視庁刑事部に属する捜査員2名が殺害された事件をお伝えします。殺害されたのは、捜査第一課所属の○○さん48才、捜査第二課所属の△△さん44歳です。○○さんは昨日午前7時頃、川崎市の物流倉庫内にて、そこで働く従業員が発見。△△さんは昨日午前11時頃、新宿のホテル一室で従業員により発見されました。

 警察のこれまでの発表によりますと、死因は2名とも自殺に見せかけた銃による他殺であることが判明。検視の結果、犯行時刻は昨日未明であるとしています。さらに防犯カメラの映像および関係者の証言により浮上した、16歳の少年が何かしら関与している、とし行方を追っているもようです。

 また、先日お伝えしました元警察署長■■さん当時63歳の銃による自殺につきましても、今回の捜査員殺害事件に類似した点が多く、自殺ではなく同一犯による殺害の可能性が高まったとして、再捜査しているとのことです。

 この3名の警察関係者殺害について、警視庁刑事部長は『警察組織に対する挑戦である。威信をかけて早々に犯人を逮捕し、法の裁きを受けさせたい』と強い意志を見せております。

 また16歳の少年については慎重に捜査すると共に、少年の背後に首謀者がいるとの見解を強めており、警視庁職員一丸となって……』――



 その警視庁を利用するNSネスは、残虐な直毘師を片付ける目的を果たすために、あらゆる手を打ち始めた。



 ***



 

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