第80話 分裂させる者!?
「龍門、蓮三郎……」
元総務省トップ官僚の中のトップであり、ダークネスの大将4人の中の1人、だ。敬俊の表情は一気に緊張へ。直接対面するのは初めて。60歳を超えているが老いを感じさせない鋭眼は健在で、今にも飲み込もうとする勢いが窺える。
現状を確認した弁護士は立ち上がり、隣の部屋へ戻った。
それに合わせるように、嗄れた低声が敬俊を注聴させる。
「阿部阪一族の実質の親方、阿部阪敬俊! 」
「光栄ですね。あなたと直接お話しが出来るとは……」
「好きでお主と話しするのではないわ」
「では、なぜここに? 」
「ふん、その状況に追い込まれたということだ」
「追い込まれた? どういう意味で? 」
緊張の表情から、疑念に変わる。
「これから話しすることは他言無用。もちろんお主の仲間にもだ。……と言いたいとこだが、そうも言っておれん。お主たちの協力が必要になった」
「? 」
「向こうの部屋で眠っているのは、風間だ」
「カザマ? 経産省官僚の、風間忠輔!? 」
「そうだ」
驚きを隠せない。ただ組織内部で何かが起こっていることを、察した。微笑の口元で突っ込みをかける、阿部阪一族の親方。
「内部抗争ですか? 」
龍門は数秒閉眼した後、落ち着いた口調で語り出す。
「気づくのが遅かった。いや、気づいたから風間は、命を取られた」
「誰にです? 」
「まだ正体が掴めん。だが確実に外務省の大童子は絡んでおる。しかしやつも駒と化した。つまり頭は他にいる、ということだ。……内部抗争……違う、外部だ! 」
「外部? 」
「つまり、国外! 」
「なっ?! 」
「どこかの国のやつらが大童子たちを操り、日本国に仕掛けてきておる」
「何のために? 」
「分からん。風間が知っとるかもしれん。生き返ったらそれを聞きたい。だが、わしの動きがバレとったら、わしも明日はない。つまりお主とは、これが最初で最後になるかもしれん。
そこでだ! 風間をやった奉術師を探し、誰の指示なのか、そこからどの国のやつにつながるのか、どんな計画があるか調べて欲しい。もし日本国に危機があるなら、それを防いで欲しい。それがわしらの願いじゃ」
「……私たちの任務ではない」
「そんなことは分かっておる。だが、お主らとてこの国が他国の属国になることは忍びなかろう。違うか! 相手によっては天皇家だって、危うくなるのじゃ。
知っている通り、日本を毛嫌いする国は少なくない。中国、北朝鮮、韓国、ロシア、そして中東。アフリカや南米諸国だって我が国を狙っておる。
正直アメリカだって本音のとこは分からん。相手が何をしたいのか、それが分かれば対策も可能なはずじゃ」
「…………」
「知っておろうが、わしらの計画はこの日本国を世界のトップにすることだった。古いとか、悪人とか言うやつもおるじゃろうが、祖国を守れない奴に何の価値がある。
軍事力でトップにしようとするバカどももおるが、それで平和は成り立たん。そんなことは歴史が語っておる。経済力、技術力、精神力でトップになるんじゃ。属国になることを国民が望むと思うとるか。国民を守るためには、国力が必要だ! 今は他国の侵入を許しちゃならん! お主ら日本の奉術師を他国の傭兵にするな! 分かったかあ! 」
怒涛の如く、阿部阪の長にぶつける龍門の言葉は重い。しかし冷静に応える敬俊がいた。
「あなたの言いたいことは分かりました。ですが、あなた方の計画のために私たちが動くことはありません。私たちは私たちなりに必要な任務を果たすまでです。その一つとして、日本国民を裏切る奉術師がいるのなら見つけ出し、無力化していくでしょう。天皇家を危機に晒す者がいれば排除します。それだけです」
「……よし分かった……もし私が生きていれば連絡を取り合いたい。仲介はさっきの弁護士。あいつは風間の葬儀が終われば、解約すると伝えておる。その方が動きやすいと考えた。風間が生き返っても葬儀を出し、表から姿を消す。
わしらは生きている限り、まだ闘うつもりじゃ。わしに何かあれば、あいつからお主に連絡がいく。そして情報を譲渡するよう指示してある。これがわしの最期の任務だ」
言い終わると、意外にも笑顔を見せる龍門。席を立ち、部屋を後にした。
残された男は暫くその部屋で、静かに思案することに。
(今の話しが本当なら、体制を考えなければならないな)
佐藤たちの待つ部屋に戻った。目の合ったレイにウインクしながら、残りの椅子に座る。暫くして、正面の部屋から出てきた弁護士から、転命成功の報告が。
指示により、来た時と同様目隠しのまま建物を出、車中ではヘッドホンをし、待ち合わせた最初の場所へ。降車する前に、連絡先のメモを敬俊に渡す、弁護士。3人が降りると早々に、走り去った。
次の予定がある佐藤と別れる、2人。パーキングへ歩き始めてすぐ、不思議なことを言い出した。
「阿部阪さん、手を握ってもいいですか? 」
「えっ? あ、あぁ〜」
上げた彼の右手を左手で握り、そして目を閉じるレイ。
「やっぱりぃ」
「? 」
転命を行なった部屋で誘導してくれた女性について。奉術師の命を感知出来るレイだったが、あまりにも微弱で自信が持てなかった。直接手を握ったことで、奉術師だと確信した。それは四家系ではなく阿部阪たちと類似する建毘師の命だった、と言うことだ。
「冷静な考察だ、レイさん。奉術師としても成長してるね」
感心し褒める中年男と、照れを見せる女子高生。
実は、後で調べようと考えていた敬俊。先ほどの地下での違和感。微弱な命だったが、建毘師が一人いるのは察していた。一緒にいた佐藤も同様の反応だった。しかし、NS側に阿部阪一族や土御酉一族がいるとは、考えにくい。彼女の報告によって、その女の身元を探る必要性が増した、というわけだ。
龍門のコトバの真偽、NSの現状の把握に加え、調査することが増えた建毘師一族の指揮官。後日、情報更新のための最新報告を、全国の各長に指示することとなる。




