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第79話  特殊な依頼人

 

 ***



 7月23日、京都――

 朝の渋滞もあったが3時間もかからず、到着。

 京都伏見稲荷駅周辺の有料パーキングに停め、歩いて待ち合わせ場所まで。そこには、2人が久々に会う人物。レイは二ヶ月振りであるが、敬俊は電話で会話しているも、対面は二年振り。


「ありがとうございます、敬俊さん」


「元気そうで何よりだ」


 会釈する男に笑顔で応える歳上の、ダンディーな男。


「レイさん、またお会い出来て光栄です」


「私もです」


 少し頬を赤くする女子高生。

 軽く挨拶した後、依頼人の車で移動することを2人に伝えた、佐藤虎騎介(とらのすけ)――レイの初命毘師活動の際に同行してくれた男。母菜摘を知っている人物であり、両親が殺害された日に左腕を失った、建毘師である。


 間もなく、黒塗りのベンツ275型S600Lが、3人の傍で停止。レイと敬俊は後部座席、佐藤は助手席に乗り込む。運転するのは依頼人の弁護士、と紹介された。

 すぐさま彼から指示。


「申し訳ありませんが、行き先を教えるわけにはいきません。ご面倒でしょうが、目隠しとヘッドホンをお付けください」


 黒布のアイマスクと高価そうな大きめのヘッドホンを、3人に配布。


「到着した合図は、ヘッドホンの音声を止めた時です。その際、ヘッドホンのみをお外しください。目隠しはそのままで……その後の指示はその都度。最後まで指示通り行動して頂けるよう、お願いします」


 弁護士を名乗る男の説明が終わり、それらを身に付ける3人。ヘッドホンから地元ラジオ局の番組が流れ始めた。それから車両が動き出す。

 パーソナリティが告げる時間で、40分以上走っていることが分かる。だが敬俊と佐藤は気づいている。同じ地域を迂回している走行であり、それほど離れた場所でないことを。ラジオによる時間は、情報の一つとして与えられていたに過ぎない。


 地下へ下るような勾配感。その後停車し、ラジオの音声が止まった。ヘッドホンを外した3人に、丁寧に説明する弁護士。目的の部屋に着き合図するまで目隠しを外さないこと、これから一人ひとりに誘導してくれる人が付くこと、を伝えた。

 承知する3人。


 緊張度が高まってきた、レイがいる。ここまで徹底するのは、また怪しい人たちなのかと不安で、一杯になる。それを察したのか、「大丈夫だよ」と敬俊の声が聞こえてきた。

 エレベーターに乗った。上がると思いきや下がったことが、少女にも分かる。降りてから、少し生暖かい通路。そして一度足を止めた所で、重量感ある扉が開く音。部屋らしきところに入った。

 3人は警戒しながらも弁護士に従い、個々に準備された椅子に座る。


 気遣うように感謝と謝罪の言葉をかける、弁護士。


「目隠しを外してもらいますが、質問はご遠慮願います。余計なことを詮索されいようお願い致します」


 彼の合図で3人は自ら目隠しを、外す。薄明るさの部屋には窓がなく、天井照明も消され、対角線上の角に置かれたスタンドライトのみ。弁護士以外は扉に立つスーツの男、他は既に部屋にいない。

 続く指示。


「正面にお部屋が一つあります。そちらで端上様には転命を行なって頂きます。端上様には申し訳ないのですが、目覚めて頂くお方を知らないほうが良いと思われます。それは端上様に危険が及ばないためです。そのため、そちらへ入る前に再度目隠ししてください。

 中には命上者めいじょうしゃ、つまりみょうを差し出す方を8名準備しています。本心で復活させたいと思う者が、私たちには分からないからです。端上様のご判断でお願いします。もし誰もいない場合は諦める、と依頼人は申しております。

 それから彼らには転命の説明、不要です。説明済みですから。声を出す必要はございません。ちなみにですが、その8名の方にも目隠しをしておりますので、端上様の顔を拝むことはございません。ご安心ください。

 中に入れば、部屋に居る者が全てご案内します。宜しいでしょうか? 」


 不安になったのだろう、隣に座る敬俊と目を合わせる。微笑み頷く大人の男に安心したのか、弁護士に首肯で意思表示した。


「では次に、後方にお部屋があります。阿部阪様はそちらへ移動して頂きます。目隠しは結構です。阿部阪様にご相談したい旨がございます。先ず当方の話しをお聞きになり、ご検討ください。宜しいでしょうか? 」


「分かった」


「ありがとうございます。佐藤様はこのままお待ちください。もし端上様、阿部阪様に異変を感じましたら、いつでもその部屋にお入り頂いて結構です。こちらもここで問題等起こすつもりは毛頭ございません。ご安心ください」


 佐藤も承諾。


「では」



 椅子から立ち上がる目隠しした女子は、弁護士の誘導で正面の部屋へ。すぐに手を軽く握る女性らしき手が、あった。


「私が誘導します。床はフラットです。そのまま前にお進みください」


 耳元で囁く女性の声。手を引かれるレイは恐る恐る、歩き出す。

 命上者候補8人の前でそれぞれ立ち止まり、各々の手を握る。1人だけ転命が可能な人物を察知、何番目の者か、誘導する女性に伝える。以後も彼女のスムーズな誘導で、転命を終わらせることが出来た。


 佐藤の待つ元の部屋まで誘導してもらい、ドアが締まる音で目隠しを取った。初めての方法で疲れたためか、大きなため息をつく。その姿を見て無声で笑った佐藤。お陰で緊張感がなくなり、笑うことが出来たようだ。戻ってきてない敬俊を待つため、弁護士のジェスチャーにより、着席した。



 少女が正面の部屋に入った後すぐに、弁護士の案内で後方の部屋に敬俊は、入室。

 同様に窓はない。簡易的な会議用テーブルを挟んで椅子が二つ、そして壁側に椅子が一つ。この部屋も二つのスタンドライトのみで、明るくない。

 近くの椅子に座ってもらえるよう指示する、弁護士。彼自身からの相談かと思っていたが、壁側の椅子に彼は、座った。


「これからご相談する方がお越しになります。大声を出さず、冷静に聞いて頂きたい」


 彼はその後この部屋で一言も、話さなかった。

 暫くすると、革靴の足音が聞こえ、廊下側のドアが開く。入室してきたシニアの男を見て目を疑う、敬俊がいる。

 反対側の椅子に座り、手を組んだ両肘をテーブルに付き、前のめりに顔を近づける人物。疑念は確信に変わった。


龍門りゅうもん蓮三郎れんざぶろう……」



 

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