第78話 犯人の子を知った少女の気持ち
数日後、学校から帰宅直後に水恵からメモ二枚を、渡される。立て続けに転命の依頼があったのだ。二ヶ所連続は初、である。学校へは明朝、奥さんから病欠連絡をすることに、なった。
準備し、即出発するレイ。今回同行する守護者は嵩旡、の父。深夜移動もあり、敬俊自ら運転するホワイト色のシーマF50型車での、移動。時間制限を考慮し、最初に埼玉県久喜市、次に福井県越前市である。
出発後、少女はメールを一通。明日病欠で休むこと、阿部阪父と遠出のデートであることを。『楽しんでね』とハート付きの返信が、涼夏から届いた。
しばらく敬俊とたわいもない話しをする、女子高生。東名高速を走行中、伊武騎碧との会話を思い出したようだ。“伊豆海陽”について、質問した。奉術師の中でも情報通の彼が知らないわけがない、と思ったからだ。
「彼のことを、なぜ知りたい? 」
表情を変えないまま、逆質問されてしまう。
「この前、碧くんに同じ質問したら『あまり知らない』って言ってたんですけど、茉莉那さんも碧くんも何かよそよそしくって。もしかして、私に関係のある人かなぁって感じじゃって……」
「そうだね……」
沈黙の間。教えてくれなくても仕方がない、と覚悟するほど。
「彼は現在名古屋で、実姉と共に養父母と暮らしている高校生だ。君より一つ下になるかな」
応えてくれることに、少し安心した表情を見せている。
「一歳の時に父親を亡くし、その後母親は逮捕された。姉弟は親戚宅や施設で育ったらしい。現在の養父母に預けられるまで、姉弟の周囲では色々な事件が起きた」
「事件? 」
「……姉弟の近親者、関係者が自殺や不審死した、という記録だ」
「えっ!? 」
「もしそれが彼の仕業であるなら、彼は誰から教わることなく力を使っていたことになる」
「…………」
「今の養父は警察関係者だ。そして組織のメンバーでもある。彼の力を知り、養子にしたと考えて間違いない」
「……彼のお姉さんには……? 」
「今のところ、ないと判断している」
「……彼と、私は何か関係があるんですか? 」
「直接的な関係はない」
「それじゃ、私に隠す必要はないんじゃ……」
「隠していたわけじゃない。知るタイミングだけのことだ」
「……知らない方がいい、という時もあるってことですね? 」
「知らない方がいいことは、世の中に数多くある。伊豆海陽については、君が知りたいという気持ち、受け止める勇気があるなら、話ししても構わないと私は思っている。今のレイさんならね。惑わされることなく、正しい判断が出来ると信じている。……どうかね? 」
「……はい、大丈夫です」
少し間を置き、語り続けた。
「レイさんにダークネスの部下が接触してきた日、ご両親のことで話ししたこと、憶えているかい!? 」
「はい、憶えてます」
「ご両親を殺したその犯人を、私らが処理し、NSに殺されたことも」
「はい」
「……実は、あの話しに付則することがある。……後々気づいたことだが、当時犯人の力を処理したと思っていた。しかし、既に彼には力がなかった可能性が高い。コチラの確認不足、ってことになるがな……」
「……どういう、ことですか? 」
「コチラの動きを察知していた、かもしれない。それは分からない。……犯人は直前に力の転移を行なっていた、と考えられる。菜摘さんがレイさんに行なったようにね。
転移したのは当時、一歳の息子……」
「!? ……それって、もしかして」
「そうだ。伊豆海陽、彼に転移していた。それなら辻褄が合うと私たちは考えた。
彼の父は刑事だった。表向き上は、捜査中犯人に殺されたことになっている。彼も姉さんもそう信じているはずだ。だから彼は組織にいる。つまり父親が、NSや警察に殺されたとは思ってもいない、ということだ。
彼は父親の後継者として尊重され、いい待遇を受けている。……彼の力はトップクラスだ。NSにとって彼の力は必要なんだよ。それに、彼は犯罪者というものを憎んでいる。今の養父に、そう教え込まれたのかもしれない。洗脳されてる可能性は否定出来ない。彼のお姉さんは、優しく明るい女性だと聞いている。同じ境遇にいながら、あまりにも違い過ぎるんだ……。
彼は、伊豆海陽という少年は、組織の道具として育て上げられた奉術師……良いように操られている、ってことだ。本人はそんな風に捉えてない、だろうけどね」
「そんなぁ」
「彼の父は君の両親を殺した犯人だ。しかし、彼と君には関係がない。そこを混同するのはいけない。彼に怨みを持つと君が闇に冒されるだけだ」
「…………」
「彼は幼少期から疎外された環境で育ってきた、のかもしれない。彼の闇儡は冷酷かつ残虐性が強過ぎる、と感じる。それに能力も高い。それだけ彼の心の闇が深いと言える。
彼はNSにとってベストパートナーなんだよ。敢えて言う。今の彼には近づかないことだ」
頷くレイ。それ以降目的地に着くまで、無言であった。
湊耶都希といい、伊豆海陽といい、敵対心というより救済の対象者になっている、レイの想い。2人の抱える闇を利用するNSが許せない。彼らを助けることは出来ないか、考え始める若き命毘師。それは彼女のこれからの行動で、露になっていく。
夜8時頃、久喜市の依頼人のもとで問題なく、転命を完了。
9時前には越前市へ出発出来た。そこから約6時間以上の車中旅。少女は後部座席で横になり仮眠する。
順調に進み、早朝4時前に依頼人の指定場所に到着。転命も順調に実行し、二ヶ所連続の活動を無事終えた。
東空は白みを帯びていた。敬俊の希望もあり、近くの公園駐車場で2時間ほど仮眠することに。レイも再びウトウトし始める。
6時半頃、着信音で目覚める2人。寝ぼけた状態でディスプレイを見る。
「あっ、水恵さんだ」
新たな転命の依頼だった。場所は京都市。そしてその連絡をくれたのは……。
シーマF50は指定場所へ、疾駆した。




