表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/109

第78話  犯人の子を知った少女の気持ち

 

 数日後、学校から帰宅直後に水恵からメモ二枚を、渡される。立て続けに転命の依頼があったのだ。二ヶ所連続は初、である。学校へは明朝、奥さんから病欠連絡をすることに、なった。


 準備し、即出発するレイ。今回同行する守護者は嵩旡、の父。深夜移動もあり、敬俊自ら運転するホワイト色のシーマF50型車での、移動。時間制限を考慮し、最初に埼玉県久喜市、次に福井県越前市である。


 出発後、少女はメールを一通。明日病欠で休むこと、阿部阪父と遠出のデートであることを。『楽しんでね』とハート付きの返信が、涼夏から届いた。


 しばらく敬俊とたわいもない話しをする、女子高生。東名高速を走行中、伊武騎碧との会話を思い出したようだ。“伊豆海陽”について、質問した。奉術師の中でも情報通の彼が知らないわけがない、と思ったからだ。


「彼のことを、なぜ知りたい? 」


 表情を変えないまま、逆質問されてしまう。


「この前、碧くんに同じ質問したら『あまり知らない』って言ってたんですけど、茉莉那さんも碧くんも何かよそよそしくって。もしかして、私に関係のある人かなぁって感じじゃって……」


「そうだね……」


 沈黙の間。教えてくれなくても仕方がない、と覚悟するほど。


「彼は現在名古屋で、実姉と共に養父母と暮らしている高校生だ。君より一つ下になるかな」


 応えてくれることに、少し安心した表情を見せている。


「一歳の時に父親を亡くし、その後母親は逮捕された。姉弟きょうだいは親戚宅や施設で育ったらしい。現在の養父母に預けられるまで、姉弟の周囲では色々な事件が起きた」


「事件? 」


「……姉弟の近親者、関係者が自殺や不審死した、という記録だ」


「えっ!? 」


「もしそれが彼の仕業であるなら、彼は誰から教わることなく力を使っていたことになる」


「…………」


「今の養父は警察関係者だ。そして組織のメンバーでもある。彼の力を知り、養子にしたと考えて間違いない」


「……彼のお姉さんには……? 」


「今のところ、ないと判断している」


「……彼と、私は何か関係があるんですか? 」


「直接的な関係はない」


「それじゃ、私に隠す必要はないんじゃ……」


「隠していたわけじゃない。知るタイミングだけのことだ」


「……知らない方がいい、という時もあるってことですね? 」


「知らない方がいいことは、世の中に数多くある。伊豆海陽については、君が知りたいという気持ち、受け止める勇気があるなら、話ししても構わないと私は思っている。今のレイさんならね。惑わされることなく、正しい判断が出来ると信じている。……どうかね? 」


「……はい、大丈夫です」


 少し間を置き、語り続けた。


「レイさんにダークネスの部下が接触してきた日、ご両親のことで話ししたこと、憶えているかい!? 」


「はい、憶えてます」


「ご両親を殺したその犯人を、私らが処理し、NSネスに殺されたことも」


「はい」


「……実は、あの話しに付則することがある。……後々気づいたことだが、当時犯人の力を処理したと思っていた。しかし、既に彼には力がなかった可能性が高い。コチラの確認不足、ってことになるがな……」


「……どういう、ことですか? 」


「コチラの動きを察知していた、かもしれない。それは分からない。……犯人は直前に力の転移を行なっていた、と考えられる。菜摘さんがレイさんに行なったようにね。

 転移したのは当時、一歳の息子……」


「!? ……それって、もしかして」


「そうだ。伊豆海陽、彼に転移していた。それなら辻褄が合うと私たちは考えた。

 彼の父は刑事だった。表向き上は、捜査中犯人に殺されたことになっている。彼も姉さんもそう信じているはずだ。だから彼は組織にいる。つまり父親が、NSネスや警察に殺されたとは思ってもいない、ということだ。

 彼は父親の後継者として尊重され、いい待遇を受けている。……彼の力はトップクラスだ。NSネスにとって彼の力は必要なんだよ。それに、彼は犯罪者というものを憎んでいる。今の養父に、そう教え込まれたのかもしれない。洗脳されてる可能性は否定出来ない。彼のお姉さんは、優しく明るい女性だと聞いている。同じ境遇にいながら、あまりにも違い過ぎるんだ……。

 彼は、伊豆海陽という少年は、組織ネスの道具として育て上げられた奉術師……良いように操られている、ってことだ。本人はそんな風に捉えてない、だろうけどね」


「そんなぁ」


「彼の父は君の両親を殺した犯人だ。しかし、彼と君には関係がない。そこを混同するのはいけない。彼に怨みを持つと君が闇に冒されるだけだ」


「…………」


「彼は幼少期から疎外された環境で育ってきた、のかもしれない。彼の闇儡は冷酷かつ残虐性が強過ぎる、と感じる。それに能力も高い。それだけ彼の心の闇が深いと言える。

 彼はNSネスにとってベストパートナーなんだよ。敢えて言う。今の彼には近づかないことだ」


 頷くレイ。それ以降目的地に着くまで、無言であった。


 湊耶都希といい、伊豆海陽といい、敵対心というより救済の対象者になっている、レイの想い。2人の抱える闇を利用するNSネスが許せない。彼らを助けることは出来ないか、考え始める若き命毘師。それは彼女のこれからの行動で、あらわになっていく。




 夜8時頃、久喜市の依頼人のもとで問題なく、転命を完了。

 9時前には越前市へ出発出来た。そこから約6時間以上の車中旅。少女は後部座席で横になり仮眠する。


 順調に進み、早朝4時前に依頼人の指定場所に到着。転命も順調に実行し、二ヶ所連続の活動を無事終えた。

 東空は白みを帯びていた。敬俊の希望もあり、近くの公園駐車場で2時間ほど仮眠することに。レイも再びウトウトし始める。


 6時半頃、着信音で目覚める2人。寝ぼけた状態でディスプレイを見る。


「あっ、水恵さんだ」


 新たな転命の依頼だった。場所は京都市。そしてその連絡をくれたのは……。

 シーマF50は指定場所へ、疾駆した。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ