第77話 少女の成長を応援する仲間
「一族が把握しているのは、奉術師として活動している人たちと、活動してなくても奉術の力を認識している人たちの一部。
先祖を遡れば血筋はかなり多いはず、だよね。例えば、レイさんのおばあさんだってそう。奉術師じゃなかったけど、血筋として奉術師の命は少なからずあった。だから普通の人には見えないものも見えていたってこと。
もし宙に浮いている幽禍が見えている人がいたら、直毘師の血筋かもしれない。霊媒師なんかになるかもね。例えば、千堂さんも何かが見えたり聞こえたりしたら、奉術師の血筋を受け継いでいる可能性もあるってこと、だね」
「へぇ〜、そうなんだぁ。……涼夏、何か見えたりする? 」
「んんん、今んとこないかなぁ。……その辺は鈍感だと思うよ、私」
「残念。あったら、この3人で活動出来ると思ったのにぃ……話し違うんだけどさぁ。前から気になってたんだけど、阿部阪くん、私呼ぶ時『レイさん』で、涼夏を呼ぶ時『千堂さん』だよね。涼夏さんとか涼夏ちゃんとか、でいいんじゃない? 」
「…………」
耳と頬に赤みが増えた、少年。
「私、どっちでもいいよぉ。気にしないから。……それで、レイちゃんはどうすれば感知出来るようになるの? 」
「そうそう、それが今日の目的! 」
脱線した2人が、本題へ戻した。
「奉術師の命と言っても、基本は自然界の命の派生。人間の命は人間特有のものとして作られたから、自然界のものとの違いは明確。だから判りやすいけど、奉術師と自然界の命の違いは、ほんの僅か……だけど、それが判れば感知出来るようになる、ってことだね」
「その違いって? 」
その違い、感知する所、命の色や音、方法などを、試行錯誤しながら修得していく新人命毘師。昼までには、区別出来るまでに至った。
腕時計を見ると、12時前。
「お昼、食べに行こっかぁ。姉さんの奢り」
「やったぁー」
「嬉しい〜」
観光スポットから少し離れたイタリアンの店で、美味しく愉しく過ごす4人。茉莉那が海外生活でのエピソードを話す。嵩旡は先ほどとは違って殆ど無口。
姉と弟があまりにも似ていない、というレイの突っ込み。姉がスマホの写真を見せてくれた。主に海外で活動している建築クリエイターの母と、3人の写真。弟が母似であることは一目瞭然、だった。
先日、清原によって救ってくれた進毘師の須佐野に、お礼の手紙と、涼夏と茉莉那との3人の写真を同封して、郵送。
そのようなことをされた頑固な大男は、感銘を受け、心底喜び、レイの意志を尊重、さらに共鳴した。
「阿部阪くん。他の奉術師の活動現場に、立ち会ってみたいの」
ある日、可能な限り詳しく教えて欲しい、と無理を承知に懇願する、レイがいた。
奉術師たちのこと、術のこと、組織のこと、などについて。闇喰や闇儡などを、知っておきたかった。
彼の父の厚意もあり、アドバイスと段取りをしてくれる。それは祓毘師と直毘師がコンビで活動する現場に立ち会うこと、である。優秀で信頼出来る奉術師を、紹介してくれた。祓毘師である田仲宗一郎と、25歳の直毘師だ。
伊武騎碧――鹿児島本部、年純利3兆円超の伊武騎グループ会長伊武騎咲ユリの孫。現在東京で検視官として勤務。彼はヒーロー好きで、弱き者を助けることがモットーのお調子者。そして祖母と同様、直毘師として活動していた。
茉莉那同行の下、彼と共に現場を回った日のこと。
闇喰や闇嘔による体内注入後の闇が、レイには見えていることを2人は知り、驚嘆した。命毘師には本来見えないモノだからだ。原因は、後々解明されていくことになる。
移動中、祓毘師の湊耶都希が現れた時のことを、碧に話す。そして彼も、コンビを組んでいたことを明らかにした。知っている過去についても教えた。さらに、最近はコンビを組めていないこと、ネス側の直毘師伊豆海陽とコンビを組んでいることを教えてくれる。
「イズミヨウさんって、どんな方ですか? 」
咳払いする茉莉那。
「あぁ〜。……彼とはね、まだ会ったことないんだよねぇ。ほら、同じ直毘師だからさぁ、コンビ組むこともないじゃん。それに男に興味ないし……どっちかって言うなら、今みたいに可愛いレイちゃんと、奇麗な茉莉那さんと一緒に行動するほうが楽しいし、ね。ハハハッ」
わざとらしい誤摩化し方。先日その者と闘い、能力レベルも知っている、その者とレイとの関係も知っている、碧である。
何か言えない事情があるのだと察した少女は、その者について触れなかった。ただ、気さくな碧と、今後とも仲良くしたいことを笑顔で伝える。彼も快諾。心強い仲間が出来た。
闇喰や闇儡活動の流れを理解することが出来た、少女命毘師である。