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第71話  脅かされる者

 

 

 城彩苑は賑やか。沢山の土産屋や飲食店、美味しそうな食べ物を店員さんが勧めてくる。路幅が狭いということもあるが、人が多く、ぶつからないように歩くのがやっと。

 真友の心配をよそに、他の班員たちと楽しんでいる。数歩下がった位置から後を追う嵩旡だったが、そこで自らの班員に捕まった。


「阿部阪ぁ〜、どこ行ってたんだよ。班行動乱すなよ。俺たちまで先生に怒られるだろうっ! 」


 戯れ合うように絡まれた。彼女から視線を外してしまった。


「イタっ!」


「あっ、ごめんなさい」


 謝る声に、嵩旡は視線を移動。人混みで彼女の姿が見えない。寸刻、レイとは別の奉術師のみょうを感知。絡む班員の腕を払い、彼女のいる方向へ急いだ。瞬時にみょうは消えたが、嵩旡の表情は強ばっている。

 店の中にいる普段のままの彼女を、確認。


「何かあった? 」


 涼夏に問う。


「あぁ、さっきね、このお店に入る時、カナちゃんとぶつかったオバサンが尻もちついちゃったの。すぐレイちゃんが起こしたけど、大した事なかったみたいだよ。さっさと歩いて行ったから」


「どのオバサンだったか、分かる? 」


 彼女の見える範囲で探してもらうが、見つからない。気を集中させるも、近くに奉術師は感知できないようだ。熊本にも奉術師はいるだろうし、心配ないだろう、とこの時は思い込んでしまった、彼がいた。


 次の目的地、阿蘇に向かうバスの中。


 寝ている生徒、騒ぐ生徒、ゲームをする生徒、読書する生徒。涼夏と会話していたレイ。車酔いしたことはないが、次第に気分が悪くなっていく。心配する涼夏が先生に報告。保健の先生から薬をもらい、様子を見ることに。

 同級生たちが阿蘇山を観光中、バスの中で休むことになった。仮病を使い、バス内で見守る嵩旡。涼夏は……流石に休めず、班員と共に行動していた。


 寝ている彼女が魘され始める。額には冷や汗。そして、飛び起きた。


「大丈夫か? 」


 前席から声を掛ける。


「あっ、うん、大丈夫。怖い夢、見たの」


 少し落ち着いた後、目を閉じた。


「キャッ! 」


 5分もしないうちに軽く悲鳴をあげ、シートから立ち上がった。その彼女の元へ歩み寄る嵩旡。


「どうした? 」


「そこに、ヘビがいる」


 床を指差した。


「ヘビ? 」


 しゃがみ込み、その床を見渡す。前後のシートの下、隣のシートの下も探した。ヘビどころか、虫一匹いない。


「また夢でも見たんだろ」


 しゃがむその姿勢のまま顔を上げ彼女を見ると、様子がおかしい、ことに気づく。首をあちこちに向け、手で何かを追い払おうとしている彼女が、目に映る。


「どうした? 」


「ムシ! ムシが一杯いる。何でバスの中にムシがこんなにいるのよ」


 立ち上がり見渡しても、飛んでいる虫など一匹もいない。しかし追い払おうとしている女子。その異変に感づいた、建毘師。


闇嘔あんおう! 」


 彼女を落ち着かせるために、シートに座らせ目を閉じるよう促す。眠らせようとする少年建毘師。右手の平でナチュレ・ヴィタールを集め、彼女の上半身を覆う。体内のATPなどを操作、イオンチャネルを制御し、睡眠を促進させたのだ。

 数分後眠りにつくのを確認すると、携帯で報告。父、敬俊にだ。早急に帰宅するよう、指示がなされた。学校へ水恵から連絡させ、帰宅させる段取りで、敬俊が動く。


 レイと阿部阪が急遽帰宅するということで、「私も帰る」と即決する涼夏。彼女自身の安全を考えれば、嵩旡も同意見だった。再度父に連絡、涼夏の帰宅についても動いてもらった。

 同伴の先生たちや同級生たちは状況が理解、出来るはずもなく……帰宅する3人を、不思議そうに、あるいは怪しげな視線でタクシーを見送っている。

 楽しい思い出になるはずの修学旅行は、3人にとって新たな記憶となった。


 手配されたチャーター機で、熊本空港から羽田へ、戻ることに。その間敬俊は、他の行動を始めていた。進毘師すせりびしへの連絡である。


 闇嘔による闇を浄化出来るのは、進毘師すせりびしのみ。一族が国内で確認出来ているのは、3人だった。その1人が女医の三穂凛華だ。

 敬俊が連絡出来るのは、他の2人。最初に連絡したのは、昔から付き合いのある須佐野憲剛すさのけんごう

 ただ彼は、簡単には動かない性格。元貿易商でかつ現在の事業も順調でお金に困っているわけではないため、お金では動かない。

 貿易商人の頃、色々な国をバイヤーとして周り、富裕層と貧困層の人たちを沢山見てきた。貿易商を止めた後、新潟で事業を行ないながら、貧しい人で病気に苦しみ人たちを助けるために活動している、55歳の頑固親父である。

 そんな彼を動かすためには、動くに値する感動や共感がなければならない。そのことを知っている。しかし、それ自体が簡単ではない。

 予想通り、知り合いの頼みであっても彼は即、断ってきた。


 もう一名の進毘師すせりびしへ連絡を試みるも、本人がいない。

 携帯電話を持つことがない人物で、家族に伝言するのだが今は海外へ旅をしており、いつ戻ってくるかも分からない、と言う。


 そうなると、頼めるのは須佐野しかいない。思案する敬俊。



 

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