第69話 決意する者
☆―☆―☆間は、一人称視点の話です。
模索事は今後どのように攻めていくことが効果的か、ということ。そして、自身に何かあった場合、誰に引き継いでもらうか、である。もう一つ、疑問が残る。
(奴らはなぜ、俺を殺らないんだ? )
ただひたすらタバコを吹かしながら、思案。その他、何もする気になれなかった。深夜1時を回った頃、電源が入ったように動き出す。ノートパソコンを開き、打ち始めた。寝ず食べずで、我武者羅に打ち続けたのだ。
東の空が明るくなる前の四時過ぎ。バッグ内にあった新品のUSBメモリーに、保存。
「ふううぅ」
大きなため息一つ。パソコンを閉じ、電気を消し、そのままソファーで一眠り。
目が覚めたのは朝8時前。一服しながら、視界にあるものを整理。8時半過ぎには、ボストンバッグとショルダーバッグを持ち、部屋を出る。
翌月末解約。引越し業者に全て任せ転居、することにした。
深夜に入力し保存したUSBメモリーを手渡したのは、週刊誌編集部長の三枝氏。
次の週刊誌掲載を懇願。5月下旬発行の週刊誌では、『加害者連続死亡事件』について黙認する警察組織幹部を攻めた。今回は、NSの名称は伏せた上で、NS派官僚幹部による裏組織の犯罪活動を暴露した、記事である。
過去抹殺された政治家や反組織的官僚、経済界、ジャーナリストなどの実名や一般人の仮名などを出し、個々人の被害状況も掲載。抹殺目的は、組織のプロジェクト遂行のためであるとし、プロジェクト詳細も国民に深く関わる事項を、ピックアップしていた。
「そちらへ危害が及ばない程度に、内容は配慮したつもりです。ですが……上から圧力がかかるかもしれません。掲載出来たとしても、嫌がらせや締め付けがあるかもしれません。それでも、この記事は、掲載して欲しいんです。お願いします! 」
「ヤバさん、頭上げてください。お願いしているのは、こっちなんです。リスクなんて背負ってなんぼです。ヤバさんと一緒で、私も徹底的に攻めたいんですよ」
彼は笑顔で了承してくれた。
7月初週発行の週刊誌に、掲載されることに……。
記事タイトル――
『国民の知らない裏社会 三権を牛耳るエリート官僚系裏組織の被害増!』
三枝編集部長にデータを任せた後、別のことについても手を打つ。
明水神社の水恵を通じ、自らを守護して欲しい旨を阿部阪敬俊氏に依頼、したのだ。死が怖いのではない。私自身の使命を全うするまで、NSにやられるわけにはいかない、守って欲しい、と懇望。交換条件として、入手した情報の提供。と言っても、彼らの情報網が上であることは、承知の上だった。
「事情は分かりました。……申し訳ないですが、一般人を常時守護することは、私たちの役割として不可能です」
「ですよねぇ〜……」
(当たり前、だよなぁ)
「もしあなたが、彼らに術によって幻覚や幻聴を来す場合、すぐにご連絡頂ければ、その対処はしますので」
「ありがとうございます」
(仕方ないかっ)
「もう一つ……方法がないわけではありません」
(えっ!?)
「何か、ありますか?」
「あなたは離婚された後、お一人ですよね!?」
(言った憶えはないけど……彼らには簡単なんだろうなぁ)
「そうですが、それが……」
「私たちの一族、建毘師の女性を伴侶にすることです」
(はっ?)
「はっ? はあぁ」
「ハハハっ」
(嫌みに聞こえてきた……)
「何かおまけでも付いて来るんでしょうか? ……」
「実は、建毘師を伴侶にした一般人を、ある術で守っても良いことになっています」
(えっ?)
「そ、そうなんですか!?」
「規則ではありませんが……建毘師の家族となれば危険もあります。常時傍で守ることは出来ませんが、防御術をかけることは可能です」
「それは、どんな?」
(知りたい!)
「……簡単に言えば、身体の周囲をシールドで保護する、というイメージです。月一回、新月の日またはそれ以後にシールドを直接張ります。それで奉術師の攻撃を防ぐことは出来ます。全てではありませんが……」
(やっぱり、そんな術、あるじゃないかぁ)
「それはいいですねぇ〜……」
「良ければ、ご紹介しましょうか!? ハハハっ」
(えぇぇ)
「…………」
「私の娘でも!? 」
(娘……あぁ、この前姫路で会った女!? )
「……いや、あの娘がいいかなぁ〜……ちょっと合わないかも……あ、あの人も独りだったなぁ……」
電話の向こう側で独り言、の彼。
(まじっ!?)
「あのぉ〜……」
「まっ、その気になったら、連絡ください」
(いやいやいや、そうじゃなくて……)
「はあぁ〜」
もう一度お願いした。
「結婚せずに、そのシールドを張ってもらうことは……」
「残念ながら! 」
即拒否だった。電話を終えた後、少し考えた。
(冗談、だよなっ……)
それから10日ほど後。姫路の宮司より回道議員からの置き土産を、受け取った。LERDの正体とNSの企みを探るため、関係者を徹底的に調べることにした。資料にあった彼の知る人物の実名と所属。それに地鎮祭とパーティー時の、写真も手がかりとして。
私自身のNSに対する闘いは既に、始まっているのだ。
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