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第67話  搬送される者

 

☆―☆―☆間は、一人称視点の話です。

 

 ☆―☆―☆



 6月24日――2人の男の壮絶な闘いの場となった香川琴平から、神戸に戻った。

 着いたのは夜10時前。私はその途中で、翌日のアポを一件。神姫しんき新聞社社会部記者の餅入もちいり八重子氏とのランチだ。依頼していた回道かいとう県議会議員への取材に対する、お礼と情報交換のために。


 餅入氏とは九年前に二度ほど面識があった。当時、神戸一の指定暴力団運営会社と兵庫県出身国会議員の巨額献金疑惑事件を追っていた。神戸で取材していた際、政治部にいた餅入氏と情報交換をしたことがある。

 今回も同様に……しかし、約束時間を過ぎても彼女は現れない。30分過ぎた頃に携帯へ電話するも、出ず。

 仕方なく、所属部署へ。


「こちらも朝から連絡してるんですが、まだ……」


 無断欠勤、らしい。


(まさか……)


 嫌な予感。


「餅入さんの自宅へ行って、確認して頂けませんか」


 理由は言わずに……胸騒ぎをアピール。彼女の住所を教えてもらった私は、マイバッグを手に取り、急いだ。

 到着した時、救急車後部にストレッチャーが乗せられていた。それに同乗するスーツ女性と、走り去る救急車を見守るスーツ男性を、野次馬とともに見ていた。

 関係者であろう彼に近づき、声を掛けた。神姫新聞社の社会部記者であり、彼女の部下だ。先に到着していた警察らが検分している間、彼から状況確認。


「何度インターホン押しても応答ないんですが、携帯電話の着信音が聞こえたので、部屋にいると感じました。さっき救急車に乗って行った彼女も、このマンションの住民だったので、管理人にお願いして解錠してもらったんです。餅入課長、ベッドの上で吐血してたんです。意識はありませんでしたが、息はしてたんですぐ、救急車を呼びました」


『息をしてた』……それだけでも、多少の安堵。彼女はご主人と別居中で、一人暮しだったらしい。いつ吐血したのか知ることは出来ない、ということだ。


「監視カメラのデータで不審人物の有無を行なう予定だが、今のところ事件性はないだろう」


 そう判断している警察関係者は、引き上げた。


(吐血かぁ……病院も何らかの病気だと判断するだろうな)


 私だけは組織ネスによるものだと、疑わずにはいられなかった。


 部下の男に承諾を得、餅入宅内を見せてもらうことに。

 ベッドの布団には濃いピンクの血が、散在している。それ以外は、整理整頓されており、素人が見ても侵入者がいた気配は全くない。就寝中の吐血、らしき状況。

 昨夜仕事をしていたのだろう、ダイニングテーブルにはパソコンと青色ファイルなどが並べられている。それらを社に持ち帰るよう上司に指示されていた部下は、自らのバッグにパソコンとファイルを入れ始めていた。


「柳刃さん、これ! 」


 ファイルの下にあったのだろう。角2茶封筒に『柳刃氏へ』と記入されていることに気づいた彼が、手渡してくれた。


 その場で開封。中には、A4用紙二枚。回道議員への取材に関する内容がまとめられていた。一通り目を通した。

 前回同様、贈収賄疑惑に関しては完全否定。騒動になった経緯と実名が記載されている。舞台となっている多可町の先端情報研究開発センター(LERD(ラード))について、初めに疑念を抱いたのは建設会社の専務で、回道議員へ問合せがあったらしい。それを調べている中途で事件が起き始めた、ということだ。『嵌められた』、と本人も捉えているようだが、そこに記されている実名は……。

 議員が知り得る全てをあからさまにすることで、知った者へ魔の手が伸びることを危惧しており、全ては語らない。家族にも伝えていない、とも記されていた。

 そして……議員は、再び不幸が訪れる場合、LERD(ラード)に関わる資料を、柳刃公平に手渡すよう指示しておく、と最後に記載されていた。

 読み終えると同時に、さらに嫌な感が胸中に響く。


(まさか……)


 餅入八重子氏の病いが組織ネスによるものなら、回道議員に再び組織ネスの手が忍びよっている可能性が高い。そう思った瞬間、居ても立っても居られない。


「ありがとうございます。もう一つお願いが……彼女の意識が戻ったら、私にも連絡くれませんか」


 彼に名刺を渡し、足早に姫路へ。



 

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