第61話 バレた者たち
金刀比羅宮の祓戸社の前で、去っていく依頼人たちの背中を見ている、2人。その祓毘師の女と共にいる白シャツにネクタイの高校生らしき少年を、注視している者がいる。
観光客に扮するため首に掛けている小型デジカメを構え、途中身を潜め様子を伺っていたのは、柳刃だった。“高校生”というワードが気になり始めるジャーナリストは、ポケット内にあったメモを捲り始める。
「あった! 」
“高校生?”の文字に、二重下線。北海道の事件で聞き込みした際の、ものだ。住民から聞いた、警官2人に職務質問されていたという高校生について、脳内に浮上。
『姉とショッピングセンターに来て、刑務所に興味があり見ていた』
と。HDT(北海道第一テレビ)の進藤に確認依頼し、結果報告をもらっていた。
「もし彼が、その時の高校生であれば、姉とは彼女のことか!? 」
しかし、彼らでないことを知ったのは、かなり後になってからだった。
メモを仕舞い、15メートルほど離れた位置で2人の言動をチェック。依頼人らしき人たちが去った後、その少年が吐いた発言が、柳刃の耳に。
「あなたですか。コソコソしている人がいると思ったら……」
「っ! 」
ビクッと身体が反応し、呼吸さえも一瞬止まった。ゆっくりと2人のいるほうに視線を向けるが、少年は別の方角を見ている。そちらに目線を動かすと、2人の奉術師たちに近づく1人の男の姿が、彼にも目視出来た。
不気味な微笑みを浮かべ、呆れたような顔つきで閉眼している、男子校生。
「えっ? 」
陽の突然の発言に驚き周囲を見渡す、耶都希がいる。近づいてくる男を確認、さらに驚愕した。
「碧くん!? なぜここに? 」
やって来たのは、伊武騎碧。
最近、耶都希とのコンビがなくなったことを不思議に思い、調査していた。冷酷で残虐な結果をもたらす伊豆海陽と組んでいることを、ここで知った。
「姉さんをストーカーしていたってことかな。そうでしょ!? 先輩」
彼に代わり、嫌みっぽく答えた。
「碧くんのこと、知ってるの? 」
「会うのは初めて。奉術師の情報はある程度ココに入れてあるから」
右手人差し指で、こめかみに触れた。
「鹿児島生まれ、伊武騎グループ会長のお孫さん。5歳から直毘師として本格的に活動してるから、僕の大先輩ってこと。現在は東京で検視官。……ふん、鮮血も入手しやいってことかな」
先輩への嫌みが止まらない。
「姉さんの車に発信器でも付けてるんじゃない。後で調べてみたら」
姉さんと呼んでくれるようになった少年のコトバで、碧を睨む。
「そんなこと、ないない」
苦笑いする顔の前で、右手を振り否定。正確に言うなら、既に取り外していた。
「付き回っていた小型ドローン、あれも先輩ですか? 」
「あっ、あれね」
誤摩化すのも面倒になったのだろう、右上を見つつ、認めた。
「フッ……良かったです。後で持ち主を処分しようと思ってたので……」
あまり反省の色のない彼を、追求し始める。
「何しにここへ? 」
「だ〜って湊さん、最近僕のこと構ってくれないじゃないですかぁ。もしかして、浮気しているんじゃないかぁって、心配してたんですよ」
楽天派の彼は、わざとらしい円満の笑みで、ふざけた感じに応える。
事実、2人の直毘師と掛け持ちでコンビを行なっていた彼女だが、陽の魅力にハマり、次第に偏っていた。
「先輩、何か誤解していませんか。姉さん……耶都希さんを僕は無理矢理誘ってもいないし、依頼人に合わせて時々コンビを組んでるだけですよ。
もし、先輩とコンビを組んでいないなら……それは僕や耶都希さんのせいではなく、あなたの問題です」
「確かにそうだ、ハハハ〜っ。それじゃぁ悪いとこ直すんで、湊さぁん、そろそろコチラに戻って来てくれませんかぁ!? 」
「ふっ……別に僕は構いませんよ。耶都希さんは姉さんのような人であって、彼女でも何でもありませんから。2人が付き合おうが、僕には関係ないことです」
両手をズボンポケットに突っ込み、帰ろうとする少年。
「陽、待ってて! 」
背中を見せたまま足を止めたことを確認した彼女は、視線をもう一方へ。
「悪いけど、私が誰とコンビ組もうと自由よ。彼からは色々学ぶことが多いだけ。私はそれで成長出来たの。別に碧くんが悪いという意味じゃない。ただ陽といる方が安心なの、私は! 」
断言した彼女のコトバを、目を閉じ、他人ごとのように聞いていた少年は、再び遠ざかる。その彼女に否定されたような立場の青年は目を閉じ、ふざけていた表情から一変、本気の目に変わった。
「では、ハッキリ言います。湊さん、今すぐそいつから離れてください。彼は闇組織の一員。彼らといては湊さんが本当にダメになってしまう。あなたの過去を知っているからこそ、放っておけないんです。そろそろ目を覚ましてください! 」
「碧、くん……」
コトバを失う。先日姫路でレイたちから言われたことを、思い出したのかもしれない。
先輩の発言で立ち止まった、後輩。寸刻して方向転換、彼に近づき始めた。
「姉さんの、過去を、知ってる? ……ふっ……冗談はそろそろ、終わりにしませんか。……」




