第59話 尾行の対象者
☆―☆―☆間は、一人称視点の話です。
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次の日――
早朝、知人に連絡。私独特の交渉で、車両ナンバーから住所を教えてもらうことが出来た。相手の所属は、兵庫県警本部刑事部。9時頃には判明した。
早速、準備に取り掛かった。尾行することも踏まえ、大衆車種をレンタル。日数が掛かることを覚悟の上で、食糧や張り込み道具。11時頃、雨天の目的地へ。
神戸を出発する前に、電話を一本。神姫新聞社の社会部にいる女性ベテラン記者に。それほど知った仲、ではない。が、私の代わりに姫路の回道県議会議員の取材を、依頼するためだ。
始めは、OKしてくれなかった。理由は単純で、議員が生き返ったことを信じてもらえなかったからだが……。よって、特ダネ情報の共有を条件にした。そう、先端情報研究開発センター(LERD)が絡む、コトだ。それに、亡くなった議員は嵌められた可能性があること、生き返った議員が再び狙われる危険性があること。それを伝えると、興味を抱き、受けてくれた。
よって私の脳の興味は、淡路島にいるだろう祓毘師の女、のみとなった。
住所から辿り着いたのは、一戸建ての借家。住宅街ではなく、近隣の家と50メートル以上は離れている、そんな辺鄙な所に佇む平屋。横にモスグリーンの幌タイプ車庫。閉じられており、肝心の車両が見えない。怪しまれないよう、その借家が見える離れた場所を探し、駐車した。
双眼鏡で眺めるも、借家に人の気配なし。周辺を見渡すも、誰一人いない。のんびりタバコを吸いながら、人の動きを待つことに。それほど時間は必要なかった。
午後2時過ぎ、紺色の傘を差し、片手にビニール袋を持つ者が、借家の玄関で傘を畳んだ。双眼鏡介しての両目に映し出された主人公は、昨夜初見のターゲットだ。
(よっしゃぁ)
心のボリュームが、一気に上昇した。彼女から贈られてくる玉手箱から、何が出てくるのか、気が気でならない。後は辛抱との、戦いだ。
この日は特に動きもなく、灯が点る。他に出入りした者がいないため、一人暮しであることを、察する。夜10時頃には消灯。雨が止まぬまま、夜が更けていく。奉術師の行動は深夜でもあり得るため、眠気と闘いながら車中で一夜を過ごした。
朝5時頃、空はすでに明るい。シートを半倒し、火のないタバコを咥え、半目で借家一点を眺めている。玄関が開いた。前のめりにし、双眼鏡でチェック。昨日と同じような服装をした女は、徒歩で出掛けた。
(ん? 仕事か!?)
車を降り、歩きでの尾行、開始。今朝は曇り。蒸し暑さが襲う、朝となった。
田舎であるため、身体を隠せる場所も限られている。距離をある程度保持しながら、散歩もどき。15分ほどで、ある敷地に入った。看板もあり、すぐに所有者を把握。魚市場である。内部が見える場所を探した。そこから、台車でコンテナボックスを運んでいる彼女の姿を発見。10分ほど眺めていたが……
(仕事なら、車で待ってるか)
車へ戻り仮眠を取ることにした。
昨日と同様、昼2時過ぎに帰宅してきた女。その日も他の行動がないまま、一日が過ぎた。
翌朝も魚市場へ。勤務先に入るところを確認し、その後車中仮眠。11時半前に目が覚めた私は、借家に変化がないことを確認。簡易的な食糧に飽きてきたため、数分先のスーパーに食糧調達へ車を走らせる。
二日分程度の買い物を済ませスーパーを出た時、目前の道路を走り抜けたは、黒のRV車。運転手が手前にいた。つまり左ハンドル。
「っ? まさか!? 」
慌てて車に乗り、買い物袋を助手席に放り投げ、即点火、急発進。
黒のRV車は既に小さい。信号の少ない道路である。
(くそっ! 高速に乗ったら、厄介だ)
追いつくために、1500CCレンタカーのスピードを、上げた。交通取締りがないことを祈るしかった。
案の定、インターチェンジに入っていく。その車は神戸方面ではなく、四国方面へ。ターゲットの車かどうか確認するため、有料道路に乗るしかなかった。
何とか距離を縮め車両ナンバーをチェック、女の車であることを確認した。安堵し、焦りによる緊張感を落ち着かせながら、尾行継続。バレないよう距離を保ちつつ、追った。
ターゲット車が下りたのは、善通寺インター。この時点で、彼女の目的地が想定出来た。
そして……そこで予想を遥かに超える出来事を、私の目に、焼き付けることになったのだ。
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